レダ同盟軍とガーゼルの抗争が激しくなるなか、彼らに気付かれずに一つの軍がひっそりとレダ中央部にあるレダの谷に足を踏み入れていた。彼らは海賊シーライオンのホームズ率いる部隊であった。ただ今はある人物の命を取り戻すために秘宝ダクリュオンを求めてレダ古城を目指しているだけであり、あまりレダ同盟とガーゼルの戦いへの介入には積極的ではなかった。というよりは知らなかったらしい。

ホームズはガーゼルによってサリア・レダ街道を封鎖されていたために、エリアル洞窟を迂回して今、ようやくレダの谷に入ったばかりであった。
「まったく山賊の次は野獣かよ。」
エリアル洞窟を越えた直後の高台からは遠くはレダ古城までの景色が広がっている。そしてその手前にはガーゴイルの住みかであろう、ほら穴が何十とあった。しかも南に目を向けるとメーメル洞窟にいたものとは段違いのオープスの大群がはびこっている。
「さすがクラニオンが荒らしただけあるな。」
その光景を見てうんざりしているホームズにシゲンが更に追い討ちをかけるが、ホームズは
「だからこそ越えがいがあるんじゃないか。しばらくこのあたりで休んで、疲れが取れた頃、一気に突破しちゃおうか。」
と即座に作戦を立てるにいたる。薄々とヴァルスの遺伝子が発揮している結果なのかもしれない。
「勝手にしな。ここの指揮官はお前だからな。」
こうしてホームズ軍は約3日、この高台にとどまり、エリアルの山越えの疲れを癒していた。
「ホームズゥ!」
もうこの部隊の中でこの声を知らないものはいない。イスラ島で聖竜ネウロンとなった火の巫女カトリである。エリシャ、サン、マーテル・フラウ姉妹など話し相手に恵まれてきたカトリはホームズ軍の女神的存在になっていた。
「どうしたカトリ、また変なもんでも拾ったのか?」
カトリは盗賊ユニよりも多くのものを見つけてきた。特にメーメル洞窟でリペアの杖を見つけて以来、ホームズは密かにカトリの「千里眼」に驚いていたのだった。これも天性の才能なのだろうか、今回もカトリの手には新しい杖が握られていた。
「何でわかるの?これ、古木の幹の中にあったんだ。」
「うん?これは確か、記憶の杖だな。エンテが持っていたのと同型だからな。」
「へぇ、これが記憶の杖。でも何に使うの?」
「そんなこと、俺に聞くなよ。まぁ、今度、ブラードに戻った時に売れば、良い金になるだろうな。」
「まったく、ホームズはいっつもお金なんだから。何か役に立つかもしれないでしょ。」
「だったら今度、エンテに聞けよ!」
しかし今回は2人とも言ってることは当たっていなかった。この記憶の杖は売れもしないし、今のホームズには全くいらないものである。でもこんな物でも話題にしてしまうほど、二人の仲は温まっていた。
この3日の休養は将兵たちに心のゆとりも与えることにもつながった。そして心身ともにリラックスしたホームズたちはレダ古城に向けて、電撃的な進軍が始まる。その前にまず陣形を作り始めた。空中から来るガーゴイルやオープスからカトリや歌う神官リーリエを守り、かつ、迅速に進軍をするためである。
「エリシャ、お前はマーテルと共にカトリとリーリエを守ってくれ。」
「任せて。」
このエリシャ、ホームズ軍最強の魔道士として今やホームズから絶対的な信頼を得ている。彼女の操る雷魔法は迫るものをすべて焦がし、雷神というにも不足はない活躍をしていた。彼女の育ての父はレダ解放戦争で重傷を負った、あのアフリードであったが、その事実はまだ知られていない。
「サン、フラウ、お前達はシゲンと共に先鋒に立って、立ち塞がる魔物たちを倒しておくんだ。」
『了解です』
この仲の良い、2人の騎士がサンとフラウ。シルヴァの娘のサンに、マーテルの妹フラウ、あまり結びつきそうにない組み合わせだが、シルヴァがサンをレオンハートに託したことがきっかけとなって2人を近づけていた。ただシルヴァやレオンハートにまだ子供扱いされていることが多いために血気にはやることが多く、ブラードを訪れたホームズたちを襲うというヘマを犯しているが、逆にそれがホームズに気に入られることになる。成長盛りの2人に先鋒を任せるあたりにそれが伺える。他にも素姓不明の斧戦士サムソンや一時敵対したイスラ海賊の頭領メルヘン、セネーで行方不明になっていた神官プラムも加わり、おそらくその戦力はリュナン軍に迫るほどになっているのかもしれない。
約一時間に及ぶ陣形組みでようやく突撃準備が完了した。そしてついに進撃が始まる。北から迫るガーゴイルはゼノとジュリアの剣士コンビに食い止められ、南からゆるゆると迫るオープスはホームズとアトロムによって次々と倒される。しばしば正面からドラゴンゾンビやアークオーガも襲ってくることもあったが、シゲンとヴェガの剣技の前に無残な屍を重ねるだけであった。気がつけば、さっきまで小さく見えていたレダの古城が目の前にある。野獣の群れを突破していたのだった。ある理由で3日前よりも野獣が減っていたのも彼らを助けていた。
先の時代、十二英雄が死力を尽くして魔竜クラニオンを退けた地であるレダ古城。その時の面影はわずかに残すのみだった。今、この古城にはあの時の傷がすっかり癒えた魔竜が眠っていようとは知らず、ホームズたちが秘宝ダクリュオンを手に入れるために足を踏み入れる。ちょうど同じ頃、カナンの騎士ゼノンを配下に加え、英気を養ったレダ同盟軍もこのレダ古城を目指して進軍している。魔竜クラニオン、シーライオン、レダ同盟、そしてガーゼル教国、複雑な人間関係の織り成す、激しい戦いがレダ古城でが始まろうとしている。

 

 

 

 

 

最終更新:2011年07月17日 01:05