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 「うん?ナリドさん、これってカインから渡された物ですか?」
セーナは五千の遺骨が積まれている荷車から一際きれいに輝く槍を見つけた。
「あっ、忘れてました。この槍、セーナ様に渡してくださいと頼まれていたので。」
その言葉を聞いたセーナは大胆にも遺骨で満載の荷車に飛び込んで、その槍を持って来た。荷車から出てきたセーナの肩を一つの骨がポンと乗っている。
「はい、レイラ。これが氷の槍ブリューナク(後の氷雪の槍マルテ)。最初はちょっと冷たいかもしれないけど、慣れるまで我慢してね。」
「セ、セーナ、それよりも肩に乗っているのをどうにかしろよ。」
この頃、馬にやられたり、セーナたちに魅了されたりと、とんだとばっちりを受けていたフィードが言う。実はフィードは人骨も苦手なのであった。
「えっ?わっ!びっくりしたぁ。やっぱり飛び込むのはまずかったかなぁ。」
セーナが、さっき飛び込んだ地点を見ると、やはりそのほとんどの遺骨が割れていた。
「あちゃ~。セーナ様、やりすぎですよ。」
横から同じように荷車を見ていたミカがいう。
「ちょっと太ったかなぁ。」
「そういうことじゃないだろ。」
「それじゃ、じっくりと接着しましょうか。」
セーナの引き起こしたトラブルで一行は彼女の割った遺骨を接着するのに一日かかってしまう。結局、これが原因でセーナたち一行は予定よりもかなり遅れて、レダ領に入ることになった。しばらくはガーゼルの兵士と幾度か遭遇したが、セーナの調合した爆発薬にひるんで逃げ出すものがいたり、リーラやレイラの奇襲でそのほとんどは何もせずに撤退していった。残るものは仁王立ちしたゼノンを目前に置けば、肝を潰して勝手に逃げていく。こうして順調にレダ王国のゾーア地方を過ぎていくセーナたちは侵入して2日後、予定通りにレダの谷があるレダ中央部に入った。セーナたちは適当なところを見つけてからテントを二個たてて、今日はここで休もうとしていた。セーナたち女性陣が作った料理にしたつづみをうった男性陣は食後、そそくさと眠ってしまう。最近ではもう当たり前の光景になっていた。
レイラ:「セーナ様、ひとつ気になっていたのですが、なぜリーネさんより私にこのブリューナクをくれたのですか?」
焚き火を囲んで、セーナたちが話しに花を添える。今回、同行した者たちには一人一人、セーナの開発した武器が与えられていたが、リーネだけには何も渡していなかった。
リーネ:「いいんですよ、レイラさん。私はセーナ様の側にいられるだけ嬉しいですから。それに武器とか名誉とか欲しいために仕えているのではないですし。」
グリューゲルの者はみな、口をそろえて同じことを言う。レイラはグリューゲルがガルダ島に来て以来、幾度も聞かされている。
レイラ:「本当にグリューゲルの人たちは偉いですね。私も見習いたいですよ。」
セーナ:「あっ、でもフィードは例外よ。彼はグリューゲルであっても元は生粋の海賊だからね。」
レイラ:「たしかにそうですね。あの人は少し異質ですよね。」
ミカ:「そうそう、馬を恐れて、骨に怯えて、女にも弱い。よくあの天下のオーガヒル海賊の頭領になれたわよ。」
口々にフィードに対して悪口を言い合う。だが将来、セーナを除く、この3人の誰かがフィードの妻になるのであるだから、世の中はわからないものだ。そしてグリューゲルでもトップクラスの地獄耳を持つものがテントからヌッと顔を出す。
「何か言ったか?」
セーナ:「あれっ?フィード、まだ起きてたの?明日も早いのよ。早く寝なさい。」
まるで子供に言うかのような口調である。これにはフィードも怒って、飛び出した。
「だったら人の悪口を言うな!」
まだぶつぶつ言いながらテントに戻るフィードを見ていて、女性陣がくすくす笑いあう。それからも女たちの愚痴は続いていく。

「さぁ朝ですよ。」
ミカが鍋を叩きながら眠りこける男性陣を起こしに来た。といっても寝ているのはフィードだけであって、ゼノンとナリドはすでにセーナたちの作った朝食を食べている。寝ぼけながら朝ご飯を食べるフィードの姿は本当にセーナ十勇者の一人なのかと思うほど、だらけていた。フィードは朝にも弱かったのである。
何はともあれ旅は再開された。今日中にレダ同盟軍を見つける手はずになっている。ひたすら西を目指すセーナたちはレダの谷を横切り、しだいにレダ西部に入った。途中にはアークオーガの大群やドラゴンゾンビらが立ちはだかったが、セーナたちの前には次々と屍の山を築くのみだった。たとえ味方がダメージを受けてもセーナかミカが迅速にライブを唱えるために彼らに隙はまったくといっていいほどできなかった。そしてようやくセーナたちは魔獣たちの網をかいくぐり、ついにレダ同盟軍の陣を見つけ出した。
「将軍、あなたの方がレダ同盟軍に知られているでしょう。私たちが敵じゃないことを伝えてきてくれませんか?」
「わかりました。では早速・・・。」
馬をレダ同盟軍の陣の近くに寄せる。するとやはり魔獣の奇襲に備えていたのか、すかさず幾千もの弓が彼を狙い始める。そして門番が聞く。
「何者だ!」
「我が名はゼノン。アーレス殿下の遺児セネト王子がここにいると聞きつけ、はるばるカナンから駆けつけた。どうか会わせてくだされ。」
その勇ましい言葉に門番達はどうしようかと相談しあう。しかしゼノンは
「早くしたまえ。シルヴァ将軍に問い合わせていただければ、わかるであろう!」
そう言われて、ようやく門番たちは急いでセネトの右腕シルヴァのもとに向かった。
「シルヴァ様、ゼノンと名乗る人が陣外でセネト様にお会いしたいと申しているのですが。」
「ゼノン!それは本当なの?鎧は何色でした?」
「黄金の鎧でしたが・・・。」
「間違いないわ。粗相のないようにお通ししなさい。」
「ハ、ハッ!」
門番が急いで門に戻って、扉を開けセーナたちを迎え入れる。門をくぐると、よほど急いできたのか、息を切らして待ち受けるシルヴァの姿があった。
「シルヴァ将軍、お久しぶりです。」
「本当にゼノンね。でもどうやってカナンを脱出したの?あなたはガーゼルに軟禁されていたと聞いていたのに・・・。」
「実はこの方々に助けていただいたのです。」
そう言ってゼノンはセーナたちを紹介する。
「もう知っているかもしれませんが、彼女たちはガルダ島にいるユグドラル軍の勇者たちです。右にいられるのが、ユグドラル軍の総指揮官であるセーナ様です。」
「おお、ユグドラル義勇軍の方々でしたか?初めまして、自由カナン軍黒騎士団の隊長シルヴァといいます。ゼノンを助けていただいてありがとうございます。」
「いえ、こちらこそ丁寧な歓迎していただいて、言葉には表せないほどの嬉しさでいっぱいです。」
「さぁさぁ、ぜひともセネト様にお会いしてください。ゼノン、あなたも会われるでしょ?」
「もちろんです。」
「あっ、待ってください。シルヴァ将軍、実はこれをあなたに渡そうと思いまして、わざわざ参りました。」
と言って、セーナはレイラたちに命じて、例の荷車を持って来させた。シルヴァは何かと中を覗き込むと、
「これは骨ではありませんか。なぜこれを?」
「この骨は、さきのガルダ戦で、私が殺してしまったカナン兵の遺骨です。ぜひともセネト様に引き渡そうと思いまして、持って来ました。」
セーナはそれからもガルダ戦での自分の失策を包み隠さず、全てを告白した。
「そうでしたか。セーナ様、わざわざこの難路の中、運んでいただいて感謝します。彼らもセネト様に会えて喜んでくれていることでしょう。」
「そう言ってもらえば、私も嬉しいです。」
「それではセネト様のところまでご案内します。」
シルヴァに案内されて陣内を行くセーナたちは兵士達の疲労を見切っていた。
「シルヴァ将軍、彼らは何日ぐらい休ませていますか?」
「えっ、今日で2日目ですが・・・。」
「今、見たところ、兵たちは皆、疲れていますよ。もうしばらく休ませてあげられないんですか?」
「そうしたいのもやまやまですが、私たちは魔獣の夜襲にも備えなければいけないんです。もう少しでレダ古城に着くので、そこまで頑張って欲しいのですが。」
「それは少々、無理があるでしょう。あそこからここまでかなりの数の魔獣がいました。おそらくガーゼルが魔獣たちを誘導しているのでしょう。」
「それは本当ですか?そうなると今、ここで休んでおかなければいけませんね。わかりました。テムジン様に言って、休みを取るよう提案してみます。」
「そうしてあげてください。たとえ将たちの能力が高くても兵がいなければ何もできません。大事にしてあげてください。」
「そうですね。勉強になります。」
そう言っているうちに一際立派なテントに着く。
「ちょっと待っていてください。今、連絡してきますから。」
そう言ってシルヴァはその中に入っていった。今までセーナたちと話したことを報告しているのかセーナたちは予想よりも長く待たされた。10分後、ようやくシルヴァがでてきた。
「遅くなってすみません。どうぞセネト王子がお待ちです。」
「あっ、ハイ。フィード、どこにいるの?」
待つのも嫌いなフィードは好みの同盟軍の女兵士を見つけてナンパしに行ったのか、いつのまにか姿を消していた。セーナの一声でフィードはひょっこりとシルヴァの背後に姿を現して、ようやくメンバーが揃ったセーナ一行はセネトのいるテントに入っていった。
「おお!まさしくアーレス殿下の生き写し。」
セネトの顔を一目見て、ゼノンがうなる。
「初めまして、ゼノン将軍、それにセーナさん。」
「こちらこそお初にお目にかかります。」
「シルヴァから話は聞きました。ただ量が多かったので、多少整理できていませんが、まずセーナさん、カナン兵の遺骨を届けていただいてありがとうございます。カナンに凱旋した時、必ず手厚く葬ると約束しましょう。そしてゼノンを助けていただいて、もう言葉には表せないほど感謝の念でいっぱいです。」
「いえ、私たちは最善と思うことをしているだけです。それよりも何かゼノンさんに何か言葉をかけてあげてください。彼はずっとセネト様に会いたがっていたんです。」
英雄と英雄に言葉はいらない、このときのやり取りを見ていたシルヴァは残した言葉である。
「そうですね。ゼノン将軍、父もあなたを信頼して重用していたと聞いています。将軍、良ければ、まだ父には劣るかもしれませんが、この私のために戦っていただけないでしょうか?」
即断すると思われたゼノンだったが、彼はセーナの顔を見た。おそらくこの一週間での行動で、彼女に関しても親近感を覚えていたのだろう。しかしセーナはその未練のようなものを断ち切らせるかのように首を大きく縦に振る。
「セネト様、私はアーレス様やエルンスト様に主従の誓いを立てた人間。どうしてアーレス様のご嫡男の要請を断れましょうか。今、ここで天に誓います、たとえ刺し違えてでもセネト様を守りきることを。」
ゼノンらしく騎士の中の騎士らしい誓いに、レイラやミカたちは騎士というものの美しさを実感した。こうしてゼノンは正式に自由カナン軍の重鎮となった。セーナはそれを見届けて、レダ同盟軍の陣をまた東に向けて旅立った。その際、見送りに来たセネトにある手紙を渡している。セネトがカナン侵攻の際にセーナと共に共同作戦をとることを約したものである。その手際の良さにはさすがのセネトも脱帽したのか、苦笑いをしながらセーナたちが消えるまで見送っていた。レダ同盟軍はこれから4日後、ふたたび歩みを再開した。そしてフィードにとってはまた眠れない日々がしばらく続くのだった。

 

 

 

 

 

最終更新:2011年07月11日 01:40