ファンダム経済

ファンダム経済(推し経済)

ファンダム経済とは、熱心なファン(ファンダム)が中心となり、共通の推しや好きな対象に関わる活動 (→推し活) や消費を通じて生まれる経済圏・マーケットのことを指します。


概要

仕組みと背景
  • ファン同士が自発的にコミュニティや文化を形成し、そのコミュニティ内で情報発信やイベント企画、グッズ制作など多様な経済活動が展開されます
  • インターネットやSNSの普及により、ファン同士のつながりが強化され、価値観や体験の共有が簡単になったことで、大規模な経済圏が生まれるようになりました
  • 従来の「顧客=モノやサービス購入者」から、「ファン=熱意や愛着でブランドやクリエイターと共創する存在」へと変化しています
主な事例
  • アイドルやアーティストのグッズ・イベントに加え、SNS上での情報発信やファンアート、聖地巡礼などが経済効果を生み出しています
  • 企業が公式アンバサダー制度を導入し、ファンの熱量やコミュニティの力を商品開発やプロモーションに生かす事例も増加しています。例えばワークマンやコーセーコスメポートの成功事例が挙げられます
  • 櫻坂46などのアイドルグループがファン消費によって数百億円規模の経済効果を生み出した調査が話題になっています
社会や企業への影響
  • 共感消費・体験型消費が中心となり、単なる購買活動以上のブランド価値や持続性の源泉となっています
  • 企業やクリエイターは、単なる商品・サービス提供ではなく、ファンとの継続的なコミュニケーションや双方向の価値創造が求められる時代です
  • ファンダム経済は、規模の大小に関わらず幅広い分野で実践が可能であり、地域活性化や観光、Web3・NFT・メタバースなど新領域とも関連しています

作品例

朝井リョウ『イン・ザ・メガチャーチ』

『イン・ザ・メガチャーチ』は、現代のファンダム経済を鋭く描く長編小説で、推し活文化やファンコミュニティの経済的・社会的影響をテーマとしています。

ファンダム経済とは、「好き」の感情を価値として貨幣化する仕組みです。
要素 内容
感情の消費 「応援したい」「一番になってほしい」という願望を金銭化する
供給側の戦略 コンテンツではなく「物語」「ストーリー」を消費させる
コミュニティの力 個人の欲望ではなく、群れの同調圧力が消費を増幅させる
つまり、人は「商品」ではなく「関係性」を買っている、これが根幹にあります。

朝井リョウが描いているのは、“推し活”は宗教的コミュニティ構造に等しい、という視点です。
作中のメガチャーチ(巨大教会)は、宗教に見えるが、朝井はそれを「宗教」ではなく “ファンダム(界隈)”の比喩として描きます。 (→界隈文化)
  • アイドル界隈
  • 俳優界隈
  • コミュニティ界隈
これらが 教会・信徒・説教・献金 の構造に重なる。

本作が描く「ファンダム経済」の構造は以下のとおりです。
(1) 「物語」が信仰を生む
供給側(仕掛ける側の人物)が語る象徴的な言葉:
神がいないこの国で人を操るには、物語を使うのが一番いい
ここが本作の核心。
人は「現実そのもの」ではなく、
「その人に関する物語(背景・苦労・奇跡)」に心を動かされる。
→ ファンは 人 を推しているのではなく、
→ “人を中心に編まれた物語” を信じている
(2) 「信仰」と「消費」が分離しない
ファンダム経済では、
  • 「好き」→もっと関わりたい
  • 「関わりたい」→近づく手段を買う(イベント / グッズ / 投げ銭)
つまり、
感情 → 距離の縮小 → 課金
この流れが自然なものとして受け入れられる。
本作はその「自然さ」がどれだけ構造的に仕掛けられているかを明らかにしています。
(3) 「仲間」が信仰を強化する
本作は「推しそのもの」よりも、界隈の中で生まれる共同体(群れ)の熱に焦点を当てています。
  • ファン同士の共感
  • 同期する狂騒
  • 「私たちが支えてる」という誇り
これが、消費の倫理ブレーキを外す。
推しは“個人”ではなく、“共同体の象徴”になる。
(4) 「救いと依存の等価交換」
ファンダムは多くの場合、個人の孤独を埋める装置として機能する。
しかし本作はそこに鋭くメスを入れる。
  • 推しが救いになった瞬間、
  • 推しなしでは立てない自分になる。
→ 救いは同時に依存を生む。

本作に登場する3人の人物は、それぞれ異なるかたちで「救われ」「依存し」「離れられなくなる」。
これが群像劇として強い痛みを持っています。

本作が批評的なのは
現実の界隈文化 小説中の描写
推し活 信仰儀式
ライブ遠征・課金 献金(tithe)
ファンコミュニティ 教会の信徒共同体
運営のストーリー構築 司祭の説教
つまり、ファンダムは「宗教」と同じ構造で動く、という理論が成立します。

『イン・ザ・メガチャーチ』は、
推し活・界隈文化・ファンコミュニティの熱狂が、
“市場”と“宗教”の中間に位置することを描いた小説。

そしてその熱狂の基盤には、
  • 孤独
  • 救済欲
  • 所属欲求
  • 自己物語化欲求
があります。
つまり、推し活は、心の空洞に触れる社会現象であるといえます。

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最終更新:2025年10月29日 13:41