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 リュナン軍のラゼリア奪還はグラナダを支配するシオン竜騎士団に衝撃を与えた。ラゼリアが敵の手に入るということが、グラナダの孤立に他ならないからだ。今はアルカナ砂漠が猛烈な砂嵐で通行不可能となっているからいいものの、グラナダは予想外からの攻撃に晒されることとなった。
『帝国輸送船が海賊によって壊滅、ビスマルク提督死亡』
『迎撃に当たった帝国水軍が海賊により壊滅』
この海賊とはホームズ率いるシーライオンであるが、もちろんシオンのもとにそんな情報が入るはずがなかった。いや、そんな余裕はなかった。なぜならグラナダはすでに東からの攻撃にさらされていたのであったからだ。それはセーナによって派遣されたアレス王率いるクロスマリーナとクロスナイツであった。少数精鋭で知られる部隊が完全にシオンの不意を突いて、グラナダを急襲したのだった。リュナン篭城時から配備されていたクインクレインらもこの急襲には成すすべもなく、気がつけばすでに射程圏内よりも中に進入してしまっていた。そしてクロスナイツの上陸後、戦線は一方的なものとなった。クロスナイツは沿岸の守備兵をことごとく撃破し、その後港に設置されていたクインクレインを破壊した。もちろんシオンも手をこまねいていたわけではなかったが、なぜかシオン竜騎士団が出撃する直前、クロスマリーナはクロスナイツを収容して潮が引くように去ってしまったのだ。不思議に思いながらも追撃をする竜騎士団であったが、それが裏目に出てしまった。クロスナイツに紛れて、船には数少ないグリューゲルの弓兵が乗っていたのだ。その数、わずか50。しかし百発百中を誇るグリューゲル弓兵の前に竜騎士団は敵軍にさしたる被害を与えることができずに逆に甚大な被害を被ってしまったのであった。シオンは舌を打ちながら敗軍をまとめ、グラナダに引き揚げていった。クロスナイツはこれからグラナダを襲うことはなかった。しかしわずか1回の奇襲で港湾設備は無防備状態に陥り、シオンは守備配備を再考しなければならなくなった。
だが時はそんなシオンを待たせはしなかった。クロスナイツが引き揚げてから2日後、帝国水軍を破ったシーライオンがグラナダに侵入してきたのだ。シオンにはまだ迎撃準備ができていなく、容易に上陸を許す結果となってしまう。またこれに乗じてグラナダ内で密かに結成されていたレジスタンスが城門を破壊し、ラゼリア軍来襲に備えていたパイク率いる部隊を城外に孤立させてしまった。こうなるとシオン軍はもろくなる。上陸し、勢いを得たホームズ軍は迅速に市街を制圧し、手早く領主館を包囲した。ここでようやくシオンはシーライオンとホームズのことを知ったのだった。シオンはつぶやく。
「やはりあの事件がすべてだったのか。」
彼の言う、あの事件とはグラナダを見にきていたセーナ、コープルを帝国兵が勝手に襲撃した事件である。これによりセーナ率いるバルド同盟軍を完全に敵に回し、ゾーア帝国にとって脅威となったのであった。もちろんこのことはガーゼル教国にも知られ、シオンは処罰を受け、グラナダから外に出ることを禁じられた。そしてそのバルド同盟軍によりシーライオン侵攻の踏み台を用意させてしまったのだ。
「こうなれば最後の最後まで戦うのみ。」
悲壮な決意を胸に、今シオンが出撃しようとしている。その時、
「なんだ、なんだ。どこから敵が来やがる。」
どこからともなく次々と飛んでくる帝国兵の攻撃にホームズ軍が浮き足立つ。
「ホームズ、これはワープの杖を使っているのがいるわ。」
飛んでくる帝国兵を蹴散らしながらエリシャが言う。
「ワープの杖!」
その言葉にいち早く反応したのがアトロムであった。ホームズ軍の剣士としてゼノと双璧を成す活躍をし始めているが、何かとホームズと似ている癖も持っているため、ホームズ自身も結構気にしている存在であった。
「ワープの杖はレネ姉さんが使う杖だ!」
その言葉を聞いてエリシャもホームズも驚く。
「っていうことはレネは生きているってことか?」
「たぶん・・。エリシャさん、そのワープ源がわかりますか?」
「やってみるわ。」
敵がどこから飛んでくるのか知るためにもそれなりの魔力を要する。もちろんその際はエリシャは攻撃に参加できなくなる。それでも防ぎきれないほどの数ではない。しばらくするとエリシャは何かを得たかのように指差した。
「あっちの方よ。おそらく城の外。」
「よし、アトロム。お前が行け。ここは俺たちで凌ぐ。」
「わかった。」
こうしてアトロムは適当な手勢を率いて、エリシャの指した方角へ向けて進み始めた。これでホームズ軍もワープ勢との戦いもギリギリのものとなった。ただ1つだけいえるのは明らかにワープの間隔が広くなっているということだ。
(ハァ、ハァ)
城壁の外で1人あえいでいるシスターがいた。おそらく彼女が、アトロムの言うワープの杖を振るうレネであろう。
「シスターレネ、もういい。このままではあなたが。」
側に駆け寄るのはシオンの腹心パイク。彼の師は西部諸侯連合で活躍するノール5世の腹心タイラーであり、疾風のパイクはこの師からもらった異名であった。
「しかし・・。」
よく見ると周りには数百人しかいなくなっていた。最初は200人いたことを考えるとそれだけレネが異常な数の人数を転送していた。疲労も無理もない。彼女を動かしているのはシオンやパイクへの恩義に応えたいという気持ちや、決死の救出をしてくれたビスマルクを思う気持ちがあったためだ。そんな彼女の思いをよそに城壁が壮大な音と共に更に崩れる。驚くパイクたちはその方向を凝視し、何が起こったのか探った。もちろん城壁を崩したのはアトロム隊であったのは言うまでもない。アトロムは先陣をきって、敵軍に突撃した。もちろん姉を探しながら。
「レネ姉さん!!」
レネもその声に気付く。そしてその姿を見つけた。
「! アトロム!」
「姉さん!」
アトロムが敵兵を退けながら姉に近づいていく。すると目の前にパイクが立ち塞がる。
「君がシスターレネの弟か。アトロムとか言ったな、俺と勝負しないか?」
「何だって。」
「どうせ俺たちは負ける。だったらかっこいい死に方をしたいのでな。」
パイクも男ならアトロムも男、逃げるわけにはいかなかった。
「わかった。」
そしてアトロムがシャムシールを構える。
「アトロムよ。そなたの実力をしかと見せてもらうぞ。」
パイクが先攻した。さすがに疾風のパイクだけあって、動きに切れがある。ホームズ軍の中でも素早いほうのアトロムでさえも舌を巻く早さであった。彼の振るサンダーソードをすんでのところでかわすが、パイクはさらにその上をいっていた。避けた瞬間、強力な雷を剣に帯びさせ、それがアトロムを襲ったのだ。思わぬ電撃に体がしびれ、態勢が崩れる。
「どうした、アトロム。お前はその程度か。」
しかしパイクはとどめをさそうとはしなかった。そして剣を鞘にもどした。アトロムはゆっくりと体を起こして再びシャムシールを構えた。今度のパイクは動こうとしなかった。しかし同じ轍を踏まないためかアトロムも慎重になっている。これもパイクの狙いだった。ふとパイクが一足前に出る。するとアトロムがそれを見逃さずに一気に決着をつけるべく、パイクに突進しようとした。しかし次の瞬間、アトロムの目前に槍が飛んできていたのであった。すかさず避けるも今度はジャベリンの柄がアトロムの顔を襲った。二度目の転倒であった。ここでもパイクはとどめをさせたのに自ら投じたジャベリンを取りにいくだけであった。
「さぁアトロムよ。もう終わらせようではないか。」
よく見ると周りにはアトロムと共に来たものしかいなかった。パイク隊は全滅したのである。アトロムは敢然とパイクに立ち向かう。彼の放った斬りをパイクはサンダーソードで受け止め、当然のごとく至近距離からの雷撃を打つ。アトロムはそれに吹き飛ばされるが、今度のパイクは本気だった。アトロムが立った瞬間にすぐ側をジャベリンが飛んでいった。彼の頬は少し切れたのか、血が流れる。しかしアトロムもひるまない。何の考えもなく突進してくるアトロムにパイクは何も対処できなかった。なにしろジャベリンを放ったモーションで隙が大きくなっていたからだ。やむを得ず、サンダーソードを盾に今回のアトロムの攻撃を受け流すが、これでパイクの剣もどこかに飛んでいった。しかしまだパイクには武器はあった。それを知らずに極限まで近づいたアトロムが一気に終わらすべく、パイクに切りかかる。だが血が吹き出たのはアトロムの方だった。よく見るとパイクの手には赤く染まったポールアクスが握られている。この一撃でアトロムは吹き飛ばされた。
「アトロム!」
叫ぶレネ、目には涙が浮かんでいた。そしてパイクがアトロムにとどめを刺すのか、アトロムの前に出てポールアクスを構える。
「アトロムよ。この私からサンダーソードとジャベリンを失わせ、疾風の動きを消したのは見事だった。」
そして大きな斧を振りかざす。
「なに!」
しかしそこにはアトロムの姿はなく、血のりだけが残っていた。
『烈風斬』
背後に回りこんでいたアトロムの剣技がパイクを炸裂した。体はずたずたに切り刻まれ、もはやパイクには立つことは不可能だった。
「まさか芝居だったとはな。アトロムに一本取られたな。」
そうあの時、アトロムはパイクの攻撃を見事に避けていた。斧やアトロムの衣服についているのはどこから手に入れたのか適当な血のりであった。
「アトロムよ。血はつながっていないとはいっても姉は大切にするのだ。」
「もちろんです。」
「それにしても久しぶりにいい戦いをさせてもらった。先にいってるぞ。」
そしてパイクは息を引き取った。この後、事情を知ったアトロムはレネと共にパイクを看取り、ホームズ軍に合流した。

そしてシオンは外に飛び出てきた。さすがにジュリアスの側近だけあり、シオンは強く、一時優勢だったホームズ軍はたちまち退かされてしまう。しかし数では圧倒的有利なホームズ軍が竜騎士団を囲み、ついにシオンに迫った。エリシャやホームズの攻撃ももろともせずに周囲の敵をなぎ倒していく、この時のシオンはもはや鬼神だった。窮鼠猫を噛む、まさしくこの通りであった。シオンの勇猛さにたちまちホームズ軍はたじろぎ包囲も緩まる。そしてそこをシオンが突破していく。しばらくこの状態が続き、結局、膠着状態のままこの日の戦闘は終わる。領主館に戻ったシオンは相当疲労しているようで、彼の鎧がホームズ軍の猛攻を物語っているかのようにくたびれていた。彼が最後の睡眠を取ろうとしたとき、シスターレネが訪ねてきた。シオンは彼女を迎え、今日一日の出来事を聞いた。そしてレネが切り出す。
「お願いです、シオン様。兵を引いてください。ホームズ様もこれ以上の流血は望んでおりません。どうか・・・。」
「しかしシスターレネ。私もパイクを失い、多くの戦友を失ってしまった。私だけ生き残って生き恥をさらすことはできない。すまない、シスター。」
レネもなかなか食い下がらなかったが、シオンも頑なに拒みつづける。するとバルコニーから1人の竜騎士が来た。
「姉上。どうしてここに。」
「ソフィア公国はセーナ様の仲介で自由カナン軍に参加することになったの。レシエ王女も帰国なされ、あなたにもソフィアに戻るようご命令が出たわ。」
この頃、ソフィア公国はセーナ率いるグリューゲルに無条件降伏していたが、セーナはソフィア公国を丸ごとセネトに譲り渡していた。そしてそれに少し遅れて、セネトと別行動を始めたレシエがソフィア入りし、事実上自由カナン軍の新本拠地となったのである。
「レシエ王女が?だが私は・・・。」
「シオン!あなたの主君は確かにジュリアス皇子です。しかしそれ以前にレシエ王女配下のソフィア竜騎士団の一員だということ忘れてはなりません。」
「! そうでした。シスターレネ、私は今夜中にここを発ちます。そしてパイクや戦友たちのために新たなカナンのために戦う!しかしシスターには悪いのだが、配下の者も一緒に連れて行きたいのだが・・・。」
「わかっています。ホームズ様に伝えておきます。きっと承諾されるでしょう。」
「すまない、シスター。」
この日のうちにシオン率いる竜騎士団はソフィアに向けて飛び立った。ホームズ軍はレネの言う通り、矢を射たり、魔法を放つものもいなかった。
こうしてグラナダはホームズの元に戻ってきた。しかも嬉しいことは続き、あのヴァルスも生存していたことがわかった。さすがにホームズは微妙な顔をしていたが、心の中ではやはり喜んでいたのだろう。それから一悶着あり、ホームズ軍はイル島に行ったこともあったが、ひとまずこれでリュナンとホームズは南リーヴェ地方を掌握したこととなった。

 

 

 

 

 

 

最終更新:2011年07月17日 01:31