カトリが自らの意志で聖竜ネウロンに変身し、ホームズとエリシャの連携技の前にクラニオンは二度目の敗北を喫した。喜びに湧きながらホームズ軍は秘宝ダクリュオンの捜索を再開するが、ガーゼルの手下とも言えるレダの荒地はさらなる試練をホームズたちに与えることになるが、当のホームズたちはまだ知らない。
「おい見ろよ、サムソン。すごい斧を見つけたぜ。」
廃墟となったレダ古城からは場にそぐわず素晴らしい宝物がぞくぞくと出てきた。その一つが今、ホームズの見つけた斧ドルハーケンであった。
「さすがホームズだな。俺に似合うものをちゃんと見つけてくれるなんてよ。」
エリシャとほぼ同時に加入したサムソンが満面の意味で「くれ」という意味の手を出す。
「おいおい、何でお前にやらなきゃならないんだよ。これは売れば、いい金になるぜ。そうすればブラードでしばらく遊べるぜ。」
「何だと、そんなことは許さん。こうなったら力ずくでも奪ってやる!」
ここでホームズとサムソンの追いかけっこが始まった。斧戦士サムソンは意外にも素早いらしく、あのホームズとの差を広げられることはなかった。といっても追いつけるほど速くない。
(こうなったら作戦を立てるぞ)
廃墟には古びた柱が何本もある。サムソンはあとでホームズが通りそうな柱を見つけ、その裏に隠れた。
「何だ?もう終わりか?」
サムソンが隠れてからもまだしばらく1人で逃げていたホームズは彼が追いかけてこないことに若干の不満はあったようだが、どうにかドルハーケンを手にしたのである。
「フン、俺に勝とうなんて・・・」
とホームズが言いながらさっきサムソンの隠れた柱を横切る。
「余裕だな、ホームズ。」
「何!」
気がつけばホームズはサムソンによって倒されていた。もちろんそのはずみでドルハーケンが飛んでいった。サムソンはホームズが起き上がる前にそれを取ろうとするが、
「お前達は何をやってんだ。この斧は俺が預かっておく。」
そうしてでてきたのがシゲンであった。シゲンは手際よく斧をちょうど持っていた盾に収納した(といっても止め具に引っ掛けただけ)。実はこれが後のエレブ大陸戦乱の戦士たちに定着していくことになる。これに反省したホームズとサムソンはまたダクリュオン捜索を再開する。
一方、こちらはレダ古城の入り口を見張るアーキスとクライス率いるラゼリア騎士団。リュナン軍では先鋒に命じられる名誉を与えられたことから比べると、なんともかわいそうな2人組。それでも忠実に任務をこなす2人は騎士の鏡だろう。そんな2人に地響きにも似る音が聞こえてくる。
「おい、アーキス。」
「聞こえているさ、あの地響きみたいな音だろう。」
「もう少し様子を見てみるか?」
そして5分後、それは着実に近づいていた。するともっと遠くで見ていたフラウとマーテルたちが急いで戻ってきた。
「急いで、ホームズに伝えて。ガーゼルの大軍が四方から迫ってきているって。」
その報せに驚いたクライスは馬に鞭打って急いで古城内に入っていった。あのホームズを探すのはやはり時間がかかり、途中で出会ったガロと共に二手に分かれて探して、ようやく見つけ出した。そしてホームズがみんなを集めて、古城で陣形を整えたときにはすでにガーゼル軍は城壁跡を越えて、古城に迫っていた。
「何で四方から迫るほどのガーゼル軍がここにいるんだよ。」
ホームズがシゲンに聞くが、やはりシゲンは
「俺に聞くな。」
というだけのはずだった。
「おっと忘れるところだった。サムソン、ひとまずこの斧はお前にやる。それで暴れろよ。」
そういってドルハーケンをサムソンに投げ渡す。サムソンはまるで子供のように目を輝かせてドルハーケンに飛びつく。
「おうよ。」
そして後のノルゼリアの大乱戦に勝るとも劣らない大戦がはじまる。ベテランのクライスとアーキス、ガロ、シゲン、サムソンの鼓舞が功を奏して、敵軍の大包囲にもひるまずに当たったことができたのが、不幸中の幸いだろう。質では敵の数倍のホームズ軍に数では何十倍のガーゼル軍が四方八方から迫る。たとえ士気が高くてもこれでは辛かった。しかも攻撃にしか重点を置いていないガーゼル軍に対し、ホームズ軍にはカトリやプラムなどの神官も多い。彼女達に護衛を回さなければならないのも弱点である。そして当然のようにカトリを守るホームズ。ドラゴンアローとボウガンを上手に使い分けて、獅子奮迅の働きをするホームズであるが、疲労の色は隠せない。やはりクラニオンとの戦いから間がないのも原因だろう。珍しく表情を緩めないホームズを見て、カトリもしばしば癒しの杖を使ってできるだけホームズの疲労が溜まるのを抑制するのが精一杯だった。
(私も何か役に立ちたい。)
そしてついリングオブサリアに手を伸ばそうとする。
「おい、カトリ、手をどこにやってんだ。そんな暇あったら癒しの杖を使ってくれよ。体力がもたねぇよ。」
ハッ、と我に返るカトリ。目の前にはホームズが汗を滝のように流して、矢を次々と放っている。
(私のやることは人を焼くことじゃない。助けることよ。)
ようやくカトリは自分のすべきことを自覚した。それからのホームズの戦いは矢がなくなるまで数多くの魔獣たちや魔女たちを倒していく。
「リチャード様、ティーエ様、レダ古城にて謎の一軍がガーゼルの大軍と決死の攻防をしているとのこと。テムジン様より突撃要請が来ています。」
レダ地方を解放せんと、日々魔獣との戦いに明け暮れるレダ同盟軍がレダの谷に入ってきていた。このごろのレダ同盟は着々と力をつけてきたリチャードが指揮を取っているが、やはりテムジン、セネトにもほぼ平等に兵権が与えられている。そして同盟軍先鋒をテムジン、中軍をリチャード、後軍と遊撃軍をセネトがそれぞれ操っている。すでに先鋒はガーゼル軍に攻撃を仕掛けたようである。
「野盗の一団か?それだったらすぐに敗れるか。」
ガーゼルと戦っている一軍を推測するリチャードであるが、
「そんなことより早くしないと。相手はガーゼルの大軍なのよ。急いで助けてあげないと。」
他人にいろいろと言われることが嫌いなリチャードはこのティーエの言葉に少しムッとするものの
「わかっている。まずノールとセーラに行かせよ。それからライラ・リーラ、そして俺たちが行く。」
即座に多くの伝令が走る。ノール、セーラが出発した頃、リチャード隊の横をレシエ、ヴェーヌの自由カナン空軍が通り過ぎる。セネトはさっきの伝令を聞いて、すぐに判断を下したのだろう。セネトをいやに気にするリチャードはこれに刺激され、全軍突撃を命じた。もはや作戦などない。意地だけが第二軍と第三軍を操っていた。ティーエは顔を真っ赤にして指揮をするリチャードを見て、すこしだけ笑っていた。
そしてここにレダ同盟軍全軍がガーゼル軍に突っ込んだ。ホームズ軍の猛烈な意気に押され始めていたガーゼル軍はこの12万の乱入で大混乱に陥った。今度はガーゼル軍が挟み撃ちにあうことになったのだ。これによりホームズ軍は窮地を逃れ、大反撃が始まることとなる。
「レダ同盟軍か・・・。やな奴に救われたもんだ。」
ホームズの得意のため口が出始めたことからもそれはわかる。
「おい、シゲン、矢が切れちまったから剣を貸せよ。」
「えっ、ホームズって剣が使えるの?」
驚くカトリを尻目にシゲンから渡されたシャムシールを持って、ホームズが言う。
「まぁな、まだシゲンほどじゃねぇけどな。」
「馬鹿だな。俺に敵う奴がいるか。」
そしてホームズとシゲンの華麗な連携技が今放たれる。
『ブレイズウェーブ』
異常な速さから繰り出される2つの波長の異なる真空波は巨大なものとなり、数百のガーゼル兵を切り裂いていく。影で共に剣の修行をしてきた2人だからこそ放てる大技であった。そしてその真空波のあとには無残にも真空の刃に切り裂かれたガーゼル兵の死体が積まれていた。
(これがホームズの剣技・・・すごい)
初めて見るホームズの剣技に思わず胸を熱くするカトリだったが、
「何、ボーっとしてるんだ。ほら行くぞ。」
とホームズに冷やかされ、せっかくのムードが台無しにされる。
戦いはホームズ軍の異常なまでの粘り強さと、レダ同盟軍の加入があってガーゼル軍はまさかの大敗を喫した。このガーゼル軍はクラニオンを傷つけられたことの報復としてグエンカオスが差し向けたものであり、この戦いで死んでいったものたちの無念さはたとえガーゼルの人間でも計り知れないであろう。
「フン、だれかと思えば、ウミネコの頭領さんか。」
戦いが終わり、双方の将が出会う。やはり突っかかってきたのはリチャードであった。しかしホームズも噛ませ犬である。ただではおきない。
「ウミネコじゃねぇよ、ウミシシさ。まったく脳が筋肉だけでできてる奴を相手にすると大変だぜ。」
「フン、ネコのくせに爪は立てられないのに口はよく立つな。」
もうただの悪口の言い合いであるが、これが彼らなりのコミュニケーションの取り方なのかもしれない。それを眺めているカトリは呆然としていて、対するティーエはくすくすと笑っていた。
そしてこちらはレダ古城の一角である。ここに"ホームズ軍の雷神"エリシャと"
レダの雷光"アフリードが久々にあっていた。アフリードはレダ解放戦争で負った深手をエリシャの母ニーナによって治療されたあと、密かに父エーゼンバッハのいるマルス神殿に戻っていたが、妻シルフィーゼがマルジュを産んで以来、エリシャ養育を手伝うためにレダに戻ってきていた。ニーナ病死直前に再び失踪してしまい、それ以後エリシャは1人で生きていた。エリシャはその間、アフリードが母を愛せない理由を一生懸命探し、その最中に海賊に捕らえられホームズに救われたのだった。そしてエリシャはマルス神殿を訪れ、その「答え」を見つけていた。今、エリシャはアフリードが母を愛せなかった原因を知り、事実上、彼との決別を伝えた。アフリードはエリシャに風魔法シルフィードを託して、彼女の前から風のように姿を消した。
だが古城にいるのは彼らだけではない。また別の一角にはホームズ軍名うての斧戦士サムソンと、あの傭兵王テムジン、さらには大陸一の破邪の剣士カティナがなにやら密談をしていた。
「サムソン、彼らはどうだ?」
「ええ、素晴らしい人々ばかりですよ。だからこそ今回の戦いも持ちこたえられたのです。」
「そうか、だがお前の務めはまだ終わったわけではない。心して努めるのだ。」
「サムソン、この斧を使って。きっとあなたの助けになってくれるわ。」
これだけではまだサムソンの密命はまだ詳しくはわからないが、何か大事なことを握っているのかもしれない。そして古城にこもる少し重い空気をあの声が打ち消す。
「さぁダクリュオンを探して、こんな所、さっさと去ろうぜ!」
結局、ダクリュオンはさらに3日経って見つかった。その間、リチャードたちレダ同盟軍も休息のために古城に留まっていたために多くの人々がこの場を借りて、交流をしていた。特にサンとシルヴァ、フラウ・マーテルとヴェーヌは久しぶりに再開できたためか、ほとんど離れなかった。ダクリュオンを見つけた翌日、ホームズ軍は一足先に古城を出発した。見送りにはティーエとノールぐらいしか来ていなかったが、ホームズは大して気にしていなかった。それよりも嫌なことが続いたレダから早く脱出したいという気持ちの方が強かったかもしれない。そしてさらに2日後、レダ同盟軍もようやく進軍を再開した。最初15万いた兵力も度重なる魔獣の戦いや、今回の大戦で10万まで減ってしまい、若干士気が下がり気味になっているレダ同盟軍からすれば、まだまだ先は長い。