AM1:30、留置所。
ようやく雨の音にも慣れて寝付いたレニアは、警報の音で目を覚ました。
レニア「うおっ!?な、何だ…!?」
眠りが浅かったのか、危機を感じて飛び起き、鉄の扉を叩き、叫んだ。
レニア「おいっ!!警報が鳴ってるんだぞ!!開けてくれ!!おいっ!!」
しかし誰も扉を開けに来る者はいない。当然である。看守はとうに警報を聞いて飛び出してしまったのだから。
さらに運の悪い事に、この日はレニア以外に収容されている者はおらず、必死の叫びを聴く者は誰もいなかった。
レニア「く、くそっ…」
扉を叩きながら、拡声器で何かを呼びかけている声に耳を傾ける。
警報「―――繰り返します!!西の沼地より大型モンスターが出現!!ミュヴェール市街の西部は既に攻撃を受けています!!
このまま中心部に進行する模様!!付近の住民は至急南部の広場へ避難を!!」
レニアは思考する。…沼地の大型モンスター、それも、単独で街に被害を及ぼす程の。思い当たるとすれば、巨大な体躯を持つ爬虫類…ジャバウォックだろうか。
また、この大雨。見張り台にいる守衛は視界が悪く、高湿度になると機敏になるジャバウォックに気付くのに時間がかかったと思われる。
―――外から市民の悲鳴、助けを乞う声が聞こえる。
そして、奴は西から入ってきた。
西部は自警団の詰め所や武器庫があったな… だから討伐隊は出ていない訳か。
それを考えて西から入ってきたとすれば恐ろしいが。
―――地響きがする。パニックに陥った市民が積まれていた木箱でも蹴倒したのだろうか。
…じゃあ、奴は今どこにいる? 警報では西部と中心部の間あたりと言っていた。
そこには何がある?
―――地響きが大きくなる。自分の立っている足場が揺れる。
…思い出した。
―――狭い独房。扉の反対側の壁が崩れた。
俺の現在地、留置所だ。
―――崩れた壁から、ギョロリ、と覗き込む直径30cm程の目。大きく裂けた口からダラリと舌を垂らし、ジャバウォックがレニアを捉えていた。
レニア「ッ!!!!」
声も出せず、竦み上がってしまう。当然だろう。目の前には全長10mに届こうかという巨躯。自分の背には、頑として開こうとしない鉄の扉。
そして、いつもならここで颯爽と駆けつけてくれるかもしれない、メビウスも今頃は王都だ。
レニア(……死ぬのか、ここで.)
そう思った。が。
突如ガチャン!と鉄の扉が開き、外から強い力で手を引っ張られる。
そのまま廊下に放り出され、彼を救った人物はすぐさま扉を閉めた。
すると、大きい衝撃音とともに、扉がベコッと凹む。
…暫くすると、辺りは静かになった。
ここでレニアは初めて顔を上げ、自分にとっての恩人を見る。
レニア「…あ、あんたは…」
彼は、全身を青い鎧で固め、背中には大槍を背負っている。
フィー「…間一髪、でしたね…」
レニアを助けたのは、昼間レニアと諍いを起こした騎士、フィー・F・ファーランドだった。
この瞬間を始めとして、後に彼とレニアは、数奇な運命を辿る事になる。
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レニア「…で、どうすんだ?騎士様?」
そう、ジャバウォックはひとまず去ったとは言え、まだ解決には至ってない。
突然の夜襲で自警団も駐屯騎士団も機能していないと思われる今、騎士一人が増えた所で、どうにかなるとも思えない…
フィー「…どうにか、あの魔物を撃退します。」
レニア「…はあ!?」
レニア(何言ってるんだコイツ!?奴は熟練の冒険者が束になってやっと倒せるような化け物だぞ!わかってるのか…!?)
レニアの考えている事が分かっているのか、フィーは言葉を続ける。
フィー「…勝ちの目が薄いことは分かっています。しかし、騎士として何としてもこの街を守らなくてはなりません。
…貴方は逃げても構いませんよ?」
レニア「…何?」
フィーの言葉が、レニアの中の何かを刺激した。
レニア「…俺が逃げだすように見えるのかよ。俺も戦うぞ」
フィー「……!…そうですか。ありがとうございます。」
フィーは一瞬驚くが、先程よりも余裕のあるような声で礼を述べる。
レニアも、先程よりかは気が落ち着いたような気がした。
レニア「そうだ、一緒に戦うなら自己紹介しなきゃな。
俺はレニア・グラッド。お前は…フィーだっけ?」
フィー「ええ。フィー・F・ファーランドと言います。よろしくお願いします。」
レニア(…しかし、ファーランド、か…どっかで聞いたことがある気がするんだよなあ…
いや、今はそれ所じゃないが。)
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レニア「で、フィー。何か策はあるのか?」
フィー「ええ。幸いここは城塞都市… 例えば、城壁に設置されている大砲や機銃などを使えば、時間稼ぎが出来るのではないでしょうか?」
レニア「…だがジャバウォックは表面を硬い鱗に覆われている。おまけにこの雨で、いつもよりすばしこくなってる筈だ。
大砲は当たらないだろうし、機銃は効くとは思えないな…」
フィー「…レニアさんは、ジャバウォック、とやらの弱点をご存知なのですか?」
レニア「呼び捨てでいい。 …よく知られているのは乾燥と高熱に弱いことだな。だが、お前も炎魔法なんて使えないだろ?」
フィー「…はい。」
レニア「他は…確か、腹部は鱗で覆われてないと聞いたことがあるが… いくらなんでもここを狙うのは危険だ。下手に剣で貫こうものならあっという間に潰されちまう。」
フィー「……」
フィーは少し俯いて考える。そして。
フィー「…良い策が浮かびました。 ……というのはどうでしょう?」
レニア「おいおい、そりゃあ危険だ…でも、他に方法も無い…賭けてみるしかないな。
よし。早速準備に掛かろう!」
フィー「ええ…!」
二人は留置所を出て、二手に分かれ走り始めた