と私は時々このように、口に出して『自分が他者を理解していること』を確認し合う。
とても共感できない主義、思想、趣味でも、理解は可能でありたい、という共通の認識からくる二人ひと組の口癖だ。
有栖川有栖「ダリの繭」

人のことやと思うて、勝手に色々言うてくれますね。(中略)
こっちは真剣に悩んでるのに、無責任やわ。
一億三千三百万七千二十掛ける九百六十四がいくらになるか
一生懸命計算してる人間の横に来て、『十億より大きいでしょう』って言うようなもんです。
意味あらへん。(p214)

張ってる人を見て勇気をもらうとか言うけど、そんなの嘘で、ホントは、頑張ってない人とか、頑張りたいのに頑張れない人とかを見て、ああ、よかったって安心したり、ざまあみろって思ったり、そういうの励みに生きてるじゃないですか。
(訳あって優秀な先輩のポジションを引き継ぎ、前任者のようにはいかず苦しんでいる後輩)

(横山秀夫「疑惑のデッサン」-「顔」収録)


の梶さんという人、とっても優しいんだと思います。<中略>
でも、よく思ったんです、当時……。出て行って欲しい。そう願っていたんです。
散髪に行って、そのまま帰ってこないでくれたらどんなにいいだろうって<中略>
ご自分で死んでくれたらいいのに、って(p303-304)

の行為が優しさだというのなら、優しさなどこの世になくていい。
澄子の優しさを、自分は選ぶ。
殺さなかった優しさを-。(p306)


は誰だって、テメエでテメエの生きざまを決めてんだ
自分の一言で、他人様の人生を変えられるなんて自惚れは持つんじゃねぇ(p69)



分の中に人間の心が残っていることを証明するために、すべてを喪った
(森村誠一「人間の証明」)


い出は全部記憶しているけどね、記憶は全部は思い出せないんだ(p289)

年も何年も、大勢の研究者が、その問題に取り組んでいるのです。
新しい方法が見つかれば、新しい問題が発覚する。
世界中で、繰り返し議論されている。
いいですか?とても重要な問題なのです。
貴方がもし、この重要性を認識しているのなら、
メニューを選ぶように、簡単にイエスかノーかなどと、
人にきいたりはしないでしょう。
もしご関心があるのでしたら、どうか、お願いですから、答えを出さないで下さい。
(原子力発電所建設の賛否を問う記者に対する天才科学者 勅使河原潤)
(森博嗣「そしてふたりだけになった」)

は、そのお友達に、あなたが死んだら私は困る、と言ってあげなさい。
自殺という行為が、善か悪かという議論をする必要はどこにもありません。
個々の死について、その一つ一つについて、貴女がどう感じるのか、そのときそのときで、判断すれば良いでしょう。
(森博嗣「そしてふたりだけになった」)


にかをぴたりと指しているステッキには一つ不便な点がある。
ステッキの反対のはしが正反対の方向を指すということだ。
ステッキのどちら側のはしを持っているかということによって事の成否はきまる。
(チェスタトン「器械のあやまち」-「ブラウン神父の知恵」収録)


い人は葉をどこに隠す? 森のなかに隠す。
森がない場合には、自分で森を作る
(チェスタトン「折れた刀」-「ブラウン神父の童心」収録)


まりにも論理一辺倒の思考には弱点もあるんです(中略)
いったん犯人が発送した地点んに立つことができれば、
後から思考の筋道を辿っていくことも容易だということです。(中略)
理科系の発想の特徴は、シンプルさを好むということです。(p165)
(貴志祐介「鍵のかかった部屋」-貴志祐介「鍵のかかった部屋」収録)


っと以前、私は自分の好きな世界を作ろうとしていた。それが幸せだった。
その世界が他人にとってどう見えるかということには関心がなかった。
私は自分が快適に遊べる遊園地を求めていたのだ。<中略>
砂場で城を作る子供は、他の子供の目など気にしない。彼の城は彼の眼にしか見えないのだ。
私はかつて自分が作った、いくつかの砂の城のことを思い浮かべた。悲しいことに私は、それらの城をことごとく自分の足で踏みつぶしてきたのだ。その時どういう言葉を発していたか、今も思い出せる。
「こんなくだらないもの、こんな幼稚なもの、こんな非現実的なもの、こんな不自然なもの、こんなもの、こんなもの」
なんということだ。私は自分が丹精込めて作った城を、まるで過去の恥のようにすら感じていた>のだ。そしてその時にその場にいた私の自身の姿も含めて、忘れ去ろうと努力さえしていたのだ。(p270)


に見せるつもりはないが人に見られた時のことを想定して書く、
日記とはそういうものだと思いますからね(p48)

はいくらがんばってみても、精神集中を何分間も続けられるものじゃあない。(中略)
そこで必要なのは、常に精神集中をしようとするのではなく、
いつでも集中できる準備状態に自分をコントロールするということだ。
すなわちそれが脱力ということだ(p85-86)


かしね、本当の死と違って、社会的な死からは生還できる。
その方法は一つしかない。こつこつと少しずつ社会性を取り戻していくんだ。他の人間との繋がりの糸を一本ずつ増やしていくしかない。(p321)


げずに正直に生きていれば、差別されながらも道は拓けてくる-君たち夫婦はそ>う考えたんだろうね。若者らしい考え方だ。しかしそれはやはり甘えだ。自分たちのすべてをさらけだして、その上で周りから受け入れてもらおうと思っているわけだろう?仮に、それで無事に人と人との付き合いが生じたとしよう。心理的に負担が大きいのはどちらだと思うかね?<中略>
その、いついかなる時も正々堂々としているというのは、君たちにとって本当に苦渋の選択だろうか。私にはそうは思えないな。わかりやすく、非常に選びやすい道を進んでいるとしか思えないが。(p373)


がて気づいた。これは彼にとっての般若心経なのだとね。こちらからストップを>かけないかぎり彼は手紙を書き続ける。ではストップをかければいいのか。そこで私の中に迷いが生じた。彼の手紙を止めることは事件の完全な終結を意味する。事件を終わらせていいのか。告白すると、事件の終わりを受け入れる決心がつかなかった。<中略>
それを読んで、私は決心したんだよ。もう事件を終わらせよう、とね(p411)



に解けない問題を作るのと、その問題を解くのでは、どちらが難しいか。
ただし、解答は必ず存在する。(p166)


の世に無駄な歯車なんかないし、その使い道を決められるのは歯車自身だ。(p370)


秘的なものを否定するのが科学の目的じゃない。
彼女は振り子によって、自分自身の心と対話をしている。
迷いを振り切り、決断する手段として使っているにすぎない。
振り子を動かしているのは彼女自身の良心だ。(p267)


は時々、消去法の話をするだろ。考えられる仮説を一つ一つ潰していくことで、
たった一つの真実を突き止めることができる。だけど仮説の立て方に根本的な誤り
があった場合、極めて危険な結果を招くことになる。
恐竜の骨を手に入れることに夢中で、肝心なものを排除している場合も、
時にはあるということだ(p239)


はやはり、私以外の誰でもないのだと信じて、
これからも生きていこうと思います。(p313)


間てやつには二種類あってな。
一つは、できることでも、そうしたくないと思ったらしない人間。
もう一つは、できないことでも、したいと思ったらなんとしてでもやり遂げてしまう人間。
どっちが良くて、どっちが悪いとは決められない。
悪いのは、自分の意思でやったりやらなかったりしたときに、言い訳を見つけることだ。(p112)



れほど祝福され成功した結婚でさえも、どこかに親不孝の要素を含んでいるものだ。(p167)

間てのはね、誰だってね、相手がいちばん言われたくないと思っていることを言う口を持ってるんだ。どんなバカでも、その狙いだけは、そりゃあもう正確なもんなんだから(p436)

極の権力は、人を殺すことだ
他人の命を奪う。それは人として極北の権力の行使だ。
しかも、その気になれば誰にでもできる。だから昨今多いじゃないか(中略)
だから私は腹が立つ。そういう形で行使される権力には、誰も勝てん。
禁忌を犯してふるわれる権力には、対抗する策がないんだ。(p320-321)


前のことは信用してるよ(中略)
だがな、おじいちゃんも、おまえの父ちゃんもおっかさんも、
いざという時、なにか良くないことがある時には、
おじいちゃんたちがおまえに寄せる信頼なんかふっ飛ばされてしまうような勢いで、
事が起こるってことを知っている。そういう瞬間風速の前では、家族の信頼なんて脆いもんだ。
それくらい、世の中というのは何が起こるかわからないところなんだよ(中略)
だから、それを知っている以上、うちの子に限っては大丈夫、とは言えないんだ。
その代わり、こうは言える。なにか困ったことがあったら、手遅れにならないうちに相談に来い。(p178)


は空を見上げて質問をぶつけていたんだ。どうすることが正解なのか教えてくれ>とな。即席で神に祈ったわけだ。ああいう時に頼れるのは、神様くらいだ。<中略> 俺の頭の中にどなり声が、はっきりと聞こえたんだ。<中略>『自分で考えろ!』ってな、そういう声がしたんだ(p96)


当に深刻なことは、陽気に伝えるべきなんだよ。重いものを背負いながら、タップを踏むように。(p106)


分が考えているようなことは、別の人間も考えているってことだ。大抵の企みは自分に返ってくる(p178)


ットで一番、難しいことは何だか知ってるか(中略)
そういう意味では、占いは強いんだ。占ってもらいたい、と考えている人間は、
名前や生年月日を正直に入力する。(中略)
占いサイトは、いいところを突いてるんだ。(上p34-35)


はな、他人が何を正しいと考えているのか、それをもとに判断をする、ってことだ。
今その状況でどうすることが正しいのか、他人の行動を参考にするんだよ。(上p86)


は知らないものにぶつかった時、まず何をするか。
「検索をするんだよ」(上p151)


のな。大事なことは、まとめちまったら消える。俺はそう言っただろ。
でな、それを突き詰めるとだ
人生は要約できねえんだよ(上p201)


リは賢くない。
でも、アリのコロニーは賢いのよ。(上p307)


ってさ、人間は情報ではできていないのよ。
その人の情報がどれだけ集まっても、その人間はできあがらない。
逆に考えれば、情報がいくら漏れても、
実はその人間が死ぬようなことにはならないはずなんだって。(下p86)


実なんて、情報でいくらでも塗り替わっちゃうってことよ。(下p109)


ールには二種類あるの。
大事なルールとそうじゃないル-ル
規則っていうのは絶対じゃないわけ。
大事なルールほど、法律では決まってないのよ。
困った人には手を貸しなさい、とかね、そういうのは法律になってない。
で、無条件に、糞赤信号に従うってのは、どういうことかって言うと
誰かの決めたルールを無条件に受け入れるだけ、ってことよ
『これはこういう規則になってるから』『こういうことになっているから』
なんて言って、全部受け入れるロボットと同じ。あなた、ロボット?
充電式?じゃないわよね?だったら、考えるのよ。(下p153-154)


は一度、説明を受けるとそれをありがたい真実だと受け入れるところがあります。
その後ろ側に、本当の真実が隠れていることに気付かないものなのです。(下p300)


家は、機械的で、システマチックなものでは決してない。そう思わないか?
いろんな人間、政治家や官僚のエゴや自尊心、嫉妬や欲望が複雑に絡み合って、
予想もしない現象を起こす。動物の行動と同じで、論理的に計算できない(下p326)


たちの生きている社会は、誰それのせいだと名指しできるような、
分かりやすい構造にはなっていない。さまざまな欲望と損得勘定、人間の関係が絡み合って、
動き合っているんだ。諸悪の原因なんて、分からない。俺はその考え方は正しいと思う。
図式のはっきりした勧善懲悪は、作り話でしか成り立たないんだ。
ただ、そう考えていくと、最終的に辿り着くのは虚無だ。(下p382-383)


を渡りながら、つましい生活をしているあの若いカップルの目から見た私のイメージを思い描いて、慄然とした。クリスマスイブに形ばかりのプレゼントを届けにベンツで乗り付ける、デザイナースーツに身を包んだボス。それが私なのだ。(p217)


「ニーチェの言ったことは正しいわ」「敵を選ぶときは気をつけなければならない、なぜならこちらも敵に似てくるから」(p439)


人者なら許せるが、大量殺人者は許せないというのは、エゴイズムでしかない。 (p38)


しておきたい事柄を胸に秘めた人間は、得てして饒舌になりがちだ。(p205)


てるよりもはずす方が客の口は軽くなる。
すべてを見通すと客は警戒するだけ。(P127)(七月七日に逢いましょう)


からないふりをしてみせるのも、円滑なコミュニケーションを図るうえでは重要である。(p234)


{最近、桜の木を見たことがあるか?(中略)
花が散った桜は世間からお払い箱なんだよ。
せいぜい、葉っぱが若い五月くらいまでかな。見てもらえるのは。
だがそのあとも桜は生きている。今も濃い緑の葉を茂らせてる。
そして、あともう少しすると紅葉だ。(中略)
日本に桜の木がどれだけある。どれだけ見て、どれだけ誉め称えた。
なのに花が散ったら完全に無視だ。色が汚いとけなすならまだしも、
紅葉している事実すら知らない。ちょっとひどくないか。(p466-467)


れが本当の復讐であり、あなたの更生の第一歩だとは思いませんか?(p300)


にたがるということは、つまり生きたがるということなのではありませんか?
死を意識するということは、要するにそれだけ生を意識することだ。(p300)


分のような前科者がこんな言い方をするのは口はばったいが、
宮城刑務所にいると、昭和そのものと向き合っているような心持ちがしました(中略)
そう、あるいは、昭和という、強引な急成長の時代の歪みとか、つけといったものですね、
そういうものが、ずいぶんあそこに詰め込まれているなという、そういう感じを受けました。(p131


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最終更新:2012年11月29日 23:59