名古屋鉄道7000系電車

登録日:2025/07/11 Fri 11:02:21
更新日:2025/07/14 Mon 00:20:08NEW!
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名古屋鉄道7000系は、名古屋鉄道が2009年まで保有していた鉄道車両である。
日本初の2階式前面展望を取り入れた車両であり、1962年のブルーリボン賞を受賞。
長期間にわたり名鉄の顔として活躍し「パノラマカー」の愛称で親しまれた。


開発前史

戦後、1950年代中盤ごろからモータリゼーションが進みつつあり、名鉄の運行範囲のほとんどがあり、トヨタ自動車のおひざ元でもある愛知県は、特にその影響が強かった。名鉄にとって、当時のライバルは道路交通であった。
名鉄ではすでに特別料金不要な列車としては戦後では初めて冷房を搭載した5500系が導入され、近郊鉄道としては大幅なサービスアップを心掛けていた。この冷房搭載は乗客にはかなり好評であった。
しかし、社内ではそれでは「夢も希望もない」「独創性に欠ける」とインパクトに欠ける施策であり、次の車両ではそのインパクトがある施策を盛り込んだ車両の開発が課題となっていた。また、同じく名古屋駅を発着する近鉄の特急車両である10100系「ビスタカー」がブルーリボン賞を受賞したこともあり、「名鉄初のブルーリボン賞をとれる車両」という期待も背負うことになった。
そこで、イタリア国鉄ETR300形「セッテベッロ」やカナダを走る観光鉄道「ゴールデンキャリオット」などに着想を得た、今までの後面展望が過ぎ去っていくもの、「過去」しか見られないものに対し前面のこれから来るものが見られる、すなわち「未来」が見える電車をテーマに、開発が始まった。
余談だが、「セッテベッロ」は名鉄7000系と前後して開発されていた、国鉄の151系電車や小田急3100形のデザインにも影響を与えている。さらに、このセッテベッロをモチーフにした3形式はいずれもブルーリボン賞を受賞している。
同形式を表す「パノラマカー」の通称は、開発・製造途中での雑誌の取材を受けた際に「パノラマ展望車」と社員が答えたものが、マスメディアで「パノラマカー」と表記され、これが広まったことにより、名鉄でも公式の愛称として使われるようになった。

車両概説

1961年から1975年まで、後述する派生形式の製造を挟みつつ、断続的に92両が増備された。
先頭部分は運転室を2階、客室を1階とする2階建て構造で、平面ガラスを複数枚使用して前面180°の展望を可能とした。客室前面窓下と窓上に前照灯を2つずつ搭載し、窓下のものはライトの旋回機能および、赤色の透明フィルターを展開することによる後部灯としての機能も搭載している。
さらに、客室前面窓下の前照灯のすぐ横には、オイルダンパーが搭載されている。1950年代後期、名鉄は踏切事故に悩まされ、1958年末の踏切事故では火災に発展し、多くの死傷者が発生する大惨事に至っていた。そのため、7000系の開発に関して反対する声も社内で上がっていたが、衝撃吸収装置としてオイルダンパーを搭載することで反対の声を抑えた。「80km/h走行時にダンプカーに衝突しても何ともない」とされる程度の能力と計算されていた。1961年11月、運用開始から半年程度の時期に踏切を無視して侵入したダンプカーと7000系の衝突事故が発生した。ダンプカーは40mも引きずられるレベルの事故であったが、このオイルダンパーの効果も相まって車体は側面窓が多少割れた以外は無事、乗客も窓割れによる軽傷者8名程度に事故を抑え、ダンプカーの乗員にも死傷者を出さなかった。この事故でほぼ無傷だった7000系は地元紙に「ダンプキラー」と報道され、安全な車両であることを裏付けることになったが、名鉄社内では、当時まだ残っていた木造車や半鋼製車がパノラマカーと衝突する事故のほうが恐ろしいと想定されるほどであった。
客室前面窓上のライトの間には、前方直下を確認するための装置、通称「フロントアイ」が1967年以降搭載された。当初は前方死角12mだったのが、このフロントアイの装備により1mにまで大幅に縮まった。
客室前面窓下には、名古屋本線内特急に限定して運用されていた当初は「Phoenix」*1と書いてあるV字型のエンブレムが搭載されていたが、犬山線運用開始および急行以下の種別でも運用されるようになった1962年以降、逆さ富士型の行先・種別表示が取り付けられるようになった。この行先・種別表示は主導でめくって変える方式が当初採用されていたが、電動幕式の方式が後期に製造された車両で採用された。
側面は連続窓が採用され、前も横もまさに「パノラマ」の名前にふさわしい、眺望性へのこだわりが見受けられる。
塗装は名鉄で初めてスカーレットの塗装が採用された。当初は若草色の案も出されていたが、視認性の高さより、スカーレットが採用され、既存車両や7000系以降に登場した車両もこれに追従する形でスカーレット1色の塗装が採用された。なお、1984年の8800系「パノラマDX」登場以降はスカーレット1色ではない車両が増えているが、2025年7月現在でも、2000系「ミュースカイ」を除いて名鉄の車両のテーマカラーはスカーレットであることを貫いている。
また、この車両はミュージックホーンを名鉄で初めて採用した車両であり、こちらも2025年7月時点で現役の1200系・2000系・2200系の特急車両、電気機関車EL120に搭載されている*2
足回りは5500系電車のものをベースにしている。
2両単位での編成を組むことができ、2両編成から10両編成まで組まれたことがある。ただし、10両編成での営業運転は行われていない。基本的に4両編成、または6両編成で運行されていた。1967年~68年には短期間のみであるが、8両編成を組んだこともある。

乗客には非常に好評であったが、1970年代には利用客数が大幅に増加し、片側2扉の本形式では混雑に対処しきれず、7000系の増備は終了し、1976年以降、急行以下の運用向けの車両は3扉の6000系の量産が始まった。

沿革

ここでは主に7000系自体の沿革について解説する。派生形式や改造形式は登場時期のみ記す。
  • 1961年4月22日 神宮前駅にて報道公開。
  • 同年6月1日 豊橋~新岐阜間の特急列車として運行開始。
  • 同年9月 10両編成に組成し、宣伝映画「ぼくらの特急」を撮影。
  • 1962年5月26日 ブルーリボン賞受賞。
  • 1962年6月25日 犬山線での運用開始。
  • 1963年5月26日 2両編成に組成して団体臨時列車を運転。
  • 1963年12月 7500系登場。
  • 1967年3月 7000系増備再開。
  • 1971年10月 7300系登場。
  • 1973年 4両編成の編成間併結運転開始、7700系登場。
  • 1975年 中間車12両増備。これが最後の製造グループとなる。
  • 1977年3月20日 特急列車の全車指定席化、および原則として特急運用は7000系列へ統一。
  • 1982年 特急専用車両「白帯車」へのグレードアップ改造編成登場。
  • 1984年 8800系「パノラマDX」登場、一部編成は8800系へ機器供出に伴い廃車、余剰車が7100系へ改造。
  • 1986年 第2次グレードアップ改造および白帯車増備。
  • 1988年 1000系「パノラマsuper」登場、白帯車の一部は一般車両へ格下げ。
  • 1990年 一部特別車特急運転開始。1200系登場までの間、1000系と7000系列の連結が行われるように。
  • 1998年 この時期より廃車が本格化。
  • 1999年5月10日 1600系登場に伴い、白帯車消滅。一部は一般車両へ格下げとなった以外は廃車。
  • 2008年12月26日 定期運用終了。
  • 2009年8月30日 臨時列車を含め、営業運転終了。

派生形式

本項目では、7500系、7300系、7700系、7100系に関して解説する。

7500系

7000系の改良型であり、1963年から1970年までに72両が製造された。
低床化が行われ、前面客室窓と側面窓の高さが一致するようになった。
この低床化に伴い、制御方式は他励界磁制御を採用し、回生ブレーキや定速制御機能を実現した。
しかしこの結果、当時の7000系含むSR車と呼ばれた新性能車両とは制御面での互換性がない他、6000系列の登場後は6両編成や8両固定編成が日中では長く、ラッシュアワーの2扉クロスシートでは輸送力が足りないと中途半端な存在になっていた。
1992年に一部編成が後述する「パノラマsuper」車両に機器を流用。
2005年の中部国際空港開業に合わせ、他形式の床面高さに合わせてホームのかさ上げを行う事が決まり、空港線は既にその高さに合わせていた為、2005年8月に引退。

7300系

1971年に登場した前面は貫通型先頭車の釣りかけ駆動車両の足回りを流用した車両であり、2両編成9本と4両編成3本が存在。
支線での特急列車として改造され、車体だけは他の7000系列と共通している為、5000系・5200系とは異なり冷房がある事によるサービスアップに貢献。
また同世代~後輩世代としか連結できない7000系や7700系と異なり*3、構造上釣りかけ駆動世代の車種(AL車)とも併結でき為、彼らの運用がまだたくさん残っていた登場当時は特急運用以外でも重用された。
名鉄では1997年4月まで活躍し、同年7月にはグループ会社の豊橋鉄道の渥美線に向けて譲渡された。
しかし豊橋鉄道では名鉄とは異なる路線条件であり、90年代時点で時代遅れも甚だしい車両性能や2扉・クロスシートという設備の問題から、ダイヤを乱しやすい要因となり、2002年までに元東急7200系の1800系によって置き換えられるという結末になった。
奇しくも四半世紀前と同じように、東急車の導入による混雑問題の解決が図られた。
愛知県外に保存車が点在している。

7700系

7300系と車体は同じだが、足回りは本家7000系と同じ。
1973年に導入され、2両編成4本と4両編成4本が存在した。
要するに、「先頭が展望車じゃないパノラマカー」である。
2001年にワンマン運転対応改造を受け、7000系よりも遅く2010年の3月まで営業運転が行われた。
7000系列では最後まで活躍した車両であった。

7100系

1984年に7000系の4両編成化とパノラマDXへの機器供出に伴い、抜き取られた1975年製の最終増備中間車4両(乗降扉が両開きの車両)を抜き取り、うち2両に6000系と同一仕様の運転台を設置する先頭車化改造を施した車両。
運用面では実質7700系の増備車と言っても差し支えない扱いであった。
1987年に2両化、2001年にワンマン運転改造を受け、2009年11月に引退した。

機器流用形式

名古屋鉄道では新型車両を製造する際、諸事情により機器を流用する形式が存在する。スター的存在であった7000系・7500系も、後発の特急用車両に機器を流用した。

  • 8800系
1984年に登場した特急列車で、愛称「パノラマDX」。
7000系の走行機器が流用された*4
コンパートメント席が主体の観光特急として製造されたが、バブル崩壊直後の1992年に1編成を残して中間車が2人掛けシートの座席に変更された。
3両で全車特別車ゆえ、支線方面の特急に重宝された事で「いかにもバブルの頃を前提とした車種」としてはかなり長生きはしたものの、7000系の足回りそのものであった為、120km/h走行に対応できず、中部国際空港開業に伴う2005年1月ダイヤ改正と共に引退した。

  • 1030・1230系・1850系
1000・1200・1800系の「パノラマsuper」車両のうち、1992年に7500系の走行機器を流用して製造された車両。
1030・1230系は一部特別車の6両編成、1850系はパノラマスーパーの付属編成となる2両編成の一般車。
7500系時代は他形式との併結互換性がなかったが、この系列は1000・1200系や1800系、1000系を通勤型に改造した5000系と併結互換性がある。
パノラマsuper」のリニューアル工事の対象から外れ、2019年3月までに引退。

  • 1380系
上述の1030・1230系のうち、第4編成が2002年の線路内侵入自動車*5との衝突事故で、特別車2両が使い物にならなくなり、残った一般車だけを改造する事で「非特急車の4両」として編成を組んだ車両。
こちらは「パノラマsuper」の7000系機器流用組よりも短く、2015年9月まで運用された。
最後の全身スカーレット塗装をまとって誕生した形式である。
侵入自動車の運転士がスリランカ国籍であった為、同形式は「スリランカ号」とブラックジョークじみた愛称がついている。

保存車

  • 舞木検査場
2008年12月より、最初の編成の先頭車であった7001号車、7002号車が保存されている。
7001号車には「Phoenix」のエンブレムが取り付けられ、フロントアイが撤去される等、デビュー当時の姿に近い状態にされている。
同検査場の開放イベントが時折行われる為、その時にはぜひとも見ておきたい。

  • 中京競馬場
2002年8月より7028Fが静態保存。
2012年にリニューアル工事が行われた。
競馬開催日や場外馬券販売日に車内が運転台を含めて入る事が可能であり、運転台にてミュージックホーンを鳴らす事もできる。
外観は白帯車風であり、リニューアル前は中間車両にて軽食が販売されていた。
中京競馬場で開催される「名鉄杯」では名鉄のミュージックホーンを模したファンファーレが開始前に演奏される他、TV中継では1000系全車特別車編成と共に7000系が走る特別ロゴが使用される。
GⅠ・JpnⅠ指定を貰えているケース*6だと固有のレース名ロゴ演出があるのは珍しくないが、オープン格付け(非重賞)のレースで行われるのは非常に珍しい。

余談

  • 7000系列の通称である「パノラマカー」は名古屋鉄道の登録商標である。

  • 7500系開発後、パノラマカーの3代目として「客室前面窓を上部まで拡大した車両」が計画された。計画は実現しなかったが、1980年代に8800系「パノラマDX」や1000系「パノラマスーパー」で運転台との位置関係を変えるハイデッカー方式で実質実現させた。
    この際にはいろいろと奇抜なアイデアも検討されていたようであり、名鉄車内にはこの時に試験的に模型が起こされた「展望ラウンジドームが屋根に生えているパノラマカー」が保管されている。それはそれで乗ったら面白そうではある

関連作品

  • 電車でGO!名古屋鉄道編:2000年発売のゲーム。7000系による急行御嵩行きを新名古屋(現:名鉄名古屋)駅から岩倉駅まで運転可能。ダイヤは易しめの難易度設定にされている。また、前面の風景が他形式運転時よりも視点が高くなるように設定されており、7000系の運転席の位置も再現されている。

  • プラレール:タカラトミー(旧トミー)から発売されている玩具。1981年から1989年に通常ラインナップとして発売。1989年に1000系の「パノラマスーパー」と交換になる形で通常ラインナップから外れるも、2003年10月にクオリティアップの上で白帯車が、2005年に通常仕様が「名古屋鉄道スペシャルセット」に収録されている。後にそれの単品やプラレールアドバンスも発売されている。

  • 僕は友達が少ない:同作は岐阜県岐阜市を舞台にしている。アニメ版第10話にて、7000系が描写されたシーンがあり、鉄道と道路が併用されていたころの犬山橋を渡るシーンもある。

  • オマケ・ウマ娘 プリティーダービー:アプリ版の中京レース場(中京競馬場)のモデリングには7000系の展示スペースもしっかり作られており、レースロゴが出る際の「引き」の画面で確認可能。
    一方で名鉄持ちの権利に関する事情、ゲームバランス上OP格付けレースを走ることがほとんどないなどの事情からか、名鉄杯は実装されているものの、上述したスペシャルレース名ロゴや特殊ファンファーレは再現されていない。


追記・修正は名古屋鉄道に新たなパノラマ車両が登場することを祈っている人にお願いします。

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最終更新:2025年07月14日 00:20

*1 踏切事故にあっても無事であるように、という意味を込められていた。

*2 過去には瀬戸線用特急車、キハ8000、8800系、1000系、1600/1700系にも搭載。1600系以降音色がトランペットタイプとなっている。

*3 実際にこれらは基本的には「同形式同士を併結して長くする」限定で、現在臨時列車で稀にみられる2000系ミュースカイ+9500系のような他形式と併結しての運用はほぼなかった。

*4 冷房装置は瀬戸線の6600系の冷房化改造に使用された。

*5 踏切内で停まったのではなく文字通り軌道内に侵入した。

*6 中京開催のものだと高松宮記念、チャンピオンズカップが該当