終了条件2:『御坂美琴』を倒す
上空から撃ち下ろされる無数の雷撃。
一般人なら、一撃受けただけでも即昏倒は免れ得ない威力はある電撃だが、
しかしそれらは、一つたりとも、放たれた目標へと直撃することはない。
上条当麻の『幻想殺し』と、ステイル=マグヌスのルーン魔術によって、命中する以前に掻き消されてしまうのだから。
上条「ステイル、頼みがある」
上条当麻は、空中の『敵』を、御坂美琴を見つめながら、傍らに立つステイルに話しかける。
上条「――――コイツは、俺に任せてくれ」
上条の表情に、先程までの捨て鉢の風はない。
何処か悲しげで、けれど、強い覚悟を湛えた顔だ。
ステイル「…………」
ステイルとしては、それは承服し難い頼みだ。
目の前の化物が、上条当麻の元友人であった事は、先程の上条の咆哮を見ても容易に窺い知れる。
となれば、その友人相手に、このお人好しの少年が果たして『殺し合い』を演じ切れるのかどうか。
ステイルは、神裂の言葉を思い出す。
異界を脱出する為の手がかりになりうるかも知れない、『幻想殺し』という特異。
それを、むざむざとこの場で失うような真似は、出来ない。
そして何より、『かつての友人を己の手で傷付ける』という行為が。
どれ程残酷な物であるか、ステイルは知っている。
ステイル「だが……」
上条「ステイルッ!!!!」
驚くほどの大声で、上条が叫ぶ。
咄嗟の事に、ステイルは、何も言えなくなった。
上条「……頼む……!」
二人が話している間にも、上空からの攻撃は続いている。
魂を失った御坂美琴は、容赦の欠片もなく、上条達を殺そうとする。
上条「アイツは……俺が、止めたいんだ」
上条の言葉に、偽りの色は無い。
上条当麻と御坂美琴の関係性は、ステイルには分からない。
否。きっとそれは、当の二人以外にはさっぱり分からない類のモノだろう。
友人のようであり、他人のようであり、競敵のようであり、恋人のようでもある。
そんな御坂美琴を、もう戻ってこない御坂美琴を、上条は信じ続ける。
必ず元に戻してやる、と誓ったのだ。
ステイル「……ああ、いいだろう。なら、此処は任せたぞ、幻想殺し」
ステイルはそう言って、中空を飛行する御坂に背を向けて、走り出した。
ステイル「僕はこの屍人達の『指令塔』を探しだす! お前は、この電撃使いの相手をしていろ!」
神裂から『頭脳屍人(ブレイン)』なるモノの存在は聞いている。
それを倒せば、変異体となった屍人達は動きを止めるらしい。
ルーンによる周囲探索魔術を使えば、精々が十数分で居場所を突き止められるだろう。
御坂「…………」
御坂は、走り去っていくステイルの後を追おうとはしない。
四対の複眼を宿したその顔は、ハッキリと、上条当麻にだけ、向けられている。
上条「――――御坂、美琴」
上条は、名前を呼ぶ。
無駄とは知りつつも、ほんの少しでも、何か言葉を返してくれないだろうか、と希望を抱きながら。
御坂「…………」
しかし、返ってきたのは、殺意と敵意。
電撃の槍が、砂鉄の剣が、上条へと襲い掛かってきては、幻想殺しによって粉々に砕かれていく。
上条は、それを見て。
今度こそ、覚悟を決めた。
そして、その場から、走って逃げ出した。
御坂「!!!」
御坂は慌てて上条の背へと雷撃を放つが、上条は振り向きもせずにその雷撃を打ち消した。
そして、逃げる。全力で、後ろを振り返る事無く。
御坂「ク、アアアアアアアアアアアァォォォォォッ」
一声、獣のような甲高い声を上げて、御坂は上条の後を追いかけ始めた。
上条「はっ、はっ、はっ、はっ、はっ」
上条は、荒れる呼吸を必死に抑えつけながら、走っていく。
『目的の場所』へ。先程見かけた、あの場所へ。
恐らく、御坂は上条の後ろを追ってきているだろう。
だが上条は、建物の陰を巧みに利用して、身を隠しながら移動している。
単純に電撃を放っても当たらない上に、上手くいけば完全に見失わせる事も出来る。
路地裏で不良たちを相手に喧嘩していた上条だからこその、逃亡術である。
当の御坂美琴はと言えば、上条の姿を精一杯追いかけている、という訳では無かった。
空を飛んで、一直線に、ゆっくりと移動している。
それは、『どうあっても最後には追い詰める事が出来る』という余裕なのか、それとも別の思惑があるのか。
御坂は、じっくりと、袋小路に獲物を追いこむ猫のように、移動していく。
そして数分後。
建物の合間を縫う路地裏ばかりだった通り道に、変化があった。
視界の開けた広場のような場所に、御坂は辿り着いた。
上条の姿は見えない。
目の前には、巨大な『送電塔』がある。
インフラ設備の発達した学園都市では非常に珍しい建物だが、高度百メートル超のこの鉄塔が、第二学区近辺の送電システムの中枢を担っているのだ。
もっとも、自分一人で『電気』を生み出せる御坂には、どうでもいいモノなのかもしれないが。
御坂は周囲を見回す。
やはり、上条は見当たらない。
だが、その存在は、間違いなく『感じる』。
あと数秒ほどで、おおよその位置も特定できそうだ。
御坂美琴は、AIM拡散力場をソナー波のように反響させる事で、周囲の物体を探知できる、という副産物的能力を持っている。
通常なら、その探知はあくまでも物体の『外形』や『動き』だけを探知するものであり、詳細な判別まで出来るほどの精度はない。
しかし、こと上条当麻に関しては、話が違う。
上条当麻は、幻想殺しによってAIM拡散力場を打ち消しながら行動する。
それは逆に言えば、『AIM拡散力場の反射が無い地点』即ち『上条当麻の居場所』、という事実に繋がる。
上条は知るべくもない事だが、生前の御坂美琴が上条との遭遇率を上げる為、無意識の内にその事実を理解し、利用していたのだ。
故に御坂は、『上条当麻の居場所』は、『何となく』分かってしまうのである。
AIM拡散力場がどうこう、という理論的な解釈など必要としない。
ただ肌に覚えた感覚だけで、御坂は上条をどこまでも追い続ける事が出来る。
それは、屍人になっても変わらない。
御坂美琴は、屍人になった今でも、ツンツン頭の少年の事を覚えているのだから。
その時。
――――ガクンッ、と。
御坂「ッッ!!??」
危なげなく飛行していた御坂の身体が、突然大きく揺らぐ。
いきなり全身に重りを乗せられたような、ガクンと身体が落ちる感覚。
慌てて体勢を立て直そうとするが、上手くいかない。
それもそのはずだった。
御坂の身体は、ガッチリと捕らえられていたのだから。
御坂の『真上』から落ちてきた、上条当麻によって。
上条「――――捕まえたぜ、御坂」
上条は、両手で御坂の身体を掴んで、背負われるようにして空を飛んでいた。
それを振り解こうと暴れる御坂は、全く訳が分からないままである。
後を追っていた筈の上条当麻が、唐突に空から落ちてきて、御坂を捕らえてしまったのだから。
上条「バカとケムリは高いトコが好き、ってなぁ!」
御坂がまともな思考能力を有したままだったなら、当然のように理解できていた筈だ。
上条は、地上高百メートルはあろうという『送電塔』を利用して、御坂に急襲を仕掛けた。
脇に設置されていた点検用エレベーターを用いて、御坂の飛行高度のおよそ十メートルほど上へと移動。
御坂が近付いてきたタイミングを見計らって、狙いを定めて飛び込んだのである。
御坂の身体を掴むことに失敗すれば、当然のように墜落死するだけだ。
空を飛ぶ人間を、その上空から飛び降りて捕まえる、と言うとまるで神懸り的な行為にも思えるが、実はそうでもない。
御坂はAIM拡散力場によるソナー探知を行っていた影響もあり、ゆったりとした速度で、直線的に移動していた。
具体的には、『上条の存在を感じた方向へ、ゆっくりと身体を動かしていた』のだ。
つまり、有る程度までは御坂の方から上条へと向かって来てくれる上に、ゆっくりと動くものだから、その狙いも付けやすい。
上条の行動は、決して成功率の高いモノとは言えないが、それでも奇跡と呼ぶほどに実現性の低いモノでもなかったのだ。
勿論、上条は全て計算ずくで行動している訳ではない。
御坂のAIM探知の原理も知らない上に、屍人の行動パターンを見切っているというワケでもない。
ただ単純に、上条は己の直感だけを信じて、命を投げ出したのだ。
それが結果として、御坂美琴の捕捉を可能とする道であったというだけの話だ。
御坂「シイイイイイアアアアアアアアアア!!!!!」
バタバタと暴れる御坂だが、元々上条に抑えられている上に、空中で体勢も不安定なものだから、中々上手く振り解けない。
肝心の電撃能力で上条を攻撃しようとしても――――
上条「無駄だぜ、御坂。俺の右手がお前の身体に触れている以上、お前は自分の身体から放電する事はできない」
――――幻想殺しに、阻まれる。
御坂「――――!」
上条は、右手で御坂の身体を掴んだまま、左手で、御坂の頭を思い切り打ちつける。
グラリ、と御坂の身体が揺らいで、高度が落ちる。
だが、まだ御坂は倒れない。
上条は、再び拳を振りかぶる。
上条「御、坂アアアアアアアアアアアアアアアアァァァァァァァァァァァァァァ!!!!!!!!!!」
御坂「ギ、イィィィアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!!!」
ズガン、とまた一撃。
上条の拳は、確実に御坂の意識を削ぎ落とす。
それでも御坂は、まだ止まらない。
『超電磁砲(レールガン)』の力は、こんなモノではない、と示しつけるように。
御坂の身体から発せられる電撃は、幻想殺しに砕かれる。
ならば、御坂の身体以外の場所から発生する電撃ならば。
天から落ちてくる、雷ならば。
この状態からでも、上条当麻に、攻撃できる。
ゴロゴロ、と不穏な空気がいつのまにか周囲に立ちこめている。
元より、雨雲はこの学園都市全体を覆っているのだから、それを雷雲と化すことは容易い。
本来の御坂美琴の能力ならば、晴天時であっても関係なく雷鳴を轟かす事が出来るのだから。
多少の劣化はあれど、この状況であれば、雷を操る事はそう難しい話ではない。
上条「…………!」
その時既に、上条は、落雷攻撃を予見していた。
何せ、事あるごとに勝負を挑まれ、一方的に攻撃され続けてきたのだ。
御坂美琴の戦い方など、嫌というほど熟知している。
上条が幻想殺しを使って雷を防げば、その瞬間自由になる御坂の身体から電撃が放たれる。
雷を防がなければ、当然のように感電死の結末しか無い。
しかし上条は、そんなことに構いなく、拳に力を込める。
幻想殺しは、御坂から手放さないままに。
上条には、解っていた。
だからこそ、『此処』へと誘き寄せたのだ。
そして、遂に。
学園都市中に響き渡る程の轟音と閃光を伴って。
稲妻が、奔った。
瞬間、上条の世界が白く染まり、あらゆる音が消失する。
落雷の衝撃はそれほどに凄まじい。
有る程度慣れているとは言えど、やはりそう何度も受けたいモノではない。
そんなどうでもいい事を考えながら、上条は緩んだ拳を握り直す。
――――上条は、まったくの無傷なままで、御坂の背を掴んでいた。
雷は、上条と御坂の下へ落ちる事は無く、そのすぐ傍に落ちていた。
すぐ傍にあった、『送電塔』に。
『地上高百メートル以上はある鉄塔』。
それがつまり、そのまま避雷針の役割を果たした、というだけである。
落雷は、上条と御坂の下へではなく。
すぐ傍に在った鉄塔へと誘導され、そのまま地面へと伝わって拡散してしまった。
恐らく、雷の直撃を受けた送電塔は機能停止してしまっているだろうが、それも今は関係の無い話だ。
本来ならば、御坂美琴は、避雷針など無視して落雷の位置を強引に定める事が出来る。
だが、それはあくまでも御坂美琴が万全の状態だった時の話。
屍人化による演算能力の低下。
上条の拘束による肉体的負荷。
幻想殺しによる誘電能力の妨害。
これらの状況下で、むしろよくぞ落雷を具象化出来た、という点を褒めるべきだろう。
『超電磁砲』は、腐っても超能力者第三位である、というだけの事だった。
もう御坂に打つ手は残されていない。
あとは上条が止めを刺すだけだ。
上条「――――」
上条は、御坂の顔を見る。
変わってしまった、どうしようもなく変わってしまった顔を、目に焼き付ける。
上条「――――必ず――――」
再び、その言葉を口にする。
そうすることで、許してもらえるなどとは思わないが、それでも。
ただ、上条当麻は、御坂美琴を救いたいと思うから。
その言葉を、その誓いを、決して忘れない。
そして、最後の一撃を、その後頭部に叩き込んだ。
終了条件2達成(エピソードクリア)
最終更新:2011年05月05日 12:38