登録日:2018/04/27 Fri 23:35:02
更新日:2023/06/17 Sat 10:19:54
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「黒猫」とはエドガー・アラン・ポーの短編小説である。現代は”The Black Cat”で刊行は1843年。ポーの作品の中でも特に有名な作品であり、恐らく知っている人も多いだろう。
死刑囚である男が「黒猫」によって追い詰められていった過去を「極めて奇怪な、しかし極めてありふれた物語」として読者に語る形で物語が進んでいく。
語り手はかつては温和な少年で多くの動物達を飼い、非常に可愛がっており、語り手は大人になってからも動物好きな点は変わらず、結婚してからその気質に気が付いた妻は様々な動物を手に入れるようになった。
その経緯で手に入れた動物達の中に大きな黒猫がおり、彼は「プルート」と名を付けとりわけこの黒猫を愛し、プルートの方も彼に懐くようになっていった。
その一方で語り手は酒に溺れ始めた結果かつての優しさは失われていき、かなりの癇癪持ちとなってその憂さ晴らしの為に妻や動物達に虐待をするようになってしまう。
そんな中でもプルートにだけは手をあげないでいたが、ある時酔っぱらって帰ってきた所でプルートが自分を避けて通ったように見えた事に怒ってプルートを掴んだところ、プルートが指に噛み付いたことで激怒。持っていたペンナイフで
プルートの片目を抉り取った。
酔いが醒めてから自分のしたことに恐怖した語り手はその現実から
逃げる為にさらに酒に手を出していってしまう…。
プルートを含めた動物達が自分寄り付かなくなっていく事に語り手は始めは悲しみを覚えていたが、その内に「天邪鬼」の心が彼を支配し始め、何とプルートの首にロープをかけて木からぶら下げて吊り殺すという凶行に走る。
「悪の為にのみ悪を行う」という切望に駆られて。
しかし異変もここから起こりはじめた。
その日の夜に語り手の家が火事になった。これだけならば奇妙さはさほどないのだが、問題はその焼けた家の残骸。全焼してしまった家の中で唯一焼けていなかった壁にどういう訳か首にロープのようなものが付いた猫の様な模様がくっきりと浮かんでいたのだ。これに対して語り手は驚きつつもプルートの死を知っていた事から、死体を誰かが投げ込んだ結果壁にくっついた死体の跡が残ったのだろうと考えたのだった。
その後、財産の多くを失い貧窮に陥った語り手はプルートを殺したことに対して良心の呵責を抱く中で、酒屋にてプルートと同じくらいの大きさの黒猫を発見。
彼が手を出すとその黒猫は懐いてくるようになり、酒屋から出てもついてきて最終的に家にいつくようになってしまった。妻は新たに来た黒猫の事を喜んでいたが、語り手は逆にその黒猫を嫌悪していくようになった。その嫌悪などによって精神的に追い詰められていく語り手。そんな彼がプルートの様に黒猫を殺さなかったのはプルートへの罪悪感、そして「恐怖心」があったからだった。
その猫には奇妙な特徴があった。
1つ目はプルートと同様に片目が無いこと。
2つ目は元々あった首の白い毛が徐々に変化し、吊り縄の様な模様になっていった事。
明らかな事ではあるがどちらもプルートを連想させる要素である。それらに起因する恐怖は黒猫への嫌悪を増大させるとともに、奇しくも語り手の殺意をおさえる為の力にもなっていた。
しかしそんな自制もついに途切れてしまう。
ふとしたことがきっかけで語り手は黒猫に対して激怒。その衝動に任せて斧で殺そうとしたのだ。
しかしその一発は一緒にいた妻によって止められてしまう。その事で逆上した語り手はそのまま斧を妻に振り下ろして殺害。
彼にとっても読者にとっても明らかな想定外の殺人だったにも拘らず、語り手は冷静に死体の隠蔽についてを考え始めた。
殺した場所は穴蔵で、そこの壁は死体を隠すおあつらえ向きの場所だった。そこで彼は妻の死体を壁に塗りこめることで隠蔽に成功したのだった。
その後見つけ出して殺してやろうとしていた黒猫が姿を消したことに語り手は喜び、安らかな眠りの後に、黒猫が屋敷から消えた事に喜びを感じていた
彼の中に残っていた良心は完全に消えていたのだった。
妻の殺害・及び死体の隠蔽から4日後、警察が語り手の家に家宅捜索をしにやってきた。
それ自体は既に1度行われたが、警察は彼を疑い、再び調べにやってきたのだ。捜査は以前よりも慎重に進められ、最終的に死体の埋まった壁のある穴蔵も調べられたが死体が見つからず、警察も引き上げようとした。
しかし語り手は幸福感と自分の潔白をより確かなものにしたい気持ちから調子に乗って、死体のある壁の部分をどんどん叩きながらその部分を強調したのだった。
が、恐怖は突然再来した。
壁の中から奇妙な声が聞こえ始めたのだ。当然奇妙に思った警察たちは壁を崩し始めた。
そしてその先には語り手が隠した妻の死体があった。いや、死体だけではない。
あの黒猫もまた壁の中に塗りこめられており、妻の死体の頭の上に座っていたのだった。
こうして語り手は絞首刑が決定し、奇しくもあの忌まわしき黒猫の模様にあった「縄」によって殺されることとなったのだった。
彼はこう語る。
あいつの奸策が私をおびきこんで人殺しをさせ、そいつの立てた声が私を絞刑吏に引き渡したのだ。
その怪物を私はその墓の中へ塗りこめておいたのだった!
- この作品は20世紀ごろから翻案の後に映画化されるという事が何度かあったのだが、その翻案はどれもあまり原作に忠実にはなっていない。
- 酒乱に陥っていく語り手だが、ポー自身もかなりアルコールへの依存度が高く、精神的に不安定な一面を持っていた。もしかすると語り手のキャラクターにはポー自身の存在があったのかもしれない。
- 作中で出てくる「天邪鬼」についてだが、これをテーマに持つ他の作品には「告げ口心臓」がある。
追記・修正は黒猫を嫌悪したり、精神的に追い詰められないようにしながら動物を愛する気持ちと共にお願いします。
- オリジナルは知らなかったけどアレンジ系のはたまに見るな、アウターゾーンでもこれを元ネタにした回があったな、持ってたポケベルの商品名がブラックキャットだったって奴 -- 名無しさん (2018-04-28 00:21:12)
- 初めて読んだ時はすごく不気味さを感じたのを覚えてる。 -- 名無しさん (2018-04-28 10:21:41)
- AmazonのAudibleで聞けるが声はあの新井里美さん -- 名無しさん (2018-04-28 11:55:21)
- 今では好きな小説の1つだけど、最初は推理小説と勘違いして買ってしまって、がっかりした。 -- 名無しさん (2018-04-28 12:59:57)
- 短編ながらクライマックスの衝撃がすごかった -- 名無しさん (2018-04-29 23:31:45)
- ↑2寧ろ倒叙体ミステリーの原型と言えるかもしれません。何せ「探偵=犯人」の原型を作ったのもポーですし。 -- 名無しさん (2020-04-24 12:42:32)
- ↑確かにこの人は色々やってるもんね。「意外な犯人」「綿密な分析の大切さ」「意外な隠し場所」「暗号の面白さ」そして「探偵=犯人」か…不正選挙か何かに利用された挙句変な死に方をしたけど、長生きしていたらデュパンシリーズもまだまだ書かれていたかもしれない… -- 名無しさん (2021-08-20 18:17:13)
- 猫のせいにするな -- 名無しさん (2023-06-17 10:19:54)
最終更新:2023年06月17日 10:19