とりかへばや物語

とりかへばや物語

『とりかへばや物語』は、平安時代末期から鎌倉初期にかけて成立したとされる擬古物語で、性別を逆転させた兄妹を中心に展開する異色の物語です。
作者は不詳で、現存するのは「今とりかへばや」と呼ばれる改作版のみで、原作の「古とりかへばや」は散逸しています。


概要

あらすじ
物語の主人公は、ある権大納言の異腹の兄妹です。兄は女性的で内気な性格、妹は男性的で活発な性格を持っており、それぞれの性質が父親を悩ませます。父親は二人を「取り替えたい」と考え、兄を女装させて後宮に出仕させ、妹を男装させて宮廷で活躍させることにします。この設定が物語のタイトル「とりかへばや」(取り替えたい)の由来です。

兄は後宮で女東宮(女性皇太子)に仕える女官として生活し、妹は男性として政治の場で昇進を重ねます。しかし、二人はそれぞれの役割に苦悩しながらも周囲には真相を隠し続けます。物語が進むにつれ、兄妹それぞれが異性としての生活に限界を迎え、自分たちの性別に基づく本来の生き方を模索するようになります。最終的には天狗の祟りが解けたことで元の性別に戻り、それぞれが社会的成功を収めて物語は幕を閉じます。
特徴とテーマ
『とりかへばや物語』は以下の点で特異な作品です:
性別倒錯
  • 主人公たちが性別を偽る設定は、現代的な視点から見るとジェンダーやアイデンティティについて考えさせられるテーマです
  • 当時としても非常に斬新な設定でした
リアルな人間描写
  • 登場人物たちは偶然や神秘的な力ではなく、自らの意志や葛藤によって行動します
  • そのため、物語全体が現実味を帯びています
平安時代の社会批判
  • 性別役割への疑問や貴族社会の構造的問題が暗示されており、当時の社会規範への批評的視点が感じられます
評価と影響
  • 『とりかへばや物語』は、その奇想天外な内容から「退廃的」「怪奇」とも評される一方で、平安文学として高い文学性も認められています
  • ただし、その特異性ゆえに広く受容されることは少なく、後世への影響も限定的でした
  • それでも現代ではジェンダー論や社会構造への示唆を含む作品として再評価されています
現代との関連
  • 現代では、『とりかへばや物語』はジェンダー研究や文学研究において重要な題材となっています
  • また、この物語を下敷きにしたフィクション作品も存在し、その普遍的なテーマが多くの読者に共感を与えています

このように、『とりかへばや物語』は平安時代末期という時代背景を超えて、多様な視点から楽しめる古典文学です。

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最終更新:2025年01月01日 17:02