メリットがないのに優しくする
この物語の構成は、人間性の深みと関係性の変化を巧みに描く典型的なパターンです。
「メリットがないのに優しくする」という
テーマを中心に、
コメディから感動へと移行する展開は、読者の心を掴む効果的な手法です。
物語の構造
第一幕: 出会いと共同生活の始まり
この段階では、主人公が傷ついた相手と出会い、
共同生活を始めます。ここでのコメディ要素は、二人の性格の違いや生活習慣の衝突から生まれます。
主人公は、見返りを求めずに相手に優しく接しますが、その理由は明確ではありません。
第二幕前半: 絆の深まり
共同生活を通じて、二人の関係性が徐々に変化していきます。最初は単なる同居人だった二人が、お互いを理解し、支え合う存在へと変わっていきます。
この過程で、主人公の無償の優しさが相手の心を少しずつ開いていく様子が描かれます。
第二幕後半: 関係性の転換点
相手の傷が完全に癒え、共同生活の当初の目的が達成されます。ここで物語は転換点を迎え、二人の関係性に変化が生じます。
相手は自立し、主人公との生活に「意味」を見出せなくなります。
第三幕: クライマックスと感動の結末
物語の
クライマックスでは、相手が主人公への恩に報いるため、
自己犠牲的な行動を取ります。この行動により、主人公は危機から救われます。
この展開は、主人公の無償の優しさが最終的に報われる形となり、読者に感動を与えます。
物語の特徴
この構成の特徴は、以下の点にあります:
- キャラクターの成長: 両者が互いの影響で成長する様子が描かれます
- 関係性の変化: 初めは表面的だった関係が、深い絆へと変化します
- 優しさのテーマ: 見返りを求めない優しさの価値が、物語全体を通じて強調されます
- 感情の起伏: コメディから始まり、徐々に感動的な展開へと移行することで、読者の感情を効果的に操作します
多くの場合、助けた対象と共に生活することになるため、
共同生活による密接な関係が構築されます。
「メリットがないのに優しくする」という構造を持つ作品の代表的な例として、日本の民話「
鶴の恩返し」が挙げられます。
この物語では、以下のような展開が見られます:
- 優しい行為
- 予期せぬ恩返し
- 共同生活
- 絆の深まり
- 自己犠牲
- 娘(鶴)は自分の羽を使って美しい布を織り、老夫婦を裕福にします
- 別の作品例
- この構造は、日本の他の民話や現代の作品にも見られます。例えば:
- (a).「かぐや姫」
- 竹取の翁が竹の中から小さな女の子を見つけて育てる
- かぐや姫は成長し、翁夫婦に孝行を尽くす
- 最後には月に帰らねばならず、翁夫婦と別れる
- (b).「雪女」
- 巳之吉が雪女に命を助けられる
- 雪女は人間の女性・お雪として巳之吉と結婚し、幸せに暮らす
- お雪の正体が明かされ、別れることになる
現代の作品例:となりのトトロ
- サツキとメイが森の精霊トトロと出会い、友情を育む
- トトロは子どもたちを助け、楽しい冒険を共にする
- 最後には姿を見せなくなるが、子どもたちの心に残り続ける
この構造が向いているジャンル
ジャンル |
説明 |
例 |
ファンタジー |
ファンタジー作品では、主人公の無私の行動が 予期せぬ魔法的な報酬をもたらすことがあります |
・主人公が困っている魔法生物を助ける ・その生物が後に主人公を危機から救う、または重要な情報を提供する |
ヒーローもの スーパーヒーロー作品 |
ヒーローの本質は、見返りを求めずに他者を助けることにあります |
・ヒーローが一般市民を救う ・後にその市民が重要な場面でヒーローを助ける |
青春ドラマ |
若者の成長と人間関係の深まりを描く上で、この構造は有効です |
・主人公が孤立している同級生に優しく接する ・その同級生が後に主人公の良き理解者や支援者となる |
ミステリー |
ミステリーでもこの構造を活用できます |
・探偵が無償で依頼を引き受ける ・その依頼が大きな事件の解決につながる |
SF |
未来社会や異星人との交流を描く際に、 この構造を用いることができます |
・人類が見返りを求めずに異星人を助ける ・その行為が予期せぬ科学技術の進歩や宇宙交流をもたらす |
この構造を使ったストーリーの作り方
この構造は「出会いと別れ」効果的に作るには、以下の要素が重要です:
- 別れる運命のキャラクター
- 別れる明確な理由
- 目に見えてわかる「苦しみ」や「哀しみ」
要素 |
理由 |
別れる運命のキャラクター |
主人公と対照的な性格や背景を持つ対照的キャラクターを設定します ・例えば「落ち着きのない猿」と「物静かな羊」など ・主人公と相容れない種族的な対立を持ったキャラクターも効果的です ・自己中心的な人物や犯罪者など、助けることで生まれるデメリットが大きいほど効果的です |
別れる明確な理由 |
読者に別れを受け入れさせるには、その理由を明確にして納得の行くものにする必要があります ・キャラクターの目標や使命の違い ・環境の変化(例:一方が故郷に帰らなければならない) ・成長による価値観の変化 |
目に見えてわかる 「苦しみ」や「哀しみ」 |
読者が傷ついた相手に共感するために必要な要素です ・物理的な傷や病気 ・心の傷(トラウマや過去の経験) ・社会的な孤立や差別 |
別れる運命を持ったキャラクターの例
キャラクター |
別れる明確な理由 |
苦しみ・哀しみ |
説明 |
囚われの姫君 |
・使命や宿命 ・政治的理由 ・身分の違い ・病や呪い |
自由の喪失 |
姫君は自分の意思で行動することができず、他者の支配下に置かれています。これは大きな精神的苦痛の源となります。 学業や家業を重視してプライベートな時間がない、交友関係を阻害されている、といった例が考えられます |
家族や愛する人との別離 |
多くの場合、姫君は家族や愛する人から引き離されています。この別離は深い悲しみをもたらします。 学業を優先するため親から恋愛を禁止されている、といった例が考えられます |
未来への不安 |
自分の運命が他者の手に委ねられているため、将来に対する不安や恐怖を抱えています |
孤独感、無力感、 希望や尊厳の喪失 |
周囲との交流が制限されることで、深い孤独感や無力感に苛まれることがあります。 また自分の状況を変えることができないという無力感に苦しむこともあります |
動物報恩譚 |
・怪我が癒えたため ・使命を思い出した ・仲間の所に帰る ・ルールを破った (※1) |
身体の負傷 |
怪我をしていたり罠にかかっているところを主人公が助ける、といったモチーフがよく使われます |
飢え |
未熟であるため獲物を狩ることができないなど理由で飢えており、餓死する直前というケースも多々あります |
アイデンティティの喪失 |
しばしば「みにくいアヒルの子」のように容姿が劣るなど自己肯定感が低いことがあります |
- (※1) 『鶴の恩返し』のように「正体を知られた場合は立ち去る」など
まとめ
見返りを求めない優しさや思いやりが、予期せぬ形で報われる、あるいは深い絆を生み出すという共通のテーマを持っています。
この構造は、人間の善意や
無償の愛の価値を強調し、読者や観客に感動を与える効果があります。
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最終更新:2025年03月19日 06:50