般若面

般若面

般若面は、主に日本の伝統芸能である能で使用される能面の一種で、特に女性の嫉妬心や怨念を表現したものです。


1. 造形と外見

般若面は、鬼女(きじょ)を表現するために非常に特徴的な造形を持っています。具体的には以下のような要素があります:
  • 額からは金泥で塗られた二本の長い角が生えています
目と口
  • 目は金色で見開かれ、口は大きく開き、上下に鋭い牙が見えます。これにより、鬼女の激しい怒りが表現されています
眉と髪
  • 眉間にはシワが寄せられ、乱れた髪が描かれており、感情の高ぶりを強調しています

このような造形は、鬼女が抱える二面性を表現しています。顔の上半分は悲しみを、下半分は怒りを示しており、鬼女の複雑な感情を視覚的に表現するための重要な要素です。

2. 感情の象徴

般若面は、特に女性の強い感情、特に嫉妬心や怨念を象徴しています。物語では、人間として抑えきれない感情が極限に達し、その結果として鬼女へと変貌する女性が登場します。この変貌を象徴するために般若面が使われます。例えば、『源氏物語』の六条御息所(ろくじょうのみやすどころ)が嫉妬によって鬼女へと変わる場面で使われることがあります。

3. 名称の由来

般若面という名前にはいくつかの由来があります:
般若坊説
  • 室町時代の能面師「般若坊」がこの面を創作したことから名付けられたという説があります
仏教的由来
  • 般若」は仏教用語で「智慧」を意味します
  • 一説では、この智慧が悪用された結果として鬼女が生まれるという皮肉的な意味合いも含まれています
『葵上』説
  • 能『葵上』で、怨霊が「般若心経」を聞く場面から、この面が「般若」と呼ばれるようになったという説もあります

4. 色彩による分類

般若面は色によって異なる意味合いを持ちます:
白般若
  • 上品さや控えめな怒りを表し、高貴な女性キャラクターに使われます(例:『葵上』の六条御息所)
赤般若
  • 強烈な怒りや嫉妬心を表し、より激しい感情を持つキャラクターに使用されます(例:『道成寺』など)
黒般若
  • 下品さや極度の怨念を表す場合に使われます

5. 物語での役割

能や物語創作では、般若面はしばしば女性が鬼女へと変貌する瞬間を象徴します。嫉妬心や恨みという強い感情が人間性を失わせ、その結果としてとなる女性キャラクターが登場します。この変化は物語全体に大きな影響を与え、復讐や救済といったテーマと結びつくことが多いです。

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最終更新:2024年11月15日 10:07