SCP-1000-JP

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SCP-1000-JP - (2020/02/23 (日) 11:25:48) の編集履歴(バックアップ)


登録日:2016/11/14(月) 01:10:12
更新日:2024/04/10 Wed 18:02:03
所要時間:約 10 分で読めます






対話は続けられる。-とあるO5


SCP-1000-JPとは、シェアード・ワールドの一つである怪異創作コミュニティサイト「SCP Foundation」に登場するオブジェクト。JPのコードが示す通り日本支部で投稿されたオブジェクトであり、SCP-1000-JPコンテストで見事優勝を勝ち取った作品である。
コードは「特別回収任務」。オブジェクトクラスは消去されている。

このSCP、背景設定がかなり壮大な秀作なのだが、そこに思い当たらないと何度読み返しても何のことだ!? まるで意味がわからんぞ!となる。

ちなみにこの記事に登場する「表象」については、おおざっぱに「人間の精神をデータ化してコピー・保存したもの」と考えればよい。さらに「表象領域」とは「電子空間に再現された現実性の空間」と捉えればわかりやすいだろう。


概要

まず、SCP-1000-JPとは、小惑星(2001-AL120、以後小惑星)の試料採集を目的に製造された、深宇宙探査機(標識番号2003-062-A、以後探査機)の付属物である。
これ自体は元々普通の探査機だったのだが、小惑星に到着してから異変が起きた。
送信される信号を受信するごとに、小惑星の軌道に影響を及ぼす異変が起きるようになったのだ。

この小惑星、かなりデカい。その軌道に異変が生じることは、最悪の場合天体衝突による世界終焉シナリオに繋がる可能性がある。
探査機そのものは2003年5月に打ち上げられたもので、財団も費用や資材を提供した。
首尾よく調査が終わればそれっきりのはずだったのだが、そうは問屋がおろさなかった。

太陽フレアに接触した探査機は通信途絶に陥り、以後機体は喪失したものとして計画は中断された。
が、おおよそ2年後に探査機からの信号が回復。それはよかったのだが、上記した小惑星の軌道変化が観測され、財団預かりの案件となった。

ちなみに調査任務自体は、別のカバーストーリーが実行されてこちらは成功している。


回収任務

が、ここで問題が発生した。探査機が送信してきた小惑星の着地地点の画像は、なんと日本に酷似していたのである。
軌道変化が起きたのはこの画像の受信後、撮影続行の信号を送信した直後である。

日本支部はこれを危険視、探査機を回収すべく「ノストロモ計画」を発動。
これはぶっちゃけると、使い捨てのDクラス職員を接続船「ナーシサス」に乗せて小惑星へ送り込み、探査機を持って帰らせたあと終了させる=抹殺するという任務である。

詳細は省くが、割り当てられたのはSCP-109-JP-Aに変質してしまったエージェント・ジョーンズ、SCP-515-JPによる遺伝子汚染を受けたエージェント・アッシュ、そして日本支部のミシマ博士の三名だった。
二人のエージェントは遺書というべき書簡を残し、最後に財団に貢献できることを感謝していたが、ミシマ博士だけはただ一言、

君たちを許さない。

と書き残したのみだった。

ともあれ計画は発動され、探査機を回収すべく三人のエージェントは宇宙へ飛び立った。




……が、その後彼らと財団を待っていたのは予想だにしない現実であった。



ノストロモ計画の凍結が決定されました。探査機062-Aの収容は無期限に延期されます。
通達: オルメイヤー計画は継続されます。投入表象は増員予定です。


調査結果

小惑星に到着した彼らは、まず報告を行った。

内容はこうである。
まず、私たちも混乱しており、正しい現状を把握できていない可能性があります。
探査機062-Aの周囲一帯(B310)には、天候が存在します。小型無人機の観測では、Dfb気候*1およびET気候*2に属していると見られます。より広範にはCfa気候*3が再現されています。気候の見られる地域には、コケ類やシダ植物が生育しており、少数ながら種子植物も存在しています。昆虫や魚を含め、動物は一切生息していません。AL120表層全域に呼吸可能な大気(湿潤空気)が存在しており、気密服を着用せずに船外活動が可能です。
気候と植生から、B310地点付近は日本列島中央付近の環境が再現されていると考えられます。実在の場所と大きく異なるのは、現実強度の数値です。
B310地点における、AL120の現実性濃度は550Hm/cm3を示しており、他2箇所(B331,A197)でも同様の数値が計測されました。AL120表層の現実性は過飽和状態にあると見られ、あらゆる異常現象の介在を許容しません。
AL120の環境は、異常性を帯びた生物や物品には恩恵と言えます。現実性濃度が平衡状態へと移行する作用により、AL120の現実性が異常存在へ流入します。現在のAL120の環境は、限りなく正常に近い現実性を示しており、全ての異常存在は次第に希釈されると考えられます。

一番目は映像記憶。

さて、この報告の意味するところがお分かりだろうか?
Hm値とはヒューム値、つまりは「現実性」である。現実としてどれくらい強いかの強度である。ヒューム値は高い方が低い方へ不可逆的に影響する。
そして、我々の住む現実のヒューム値は1である。小惑星AL120のヒューム値は550である。
参考までに、財団の把握する現実改変SCiPのヒューム値は3。SCP-343「神」は86である。

つまりどういうことか?
仮に小惑星AL120が我々の地球へ接触すれば、そこにある「現実」が我々の現実を塗りつぶしてしまうのだ。
さらに高すぎる現実性は、異常の塊であるSCiPを希釈してしまう。それは、財団の理念に反することなのだ。

……それだけならここまで大騒ぎはしない。問題はここからである。

二番目は感覚記憶。

ミシマ博士は二人のエージェントと共に回収任務を続行した。
だがその中で、ジョーンズとアッシュは小惑星の持つ現実性に希釈され、外見以外の異常性を喪失した。
そんな状況だが、何とか3人は探査機を確保。分解してナーシサスへ持ち帰ろうとした。
が、探査機の中からミシマ博士は一つの記憶装置を発見した。

剣の形をしたそれの内部の記憶領域には膨大な情報体が存在し、多数の知性反応が確認された。その表象領域(表象=ざっくり言うとイメージ。まあ、精神のコピーみたいなものと思っていただきたい)には参照不可の領域が存在することから、F5までの階層を保存しているものと見られた。
要するに、財団でいう高レベルクリアランス職員を内包した、中枢領域の予備サーバーらしい物体だったのだ。

さらにこの剣は、気候と植物の存在する地域の中心にあった。つまり、小惑星の持つ莫大なヒューム値の根源はこれであり、内部に内包された職員のイメージが作り上げていたのだ。

三番目は実感。

だが、ミシマ博士はここで不可解なコメントを残している。

AL120表層上の過剰な正常性が、表象の総意なのだとしたら、やはり財団は、異常性を帯びた職員を排除したかったということでしょうか。24年前、私を排除したように。



もうやめようよ

四番目は自発意志。

最後に、博士からの最後のメッセージを引用する。


アッシュとジョーンズは、すでに正常な世界になってしまいました。いずれ私もこの領域に希釈されると思われます。私はいったいどうやってここに来たのか、もはや思い出すことはできません。
この星にも太陽が昇ってくることを発見しました。もう帰ることのできない向こう側にも。
わかってる。ここは私の生まれた星なのだから。


ここはこんなにもすばらしい。

五番目は魂。



どこにいるの?



[遷移軌道を計算]…
[中断]





解説

さて、これでは何がなんだかよくわからない諸君も多いことだろう。
まず、わかる部分から拾っていく。

コンテストのテーマは「日本」である。そして、このSCP自体の元ネタは、本Wikiにも記事が存在するあの探査機。
両さんをも感涙させたあの「はやぶさ」である。
が、SCP-1000-JPは世界を驚愕と感動に導いたあのド根性探査機と違い、脅威を運んできている。

そして、このSCPにはネタバレというべきTaleが存在する。
タイトルは「オルメイヤー計画の記憶」。これはSCP-1000-JPの記事とは矛盾する部分があるが、これは元の記事が「F5の表象領域を持たない職員が閲覧可能な情報」であるため=カバーストーリーの一種であるのが理由。

この計画についての報告書は記憶サーバー「十束(トツカ)」の表象領域内に暗号化されて保存され、複合にはF5層の表象が必要(本記事冒頭の折り畳み部分はそのセキュリティ)。

ちなみに、元のSCPと作者が同じでも、Taleはあくまで二次創作である。しかしこのSCPについては、これを読まないとそれこそまるで意味が分からんのでここで挙げる。


  • オルメイヤー計画とは何ぞや?
前述のとおり、日本支部には中央記憶サーバー「十束(トツカ)」が存在する。
コイツの表象領域に記録されているオルメイヤー計画とは、F5層を含む表象領域の予備サーバー設置に関する計画である。

が、この予備サーバーのF5層は内包した人数に比例し、サーバーのヒューム値を上昇させる問題があった。
それを鑑みたRAISAの決定により、表象領域はSRA遮断フィルムによって被覆され、通常の現実強度を保たれることになった。
さらに報告された問題点から、予備サーバーは惑星の重力圏外に設置することが決定された。
これについては日本天体開発公社(YEGA)の協力を得ることになり、カササギ計画内で建造された探査機062-Aによって、予備サーバー"草薙"が小惑星AL120へ運搬されることになったのだ。


お分かりだろうか?
つまり、探査機による小惑星調査の計画自体がフェイクであり、真の目的はメインサーバー「十束」の予備機となる剣型の記憶サーバー「草薙」を、地球外の小惑星へ設置することにあったのだ。
「草薙」は内包されている表象の人数に応じてヒューム値を高め、それに従い周囲の現実を改変する。つまり、コレ自体が現実改変型のSCPオブジェクトなのである。
このまま「草薙」を放置していると、周囲のSCiPを希釈してしまう。SCP財団の理念は発見・回収・保護。希釈されてしまっては元も子もない。

というわけで、「草薙」を小惑星へ運ぶべく探査機が打ち上げられた。これがオルメイヤー計画である。
だが、太陽フレアに接触してしまった探査機は通信途絶。これに伴い内部に接続されていた「草薙」自体も行方不明となり、オルメイヤー計画は中断を余儀なくされた。

状況が変わったのはそれからおおよそ2年後のことだった。
探査機は無事目的の小惑星に到着していた。それはよかったのだが、なぜか小惑星の環境は日本列島のそれに変化していた。
これを見た財団職員と支部職員はこう思ったのだ。


「『草薙』の被覆が破れて現実改変が起きてるんじゃないの?」


てなわけでこの現実改変はSCP-1000-JPとして登録。物理的に探査機ごと回収するべくノストロモ計画が発動された。
で、実際に小惑星に人員を派遣したところ、案の定「草薙」の表象漏洩が発生していた。ナーシサスに搭載されていたもう一つの予備サーバー「八尺瓊」と「草薙」の接続自体は成功したものの、スタッフ3人は全員希釈され消失。

その後、復旧作業が開始された。


  • 復旧作業の結果どうなったの?
まず1回目。
「八尺瓊」に内包されていた表象を、F4層から3名分「草薙」に投入したが、10分持たず知性反応が消滅。さらに投入時、小惑星の軌道が変化した。
なお、小惑星表面の現実化領域(以後、領域)では時間が捻じ曲がり、我々の10分はそこでは2日であった。

2回目。
人員を厳選し、F4層までの表象を5名分「草薙」に投入した。今度は35分、領域時間7日で知性反応が消滅した。
また、やはり軌道変化が起きた。
投入された表象の証言から、「草薙」に内包された表象たちは地球への帰還を目指していることが判明。どうも、財団側からの通信時に地球の位置を逆探知で把握、それを手掛かりに現実改変して軌道を修正しているらしい。

証言は以下。

AL120表層上と同様に、表象領域内にも日本列島中央部が再現されており、表象群も仮想的に再現されています。B310地点の山頂とB331地点に表象群の反応が見られます。B310地点の表象群への接近は時間を要します。

B331地点の表象群は、自然環境の再現を行っている財団職員の表象と判明しました。軌道の変化を行っている表象の由来は不明です。

1人多い。


ここで一つ確認。小惑星表面のヒューム値は550だが、星に干渉できるF5層の人数は549人。そして、人間のヒューム値は1である。
そう、3人目の表象が言った通り、ヒューム値が一人分多いのである。

「草薙」内部の表象領域にも、小惑星表面と同じ日本列島の中央部が再現され、さらに「小惑星に再現された『日本列島中央部』にある『草薙』」に相当する表象群が、「草薙」と同じポイントにあった。これが環境の再現を行っている職員たちの表象である。ただ、軌道の変化を行っている表象についてはわかっていない。


3回目。
もう一回F4層までの表象を、今度は3名分投入。このうち一人はノストロモ計画の作業員と同じ人物である。
そして30日後、領域内時間で24年が過ぎたのちも、一人分の知性反応が残っていた。



  • ミシマ博士は結局どうなったん? 一人多かった表象って誰の? そもそも何がどういうわけ?

簡潔に言うと、まずミシマ博士の表象が最後に送ってきたメッセージは、「草薙」内部の状況である(つまり、「草薙」内部の表象には「探査機が着陸し、表象の漏えいによって再現された日本の一部」が存在しており、それが外界に本当に表れている)。
だが、ノストロモ計画で小惑星にやってきた「現実の」ミシマ博士も存在する。

3回目の接続で「草薙」に投入されたミシマ博士の表象は、そもそも打ち上げ以前のコピーであるため、その時の記憶を保持していない。にも拘らず、「24年前に私を排除した」と述べていることから、「現実のミシマ博士」と「八尺瓊内部の表象のミシマ博士」の意識が混在していることがわかる。

ややこしいが、起きたことを並べると、


  1. 「草薙」に「十束」から表象をコピー
  2. そしたら「草薙」がため込んだ表象で現実改変開始
  3. こりゃいかんということで探査にかこつけて小惑星に移動
  4. 移動させたら内包していた表象=記憶を含む人格コピーが漏れて流れ出し、そこで現実改変して日本が出来てるではないか! おかげで情報を取り込んだ小惑星自体が現実改変型SCiPになっちまってるよ! おまけに地球に向かっているだと!?
  5. サーバーを回収せなあかん、ということでミシマ博士とアッシュとジョーンズを派遣(ノストロモ計画)
  6. が、小惑星のヒューム値が高すぎて三人とも希釈され消えてしまった。しかしこの時、「草薙」から漏えいした表象の中にミシマ博士の精神が紛れ込む
  7. 「草薙」の復旧のため、「八尺瓊」から表象を3回送り込む。この時調査にあたった表象たちはF5層の人数を把握していたが、なぜか一人多くなっていた
  8. 3回目の接続で「八尺瓊」に保存されていたミシマ博士の表象が投入される。これにより、ノストロモ計画でやってきて希釈・混入した「現実の」ミシマ博士の表象と、接続で投入された方のミシマ博士の表象が合体。表象の博士の意識が主体だが、現実の博士の記憶が混ざりこんでいるため、知らない単語を口にしては「?」と首をかしげている。
  9. 最後のメッセージは「草薙」の中からミシマ博士の表象が送って来たものだが、増えた方の表象と対話しているためそっちの返答が混ざりこんでいる。


ということになる。
元記事のミシマ博士のメッセージは改変されたものであり、原文は「記憶」に掲載された方である。



このミシマ博士の報告の結果、「草薙」の表象は太陽フレアの影響か、F4層まで何らかの汚染を受けていることが判明。コイツ自体がSCP-1000-JPとして登録された。
現在小惑星は地球に向かって移動しているが、ミシマ博士の表象は希釈も汚染もされず存在している。
彼によって小惑星の異変が収まる可能性があり、だからこそオルメイヤー計画は続行が検討されているのである。
ゆえにこそ、




対話は続けられる。-とあるO5










忙しい人のためのSCP-1000-JP

世界が修復不可能なほど壊れてしまった場合に備え、財団では世界のバックアップデータを保存するマシンを開発していた。
そのマシンは、平和な日本に生きる人々の記憶および精神(以後、この2つをひっくるめて「表象」と呼ぶ。分からなければ、魂みたいなもんだと考えるとよい)のコピーを保存したサーバーコンピューター『十束(トツカ)』と、そのコンピューターの予備である『草薙』&『八尺瓊』。

このうち、『草薙』には「保存された表象たち*4が考えていることを現実にする」という現実改変能力がある。
これを放置すれば地球そのものが書き換えられかねないので、財団は『草薙』をSRA遮断フィルムで包んだ上でとある探査船に便乗させ、地球外小惑星へと送り出した(オルメイヤー計画)。
しかし、ある時『草薙』を覆うフィルムが破れてしまい、小惑星全てが「日本」に現実改変されてしまう。
しかも、『草薙』は小惑星ごと地球へ向かっているという。

圧倒的なヒューム値を誇る『草薙』が地球にぶつかりでもすれば、地球全てが「日本」になってしまいかねない。
財団はこれを阻止すべく、ミシマ博士、アッシュ、ジョーンズを小惑星へと派遣した*5が失敗(ノストロモ計画)。
彼らの存在も希釈され「日本」と化してしまう。
ただしこのとき、『草薙』同様の予備記憶サーバー『八尺瓊』を『草薙』に接続することには成功。以後の実験は『八尺瓊』から『草薙』に干渉することで行われる。

「『草薙』内部の表象たちが『地球に帰りたい』って考えてるせいでこっち来てんじゃね?」と考えた財団は、『草薙』の表象を別の表象で上書きする計画を立案。
『八尺瓊』の中の表象データを用いた上書きを3回試みたが、流し込む予定の表象ほぼ全てが「日本」へと希釈されてしまい失敗。
唯一の例外として、前述したミシマ博士の表象のみが即時の消滅を免れた*6

消滅を免れたミシマ博士(の表象)は、送り込まれた『草薙』F4層の表象たちに意思を確認した。
しかし、このとき対話した《ジョーンズ》*7によれば、彼らはただ遠い故郷を思い返しているだけであり、小惑星が地球に向かう原因となった現実改変を行使する存在ではない。
現実改変の原因足りうるのはF5層の表象なのだが、なぜかF5層には予定より一人分多くの表象が格納されている。
このどこからか現れた「純粋で強固な意志」と対話をする必要があるらしい。
表象と化した《アッシュ》と《ジョーンズ》は、ミシマ博士の表象にこう言い残す。

昔からヒトを変えるのは対話だ。あいつを見つけて、教えてやってくれ。もうここで終わりなんだってことを。お前はこれからひとりで、暗闇の中を歩かなければならない。でも大丈夫。お前にはまだ明日がある。太陽は必ず昇ってくる*8

我々もよく知っている。我々が生み出したのだから。私はもう、あなたに何もしてあげられない。あなたと最後の時をすごせてよかった。

そして《アッシュ》と《ジョーンズ》も完全に「日本」へと改変され*9、一人残されたミシマ博士はついに「純粋で強固な意志」の表象と対面する。


もういい。もう持って帰らなくていいんだ。

わかってる。ここは私の生まれた星なのだから。


「純粋で強固な意思」はこの小惑星で生まれ、かつて「持って帰る」必要があり、そのために小惑星を地球へと落としていたことがわかる。しかもその意志は、どうやらもともと人類側が彼に課した使命だったようにも読める。
ところで、SCP-1000-JPコンテストは「日本」を題材にしたものである。
「日本」で「小惑星」で「持って帰る使命」。コンテスト当時に物心ついていた人はピンとくるのではないだろうか。

そう、このSCPの元ネタは「はやぶさ」である。
探査機「はやぶさ」は小惑星イトカワの試料を持ち帰るために地球から送り出され、2010年、その「おつかい」を見事に成し遂げた。
そのドラマ性や輝かしい実験成果から、当時は社会現象レベルのブームとなり、「はやぶさ」自体を擬人化するようなミームも多く発生した。

つまり、小惑星の軌道遷移を行っているのは、「草薙」を搭載して送り出された探査機062-Aの表象
探査機062-Aにインプットされていた、「小惑星まで『草薙』を運び、終わったら地球に戻って来る」というプログラム、それこそが「純粋で強固な意志」の正体だったのだ。
そんなバカな、と思う前に思い出してもらいたい。「草薙」はヒューム値が高すぎて周囲の現実を改変してしまうがために、小惑星に設置されたことを。ならば、運んでいる探査機にもその影響が及んだと考えるのはたやすい。太陽フレアによって「草薙」の表象群はF4層まで何らかの汚染を受けたが、この時にF5層による現実改変が始まったと考えられる。

そして何より、このSCiPの報告書の登場人物の中で、地球に帰還する動機を持った人物は表象群を含め一人も存在しない。それを持っているのは、「小惑星探査のために送り出された」探査機062-Aだけである*10
探査機の表象は現実改変により小惑星で誕生したものである。だから彼はミシマ博士に対して「わかってる」と答えたのだ。
彼にとっては「帰る」先は地球ではない。ただプログラムに従って、地球に行くだけである。


対話は続けられる。-とあるO5


続けられる対話とは、財団とミシマ博士の対話ではない。

ジョーンズの頼みを受けて地球接近をやめるよう説得を続けるミシマ博士と、任務を達成するため地球に行こうとしている探査機062-Aの対話である。




  • つまりこれは?
ぶっちゃけると財団がやらかしやがったのである。
ミシマ博士を主役に据えると壮大で物悲しいストーリーに思えるが、全体を見ると財団の単なる自爆である。

  • このSCPのテーマは?
コンテストの内容通り「日本」。ただし、神話などではなく、日本の奇跡というべき「はやぶさ」をベースに、「多数意見への同調圧力」「回りくどい説明とあいまいにぼかされる結論」など、良くも悪くも日本らしい風習や習慣を盛り込んだSCPである。

  • つうか記憶サーバーってそもそも何のためにあるの?
一番の前提が意図的に省かれているが、これは後述の「ノストロモ計画の最後」で明かされている。
そこからするに、記憶サーバー「十束」と予備サーバー「草薙」は、万が一XK-クラス:世界終焉シナリオが発生しかつ阻止しえなかった場合、世界を上書きするために用意された「平和な日本の記憶の保存庫」であろうと考えられる。が、「草薙」の方は上述したとおり内部の5層に分かれた記憶層の人数が増えるにしたがって自身のヒューム値を上昇させ、勝手に現実改変を始めた……というのが計画実行までの流れである。

  • 草薙のスペックって?
全長65cm、重量5kgの小さな長方形の箱型記憶サーバー。本体のヒューム値は2。
表象領域は5層に分かれており、収容可能人数はF1:6089籍、F2:5800籍、F3:2200籍、F4:671籍、F5:549籍である。
このうちF5層の人数が増えるにしたがって「草薙」自体のヒューム値も増えていたが、F5層の人数は549籍であり、ノストロモ計画でミシマ博士が確認した時は1増えて550だった。

  • ミシマ博士は何て言ってんの?
要約すると、「小惑星の上に再現された、何の異常もない平和な日本が表象群=そのオリジナルである職員の総意によって作られたのならば、財団は我々のような異常性に暴露した職員を排除したかったんじゃないのか?」と言っている。

  • アッシュとジョーンズが曝露したオブジェクトって?
ジョーンズについては恐らくSCP-515-JP「軍用犬の駒」だろうと思われるが、アッシュについては該当するSCP-109-JPのナンバーを振られているのが、宿主を変質させる寄生生物「底なし村でワルツを」であり、ここには「SCP-109-JP-A」が出てこない。
しかし「底なし村でワルツを」が投稿されたのは、SCP-1000-JPが投稿される2年ほど前である。
普通ならば記事内に他のオブジェクトを出す場合、既に存在しているナンバーを使うならそのオブジェクトを、そうでないならナンバーを伏せるのだが、ここではそうはなっていない。
なので「SCP-109-JP-A」は「SCP-109-JP-2F群」の誤植と考えられる。


もうひとつの1000-JP『ノストロモ計画の最後』

ZeroWinchester氏はその後テキストアドベンチャー形式の『ノストロモ計画の最後』を公開。
こちらではノストロモ計画をミシマ博士視点で描いており、アッシュやジョーンズがどういう末路を辿るのかもわかる。




余談

実はノストロモ計画の立案時、作業用の人型車両の投入が検討されていた。当初は自立機動に必要な制御ソフトが作れずお蔵入りになっていたが、エージェント・カナヘビが乗り込むことで解決された。
ちなみに当時研究員だったミシマ博士曰く「まともじゃない」。当たり前だ。


さらに元記事には「不明なエラー」が3回、「不正なエラー」が1回、「もうやめようよ」が1回、それぞれ画像つきで出て来るが、実はこの画像ファイルに執筆者がつけた名前は、Unicodeの文字番号である。
復号すると画像タイトルは上から順に、
  1. 一番目は映像記憶
  2. 二番目は感覚記憶
  3. 三番目は実感
  4. 四番目は自発意志
  5. 五番目は魂
となっている。

添付されている画像は下に行くにつれて鮮明になっており、「どこにいるの?」では流れゆく星がはっきりと映し出されている。
メッセージの送信ID番号は0000、RAISAに送信された認証コードは「RBP-F5.0000:0000:0000」。
探査機に魂が生まれ、表象としてF5層に写し取られる様子が、一連の記事の中ではっきりと描かれているのである。

さらに最後のメッセージ、「わかってる」の直前には送信IDの取得が失敗しているが、それも当然。
探査機にはRAISAの識別IDなんぞ、あるわけがないのだ。


ポイント

ミシマ博士と対話している探査機の表象だが、彼はあくまでも「表象」=「草薙」に写し取られた精神のコピーであり、探査機の魂そのものではない。
だから、博士と対話している彼の言い分を整頓すると、
  • 「私」=「草薙」のF5層に転写された探査機の魂のコピー
  • 「生まれた星」=「草薙」内部の表象領域に再現された「平和な日本」(小惑星表面に広がっているのはこれが外に流れ出したもの)
となる。
魂を持った探査機は任務達成のために小惑星のサンプルを持ち帰ろうとしているが、太陽フレアを食らって機能を停止してしまい、小惑星の上で立ち往生。
しかし、「草薙」に写し取られたその表象は任務の達成のため、サンプルが持って帰れないなら丸ごと持っていけばいいじゃない、とばかり「草薙」の持つ現実改変能力を利用して小惑星の軌道を変え、「おつかい」を成し遂げるべく地球へ向かおうとしている。

探査機そのものは地球で生まれたものだが、「彼」にはその自覚がない。
「彼」という魂が芽生えたのは小惑星の上であり、覚えているのは任務のみ。だから、ミシマ博士との対話における「彼」の返事の中身を噛み砕くと、

持って帰らなくていい? そんなことはわかってる。ここは私の生まれた星だ。だから持って「帰る」必要はない。私はただ、任務を達成するため、この星を地球へ持っていかなければならないのだ。

ということになる。
対話が進んでいないのは、ミシマ博士が「帰る」という単語が意味するところの齟齬に気づいていないからだろう。
博士にとっては「帰る」先は地球だが、探査機にとっては「帰る」先は小惑星。
だから、「持って帰らなくていい」という説得では探査機は折れない。帰るも何もない、ここは私の生まれた星なのだから。

つまり正確に言うと、「彼」は小惑星を持って帰ろうとしているのではない。自分の生まれた星を地球に持っていこうとしているのだ。

ミシマ博士の説得は果たして成功するのか、どうか。





追記・修正は任務を完了してからお願いします。

CC BY-SA 3.0に基づく表示

SCP-1000-JP - 特別回収任務
by ZeroWinchester
http://ja.scp-wiki.net/scp-1000-jp

オルメイヤー計画の記憶
by ZeroWinchester
http://ja.scp-wiki.net/o5-a1-f1-ome001

ノストロモ計画の最後
by ZeroWinchester
http://ja.scp-wiki.net/nostromo-last-game

この項目の内容は『 クリエイティブ・コモンズ 表示 - 継承3.0ライセンス 』に従います。
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