ベニテングタケ

登録日:2011/12/17 Sat 17:16:10
更新日:2025/03/04 Tue 20:21:12
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ベニテングタケとは、テングタケ科テングタケ属のキノコ。

世界の至るところで姿を見る事ができ、マツやブナ等の木の根元に根付く。深紅色の傘と白いイボイボを持つ。完全に成熟したキノコは6~20cmにもなる。
警告色を持つ生物と同じ理由だからか、やけに派手な色や形をしているので警戒は容易い。

食べると嘔吐・倦怠感・幻覚等に襲われ、少数ではあるが死亡例も確認されている。
しかし、このキノコが持つイボテン酸、ムッシモール、ムスカリン等の成分は毒キノコとしては一応弱毒の部類に入る。
一説によると、成人の致死量は5kg以上といわれる。
……キログラムである。わずか15gでも危険なキノコからみれば、5kgの致死量など毒の内にも入らないと思われそうである。
(後述するように実際には大きな誤解。致死量が多い=安全という意味ではないので悪しからず)


しかし、図鑑等ではあたかも超危険なキノコであるかの如く念を押して書かれていることも多い不思議なキノコでもある。
何故かというと










このキノコ、とても美味しいらしいのだ











毒の主成分であるイボテン酸は、同時に強力な旨味成分としての効能も持っており、
感想を例えるなら雷に撃たれる程の衝撃的な美味しさとも言われるほど。

昆布の旨味成分としても知られるグルタミン酸の16倍相当ともいわれる、そんな桁違いな旨味ならさぞかし食えば旨いだろうと思って、毒キノコだろうが構わず食べたがるバカたちが間違っても現れないように、誇張された表現で紹介されているともされる。

旨み成分の他にハエが寄ってくる物質も持っており、ハエが寄ってきては食べて死ぬらしい。

『カムイ伝』などで知られる漫画家の白土三平は、このベニテングタケを実験的に食し、著作『フィールド・ノート』などにそのレポートを記している。



■食…用……?

不安定なイボテン酸は時間が経ったりすると違う弱毒の成分(ムッシモール)に変質していく。元々しかるべき加工をしたベニテングタケは、ごく少量を本当に食べることがあるらしい。
長野県の一部地域では実際に塩漬けして食べる習慣もあるそうで。旨味成分のイボテン酸が無くなるので、かなり味わいは落ちるらしいが…。

また、薬と毒は紙一重…ということもあり、使い方によっては強心剤の材料にもなると言う。
北欧のヴァイキングたちもベニテングタケを漬けた薬酒(アルコールで溶けやすい)を興奮剤として用いていたといわれる。ロシア等ではウォッカに漬けて薬用酒にするとの事。

前述の通り、ハエ取りのために使われたりもする。

■…で、危険性は?

しかし、イボテン酸が減っても決して無害なキノコになるわけではない。

解毒剤も特に無いので、病院に運ばれても出来るのはせいぜい気休めの胃洗浄。
これも食べてすぐでなければ意味を為さない。それが間に合わなければ症状が収まるまで可能な限り安静にして頂くしかない(何がなくとも病院には行けよ?)。
症状的には食べた直後から激しい痙攣・昏睡状態・呼吸困難・下痢を起こしたり、眩暈や嘔吐感などの凄い不快感や発汗などに襲われる。

猛毒キノコ御三家にも含まれる遅効性の毒素・α-アマニチンも微量ながら含まれているので、死なない程度の毒だからと大量に食べると、気付かない間に内臓を侵す可能性がある。

「微毒だし自覚症状が出てから止めれば大丈夫だろ……」と食べ続けたりすると、この初期症状*1の後、例のα-アマニチンの影響でかなり内蔵に負担がかかっていくので、自覚症状が出た頃には手遅れになっている可能性がある。

……つまり、誇張でも何でもなく結局毒キノコはどうやっても毒キノコ。
人間にとっては美味いと聞いてついつい口にしたくなる上に、時間差でジワジワと効き目がやってくる自然界のコ○バットみたいなものである。
知人におすそわけして一度で二度効いたとか間違ってもやらないように。

致死量というのも健康な成人なら多分死なないだろうという程度の話であり、もちろん子供や高齢者が食べると重症化の危険が高まるだろうし、状況や救護体制次第では毒以上に体調不良による水分不足などが原因で死に至ることも有りうる。
味の評判を知って丸々食べた人から、覚悟していたつもりなのに重篤な症状に襲われて後悔したなんて体験談もみられる。

毒全般に言えることなのだが、どれだけ毒に耐性があるのかはその人の体質・食生活・頻度・毒によって千差万別で、正確に安全な量というのは分からない。お酒やコーヒーだって弱い人が飲むと一口で卒倒するのだから。
いくら美味いと聞いてもそもそも食べようと思わないのが一番の対策だろう。
冒頭の通り見分け方自体は簡単だし。タマゴタケを採ろうと思わなければ、だが。


■余談
  • マジックマッシュルームの類と違い、このキノコの食用に関する規制は今のところまだ無い。
    つまり、自己責任で食べようと思えば食べられる。とはいうものの……まあ、上で散々言っているがオススメはしない*2
  • このキノコ、毒キノコのくせに西洋では幸運の象徴とされている。
  • スーパーマリオに出てくるキノコのモデルという説がある。というより、多くの創作物で登場する「赤い傘でイボイボに描かれるキノコ」の原型なんだとか。
  • 野生の鹿はベニテングダケを好んで食べるらしい。なぜ中毒を起こさないのかは不明とのこと。
  • 1955年の特撮映画『獣人雪男』では、雪男の種族はこれを食べてしまって著しく数を減らしてしまったという設定になっていた。




追記、修正は、このキノコに手出ししないと誓った方お願いします。

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最終更新:2025年03月04日 20:21

*1 胃を通り過ぎた後

*2 社会問題になったら所持や採取そのものに規制が入るようになる可能性も高い