登録日:2012/04/21 Sat 13:46:43
更新日:2020/08/10 Mon 18:08:29
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男の上に股がる、まだ女らしい発達もしていない幼い女が蠢く。
男「おまえは声をださないんだな。おまえの声を聞かせてくれよ」
僅かの間。
そして少女は『暗唱』し始めた。
渉猟子(しょうりょうし)の愛、とは
鬼頭莫宏の短編集(仮)、殻都市の夢の第七話であり、物語を締めくくる語り部の物語。
渉猟子とは、金持ちの道楽としてつくられる生きた書庫であり、通常百万冊程度の本を暗唱すると言われている。
好事家の間では、渉猟子同士の朗読のさせあい(鳴き合わせ)なども行われ、朗読の優れているものはより法外な値段で取引される。
以下、内容
その娘は愛玩具として男のかわれたものだった。
だが突如暗唱を始めた娘に驚いた男が管理官の許へと持ち込んだ。
娘が暗唱した本はこの都市では発禁本にしていされているものであった。
娘がいったい何冊の禁制の本を所蔵しているのかわからない。所蔵数が多すぎて確認しようもない。
仮にこの娘の声帯を処置しても文字として書き起こせる可能性が残る。
そして検討された処理の候補が『焚書処分』……つまり、死刑だった。
話を聞いた男管理官と女管理官は娘の処遇に関して見識を持っている可能性のある人間と話す。
娘の蔵書を無害なものにするには、娘の書庫から引き出されることの少ない本を記憶の底へ追いやり、そして新しく覚える本に置き換えること。
キャパシティ限界まで新しい本を覚えれば、今までに娘が所蔵した問題のある本もそうでない本も書庫から廃棄される。
娘と男管理官、女管理官の三人は汗牛充棟に隔離され、そこにある膨大な蔵書を順に娘に上書きしていく。
古い記憶を底の方へ追いやっていく。
古い都市を底の方へ埋めていく、まるでこの都市のように。
そんな日々が続くなか、ある日無表情だった娘が管理官二人に微笑み、そして自発的に朗いだした。
女管「自発的に朗い出した……」
男管「オレ達のため?」
女管「……ねえ、古い記憶は本当になくなっていくのかしらね」
男管「もしそれが本当に必要なものなら忘れないだろ」
老若男女様々な人々の視線の先には、深くフードを被った人間が座っている。
そして、その人間が口を開いた。
これから話すのはいつか存在した、今ではその存在すら忘れられた都市
ひたすら上へ上へと積みあがっていった都市
目的もわからず
理由も定かではなく
その行為に没頭した都市
そんな都市の抱いた夢の残滓のこと
妻を想いすぎたあまりに彼女の過去まで独占しようとした男の話
死にゆく自分を三年間だけ救った男にそれでもなお感謝をした少女の話
死んでやっと妻へ伝えるべき言葉を得た男の話
ほれ薬を求めたために本当の自分の気持ちに疑いをもってしまった少年の話
人ならぬものを愛した男の話
触れられない少女達にしか関心を持てなかった男の話
そんな人々の物語
追記・修正は一万冊暗唱できるようになってからお願いします。
最終更新:2020年08月10日 18:08