放射線

登録日:2011/04/24(日) 15:53:53
更新日:2025/05/05 Mon 22:21:47
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放射線

放射線とは何かあるとよく話題になるアレである。
しかし怖いよなぁ放射線……日本どうなるんだろう?


とお思いの諸兄も多いだろう。
だが、放射線とは何か、よく分からないまま嫌うのは得策ではない。
なので、この項目で、可能な限り平易に説明することにする。



☆そもそも放射線って?☆


放射線を発見したのはマリー・キュリー。 キュリー夫人 としてその名を知る方も多いだろう*1

元々は、原子核が崩壊するときに出るアルファ線・ベータ線・ガンマ線(以下「御三家」とする)が放射線とされていた。
現在では、一般的に高エネルギーの粒子線・電磁波のことを指すようになっており、御三家の他にいくつか加えられている。


  • アルファ線
陽子2個と中性子2個の粒子線。要するにヘリウム4の原子核。
放射線としての強さは御三家最強。
ただし、あまりに反応性が高いこと、原子核だけに粒子自体も大きいことから、紙一枚、空気数cmで防げる。


  • ベータ線
こちらは威力の高い電子。放射線としての強さは御三家だと真ん中。
反応性はそこそこ高く、大きさは点。ただし、電子に体積が存在するか否かについては、現在でも議論の対象になっている。
アルファ線ほどではないが反応性は高く、アルミ板くらいで防げる。もちろんある程度の厚さの空気でもおk。
ただし、遮蔽するときに後述するX線が出るから、これも注意。


  • ガンマ線
波長が10pm(0.01nm)以下の電磁波。
放射線としての強さは御三家最弱だが、代わりにモノを透過する力は御三家で最高。
防ぎたいなら10cmの鉛板を用意すること。


以上、御三家は全部原子核の崩壊で発生する放射線。
ここからは後に放射線に数えられたものを述べる。


  • 中性子線
名前の通り中性子。
反応性が低いから防ぐには分厚いコンクリートが必要で、粒子そのモノも重いから威力もそれなり。
ベータ線とガンマ線をいいとこ取りしたかのような特性を持つ、かなり厄介な放射線。
原爆や原子炉の反応に利用されている*2。もちろんウラン絡みじゃないところでも平和利用されてるけど。


  • 荷電粒子線
他では細分化して呼ばれたり色々呼び方が違うが、ここではまとめて荷電粒子線で紹介する。
陽子や電子といった、電気的に偏りのある粒子線のこと。
不安定な重い粒子なんかを使って、重粒子線とかも作ったりする。大体は加速器なんかを使って加速して作る。さしずめ、人工の放射線というところ。
ちなみに、電子線とベータ線は、その発生源で区別する。

まぁ、要は荷電粒子砲から発射してるやつである。


  • X線
おそらく一番有名な放射線。1~10pmの波長の電磁波のこと。
ただ、ガンマ線との波長の違いは割と微妙。実際の区別はこれも発生源によっている*3


  • 宇宙線
宇宙から飛んでくる放射線。
発生源は銀河系のどこか。超新星爆発で発生する、高速で吹き飛ぶ残骸でできた衝撃波で加速されていると言われる。
エネルギーの幅ははっきり言ってピンキリ。弱い宇宙線なら四六時中、今この項目を読んでる間にも浴びている

た だ し

強いモノは文字通り桁違いの強さ。
現在人類が作り出せる粒子線のエネルギーは1.6×10の-2乗ジュールくらい。
それに比べて宇宙線の最大エネルギーは1.6×10ジュール!!実に1000倍にもなるのだ。

なお、正確にはジュールではなく 電子ボルト(eV) という単位を使う。
ただ、馴染みが薄いと思われる上、実際に電子ボルトで表記すると桁が大きくなりすぎるため、ここではジュールに換算した。

☆放射線を見てみよう☆


と書いといて何だが、放射線そのものを見るのはぶっちゃけ 無理

その代わり、放射線がもたらす作用に着目して、その飛跡を確認することはできる。
原始的なものでは『霧箱』が有名だろうか。この装置では、太短いアルファ線、細長くてよく曲がるベータ線、細長くて直進するガンマ線という形で観察できる。

☆放射線はどう表すの?☆


放射線を理解するのに重要なことなので、本題に入る前にここまで説明させてほしい。

  • 吸収線量
単位はGy(グレイ)。SI基本単位に直すとJ/kg。
『1kgの物質がどれだけ放射線によるエネルギーを吸収したか』を示す。

  • ベクレル
単位は/s。
『1秒間にどれだけの原子核が崩壊したか』を示す。
放射能の単位である。
重要なこととして、放射能は放射性物質を出す 能力 を表す。
よって、放射能は「 持つ 」「 持たない 」で説明する。放射能は出たり飛んだりしない

  • 等価線量
単位はSv(シーベルト)。SI基本単位に直すとJ/kgで、吸収線量と同じになる。
違いは、吸収線量は『物質』としての値で、等価線量は『生体組織』としての値であること。
生体組織が放射線を浴びることによる吸収線量に、放射線の種類に応じた係数を掛けて求める。
例えば、ガンマ線・ベータ線は1、アルファ線は20*4

  • 実効線量
単位は等価線量と同じSv。
上で求めた等価線量に、さらに放射線を浴びた臓器に応じた係数をそれぞれ掛け、これらを合計して求める。
すなわち、『ヒト1人』に対する被曝量の評価となる。
係数は、骨髄や肺なら0.12、皮膚なら0.01など、全身での合計が1となるように割り振られている。

他に、毎時シーベルト(Sv/h)という単位が使われることもある。
これは、『1時間そのまま居るとそれだけの放射線を被曝する』ということ。


☆結局放射線って怖いの?☆


ここまでの前提を踏まえて、見て欲しいデータがある。

6.9mSv
4mSv
2.4mSv
2.1mSv

その内容は

1回のCTスキャン
1回の胃のX線撮影
人が自然環境から受ける放射線の世界平均
人が自然環境から受ける放射線の日本平均

での被曝量を指す。
もうひとつ

10~50mSv

これは、日本国原子力安全委員会の指針で、一般人の屋内退避の実効線量の予想線量。
50mSvになると退避すべきとされる。
なお、自衛隊、消防、警察が1年間に浴びて良い量は50mSv(妊娠可能な女子を除く*5)。また、5年間に浴びて良い量は100mSv*6
健康に被害が出ると証明された値の最低値が100mSv。

ただし医療用途や自然放射線と事故での露出の線量の単純比較はできない。
『毎時○μSvはCT○回分』という表現もよく見られるが、これを考えなしに信じ込むのもまた危険である。
よって、このデータをどう受けとめるかは個人の判断に任せる。
等価線量や実効線量による害は偶然性も絡むので、「○μSv以下なら100%安全」と断定することは不可能なのだから*7
「可能な限りリスクを抑える」ことが精一杯なのだ。

一方、7Gy(7000mSv)以上の大量被曝になると100%死亡する。
1999年、茨城県東海村のJCO臨海被爆事故で亡くなった作業員は15Sv……つまり、15000mSvも被曝している。

☆おわりに☆


確かに放射線は怖い。
原爆やチェルノブイリ、第五福竜丸の事件では被害者が出てるし、中には死んだ人もいる。
でも、放射線は常に浴びてるし、普通の水道水からも、人体からも出てる。

『放射線』だからといって、闇雲に嫌わないでほしい。
ちゃんと知識をつけ、状況を確認し、落ち着いた態度を取ってほしい。

放射能は相応に時間が経てば弱くなっていく。
時間はかかるかもしれないけど、二度と元に戻らないことなんてない。


他方、実際に放射線の被害に遭っている人には何の慰めにもならない。これもまた現実。
目に見えないし、音も感触も匂いも味もない。
それでいて、人を殺すこともある。

確かに放射線は怖いものなのだ。


だからこそ、なるべくきちんと理解する必要がある。
『放射線』という名前だけで怯まず、せめて「正しく」嫌ってほしい。


全くの余談だが、フレッシュプリキュア!の妖精であるシフォンは大量の放射線を浴びると死ぬらしい。
……妖精であろうがなかろうが、大量に放射線を浴びれば生き物は死ぬんだけど。





追記・修正は、放射線をよく理解して行いましょう。

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最終更新:2025年05月05日 22:21

*1 なお、夫のピエール・キュリーも高名な科学者である。

*2 中性子をぶつけて連鎖的に核分裂させる

*3 X線は電子のエネルギー変化などによって発生する

*4 国際放射線防護委員会2007年勧告より。後述する実効線量の係数も同様。

*5 「3か月間に浴びて良い量は5mSv」と読み替えよう。

*6 この行の数値は電離放射線障害防止規則に拠った。

*7 「確率的影響」という概念に含まれる。