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泉新一

登録日:2011/08/03(水) 01:50:44
更新日:2026/10/16 Fri 19:38:08
所要時間:約 ? 分で読めます







概要

漫画『寄生獣』の登場人物で主人公。

CV:島﨑信長(アニメ版)、梶裕貴(パチンコ版)、演:染谷将太


本作における主人公で、どこにでもいるような普通の高校生の少年。
イヤホンで音楽を聴いていた為、パラサイトに侵入されずに済み、更に腕に侵入したパラサイトをコードで腕をきつく縛る事で脳への侵入を阻止。
最初は普通の少年だったが、普通の高校生では考えられない血みどろの修羅場を幾度もくぐり抜け、同時に人間らしさを失っていく自分に苦悩する。
肉親を失い心臓を損傷後、後述のミギーの蘇生措置によりパラサイトの細胞と融合して命を繋いだ事で身体能力が異常に強化されていく。
逆にミギーが弱体化した事もあり、中盤からは「ミギーに防御を任せて、彼自身が寄生生物を殴り殺す」という動きを見せる。
しかし同時に大切な人を幾度となく目の前で奪われた経験も相まって、心身ともに人間とパラサイトが融合した中間のような存在と化していく。
世間では寄生生物のことは知られておらず、人類の為にも自分は名乗り出るべきではと考えるが、モルモットにされることを危惧するミギーと意見が対立する。
初めは前髪を下していたが、融合後はオールバックにしている。また性格も異常なまでに客観的且つ冷静なものに変貌。涙も出なくなる。
これは「胸の穴」と形容され、母のパラサイトに刺された胸の傷と母を失った事によるショックによるものと考えられる*1。
融合後は人間を片手で投げてコンクリの壁を破壊するほどの怪力と、助走なしで3mの壁を飛び越えられる跳躍力、オリンピック選手以上の俊足を発揮。
更に300m先の人物の特徴を読み取るほどの視力、広範囲・遠方の会話も聞き分けられる聴力、パラサイトの攻撃にも耐える強靭な肉体に変化した。
融合前の新一でさえ、圧倒的破壊力を誇るAを不意打ちとはいえ致命傷を与えるなど、「人」の部分をパラサイトとは別に動かせるアドバンテージを持つ。
その為、他のパラサイトと比べ総合戦闘力が高く、純粋な戦闘力で敗北したのは後述の最強生物・後藤のみ。
融合後は並のパラサイト相手なら多勢に無勢でも負けはしない。ただし肉体のエネルギー消耗が激しいのか、寄生前よりも大幅に食欲が増していく。
里美、加奈、宿の少女など多数の女子から好意を向けられるなど結構モテる。





― 発端 ―

登場時は高校三年生。その後大学受験に失敗し浪人生になる。
どこにでもいる高校生だったがパラサイト(ミギー)が右手に寄生したために数奇な運命に巻き込まれてしまう。

最初はミギーも人間の習慣を分かっていない事もあってお互い苦労するが、理性的なミギーのうまい口車もあってか上手く共存していくようになる。
しかし「パラサイトに寄生されたにもかかわらず人間の意識もある」という珍しい例であることで、パラサイトからは危険視される。
パラサイト同士は感知しあう影響から、存在を隠し通せず様々なパラサイトに出会い襲われるということになる。

学校に赴任してきた教師であり、パラサイトの中でも最も知性に長けた『田宮涼子』とは幾度も接触、珍しい例として興味を持たれる。
しかし同行していたAという好戦的なパラサイトに後に学校を襲撃され、初めてパラサイトを自分の手で倒した。*2
この事件と身籠っていた子の件の追及を避ける為、『田宮涼子』は失踪する。

様々な事件の中で些細な事から他校の生徒に絡まれたり、好意を抱いている村野との仲を深めていく。
同時に一気に色々なことに巻き込まれたせいか、精神的にも変化が出てくるようになる。
ミギーを隠す為に不自然な挙動が増え、そのことを母親に問い詰められていた。

それをノイローゼと見かねた夫が気分転換にと伊豆への旅行を誘ったことが不幸のはじまりとなった。


両親が夫婦水入らずの旅行に出ていた先で、人体部を損傷し「引っ越し」を急いでいたパラサイトに不運にも母親が目を付けられる。
そして父親の目の前で首をはねられ、パラサイトに身体を乗っ取られてしまった。
パラサイトと化した母親は目撃者である目の前の夫を殺そうとするが、夫は奇跡的に逃れ、新一に電話で事の経緯を連絡。

父親から告げられた話に動揺する新一の目の前に、目撃者の父親を始末しようと自宅に戻ってきた母親を乗っ取ったパラサイトと遭遇。

悪夢のような現実を受け入れられず、ミギーの制止や説得も虚しく、母親だったものに話しかけるも、当然聞く耳持たれず心臓を貫かれ致命傷を負う。
本来ならそのまま程無くして死ぬはずだったが、ミギーが新一の体内に潜り込んで一時的に心臓と一体化。
蘇生を行いながら損傷を修復したことにより一命を取り留めた。


この際、ミギーの体組織が心臓から拡散し、ミギーの細胞と新一の細胞が一体化して新一の体が強靭化し身体能力が異常なまでに向上。
目を覚ますと母親のパラサイトに次は父親が狙われると考え、急いで旅行先の伊豆を目指す。
道中で出会ったもう一人の例外、宇田と協力して母親の身体を奪ったパラサイトを始末した。(殺したのは宇田のパラサイトであるジョーで、宇田が「君が(母親だった存在を)殺すことはない」と気遣ってのことである)

― 異変 ―


旅から帰ってきた際にはオールバックになって目つきも鋭くなり、驚異的な身体能力と普通の人間の動きがスローに見えるほどの反射神経を得た。
その反面、どちらかというとパラサイト寄りになった精神、価値観の変化はその後の彼に多大な影響を及ぼしていく。
聴覚が鋭くなり、動物が助けを呼ぶ声が分かり、助けられない子犬を抱きかかえ死に寄り添う…その一方で死んでしまった後は子犬をゴミ箱に捨てた。

「もう死んだんだよ……死んだイヌはイヌじゃない イヌの形をした肉だ」

その異常なほどの感情の切り替えの早さから、村野からも距離を置かれるようになる。
また、ミギーが変異する範囲が肘から先に限定された上、一日のうち連続して4時間程度「冬眠」してしまうようになってしまった。
『睡眠』自体は今までも行われていたが、瞬時に起きて活動できるので待機時に行っていた。
しかし『冬眠』は強制で4時間全くミギーが機能しなくなる為、その時に襲われる事は死活問題であった。

ほどなくして学校に「島田」という怪しい生徒が転校してくる。
ミギーを介して瞬時にパラサイトと見抜いた新一に、島田は『田宮涼子』から『田村玲子』に名前と顔を変えた彼女から、新一達の監視役として送られたと告げる。
島田は人間を喰わないように順応できるか実験中だと言い、ミギーも島田は話が分かるやつだと判断するが、実際は街に出て顔を変えて人食いをしていた。
そんな島田に違和感を覚えたクラスメートの女子生徒が彼を観察、島田の正体に気付いてしまう。
彼女は真偽を確かめるべく島田を呼び出し問いただすも、島田は正体を知った彼女を始末しようと襲い掛かった。
だが護身用に持っていた強酸をパラサイト部分に浴びた事で細胞が意思統率を取れなくなり、暴走状態となって学校内を彷徨いながら生徒や教師を虐殺。

事情を知らない新一は村野を助ける為、顔見知りの生徒や教師の死屍累々の山を平然と乗り越え助け出すが、同時に異常事態に対する自分の違和感を自覚。
そして暴走状態にあった島田を、学校の屋上に誘き出し、向かいのビルからの投石で心臓を貫き始末した。

【異変】後から新一に興味を持ち接近してくる他校の女生徒(スケ番?)、「加奈」に付きまとわれるようになる。
彼女は一種の超能力者であり、パラサイトの出す信号を感知する能力を持っていた。
この能力を使って新一の存在を感じ取り、行く先々で新一の前に姿を現していたのだった。
それを知った新一は、いつか自分ではなく間違えてパラサイトに出会ってしまう事を危惧して、その能力を使わないように警告する。
しかし加奈はこれを「運命の赤い糸」と信じ込むようになり、能力を乱用。その結果、加奈は泉と勘違いして人喰い現場に遭遇。
加奈の救難信号を感じ取って現場に駆け付けた新一だったが、すんでのところで加奈はパラサイトに致命傷を負わされてしまう。

「…………ミギー ぼ…………防御たのむ……………」

加奈を刺したパラサイトの人体を、右腕……ではなく、ただの自分の左腕で腹をぶち抜き、成人男性を貫いたまま持ち上げ、壁に叩きつけて壁ごと粉砕した。

そして加奈の最期を看取り、彼女の葬式に参列、第一発見者だった新一に向かって加奈に惚れていたミツオが殴り掛かる。
しかし助けられなかった自分自身の無力さ、さらに母や加奈が死んでも全く涙が出ない自分に苛立ちミツオにやり返してしまう。
葬式からの帰り道、自身の変貌に焦燥した新一は近くにあった大きな木の幹に頭を何度も強く打ち付け、血を流した。

「血の色は……赤いな 一応は…」


たまたま街中で出会った占い師に胸の穴と同時に心にも穴が空いてる事を指摘されるも、「その人物ともう一度会え」という助言を受け、苦笑する。

「……その相手なら殺したよ」

しかしある意味ミギー以上に異端なパラサイト、『田村玲子』に奇しくもこの胸の穴を塞がれる事になる。

― 襲撃 ―


『田村玲子』の手によって、倉森という私立探偵が新一の身辺調査を開始する。
数々の数奇な事件に関わってきた新一に倉森は好奇心を抱き、その結果ミギーの存在を知られてしまう。
宇田・ジョーを呼び寄せ協力して倉森を捕え、警告し、倉森が人間だと思っている田村の正体も明かす。
倉森に「自分(新一)一人の犠牲で人類が助かるなら、自身の存在を明るみにすべきだ」と云われるが、ミギーの擁護?で事無きを得た。

しかし新一達の警告を無視し、倉森は今度は田村の身辺調査をはじめる。
その結果、田村の関係者「三木」を尾行していた倉森の手下が「食事場」で襲われてしまう。
倉森に助けに呼ばれた新一が彼と共に食事場に行くがもぬけの殻で、そこに獲物と一緒に『食事』に来た別のパラサイトが登場。
連れてこられた女性は助けられず死亡するが、パラサイトを撃退。しかしこれにより「広川一派」に二人は危険視されてしまう。

まず新一を始末する為に、複数寄生体の「三木」が送り込まれる。
しかも都合悪く『冬眠』の時間に入ってしまったミギーを連れて逃走。足が遅かった為、何とか逃れて車に乗せてもらい遠くに逃げる。
しかし三木もトラックの荷台に乗り込み後を追ってきており、結局追いつかれてしまうが、ここでようやくミギーが目を覚ます。
最初は複数体のパラサイトによる同時攻撃というアドバンテージで一方的に攻め続けるが、肉体の統率が下手なせいで人間体の運動性が致命的だった。
そのちぐはぐな肉体バランスの虚を突き、三木の撃退に成功。だがそこから後藤にバトンタッチした事で状況は一変。三木の本来の役割は後藤の右腕だったのだ。
複数体のパラサイトを完璧に扱う後藤の戦闘力に全く太刀打ちできずに辛くも逃走。次は自分の家を狙うと見込み、電話で父親を説得して家から避難させた。

一方、倉森は調査から撤退したが、広川一派が自宅を襲撃、偶然外出中だったため代わりに妻子を殺害されてしまう。
警察の事情聴取を受け、新一達の名前は伏せつつ新一から得たパラサイト・広川一味の情報を提供した。

パラサイト側でも一悶着があり、草野という組織の幹部が快く思わない『田村玲子』を粛清しようとする。
部下を従え三人のパラサイトで襲い掛かるが、田村の頭脳戦には全く通用せず、逆にこれを返り討ちにして組織を脱退した。


― 邂逅 ―


田村が拠点を移そうとしたところ、警察から脱走した倉森が田村の作った赤ん坊(普通の人間の赤子)を攫い、田村を呼び出す。
向かう途中で田村は新一の自宅に寄り、そこへ偶然電話してきた新一と会話、倉森が指定した場所に呼ぶ。
倉森は妻子の復讐の為、田村の目の前で赤ん坊を公園の高台から下の道に投げ落とそうとするが、それを阻止しようとした田村に殺された。
(尚、投げ落とそうとしたのは『ふり』であり本気ではなかった。)

倉森自身が高台から落ち、自分を探していた警察と接触、そして最期まで新一の身を案じ隠し通した。

「……彼は……人間です……私と同じ……小さな家族があり……そして奪われ……苦しんで……」

警察は落ちてきた高台に向かう。そこには連絡を受けた新一も訪れていた。
田村は今までの研究結果から、自分達が何者であるかの自分なりの見解、そして広川一派の内部情報などを新一に伝える。
しかし話の途中で警察が現れ、平間警部が新一と田村にパラサイトでないかの確認をする。*3

そして田村がパラサイトだと確信した平間警部の一発の銃弾により、田村の正体がバレてしまう。
しかし田村はパラサイトだが抱いている赤ん坊はただの人間の赤ん坊。そんな事は知らない警察は一斉射撃を始める。

唯一事情を知る新一は、必死に抱いている赤ん坊の事を警察に訴えかける。
田村は赤ん坊を守る為に寄生体のガードを広げ、その為に弾を避けられず人体部分にどんどんダメージを負っていく。
反撃しようとすればできるはずなのに、それをせず田村は新一の方に歩み寄っていく。それを理解できないミギーが新一に離れるよう指示する。

まて 新一……ここで逃げられては困る……
どうすればお前を……お前という人間の心を………!

…シンイチ……

赤ん坊を守りながら近づいてくる田村の顔は、亡くなった新一の母親のものになっていた。

新一「かあさん…」
ミギー「だまされるなシンイチ!罠だ!思い出せ!胸の穴を!」

新一「…………… いや…」

新一に当たってしまう距離まで近づいた為、警部が発砲を辞めさせ同時に様子が変であることにも気づく。


ずうっと考えていた…私は何のためにこの世に生まれてきたのかと…
一つの疑問が解けるとまた次の…疑問がわいてくる…
始まりを求め…終わりを求め…考えながら ただ ずっと 歩いていた…
何処まで行っても同じかもしれないし…歩くのを辞めてみるならそれもいい…
全ての終わりが告げられても…「ああ そうか」と思うだけだ
しかし…それでも今日…また一つ疑問の答えが出た
シンイチ この子供…結局使わなかった 何の変哲もない人間の子供だ…
人間達の手で 普通に育ててやってくれ…

…わかった

ありがとう…
(…ありがとう?)

…この前 人間の真似をして 鏡の前で大声で笑ってみた…
なかなか 気分が良かったぞ………

そして『田村玲子』は息絶えた。
刹那、銃撃の最中でも泣かなかったのに大声で泣きだす赤ん坊。
新一はその様を見ながら「お前の母さん…死んでしまったもんな」と、話しかけた。

あなたの胸に穴を開けた者にもう一度会うのよ

占い師の言葉が脳裏によぎる。
そして、亡くなった母親の思い出と共に、幻ではあるが無事に旅行から帰ってきた母の姿を見た。
「今…とても悲しい夢を…」

銃声を聞いて、一時は新一の事とは思いたくなくてその場を去ろうとするも、加奈の導きで駆け付けた村野が新一を呼ぶ。

全てを受け入れた新一は大粒の涙を流しながら、振り返った。

「…涙が…」

新一は田村の生き様を見て、母親を失った悲しみをきちんと受け入れる事、人間としての普通の感情を取り戻す事ができたのだった。

― 殲滅 ―

一連の事件の重要参考人として警察に保護されたシンイチは、ミギーの事は隠しつつもこれまでの事を説明した。
警察としては容疑もあったが、それ以上にパラサイト対策のために人間とパラサイトを見分けられる人間を探していた事もあり、不問としつつ協力を頼まれる。
そして呼ばれた市役所パラサイト掃討作戦で、連続凶悪殺人犯「浦上」と出会う事となる。
浦上も加奈とはまた違う能力ではあるがパラサイトかどうかを識別できるので、警察が協力させていたのだ。

その後、パラサイトととしての本性を表した最強生物「後藤」が自衛隊を返り討ちにし、シンイチは狙われる事になる。
一時撤退した後藤が再び襲ってくる前に、シンイチは父親を説得し家から離れさせ、村野に最後の別れを告げる。
夜が明けて家路につく途中で、ミギーが後藤が物凄いスピードで迫っているのを察知。
そのまま市街地で戦闘になる事を避け、田舎の山奥に誘い出すと車を転落させて直撃させる。
爆発炎上するが後藤には通用せず、森の中で交戦するも圧倒的な強さに完敗し追い詰められてしまう。

そこでミギーがシンイチをかばい右腕ごと自身をシンイチから切り離し、シンイチを逃がして後藤と戦う決意をする。
もちろん食い下がるが足手まといでしかない為、シンイチは泣きながら逃走、信号の消失でミギーを失った事を知る。

自暴自棄になりつつもミギーが身を挺して庇ってくれた命を捨てられず、田舎の村で暮らす老婆・美津代の庭先で水を飲もうとしたところを発見され保護される。
事情を問い質すことなく数日間自宅に匿ってくれた美津代に感謝しつつも、自分が近くに後藤を連れてきてしまったせいで村に被害が出始める。

その責任を取るために単独で後藤と戦う事を決め、美津代に止められるも決意を変えず、せめてもの武器として右利き用の鉈を借り受けた。
どうせ勝てまいと命を捨てる気で向かったのだが、右利き用の鉈が左手では使いづらい事、パラサイトも眠る事を思い出し少し冷静さを取り戻す。
ミギーとの戦いで消耗していた後藤は入山者を襲って喰い、完全に化け物の姿となって夜は眠って回復をしていたのだった。奇跡的に寝込みを襲うチャンスが巡ってきた。

シンイチは勝機があると実感し希望を見出す。だがそのせいでここに来て様々な考えを巡らせはじめたが為、悩んで判断が一瞬遅れた事が災いする。
眠っている後藤の首を目掛けて鉈を振り下ろしたのだが、その一瞬の差で後藤の頭部が目を覚まし、鉈が右手用だった事、サビていたせいもあり切断に失敗。
目を覚ました後藤に襲い掛かられ、森の中に逃走し藪に隠れた。だが後藤はパラサイトではないシンイチを闇夜で見つけ出す事が出来なかった。

考えてみれば単純な戦闘力ではシンイチに勝ち目はないが、シンイチも全身にパラサイト細胞が同化して並の人間より遥かに強く、探知能力も上で回避力もある。
加えてパラサイトにはいくつも弱点がある事を知っているのだから、ヤケにならずもっと計画を立てていれば……と後悔するも、時すでに遅し。
アドバンテージを捨て今ある手札で勝負するしかないと再度腹を括ったシンイチは、落ちている木を削り簡易的な木槍にすると木の上で待ち構えた。

後藤の硬質化した「鎧」は隙間がどこにあるか分からず、無敵の防御力を発揮するが、それは水平に見た場合。
真上から見れば硬質化できない柔らかい首から、食道や気管という確実な「穴」がある。
人間の肉体、特に内臓を維持する必要がある以上、それらの正常動作を妨げるような作りにはできないのだ。だからこそ鉈もある程度食い込んだ。
シンイチはその「穴」めがけて全体重を掛けた槍を突き立て、胴体を貫こうと考えた。

だが、その策には一つだけ見落としがあった。先制攻撃の鉈が首にそのまま残っていたのだ。
これに阻まれ狙いを咄嗟にずらそうとした一瞬の隙で後藤に感知され、槍を簡単に止められ投げ飛ばされてしまう。
イチかバチか後藤の中にいるミギーに呼び掛けたり、素手で殴りかかるも何も通じず意にも介されない。
挙句の果て、「人間同士の殴り合い」を模した一撃で殴り飛ばされ高く宙を舞い、ゴミの山に叩きつけられアバラと内臓を損傷、吐血し死を覚悟する。
そこに偶然だが不法投棄業者のトラックがパトカーに追い掛けられて、二人の近くまでやってきた。
目の前にいる無力な存在であるシンイチよりは興味をひいたのか、後藤は捕まった業者と警官のやり取りの方に注目している。
もう死を覚悟していたシンイチは全て終わったと考えていたが、走馬灯のような記憶が巡る最中に、とある違和感を見つける。
後藤が自衛隊を殲滅してから「少し疲れた」とその場を去った時、奴の脇腹の背中側についていた血の痕。

(…あの血…あの血はなんだ?…返り血がこびりついていただけなのか?)
(…あの血は「後藤」の血だったのか? ひょっとしてあれがミギーの言っていたプロテクターの「隙間」じゃないのか?)

ふと手元を見ると、ゴミの山からL字型に曲がった頑丈そうな一本の鉄の棒が飛び出ていた。恐らく鉄筋の芯だろう。

(この鉄の棒……先はどうなっている 尖っているだろうか……いや…何も尖ってなくたっていい……)
(この棒でプロテクターの「隙間」を突き刺す? そんな事ができるのか……?)

少しだけ首を起こし、鉄の棒を掴みながらシンイチは更に考える。

(今の「後藤」はあの時と体の形がだいぶ違う……同じ場所に「隙間」があるとどうして言える?)

(この棒だって使えるだろうか…ただの棒とは限らない。この先に大きな部品でもついていたらどうする?引き抜く事もできないじゃないか)


いつの間にかうつ伏せの体勢となり、鉄の棒をしっかりと握りしめる。


(第一「後藤」のスピードにかなうか? 今はそっぽ向いてても、こっちが起き上がればすぐに気づく……)


(いや、起き上がる前だ。それどころかもう次の瞬間かもしれない…)


(なんだ……ほとんど可能性ゼロに近いじゃないか!)



……………




…………………………


でもやらなけりゃ…………………………


確実な0(ゼロ)だ!!


次の瞬間


シンイチは神に祈った


引き抜かれた鉄の棒の先は何もなかった


一瞬遅れて後藤が反応する


シンイチの一撃はそれよりも早かった。



不意の一撃。後藤の脇腹の後ろ側、そこに鉄の棒が突き立てられる。入った!だが浅い。
すぐさま後藤の反撃がシンイチを襲う。しかしそれを身を翻して躱すと、刺さっていた鉄の棒めがけてダメ押しの蹴りを叩き込んだ。

鉄の棒は深々と後藤の体内に刺さる。その勢いのままゴミの山を転げ落ちたシンイチは、森の中に逃走した。

見下していた人間如きに一矢報いられた後藤は怒りに震え、鉄の棒を引き抜くとシンイチを追い掛ける。

もう夜が明けたのか森の中も明るくなり、隠れる事もできないシンイチは諦めたが、一矢報いた事に胸がすいていた。
自分なりにやれるだけのことはやった、その安堵の気持ちが心に幾ばくかの余裕を齎す。

すぐに怒りの塊と化した後藤が木々を薙ぎ倒しながら立ちはだかり、さっきの隙間への一撃はあてずっぽうかと尋ねる。
シンイチは前にそこに血がついているのを見たと正直に答え、後藤はたったそれだけに全てを掛けたのかと鼻で笑いながらも健闘を称え褒めた。
だがそれ以上にたった一匹の人間に傷を負わされた怒りは我慢ならず、刃を振りかざす後藤に今度こそシンイチは死を覚悟する。

しかし刃を振り下ろそうとした刹那……突然「三木」から後藤に交信が入り、何故か言う事を聞かず逆らい始め刃の動きが止まる。
仕方なく新しい刃を作り出すと、今度こそそれをシンイチ目掛けて振り下ろした。常人離れした反射神経を持つシンイチは、その軌道まではっきり見え、即死を悟った。


その時、何故かシンイチはいつの間にか右腕の残った部分を掲げあげていた。ミギーが寄生していた右腕の先…腕の先には………あまりに小さい「眼」が浮き出ていた。

後藤の振り下ろした刃はまるで右腕の先を狙ったかのように命中し、右腕の先側からは小さな肉の突起が伸びて刃を掴む。
次の瞬間、電撃のような眩い光が走ると刃を右腕の突起が絡め取り、後藤とシンイチがその『信号』に気が付いた。


!


ミ……ミギー……!?

ミギー!! ミギーだな!?

なんだ! やっぱりそこにいたのか!!

― 決断 ―


後藤の身体がバリバリと音をたてながら大きく引き裂かれ、割かれた肉がシンイチの右腕と同化する。ミギーだった。
シンイチはミギーとの再会に涙しながら喜び、後藤はただの肉片だったはずのミギーがなぜ逆らえたのか訳が分からなかった。
それどころか後藤の身体に融合していた他のパラサイト達まで、後藤の指示を聞かなくなる。

ミギー「すごい綱引きだな」

後藤が追撃を仕掛けるも、ミギーはそれを容易くいなす。

ミギー「無駄だ!形勢は逆転したのだ!こちら側(・・・・)に移動する際に重要器官をいくつか引き千切った、完全修復しなければ戦えはしない!」

後藤が悶え苦しむ姿を見てシンイチが驚くと、ミギーが「反乱だ」と答えた。
「統率者」以外の寄生細胞が本能的に危機を察知し、統率から逃げたがっている。いま「頭」と「それ以外」との間で壮絶な綱引きの真っ最中だという。
なぜそんな事になったのか不思議がるシンイチに、ミギーもまた不思議そうに尋ねた。

ミギー「君じゃないのか?奴の体内深くに毒物をねじり込んだのは」

綱引き状態のまま怒り狂って向かってくる後藤に、ミギーはほんのかすめるほどの切り傷を加えた。
その瞬間、後藤の身体は風船が破裂するように散り散りになり弾け飛んだのだった。

シンイチが突き立てた、不法投棄された燃えカスのゴミの山から引き抜いた鉄の棒。
それは猛毒の有機塩素化合物、恐らくはダイオキシン類が含まれている中に眠っていた。
不法投棄された産業廃棄物のおかげで助かったのだが、そんな物を平気で山に捨てていく事に驚くシンイチ。
ミギー「要するに……人間サマにゃかなわんてことさ」

複雑な表情を浮かべるシンイチに、ミギーが後藤が復活しそうなことを感知し戻れと叫ぶ。
弾け飛んだ事により体内の毒を放出する事に成功したらしく、「頭」が必死に招集をかけていた。
だがあまりに細かく飛び散った為、肉片達の反応は鈍く、復活の可能性は五分五分といったところだった。
ミギー曰く復活に成功すれば、多少パワーダウンはすれど生きている限り殺戮を求めるという。

シンイチはトドメを刺さないとと言うが、ミギーは乗り気ではなかった。後藤と一体化したミギーにとっては、後藤を殺すのは人間で言う「人殺し」という奴らしい。
結局、トドメを刺すかどうかはシンイチの判断に任せる事になった。

だが虫の息である後藤に対し、様々なパラサイトと出会って「人間」としての思慮を深めていったシンイチは、止めを刺す事に躊躇する。
植え付けられた本能に従い必死に生きているだけであり、人間とそれ以外の命の価値を誰が決めてくれるというのかと思い悩んだ。
正直言って必死に生き抜こうとしている生き物を殺したくはない。「殺したくない」…それこそが人間に残された最後の宝なのではないか。
そう思い至るとミギーに「確率が五分五分なら自分が決めるより天に任せたい」と言い、二人はその場を離れる事にした。

遠ざかりながら、ミギーがなんとなしにシンイチに質問する。

ミギー「シンイチ……君は地球を美しいと思うかい?」

シンイチ「……わからないよ…テレビとかできれいな景色を見た事あるけど」

ミギー「私は恥ずかしげもなく「地球の為に」と言う人間が嫌いだ……何故なら地球ははじめから泣きも笑いもしないからな。
    なにしろ地球で最初の生命体は煮えた硫化水素の中で生まれたんだそうだ」

それを聞いたシンイチは、自分が言った「天に任せる」という言葉を思い返し、後ろ暗い顔で振り返った。


俺はちっぽけな……一匹の人間だ せいぜい小さな家族を守る程度の……

鉈を手に、辛うじて口だけの「頭」がついた後藤のボディの前に立つ。「頭」は声にならない声で喘いだ。


……ごめんよ

きみは悪くなんかない…………でも……ごめんよ……………


シンイチは涙を流しながら謝りながら、鉈を振り下ろした。



美津代の家に借りていた右手用の鉈を無言で置いて、二人は朝焼けの町へと帰っていった。

― 右腕 ―

最強のパラサイト・後藤を倒し、パラサイト殲滅作戦からしばらくして、全国的にパラサイトの動きがほとんど感じられなくなった。
これは殲滅作戦の見せしめ効果と、パラサイト自身の人間社会への潜伏の為の「変化」が起こしたもの。そしてミギーもまた、「変化」の渦中にあった。

あの決戦からしばらく経ったある夜、シンイチの夢の中にミギーが現れ突然「お別れ」を告げに来たのだ。
混乱するシンイチに、ミギーは「いつ覚めるか分からない長期冬眠に入る」と説明する。ひょっとすると死ぬまで、つまり「ただの右手」に戻るということだった。
どうやら後藤の体内で経験した生命体験により内部構造が変化し、「ミギーのミギーによるミギーだけのミギーにとって未知の世界」を作り出せるようになったらしい。
だが膨大な情報量と慣れない並列思考もあり、外部情報をシャットアウトして今ある材料だけでやってみたいと言う。
受け入れがたいシンイチの心に、今までシンイチが見てきた死者……母親、加奈、倉森、クラスメイトなどが浮かびあがる。
だがどれもミギーが自分の「脳」で見ていた姿とは違うらしい。同じ構造の脳を持つはずの人間同士でさえ、お互い理解し合えるのはほとんど「点」でしかない。
そして夢から目が覚めたら、この夢のこともほとんど忘れてしまうだろうから、その時一緒に忘れられるだろうと言い残し、ミギーは去っていった。

目を覚ましたシンイチは、いつものように窓を明けて朝日を眺め、ベッドに座り一息つくと、両手を見てから顔を見上げ…


忘れるわけないだろう!!ばかやろう!!


「ただの右手」に怒鳴り、その別れに静かに悲しみに暮れるのだった。


ミギーに夢の中で一方的に別れを告げられてから、受験には落ちたが平穏な一年を過ごした。
大学生になった村野とは会う機会も減ったようだが、下の名前で呼び合う仲ではある様子。
しかし偶然街で浦上に出会ってしまった結果、村野が拉致されてしまう。
浦上は市役所で後藤を目にして恐怖のあまり逃走した後、同行していた自衛隊員が殺害されたため、隙を突いて刑事を殺害。
そのまま混乱のどさくさに紛れて逃走犯となっていたのだ。

浦上がシンイチの中に混ざっている「パラサイト」を呼び起こそうと村野を人質に取り、ビルの屋上で対峙。
浦上は「人間はもともとお互いを殺したがっている生き物のはずで、連続殺人犯の自分こそが人間として正直に生きている」と主張。
無関係な人まで殺され、村野に向けられたナイフに、シンイチは一時は怒りのままに一年前の感情に戻りかける。

だが、村野の精一杯の挑発と説得により正気を取り戻した。

「警察…呼んできてよ。こんなヤツにつきあってる必要はない。こんなヤツのどこが正常な人間よ!あんたこそ寄生生物以上のバケモンじゃない!!」

それに白けた浦上が村野をビルから突き落とし、助けようとしたシンイチを刺し殺そうとする。

シンイチはミギーがいた頃の鋭敏な感覚により浦上を返り討ちにし、そのまま村野を助けようと考えた。

助ける! 間に合うさ! そうともおれは脚が速い!
ただの人間じゃないんだ!ヤツの動きなんざ止まって見えるぞ!
左でナイフをはねあげそのままアゴを砕く! 同時に右で彼女を! 1秒もかからないさ!


だが、左腕に浦上のナイフが突き刺さった。一瞬何が起きたか分からず、強引に浦上の顔面を殴り砕く。

戦いの日々から遠のきミギーとの関わりも薄くなったが為か、反射神経や感覚に反し身体能力が間に合わず…

ほんの一瞬の差で、村野に手が届かなかった。


―――視界から、ゆっくりと落下していく村野が、消えた。

うわあああああっ!!


シンイチは自身の浅はかさ、過信、愚かさ、不運さを呪ってその現実に慟哭した。


泣きながらシンイチは、いつかの公園の犬のことを思い出していた。

ある日、道で出会って知り合いになった生き物が、ふと見ると死んでいた。
そんな時、なんで悲しくなるんだろう。


そりゃ人間がそれだけヒマな動物だからさ。
だがな、それこそが人間の最大の取り柄なんだ。

心に余裕(ヒマ)がある生物。何と素晴らしい!!


だからなあ………
いつまでもメソメソしてるんじゃない。


疲れるから自分で持ちな。



ミギーがそう言うと、目が覚めたシンイチは村野の腕を掴んでいた。
確かに手が届かないような距離まで落下していたはずの彼女の、その腕を……己の右腕で。
間に合うはずがない、なのに間に合った。シンイチは確信した、ミギーが自分の中で生きている事を。




人物像の変化

ミギーが徐々に人間の感情を理解していったのに対して、シンイチは人間的感情が徐々に失われていくという対比の描写になっている。

これは致命傷から復活した際に、ミギーの細胞が体全体に行き渡ったため。血管を流れる描写から脳にまで至ったのだろう。
復活以降はパラサイトにひけを取らない身体能力を得るも、細かい情緒に気付けない、感情が異常なまで切り替えが早いなど、思考はパラサイト寄りなる。
本質的には優しく人間としての誇りを持っているが、パラサイトに近い思考が前面に出てしまい「人間的感情」に苦悩していく事になる。

しかし田宮涼子に胸の穴を塞がれてからは母の死以降初めて涙を流し、復活前の「人間的感情」を取り戻すことになる。

ミギーに対しては復活以降信頼を寄せていくが、彼が人間的感情を無視した冷酷な策を打ち出した時は否定し、パラサイトの考え方そのものを否定し続けた。
とはいえ後半はミギーを友達、本物のヒーローと称するなどその絆は本物で、共存関係から種族を超えた仲となる。

パラサイトに母親を殺されて以降は、手当たり次第にパラサイトを始末しようとする。
だがミギーとのやり取りやジョーと宇田、田宮や島田など数多くのパラサイトと関わってきた事から、中盤以降はパラサイトにもある程度の理解を示す。
田宮は最終的に「人間と寄生生物は一つの家族」という結論を出すが、彼もまた「狭い意味では敵だけど広い意味では味方」と、彼女に近い結論を出している。
その上で、ちっぽけな一人の「人間」として自身の安全を脅かすものを始末することに決めた。


尚、最終的に劇中で村野とやっちゃった。いや、寄生獣という物語から見てもとても重要な事なのだが。




あっ……ちょ……何するんだ! よせ!
あ……うわっ や……、
ばっかっやっろ?






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最終更新:2026年10月16日 19:38
添付ファイル

*1 後に田村玲子が赤ん坊を新一に託す事により、再び人間らしい感情を取り戻す事ができた

*2 パラサイトは人間の部分はおまけとしか思っておらず、Aもミギーと交戦中に人間部分である新一が動いて自分の弱点(人体)を刺すとは思いもよらなかった。

*3 パラサイトにとって「名前」とは重要なものではないらしく、何となくしか覚えていない。そのため「よく似ているが違う名前」で話しかける事により、その反応で見極めるという独自の方法。