SCP-800-JP

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SCP-800-JP - (2021/08/16 (月) 05:36:09) の編集履歴(バックアップ)


登録日:2017/06/06 Tue 14:32:40
更新日:2024/04/18 Thu 21:43:38
所要時間:約 5 分で読めます





明日を探していられるうちが幸せだった。


SCP-800-JPとは、シェアード・ワールド「SCP Foundation」において登録されたオブジェクトの一つである。
項目名は「排気口」。
オブジェクトクラスは「Keter」。


特別収容プロトコル

まずこのオブジェクトについてだが、コイツを収容する、そのためだけにサイトのまるまる一つが割り当てられている。
もちろん、そういう事例は財団世界にはいくつかある。のだが、コイツの場合その「サイト一つの割り当て」が尋常ではない。
収容されているサイト-8178の特殊警戒個室E-44にSCP-800-JP-1があるのだが、それ以外の設備はSCP-800-JP-2を封入した容器の格納と保管、およびこれら収容の維持、そのためだけに機能の全てが動員されることになっている。

個室E-44には排気弁をつけた専用の常時通気口が設けられ、さらに緊急用の予備通気装置が5か所設置されている。
この通気口を通ったSCP-800-JP-2は、一切漏れることなく別室の容器に封入され、内部気圧が耐圧限界の89%になったところで自動的に交換される。
これら収容維持のシステムはフル・オートメーションであり、人員は一切用いられない。しかし、修理や点検の必要が出たならば無人ロボットを都度都度用意して行い、終わったらロボットを専用の施設で焼却処分することになっている。

サイト-8178を担当する職員の活動区域は、これら収容施設とは完全に隔離された状態でなければならない。さらにサイト-8178は拡張と改築が次々と必要になるが、その場合でも活動区域は収容施設から遮断されていなければならない。

これらの情報から、なんかとんでもない特性を持った気体であることがわかる。


概要

では、そんなSCP-800-JPとは何なのか?
結論から言えば、SCP-800-JP-1は空中に固定された直径3.14ミリメートルの平面ポータルであり、-2はそこから吹き出す気体である。
ポータルの方は別のSCPオブジェクトに関する予測実験の際に現れたことから、時間異常によって出現したものと考えられている。
このポータルを消し去る、あるいは塞ぐ試みもなされたが、それらは全て空間的な異常、あるいはポータルのサイズ拡大を含んだ破壊的異常を誘発するにとどまり、全く効果がなかった。

そのため、財団は大慌てでポータルを中心にサイト-8178を建造。ポータルから吹き出す気体の蔓延阻止と情報の隠蔽をプロトコルとして制定した。

ポータルは財団世界の他の事例同様に、他の空間に通じている。この空間はSCP-800-JP-2に満たされており、ここから吹き出しているらしい。
しかし、探査および生体実験はいずれも成功した例が2回ずつであり、さらに得られた情報があまりに少ないことから、財団を以てしても確たることが言えない状態にある。

問題なのはこの気体、SCP-800-JP-2である。
これは、いかなる機器や検査方法を用いても検知・検出の出来ない、ポータルから常時噴出している未知の気体である。
何らかの現象でない、という可能性は、気圧計による観測と生体実験の結果から否定されている。

で、これがどうマズいのかというと、生物が曝露すると100%死ぬ。
……そこ、今「意外と大したことない」「Keterにはよくあること」とか思わなかっただろうか?
確かに、Keterクラスオブジェクトともなれば、人が死ぬことなど、机の上のハシが転がるよりもしょっちゅうあることだ。
それはSCP-800-JPも変わらない。塞げないポータルから吹き出す絶対致死のガス。そりゃKeterだ。

ともかく今は続き。このガス、生体が曝露すると即座に強毒反応を起こす。が、ガス自体の構造や組成、生体に対して働くメカニズムが全くわかっていないため、何でこうなるのかももちろんわかっていない。
早い話が、「生身で触れるとこうやって死ぬ」という、見てわかること以外に何も情報がないのだ。

具体的にどんな症状が起きるのかというと、

  1. 全体表面の81%まで溶解する。
  2. 体のどこか1点に穴が開く、もしくは既にある開口部の一つから体液が一気に噴き出す。これは死亡まで継続。
  3. どこか何かと接している部分から体が崩壊。多くの場合は足から。
  4. 肉体と体液が急激に乾燥。8割以上はこの段階で死ぬ。
  5. 肉体と体液が組織分解され、風化し始める。
  6. 分解された組織が消滅。この段階から2時間6分以内に、生体組織は完全消滅する。

とまあ、散々なことになる。
消えた組織はどこに行ったんだ、という部分についてはこのガスと同じものになったのでは? という話もあるが、先にも述べたとおり情報が少なすぎて実証できていない。

まあ、こんなもんが地球上に流れ出たら一大事ってレベルじゃすまない。不幸中の幸い、このガスは地球の大気と毒性以外の性質はだいたい同じなので、現在の収容プロトコルによってサイト内で完封されている。
ただ、ポータルから吹き出してくる分が全く止められないので、容器に入れて格納、その容器の置き場所を確保するためにサイトの拡張工事が必要、という話である。
宇宙空間に捨てればいいような気もするが、カバーストーリーの適用が困難な上に予算が足りないだろう。オブジェクトはこれだけではないことだし。


補遺

さて、財団も収容プロトコルを実行しているからと言って眺めているだけでは当然ない。
このガスが来ているだろう、ポータルの向こうの空間を探査することが決定した。しかし、如何せんポータルはたった3.14ミリメートル。これでは探査機なぞ入れるわけがない。超小型の無線探査機ならばどうだ、となったが、ポータルが時間異常の産物であるためか、通信が途絶して制御不能になるか、ガスの噴出圧力に阻まれてそもそも入れないか、であった。

というわけで、色々な機能を追加した特殊ワイヤーカメラによる探査が行われた。
ログは以下。ちなみに探査開始を00:00とし、分単位で記録する。

  • 00:00
ワイヤーカメラがポータルに接近。ガスの風圧と噴出音が記録される。

  • 00:01 
先端部がポータルに接触、通過し異空間へと突入する。通過の直後に風の音は止み、気圧計が3270.88ヘクトパスカルを記録する。
基底現実の3倍以上という高気圧環境である。

  • 00:03 
映像の鮮明化処理が完了。異空間内は高密度のガスのためか大気が茶色がかっており、常に降下してくる砂塵のようなものが画面中を覆い尽くしている。この砂塵をサンプルaと分類し、採取する。

  • 00:08 
地表の存在を確認。砂塵と同じ物質により構成されているものと思われる。この土壌をサンプルbに分類し採取する。
少なくとも何もない空間ではなかったらしい。

  • 00:31 
「砂嵐」のおかげで視界不良は著しい。これではまともに周囲が探れない、ということで探査限界範囲の縮小が決定される。

  • 00:38 
上空に光源の存在を確認。規模と推定光量から、何らかの恒星であると思われる。

  • 00:52 
人工的な造形物を発見。原始的な筆記用具であると思われる。サイズのため回収は断念。
ワイヤーカメラでは無理もない。

  • 01:24 
再び人工的な造形物を発見。プラスチックに似た質感を持つ3cm×5cmほどの平面板であり、掠れて判読出来ないが黒い印字のような痕跡が認められる。サイズのため回収は断念。
知的生物がいた、つまり生物が生息できる環境「だった」ことが推定される。

  • 01:47 
岩石を発見。確証は無いものの、風化の進行した何らかの人工物であると思われる。
この断片をサンプルcと分類し採取する。

  • 01:55 
01:47で発見したものと同種のものと思われる岩石によって構成された、岩石群地帯を発見。進入する。映像解析により、発見された岩石の大きさは、最大のもので2.3m×3.1m×5.3mであった。ビルか何かだろうか?

  • 02:13 
ポータルから450mの地点で巨大な人工物の影を確認。詳細は砂塵のため確認出来ず。
映像解析により、影は10.7m×15.3m×20.3mの直方体であり、何らかの建築物である可能性が指摘される。

  • 02:14 
巨大な人工物の影へ接近を開始。

  • 02:31 
探査距離限界。
砂塵のため人工物の影の詳細は確認できなかった。距離限界地点周辺の集中的な探査を開始。

  • 02:34 
人工物の影を中心として、放射状に岩石群が存在している可能性が指摘される。また、人工物の影に近い地点ほど、岩石群の岩石のサイズは大きくなっている。

  • 02:57 
人工的に製造されたと思われる繊維の塊を発見。復元可能な印字の痕跡が認められたため、採取。
マイクロクリップアームでワイヤー先端部に固定した後、ワイヤーごと回収。これはサンプルdに分類。

というわけで最初の探査は終了。
ところが、最初に採取した砂塵と土壌のサンプルは容器内で消滅してしまった。次の探査では採取したらその場で検査を行うことが決定されたが、参加者の一人は、これがガスの曝露者の段階5と同じものではないか? と推測。
次の探査実験におけるワイヤーの伸長と探査範囲の拡大を要請したが、強度や耐圧措置にも限界があるためこれは却下され、同じ範囲でもう一度行うことになった。

で、今度はもっと色々な装置を付け加えて二度目の探査を行ったわけだが……。



探査結果

二度目の探査実験において、まずあの空間には引力があることが確認され、さらに大気成分の比率と土壌成分の比率については十分にデータが集まった。
しかし、土壌には分子結合が切り離された、要は崩壊状態のアミノ酸が大量に含まれていた。これはその状態から、曝露者の段階5と同じものであることが有力視されている。
さらに降りしきる砂塵も全く同様の物質であったことから、崩壊した生体組織が例のガス状になる→空気より軽いので上に上がる→凝集して重くなり、地上に降ってくる→降り積もって土壌になる→また崩壊してガスになって上がる……というサイクルを繰り返している、という仮説が立てられた。

さらにこの空間は異常な高気圧環境でありながら、引力については異常がなかったため、何らかの地球規模の惑星表面であることが示された。加えて磁気調査の結果は地球と同等、同様であった。
これに並行して極秘に行われた天体観測と地磁気を介した年代計測、そしてサンプルcとdの検査結果、さらにポータルが時間異常によって出現したことを踏まえ、導き出された結論は、ポータルの向こうに広がっているのは、西暦2700年代の地球であるというものだった。
XK-クラス:世界終焉シナリオ、その果ての未来がそこにあったのだ。

しかもそのように仮定した場合、例のガスの性質と高気圧環境から推測して、地球の引力圏を三回埋め尽くせる規模でガスが存在している恐れがある。再三言っているように得られた情報が少なすぎるため、「例の空間は地球と同等の存在であり」「引力圏全てが同じ環境に置かれている」という二つの仮定が前提となる。
何しろポータルから500メートル弱の範囲しか調べられていないのだから、何を言っても推論の域を出ない。


だが、継続観察が続いてもなお環境内に変化がないこと、有機的存在……つまり植物を含む生物の存在が確認できないこと、これらを見れば希望的観測の余地は絶無である。これにより、財団はSCP-800-JPをKeterクラスに認定。

現在、ポータルの一時拡張による本格的探査を含め、無効化の手段が模索されている。


サンプルの解析結果

ところで、どうやらポータルがあるのは向こう側の日本らしい。
というのは、普通のコンクリートだったサンプルcではなく、繊維の塊だったサンプルdの検査結果が示していた。
この表面に記されていた文字は日本語であり、市販の黒インクと同様のもので書かれていた。
復元できた内容は以下。


――る――穴――死な――――いた人為浄―――最後 希望――排気口


お分かりだろうか?

「穴」そして「排気口」。
恐らくあの世界は、「穴」から噴出した強毒ガスによって全ての生物が滅んでしまった。
それでも耐性を持った誰かが生き残り、人為的な浄化の手段を試したがこれは失敗。最後の希望として、別の世界に通じるポータルを開けてそこからガスを排気しようとしたのだ。
だが、それは遅かった。ポータルが空いたのは全てが滅んだその後のこと。


それに、「穴」の単語からするに、恐らくガスの出所はあの世界ではなく、さらにまた別の世界だと思われる。
収容して収容して収容しきれなくなって収容違反が起きて、排気口からひたすら吹き出し続けて結果滅亡。
こんなトンデモガス、一体どこの世界で、なぜ、どうやって生まれたのだろうか?


頑張れSCP財団、基底現実の未来は君たちにかかっている。



追記・修正はXK-クラス:世界終焉シナリオを生き残ってからお願いします。


CC BY-SA 3.0に基づく表示

SCP-800-JP- 排気口
by Waterfire
http://ja.scp-wiki.net/scp-800-jp

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