ガイガーカウンター

登録日:2017/11/10 Fri 00:20:35
更新日:2022/10/18 Tue 12:25:38
所要時間:約 6 分で読めます




ガイガーカウンターとは、以下のものを指す。

1.放射線を計測するための測定機器。本項で解説。
2.クジラックスによる青年漫画、及び同作が収録された同人誌のタイトル。⇒がいがぁかうんたぁ


装置の概要

正式名は「ガイガー=ミュラー型計数管」。名前が長いのでGM管と略されたりもする。

1908年にドイツ人の物理学者ハンス・ガイガーが開発し、1928年にガイガー博士の教え子であるヴァルター・ミュラーの協力により改良された放射線測定装置。
開発されてから90年近い年月が経っているものの、幾度かの改良を経ていまだに第一線で活躍する息の長い装置である。
でもまさか開発者のお二人も、未来の元同盟国でいかがわしい漫画のタイトルにされるとは思わなかっただろう。


測定原理

ざっくり言うと、「放射線による気体分子の電離作用を利用して計測する」装置である。

導電性物質でできた管の中央に、1本の細い金属棒が備わったシンプルな構造であり、管内にはアルゴンなどの不活性ガスが封入されている。
使用時は金属棒を陽極、内壁を陰極となるよう電圧(大体1000V前後)がかけられる。
この時管内部に放射線が入り込んで中の気体分子を電離し、
ここで生じた気体分子の陽イオンと電子のペア(所謂イオン対)が各電極に引き寄せられ、各々が電極に到達したところで電流が流れる。
この電流を検知器が拾って信号に変換し、その数を放射線の入り込んだ回数としてカウントする。という仕組みである。

また、電離により生じた電子は、電極に向かう間も電圧により加速され、
その道中にも周囲の気体分子を次々と電離していき、ここで生じたイオン対が更に加速されて……と、ネズミ算的にイオン対を増やし*1
感知される電流の強さを大きくビルドアップする*2という現象が起こる。*3
この現象は装置の利得を大きく高めるものの、増幅が起こりすぎると測定に支障が出るため、生じたイオンのエネルギーを削るための仕掛けもある。


測定対象となる放射線

主な対象となるのは、α線やβ線といった荷電粒子線、及びγ線やX線といった電磁波である。
ただ感度は荷電粒子線についてはほぼ100%となる一方で、電磁波に対しては1%未満にすぎない。
中性子線については、気体を電離しないため検出自体が原理上不可能である。
ただし、中に入れるガスに中性子線との核反応を起こしやすいもの(例えばヘリウム3とか)を混ぜるなど、対応させる方法もあるにはある。


特長

・小型化が容易

 基本的に電源と電極と検知器のみで構成されたシンプルな装置であり、質量や体積を食う部品は一切必要ない。
 このため持ち運びも取り扱いもかなり気軽にできる。


・安い

 精度やメーカーにもよるが、価格にして1台約数千円くらいから購入可能。
 ゲルマニウム半導体検出器*4のように、個人どころか法人でもおいそれと購入できないものに比べると、相当お手頃と言っていいだろう。


・利得が非常に高い

 荷電粒子線なら管内に1個でも入り込めば、ガス増幅によって高強度の信号が発生するため、
 バックグラウンド(空間中で元々計測される測定値)レベルでも感知が可能である。


弱点

・測定する放射線の種類とエネルギーは分からない

 測定原理上、ガイガーカウンターは放射線の数を無差別に数えているだけであり、測定対象に含まれる核種の定性とエネルギーの定量は不可能である。

 放射能(ベクレル)については、種々の補正計算により算出可能だが、測定条件や放射線の種類により正確さはまちまち。
 等価線量と実行線量(シーベルト)もほぼ同様で、測定対象中の核種が全て既知の場合に限り種々の補正や校正により算出可能だが、
 放射線の種類やエネルギー値によっては比較的正確だったり大きくずれたりするし、未知の核種が混じっている(かもしれない)と当然分からない。


・分解時間が比較的長い

 分解時間とは、「いくら放射線が入り込んでも全く検知してくれない時間」のこと。*5

 先述の通り、ガイガーカウンターは電子雪崩とガス増幅のために高い電流値を得られるが、
 電子雪崩により生じるイオン対の数は半端ではなく、更に当然ながら電子の目的地である陽極に近づくほど空間濃度は増加し、
 これにより陽極全体を刀の鞘のごとく覆ってしまい、絶縁状態を作ってしまう。

 勿論この陽極付近で生じた気体分子の陽イオンも陰極に向かい、次第に絶縁状態は解除に向かうのだが、
 陽イオンは電子とは比較にならないほど質量がデカいために電子よりかなり鈍足であり、多少時間がかかってしまう。
 そのためこの間に次の放射線が入り込んでも、検知器が拾えるレベルの電流が流れる程度までに陽極付近の陽イオン濃度が低下するまでは検知できない状態になる。
 分解時間は適切な使用条件下では大体1万分の1秒くらいだが、高濃度の放射線場では恐ろしいことが起こる(後述)。


  • 高濃度の放射線場では、窒息現象が起こる

 ガイガーカウンターはある程度以上高濃度の放射線場で使用すると、
 次々に放射線が入り込んで電離を起こすことで、分解時間の解除⇒再開までのインターバルが放射線量の増加と共に短縮し、
 結果として感度が放射線量の増加とともに低下してしまう。これを窒息現象という。

 この現象の行きつく先は、分解時間の発散=感度0であり、こうなるとガイガーカウンターはただのガラクタになり下がる。
 これがどれほど危険な現象であるかは言うまでもないだろう。


まとめ

と、まあ弱点の方に字数を割いてはみたが、これらはきちんと取扱い法を把握していればフォローは可能なものばかりである。
むしろ高コストパフォーマンス、かつ小型化が容易といった特長はそれを補って余りあるものであり、
表面汚染や空間線量の簡易測定には非常に使い勝手がいい。
90年も昔に作られたのに今もバリバリ第一線で使われているという事実がそれを如実に物語っている。
ただし、いかがわしいことをする理由には使うなよ!


余談

その気になればDIYで自作もできるぞ。感度は流石に売り物には及ばないけど、夏休みの自由研究のテーマとしてはあり(?)。
自作の場合は放電管を使用するタイプではなく、固体シンチレータとフォトダイオード(要するに光センサー)を組み合わせたタイプが手軽に作れるかもしれない。
固体シンチレータってのはものすごく簡単に書くと、「放射線を受けると光る結晶」。
手に入りやすいものとしては、ヨウ化セシウム結晶(秋月電子で取り扱っている)がお勧めかもしれない。センサー部としては放電管やゲルマニウムよりも遥かに安価なものなのもいい。ただそれでも5cm角のシンチレータで2500円くらいするけど。
放射線を受ける→シンチレータが光る→光センサーで受信してカウントする、ってことである。

え、受信した光=放射線をどうやってカウントするのかって?
ググるなり何なりしてPICなりAVRなりのプログラムを考えて書いてくれ。



あ、すみません 私アニヲタ市役所環境業務課の冥殿と申します。
唯今 先の震災に伴う政府の要請で…


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最終更新:2022年10月18日 12:25

*1 この一連の流れを電子雪崩という

*2 これをガス増幅という

*3 もちろん陽イオンも電子雪崩を起こすが、作り出すイオン対の数は電子のそれよりもはるかに少ないため、実用上は無視される

*4 1台約2000万円、設置費用は別途徴収

*5 厳密には「電流が全く流れない」不感時間、「検知器が拾えないレベルの電流しか流れない」 分解時間に分けられるが、実用上は不感時間と分解時間の合計時間を広義の「分解時間」と呼ぶ。