序盤:
1話のCGS基地襲撃作戦が初陣だった。オーリス隊長のはっちゃけぶりに困惑し、クランクに指示を求める頼りない様子が目立っていたが、2話では奮戦。
同時に後々見せる激情家ぶり、そして独善的な気質も覗かせている。
「なっ! 撤退中の我が軍のモビルワーカー隊!!」
(誤射を恐れるアインを後目にMWを蹴散らすバルバトス)
「ちぃっ……貴様ぁ! モビルワーカーを狙うとはなんと卑怯な!!」
《どの口が言うんだ》
三日月に撃墜寸前まで追い込まれ、自身も負傷するが、クランクに危ういところを助けられる。
帰投後、CGSの完全殲滅を命じられたクランクは単身出撃する覚悟を決め、アインに形見として自らの記章を渡す。「子供殺しという軍人としての汚名を被せたくはない」というクランクだったが――
5話では戦力を求めるコーラル支部長に呼び出され、宇宙へ上がる。「
角付きのモビルスーツ」を仕留めようとするアインだが結局何もできず、コーラルまでもが角付きの魔の手にかかる。
アインは自分たちの追撃を躱して離脱していく鉄華団を見ながらすすり泣くほかなかった。
その後、CGS襲撃中隊の数少ない生き残りとしてマクギリス・ファリド監査官の事情聴取を受けたアインは、その場で鉄華団追撃隊への参加を希望。
願いは聞き入れられ、マクギリスと共に地球へ向かうことになったアインは、ガエリオ・ボードウィン特務三佐預かりの身となった。
中盤:
――アイン、勝手な行動をして済まない。俺は罪のない子供を殺すことなど、出来ないんだ――
(ここまで自分たちのことを考えてくれた人を、情け容赦もなく殺すなんて……)
(罪のない子供は殺せなくても……)
「罪のある子供なら、手にかけてもいいですよね。クランク二尉」
本格的に歪んだ理論武装を始めたアイン。鉄華団を討つことに異様なまでの執念を燃やし始める。
そのため、クランクの後の上司となった「セブンスターズ」であるガエリオを「仇を撃てるなら誰の下でも構わない」と当初は特に意識していなかった。
しかし鉄華団追撃に乗り出す際、彼が明確に「上官の敵を討つチャンス」を考えていてくれたことを知り、乗機をお下がりとして譲ってくれたこと、そしてドルトコロニー群における虐殺行為にも嫌悪感を示していたことで、
彼を信頼できる上司として慕っていく。
16話後のWeb次回予告(フルバージョン)は視聴者の腹筋を攻撃した。
ボードウィン特務三佐殿は、信頼できるお方だ
早寝早起き、出された食事は残さない。きちんとした生活態度に、清き心が垣間見れる
そして乗り込むのは、穢れ無き伝統のモビルスーツ。俺はその下で、薄汚れた輩を一掃する!!
次回、『機動戦士ガンダム 鉄血のオルフェンズ』第17話。「クーデリアの決意」
それまでの爽やかな朗読から、「俺はその下で~」以降は一転して殺意丸出しになるところがミソ。
アインの人柄を的確に表した文章と言える。それにしてもこのゆうまたそ、ノリノリである。
鉄華団との戦いの中でガエリオとも打ち解けていき、向こうからもその忠義者ぶりを信頼されるようになる。実際、この頃のアインはクランクの仇討ちよりも、ガエリオの身の安全を最優先にして戦っていた。
だが地球低軌道上の戦いにおいて、バルバトスに撃墜されかけたガエリオ機を庇ったことが彼の人生の転機となった。投げ付けられたランスをコクピット直下に喰らい、重傷を負ったのである。
「貴方は……誇りを失った俺に、もう一度、立ち上がる足をくれた……。貴方を、見殺しには……」
終盤:
ガエリオを庇った際、なんとか即死は免れたものの、複数の臓器が機能不全を起こし、全身の壊死も始まる末期状態に陥ったアインは、ナノマシンベッドで眠り続けていた。
最早彼を救うには機械的手段に頼る他ない。ガエリオは当初こそ躊躇うが、マクギリスの勧めもあり、阿頼耶識システムを利用した再生施術に望みをかけることにする。
アインにはギャラルホルンが極秘に保管していた阿頼耶識の実験機があてがわれることが決まる。23話で久々にガエリオと視聴者の前に姿を現したアインは、MSのスピーカー越しに元気な声をかけてガエリオを安心させる。
だが、技師から現在のアインの状態を見せられたガエリオは言葉を失った。
アインは両腕と胸から下を切除され、液体漬けのコクピットブロックに胸像の様に埋め込まれた生体CPUになっていたのである。
「本当に有難う御座います。これでクランク二尉の無念を晴らすこともできる…!」
「……そうか」
「心から尊敬できる方に、人生の間で2人も出会えたなんて、これ以上の幸せはありません
この御恩、この命を持って、必ずやお返しします」
「……そうか……」
嘘偽りなく心から感謝しているグレイズ・アインと、ノリノリの技師が滅茶苦茶コワイ。
そこにはもはや、アインに痛ましい声色で「そうか」と相槌を打つしかないガエリオしか、アインの状態の異常さと阿頼耶識の非人道性を理解している人物はいなかった。
ちなみに、24話までグレイズ・アインのコックピット内の直接描写はなく、生体CPUとなったアインがどのような状態なのか分からなかったが、
最終話で一瞬映ったコックピットのアインは、スピーカーからは激昂したアインの声が響いているにも関わらず、無表情で口も動いていなかった。
生体CPUとなったアインの肉体は、グレイズ・アインに魂を吸われたかのように、抜け殻のような状態になっていたのである。
「
モニター上で感情豊かに笑うAIの正体は物言わぬICチップに過ぎない」ように、
「
妙に人間臭く動いて喋るMSの正体は、人間の形をした生体部品に過ぎない」状態なのだ。
続く24話にて戦場に立ったグレイズ・アインは、タービンズのエースコンビを物ともせずに瞬殺していく。
「判る……考えなくても判る」
「これがそうなんだ。これこそが、俺の本来あるべき姿……!」
救援に入る流星号にはアックスをブン投げ、頭を鷲掴みにしてパイルで一突き。
火星での「武器を投げるなんて!」のセリフがずいぶん遠い昔のことに思える。
「クランク二尉、やりましたよ! あなたの機体を取り戻しました!」
「きっと見ていてくれますね……クランク二尉。俺はあなたの遺志を継ぐ」
……流星号、右手と頭が吹っ飛んで全身が血のようにオイルでドロドロなんだがそれは……。クランク二尉の遺志とは何だったのか……。
完全に生体ユニットとしてコントロールされ、戦闘思想に呑まれたグレイズ・アインの思考回路は変調をきたしていた。
流星号のパイロットに止めを刺そうとした瞬間、接触回線でクーデリアの話を傍受したグレイズ・アインは、瀕死のMS3機を放り出してエドモントン市内へ急行する。
鉄華団も市民感情を考慮してMSによる突入作戦を行わなかったのに、友軍とはいえ事前連絡も無しで都心部へ侵入。これはまずい。
「そうだ、思い出しました、申し訳ありません、クランク二尉」
「俺はあなたの、あなたの命令に従い、クーデリア・藍那・バーンスタインを捕獲しなければならなかった!!」
記憶上の時系列が完全に錯乱していることが覗える。
おまけにいざ肝心の確保対象を前にしても、彼女の反論に激昂して「その思い上がり、この私が正す!!」とアックスを振り下ろそうとする有様である。
ただ、アインからすると不幸にもバルバトスが追いつき、クーデリア(とアトラとオルガ)は間一髪助かった。
第一期最終回:
「また……またお前か! クランク二尉を手にかけた罪深き子供……」
《誰そいつ?》
「キサマァァッ!!」
というわけで
まさかのラスボスに抜擢されたグレイズ・アインは、はじけっぷりをさらに加速させていく。
「何てことだ。君の罪は止まらない。加速する」
「クランク二尉、このままでは、貴方の涙は止まらない。俺は、この戦いをもって、彼を悔い改めさせてみせます!」
遺言の真意をガン無視してこんな姿で暴れ回っていたらクランク二尉もそら泣くわ……。
なんともポエミーな宣言(
中の人の姉上に影響されたか?)をした後、一方的にがなり立てていくグレイズ・アイン。が、その発言は三日月に殆ど流し聞きされており、時折ボソボソと不快なツッコミを入れられて更に激昂することになる。
『鉄血のオルフェンズ』では「ガヤに被るメインキャラのセリフ」演出がお馴染みだが、
「ガヤ」に使われるラスボスとは一体……。ともあれ物凄い殺意を漂わせてポエミーな恨み言を吐き連ねる内田氏の演技は必聴である。
その強さは本物で、グレイズ・アインはあの三日月をも徐々に追い詰めていく。
しかし街中で、スピーカー全開で恨み言を言い放ちながら暴れ回る姿は、味方のギャラルホルン兵の目にはまさしく悪魔としか映らなかった。
マクギリスの目論み通り、忌むべき生体兵器と化したグレイズ・アインは、ギャラルホルンの歪みを身を持って証明してしまったのである。
そして、波に乗るアインの言い放った言葉が三日月の逆鱗に触れたことで、戦況は一転することとなる。
「罪深き子供…。クランク二尉は、お前達と戦うつもりなど無かった」
「お前達を救うつもりでいたというのに…その慈悲深き思いは、何故伝わらない!?」
《あのおっさんは自分で死にたがってたよ》
「やはり……貴様は出来損な―――ネズミ!同じ手を何度も!」
「清廉なる正しき人道を、理解しようとしない!野蛮な獣!!」
「なのに!!―――あろうことか、その救いに手をかけ…冷たい墓標の下に引きずり込んだ!」
「もう貴様は救えない。その身にこびり付いた罪の穢れは、決して救えはしない!」
「貴様も、あの女も! お前の仲間も! 決して!! 貴様の、貴様らの死を持って罪を払う!!」
《罪……? 救う……? それを決めるのはお前じゃないんだよ……》
《…おい、バルバトス。いいから寄越せ、お前の全部……!》
「死んで贖えぇぇぇぇッッッ!!!」
アインの言葉にキレた三日月は、己のダメージも顧みずに阿頼耶識のリンクを強化。パイロット自身の右半身の管制能力と引き換えにバルバトスの限界性能を引き出した。
急に動きが良くなったバルバトスに、それまでの勢いを殺されるグレイズ・アイン。そして遂にバルバトスの太刀がグレイズ・アインの左腕を切り飛ばした!
「このぉ……バケモノがぁぁっ!!」
(ズシュっ!)
《お前にだけは言われたくないよ》
どこぞの鉄仮面と同じようなセリフを吐きながら放ったスクリューパンチにカウンターされ、右腕まで落とされたグレイズ・アインは、遂に錯乱してボディプレスを掛けようとする。しかし……
「クランク二尉…! ボードウィン特務三佐…!! 私は、私の正しっ―――」
(ザシュウっ!!)
《煩いな…オルガの声が、聞こえないだろ…》
それがグレイズ・アインの最期だった。隙だらけの前進は実らず、アインは最後の言葉を言い終わる前に、コクピット装甲を貫徹されたのである。
奇しくもその死に姿は、かつて火星で斃れたクランクのグレイズと酷似していた。
ガエリオも別の戦場で散った今、アイン・ダルトン青年は、遠い地球の地を訪れた機械の悪魔として、その生を終えたのであった……。