Dr.マンハッタン

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Dr.マンハッタン - (2019/12/28 (土) 21:15:01) の編集履歴(バックアップ)


登録日:2010/12/27 (月) 20:23:45
更新日:2024/02/24 Sat 10:53:54
所要時間:約 5 分で読めます






生者と死者の間に、分子レベルでの差異はない。

僕にとっては、全く興味のない事象だよ



アラン・ムーア原作、デイブ・ギボンズ作画のアメリカンコミック、及びそれを原作とする映画『ウォッチメン』に登場するヒーローの一人。


演:ビリー・クラダップ
日本語吹替:藤原啓治


概要

事故によって、塵も残らぬレベルまでに原子分解された後に、自力で復活を遂げた世界で唯一の「超人」
作中最大最強の存在にして、ロールシャッハと共に同作のシンボル的存在である。

体毛のない青く光り輝く肉体、額に自らが刻み付けた水素の原子構造を顕すマーク、常時白目で衣服を一切纏わない全裸のフルチンという変質者にしか見えないインパクトの塊みたいなビジュアルが特徴。
ただし葬式や記者会見といった公の場ではきっちりスーツを着用するだけの常識は残っている。


人物

本名「ジョナサン(ジョン)・オスターマン」
本編の時点で実年齢は56歳。
……だが、超人となった30歳(?)当時から外見が変化しなくなっており、これが恋人との不和の原因ともなった。

1929年に時計職人の息子として生まれ、自身も父親に倣い時計職人となる事を目指していたが、アインシュタインが相対性理論を発表。
時間すら絶対なものではない事が明らかにされ原爆が投下される世界となった事で、他ならぬ父親自身に時計職人になる道を閉ざされ原子物理学者の道へと進む事になる。

1958年、博士号を獲得。

1959年5月、ジーラ・フラット研究所に赴任し、同僚ジェイニー・スレーターと恋仲になる等、順風満帆な人生を送るかと思われたが、8月にイントリンシック・フィールド除去装置による実験事故により肉体が原子レベルにまで分解され、塵すら残さずにこの世から消滅する。


それぞれの部品を、いかに正確な手順で再構成するか。それが重要な点だ


しかし、11月に歩く循環器系や一部に筋肉を残す骨格と云った段階を経て霊的な段階からの意志により肉体を再構築して復活。
1960年3月、「スーパーマンは実在した、しかもそれはアメリカ人だった」との言葉と共にその存在を公表され、やがて「Dr.マンハッタン」*1のコードネームを授かるのである。

復活後は体毛のない肉体から青い光を放っているが、これは肉体から崩壊する原子の高速で動く電子の放つ光の色。
つまり、復活後は常に肉体の崩壊と維持が同時に行われ続けているという意味であり、この事が後に「近くに居た人間を被爆させたのではないか」という疑惑を呼ぶことになった*2
また、額のマークは水素の原子構造を顕しており、陽子に対して電子一つの最も基本にして単純な構造をした水素元素は原子物理学者として自身が捧げた世界を象徴する物という意味である。

当初は他のヒーローと同様にウォッチメンの一員として暗黒街と戦っていたが、ケネディが暗殺され、ニクソンの時代へと移る中でDr.マンハッタンの能力は犯罪との戦いや先端技術の開発のみならず、より明確な「抑止力」……自らを生んだ原子力や核兵器と同様の意味を持たされてゆく事となる。

そして1971年、大統領命令によりベトナム戦争に介入。米国を勝利に導く。
ベトコン達は地上に降りた「神」の姿に畏怖し、米軍よりも彼自身に投降したとさえ言われた。

1976年、ニクソン3期目の当選を果たす。
翌77年、キーン条例が制定され、すでに引退していたオジマンディアス以外のヒーローの自警行為が禁止され、政府の庇護下に置かれたDr.マンハッタン、エージェントとして非合法活動に従事していたコメディアン以外のヒーローに引退が勧告される。

1980年、ニクソン4期目の当選。
1984年、ニクソン5期目の当選。
1985年、コメディアンが殺害される。


……そして、物語は始まる。


性格

非常に淡々とした性格で感情の起伏に乏しく、何処か機械的にも見える超越者然とした人物。
価値観や人間性が乾き切っており、大切な仲間の家族の生死でさえほとんど興味がなく、感情が揺れ動かない。
現在では食事や睡眠、休息の描写すら無いなど文字通り人間離れしている。

上記の通りパイパンで全裸のフルチンという露出狂にしか見えない外見から一見すると変態にしか見えないが、これはあまりに強すぎる力の副作用で人間性が喪失していることの証。
虫や家畜の目の前で全裸になっても人間は気にもしないし羞恥心や嫌悪を覚えないの同じ理屈である。
実際ヒーローとして活躍していた当初はスーツや真っ当なヒーローコスチュームを着用していたのだが、時間の経過に伴い人間性が失われていくに比例して露出度が増大。
最終的に今の感情の起伏に乏しい性格と、今の光って空飛ぶフルチンの全裸男のビジュアルになった。
一方で人間性が摩耗する前は強すぎる自身の力や恋愛に悩んだり、マスコミや市民からの風評被害及び手酷いバッシングを受けてノイローゼになるなど元々の性格は良くも悪くも常人のそれ。

更にあらゆる物体を思い通りに操れるという力は代償として「現実感が希薄になり、信じられる確かなものが無い」という価値観を養ってしまった。
更に過去未来現在の時間軸が曖昧で、果ては並行世界すら認識してしまう事のできる素粒子レベルからの量子力学的認識が彼の人間性の喪失を加速化。
未来の情報を知っているにも関わらず、 「それに対して行動を変えない(変えられない)」という一般人には理解できない行為を続けている。

原作者アラン・ムーアは本作の解説で

「俺たちは実は凄い力を持っているんだが、ソファに座ってビール片手にテレビを見ているだけだ。 スーパーパワーがあったって、やっぱりソファに座ってビール片手にテレビを見てるだけだろう。」
「ヒーローってのはスーパーパワーがあるとか、コスチュームを着てるって事じゃない。自らの意思でもって世界を良くしようと戦う人々の事を言うんだ」

と語っているが、Drマンハッタンはそんな原作者の『行動しない超人』という思想をそのまま具現化したかのような存在である。
超人的な力は持たないが強い意志力で世界を変えようと常に行動してきたロールシャッハとは対極に位置する存在として描かれている。


なおその一方で人間性が喪失していってる割に作中では3人に分裂して彼女とセルフ4Pセックスを行ったり、歳をとった彼女を捨てて16歳の女の子と不倫する性欲の旺盛さがファンからネタ扱いされる。


能力

自らの意のままにあらゆる原子、分子を分解・再構成する能力を持つ。
所謂“モーフィングパワー”のこと。アニヲタ的には彼らの能力と同じものを持っていると考えればいい。

その能力を応用し、自らを含む物体や生命体を分解・再構成する事が可能な他、量子力学的な法則の応用により
  • 惑星間レベルのテレポーテーション
  • 巨大化
  • 分身(同時存在)
  • 無重力による飛行
  • “ほぼ”無とされる空間からの物質の創造
  • 異星環境での活動
  • 並行世界の観測・干渉・移動
……等の能力を有する。
全知ではないが実質的に全能で不滅の存在である。

また、時間を一定方向のマクロな流れでしか感知できない他の人間に対して、曖昧な在り方をする原子レベルのミクロの視点で世界を見ている。
このせいか過去・現在・未来において自らが同時に存在しているかのような発言をしており、未来の姿を漠然と呟く姿は本作を象徴する場面の一つである。

その絶対的な力から作中では「神に等しい男」「合衆国国防の要」「歩く核爆弾」などの異名を持つ。
その一方でその力の危険度と冷戦構造の悪化を引き起こす元凶でもあることからアメリカ国内でも扱いは賛否両論である。


創造物

『ウォッチメン』の物語は発表された1987年よりさらに溯った1985年と設定されている。
しかし、作中のアメリカはニクソン政権下で保守層が無敵の力を持つ、現実をも超える覇権主義国家として描写されているのである。

ソ連はDr.マンハッタンの存在により埋められない戦力差に焦燥を募らせながらも、やはり現実を超える軍拡を続け、世界は劇中でピースマークと共にシンボルとなっている「終末時計」が真夜中(0時=核戦争勃発)までわずか10分前まで進む事態となっていた。

……しかしDr.マンハッタンがいる限りアメリカの勝利と繁栄は揺るがない、歪な世界。
そんな作中の米国ではDr.マンハッタンのもたらした未来技術による、現実の現代をも超える数々のアイテムが登場している。

  • 完全無公害の電気自動車
  • 反重力飛行機
  • 高分子化による新しい素材の生地*3
  • テレポッド
…等がそれだ。


余談

  • そんな彼であるが実は元ネタが存在する。元ネタとなったのはチャールトン・コミックスのヒーロー「キャプテン・アトム」
    核実験の事故によって超人となり、大統領の命令を受けて共産圏と戦った原子を自在に操る能力を持ったヒーローであり、Dr.マンハッタンは、キャプテン・アトムの存在をより現実的に解釈したヒーローとして描かれている。

  • アラン・ムーアと並び称されるライターにしてアーティストであるフランク・ミラーが前年に発表した『バットマン:ダークナイト・リターンズ』ではスーパーマンが存在を隠蔽されているとは言え、やはりDr.マンハッタンのような役回り……「地上に繋がれた神」として登場する。
    最大の抑止力が戦力の不均衡を招き、それが崩壊の発端となるのも同様である。

  • Dr.マンハッタンは最初は全身を覆うタイツを身に纏っていたのが、最終的には全裸となる。
    これは彼が徐々に人間性を失っていく事の寓意で、画一的な描写を嫌ったムーアが、意図的に仕組んだ構成、描写である。

  • 時計職人の息子であり、事故に遭う以前までは、やはり時計の修理を趣味としていた。これが、自らの再構成の際の伏線となっている。

  • 2012年には前日譚である『ビフォア・ウォッチメン』で彼の本編前の姿が描かれたりするも『ウォッチメン』の他のキャラクターと同様、長らくDCユニバースとは直接の関わりを持たなかった。
    しかし2016年の『DCユニバース:リバース』でウォッチメン関連作以外での初登場を果たし、更にはその中での最重要キャラクターとして位置づけられた。


原子力は
人間の本能以外の全てを変革させた
この問題への対処の鍵は
我々自身の胸の内にある
こんなことになるのなら
時計職人になっていればよかった

           ─アルバート・アインシュタイン




最後?追記・修正にも最後などありはしない


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