最後のシ者(新世紀エヴァンゲリオン)

登録日:2021/01/23 (土) 11:37:51
更新日:2021/02/10 Wed 12:31:08
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少年が守っていた町は消え、少年が心を寄せていた友人たちは去り、少年が心惹かれていた少女らは恐れと変わった。

心の依代を失ったシンジに夕暮れの中、新たな少年が微笑む。

彼の全ての罪を包み込む様な笑顔に溶け込むシンジ。

だが彼らには過酷な運命が仕組まれていた。


次 回

最後のシ者











概要


『最後のシ者』とは、テレビアニメ『新世紀エヴァンゲリオン』の第弐拾四話のサブタイトル。
1996年3月13日に放送。
タイトルの「シ者」は「死者」と「使者」のダブルミーニング、更に「」を「さんずい」に見立てて「シ + 者 = 渚」とする事で本話に登場する渚カヲルの苗字である「」を表している。
英語タイトルは「The Beginning and the End, or "Knockin' on Heaven's Door"」


脚本:薩川昭夫、庵野秀明
絵コンテ:摩砂雪、庵野秀明
演出:摩砂雪
作画監督:摩砂雪



第弐拾壱話~弐拾参話にかけて、加持が死に、ミサトが復讐にのめり込み、アスカの精神が崩壊し、レイが自爆して死にさらにクローンであることが判明し、リツコが嫉妬に狂い嘆くという、次々と陰惨な展開が続いてきた『エヴァ』。
本話では、その矢継ぎ早に訪れた周囲の悲劇の煽りを受けて孤立してしまう碇シンジに、救いと思しき人物が現れ、そしてそれは裏切られることとなる。
そう、シリーズを代表する人気キャラクター・渚カヲルの登場である。
しかし、カヲルは本来、TVシリーズでは本話しか登場しないゲストキャラクターだった。
にもかかわらず、本話の圧倒的存在感から、主に女性からの支持を受け、版権イラストでも多数登場し、劇場版での再登場、そして派生作品でのレギュラー化といったように、徐々に『エヴァ』のメインキャラクターへと出世を遂げる。
そして、新劇場版では『序』の段階で登場し、シリーズの根幹に関わる人物になった。


本話はOAフォーマット版とビデオフォーマット版の2パターン存在するのだが、本項目ではビデオフォーマットの追加シーンを折り畳み表示することとする。


あらすじ


一人の少女が部屋を駆け抜けている。
誰かに知らせたい、安心させて笑顔が見たい、そんな風に。



ママ!ママ、私、選ばれたの!人類を守る、エリートパイロットなのよ!世界一なのよ!

誰にも秘密なの!でも、ママにだけ教えるわね!

いろんな人が親切にしてくれるわ!だから寂しくなんかないの!

だからパパがいなくても大丈夫!寂しくなんかないわ!

だから見て!私を見て!


そして少女は扉を開ける。


ねぇ、ママ……!




彼女―――惣流・アスカ・ラングレーは扉の先に見た。


天井に首を吊っている、母の姿を。

呆然とするしかないアスカ。









零号機の爆発によって崩壊した廃屋。
その浴室跡の浴槽に、アスカは全裸で座っていた。だが、浴槽に水はほとんど張っていない。
虚ろな目に、痩せこけた顔でブツブツと呟き続けている。




……シンクロ率ゼロ。セカンドチルドレンたる資格なし。

もう私がいる理由もないわ。誰も私を見てくれないもの。パパもママも誰も。

私が生きてく、理由もないわ。



そんなアスカに、ネルフの諜報部員が近づいていた。



アスカ保護の連絡はすぐに発令所のミサトたちに伝わった。だが、余裕がないのかミサトはすぐに流す。
日向と、諜報部の初動の遅さと作戦課への嫌がらせについて愚痴を言い合う。
……そして、活動不能のアスカに代わり、今日、委員会が直接フィフスチルドレンが送られてくることになるのだった。



葛城家では、シンジが一人、部屋のベッドで天井を見つめている。
考えているのは、綾波レイのこと。
前話において、彼はリツコからダミーシステムのコアの真実を見せられ、同時にレイが母・ユイの遺伝情報から作られたクローンであることを知ったのだった。



綾波レイを、母さんを、何をしてるんだ?……父さん……!


……もはや彼は、以前のようにレイを見ることが出来なくなっていた。そして、父のことも全く分からなくなってきたのである。





一方、ネルフ内の独房。
そこには、ダミーシステムのコア=綾波レイのスペアの肉体を破壊した罪で収監されている赤木リツコ博士の姿があった。
そこへ、碇ゲンドウが面会に来る。
無言のゲンドウに対し、リツコが一方的に話し始める。



碇司令。猫が死んだんです。おばあちゃんのところに預けていた。
ずっと構っていなかったのに、突然、もう二度と会えなくなるのね。


ゲンドウは「何故ダミーシステムを破壊した」と問う。だがリツコは「破壊したのはレイですわ」と返した。



今一度問う。何故だ?

あなたに抱かれても嬉しくなくなったから。私の体を好きにしたらどうです?あの時みたいに!

君には失望した。

失望!?最初から期待も望みも持たなかったくせに!私には何も!何も!何も!!


泣きながら捲し立てるリツコを置いて、ゲンドウは独房から立ち去った。



どうしたらいいの?母さん……!


弐号機のケイジで弐号機を見ながらアスカの行方を考え込んでいるシンジ。
だが、彼女に会ってどうするのだ?レイの話でもするのか……?
……とても彼にはそんな勇気はなかった。



零号機の自爆で崩壊し、芦ノ湖の水が流れ込んで水没した第3新東京市
夕暮れの街の跡地を、岸辺からぼんやりと見つめるシンジ。
彼のそばには誰もいない。
トウジケンスケも住む家を失って疎開し、もはや友達と呼べる人は一人もいなくなった。
真実を知った以上、もうレイには会う勇気がない。アスカもミサトも気軽に話せなくなった。
もう彼は、何をすべきかどうかも分からなくなっていたのである。


途方に暮れるシンジの耳に、何か音楽が入る。
それは鼻歌だった。ベートーヴェンの『交響曲第9番』。
振り向くと、そこには湖に浸かった首のない天使の像の上に、自分と同い年くらいの少年が座っている。
少年は鼻歌を歌い終えると、シンジに話しかけた。



歌はいいね。歌は心を潤してくれる。リリンの生み出した文化の極みだよ。
そう感じないか?碇シンジ君。


いきなり名指しで話しかけられて、戸惑うシンジ。
少年曰く、「知らない者はいない」と言い、「自分の立場を少しは理解した方がいい」と付け加えた。
少年に名を問うシンジ。



僕はカヲル。渚カヲル。君と同じ仕組まれた子供、フィフスチルドレンさ。

フィフスチルドレン?君があの……渚君?

カヲル、でいいよ。碇君。


フランクに接するカヲルにシンジは照れたように頬を赤らめる。



あ、僕も……シンジでいいよ。


それを受け、カヲルはにっこりと微笑んだ。





フィフスチルドレン到着のニュースを聞くミサトと日向。
そのプロフィールは訝しいものだった。
過去の経歴はレイと同じく抹消済み。生年月日はセカンド・インパクトと同じ2000年9月13日。しかも委員会からが直接送り込んだ人物だ。
謎だらけの経歴なため日向は勝手に諜報部のデータに割り込んできたという。
部下の危なさに冷や冷やするミサトに、日向はその成果として赤木リツコの居場所を特定できたと囁く。
とりあえず、今日はそのフィフスチルドレンの初めてのシンクロテストだ。まずは実力を拝見させてもらうというミサト。


そして、渚カヲルの初のシンクロテストは驚異的な記録を残した。
コアの書き換えなしに、弐号機との圧倒的な数値でシンクロしたのである。
リツコの代わりにテストを観察した冬月は訝しみ、マヤは「システム上ありえない」と困惑。
ミサトは、「事実をまず受け止めてから原因を探って」と指示する。


テストを終え、エスカレーターを上るレイ。
その先に、カヲルが待ち構えていた。



君がファーストチルドレンだね。綾波レイ。君は僕と同じだね。

……あなた、誰?


ゲンドウに、レイとカヲルが接触したことを報告する冬月。マギにもカヲルのデータを洗わせているという。
……にもかかわらず、未だに彼の正体は不明だ。


一方ミサト。アスカもシンジもいなくなったそれぞれの個室を見て、ぼんやりと考え込む。



シンジ君も未だ戻らず……。保護者失格ね、私。



その頃シンジは、ネルフの本部入り口前のベンチで座ってSDATで音楽を聴いていた。
そこへカヲルが出てくる。
「待っててくれたのかい?」と聞くカヲルに対し、「そんなつもりじゃ……」と照れるシンジ。
シンジはこの後はシャワーを浴びて帰るが、この頃帰りたくないという。



帰るうち、ホームがあるという事実は幸せに繋がる。良い事だよ。

そう、かな?

僕は君ともっと話がしたいな。一緒に行っていいかな?

え?

シャワーだよ。これからなんだろ?


……というわけで、二人はネルフ内の大浴場に一緒に入ることに。
戸惑うシンジにカヲルが一方的に話しかける。



怖いのかい?人と触れ合うのが。他人を知らなければ、裏切られることも互いに傷つくこともない。
でも、寂しさを忘れることもないよ。
人間は寂しさを永久になくすことはできない。人は一人だからね。
ただ、忘れることは出来るから、人は生きていけるのさ。


そう語るカヲルの手が、不意にシンジの手に重なる。
ドキッとするシンジ。

やがて電気が消灯し、寝る時間になった。
「君と?」とからかるカヲルに、焦るシンジ。
そこで不意に立ち上がるカヲルに、シンジは顔を赤らめる。


常に人間は、心に痛みを感じている。心が痛がりだから、生きるのも辛いと感じる。
ガラスのように繊細だね。特に君の心は。

僕が?

そう、好意に値するよ。

好意?

好き、ってことさ。






第弐拾四話













NEON_______
GENESIS____

EVANGELION___


EPISODE:24______________
The Beginning and the End,
or "Knockin' on Heaven's Door"




会議中のゼーレのモノリス。
ネルフは本来ゼーレの実行機関であり、彼らのシナリオ=人類補完計画のために用意されたものだった。
だが、今は碇ゲンドウの個人の占有機関となっている。
約束の日の前に、ネルフとエヴァシリーズを本来の姿に戻さなければならない。
その責を、碇ゲンドウに取らせなければならない、と語るキール


一方、初号機を前にするゲンドウ。
与えられた時間は少ない。だが、目的を妨げていたロンギヌスの槍はもう処分済みだ。



間もなく最後の使徒が現れる。それを消せば、願いが叶う。
もうすぐだよ、ユイ。




レイのマンション。
レイはベッドにうつ伏せになって考え込んでいる。


私、何故ここにいるの?
私、何故また生きてるの?
何のために?
誰のために?
フィフスチルドレン。あの人、私と同じ感じがする。どうして?


ミサトのマンション。
零号機の自爆からは逃れられたため、ペンペンは無事で済んだ。
だが、これからばかりはそうもいかない。
泣く泣く、彼女はペンペンを洞木ヒカリの下に預けることにしたのだった。



しばらくお別れね、ペンペン。


知ってか知らずか、いつも通りの鳴き声を上げるペンペンを、ミサトは泣きながら抱きしめる。



ネルフ本部内のカヲルの部屋。
そこで、シンジは床に敷いた布団で寝ていた。
しばらく横になっていた二人だが、ふとカヲルが「何を話したいんだい?」と尋ねる。彼には全てお見通しのようだった。



いろいろあったんだ。ここに来て。
来る前は、穏やかで何もない日々だった。ただ、そこにいるだけの……。でも、それでよかったんだ。
僕には何もすることはなかったから。生きることに僕は何もなかったから。

人間が嫌いなのかい?

別に……どうでもよかったんだと思う。ただ、父さんは嫌いだった。


いつになくお喋りな自分に戸惑うシンジに、カヲルは彼の方を向き、語り掛ける。


僕は、君に会うために生まれてきたのかもしれない。






そして、本部前の橋の上で日向と会うミサト。
日向は、マヤからカヲルのデータを無断で拝借してきたという。
それを見て驚愕するミサト。
カヲルは、エヴァとのシンクロ率を自分の意思で自由に設定できるのだという。
それを確かめるためにも、ミサトはまたもなりふり構ってられなくなった。


ミサトが向かったのは、リツコが囚われていた独房だった。
「録音されてるわよ」と警告するリツコを無視し、彼女は単刀直入に聞く。



あの少年の、フィフスの正体は何?

……恐らく、最後のシ者ね。




弐号機のケイジ。そこにカヲルは立っていた。そしてカヲルは弐号機に語り掛けるように言う。



さあ、行くよ。おいで、アダムの分身。そしてリリンの(しもべ)



カヲルはアンビリカルブリッジから一歩踏み出すと、宙に浮く。
すると―――弐号機が起動した。



発令所では、弐号機が勝手に起動したことで騒然となっていた。
しかも、アスカは未だに病室で寝たきりの状態。さらには、弐号機にエントリープラグは挿入されていない、無人状態であった。
困惑するミサトに、さらに驚愕の報告が入る。



セントラルドグマに、A.T.フィールドの発生を確認!

弐号機!?

いえ、パターン青!

間違いありません!使徒です!

なんですって!?



そう、渚カヲルの正体は、第17の使徒だったのだ。
カヲルは弐号機を外側から操り、まるでボディガードのように従えながら、セントラルドグマを降下していく。

ドグマの隔壁を閉鎖するよう命令する冬月。そして、ゼーレが直接送り込んできたことに冷や汗をかく。



老人は予定を一つ繰り上げるつもりだ。我々の手で。


そのゲンドウの予想通り、ゼーレは「最後の仕事」として初号機による遂行を期待していた。




装甲を突破していく弐号機を撃破し、そして使徒を殲滅するために、ゲンドウはエヴァ初号機の追撃を命令する。
それに応じるミサト。
弐号機を乗っ取った目的が気になるミサトたち。弐号機との融合、あるいは破滅の促進のためか。



そして、命令を受け取ったシンジ。



嘘だ嘘だ嘘だ!カヲル君が、彼が使徒だったなんて、そんなの嘘だ!!


だが、ミサトは冷厳に命令を下す。



事実よ。受け止めなさい。出撃、いいわね?


それを聞いたシンジの顔には、怒りが浮かび上がっていた。



侵攻しながら、「遅いな、シンジ君」と余裕の表情のカヲル。
それを、シンジは激昂しながら初号機を駆り、追撃していた。



裏切ったな!僕の気持ちを裏切ったな!父さんと同じに裏切ったんだ!


そして二人の友は、敵と味方として会敵。
「待っていたよ、シンジ君」と嬉しそうなカヲルに、シンジは初号機で掴みかかる。
だが、それを弐号機が阻む。
シンジは「アスカ、ごめんよ!」とプログレッシブ・ナイフを抜き、弐号機もそれに応戦。
取っ組み合う二機を尻目に、他人事のように呟くカヲル。



エヴァシリーズ、アダムより生まれし、人間にとって忌むべき存在。
それを利用してまで生き延びようとするリリン。僕にはわからないよ。


カヲルを説得しようとするシンジだが、カヲルは淡々と述べる。
エヴァは自分と同じ、アダムから生まれたもの。魂さえなければ同化できる。
弐号機の魂は自ら閉じこもってしまっているのだという。それは、アスカの心と関係があるのだろうか。

やがて、ナイフが滑ってカヲルの真正面に向かったが、カヲルはA.T.フィールドを発生させそれを難なく防ぐ。



何人にも犯されざる、聖なる領域。心の光。
リリンもわかっているんだろう?A.T.フィールドは誰もが持っている心の壁だということを。

そんなのわからないよ、カヲル君!!


激しさを増す初号機と弐号機の戦い。
それを観察していたミサトは、日向にそっと耳打ちする。
初号機の反応が消え、もう一度変化があった時は本部を自爆させ、サード・インパクトを防ぐ。



すまないわね。

いいですよ、あなたと一緒なら……。

ありがとう。


日向の気持ちに、上司への敬意以上のものがあることを、ミサトは気付いているのだろうか。




人の運命(さだめ)か。人の希望は悲しみに綴られているね。


そう呟いたカヲルは何かを仕掛ける。

その影響は、発令所に震動として伝わった。
これまでにない強力なA.T.フィールドが発生、あらゆる電磁波が遮断され、ドグマの様子をモニターできなくなったのだ。
パイロットとの連絡も不通になる。


やがて、初号機と弐号機は取っ組み合いながら、セントラルドグマの最深部へと落下。
去っていくカヲルを追おうとするシンジだが、弐号機に捕まってしまう。
そして、カヲルは地下の巨人を安置していた部屋のロックを外す。



最終安全装置、解除!

ヘヴンズドアが、開いていきます!

ついに辿り着いたのね。使徒が。……日向君。


静かに告げるミサトと、覚悟する日向。



雄叫びを上げながら、弐号機と戦うシンジだが、上から妙な気配がする。
発令所では、青葉がターミナルドグマの結界周辺にさっきと同等のA.T.フィールドが発生したと報告。
まさか、新たな使徒?と訝しむミサト。
だが、そのA.T.フィールドは結界に侵入するとすぐに消失した。

そのA.T.フィールドの主は―――もはや自らの正体を自覚したレイであった。
ターミナルドグマの上部から、カヲルの様子を観察している。


磔になった巨人を前にして戸惑うカヲル。



アダム、我らの母たる存在。
アダムに生まれしものは、アダムに還らねばならないのか?人を滅ぼしてまで……。


だが、そこでカヲルは違和感に気付いた。



違う……。これは、リリス?そうか、そういうことか、リリン……!


すると、部屋の隔壁が吹き飛ばされ、弐号機が倒れこんでくる。
……初号機が勝ったのだ。

カヲルは空虚な微笑みを浮かべると、掴みかかってきた初号機に無抵抗のまま捕まった。




ありがとう、シンジ君。弐号機は君に止めておいてもらいたかったんだ。
そうしなければ、彼女と生き続けたかもしれないからね。

カヲル君、どうして……?

僕が生き続けることが、僕の運命だからだよ。結果、人が滅びてもね。

僕はこのまま死ぬこともできる。生と死は等価値なんだ。僕にとってはね。
自らの死、それが唯一の絶対的自由なんだよ。

何を―――カヲル君、君が何を言っているのかわからないよ……カヲル君。

遺言だよ。



それを聞き、シンジの口が止まる。



さあ、僕を消してくれ。そうしなければ、君らが消えることになる。
滅びの時を免れ、未来を与えられる生命体は一つしか選ばれないんだ。

そして君は、死すべき存在ではない。


そこまで語り、上を見上げるカヲル。そこには、無表情のレイが見下ろしていた。
レイに微笑みかけ、シンジの方を見る。彼は、初号機の手に鷲掴みの状態だ。



君たちには、未来が必要だ。

操縦レバーを持つシンジの手が震える。



ありがとう、君に会えて、嬉しかったよ。


それを聞くシンジは俯いたまま、何も喋れなかった。







沈黙のまま動かない初号機。
































































































そして―――






































ぐしゃり。





生々しい物音が響き、地下のLCLの海に、ヒトの首が落ちる。






























全てが終わり、洗浄される、手に血の付いた初号機。
それを見つめる無表情のゲンドウとレイ。







シンジは、カヲルと初めて出会った湖の岸辺で座り込んでいた。離れた位置にはミサトが立っている。



カヲル君が、好きだと言ってくれたんだ……僕のこと。
初めて、初めて人から好きだって言われたんだ。僕に似てたんだ、綾波にも。

好きだったんだ……。生き残るなら、カヲル君の方だったんだ。僕なんかより、ずっと彼の方がいい人だったのに……!

カヲル君が、生き残るべきだったんだ……!


自己嫌悪と孤独に囚われ泣きじゃくるシンジだが、ミサトはぴしゃりと断言する。



違うわ。生き残るのは、生きる意志を持った者だけよ。

彼は死を望んだ。生きる意志を放棄して、見せかけの希望に縋ったのよ。……シンジ君は悪くないわ。


ミサトとしては、シンジを励ましたつもりだったのだろう。だが、それはシンジにとって何の慰みにもならなかった。



冷たいね、ミサトさん。


















解説


「他人とのコミュニケーション」にこれまで悩んできたシンジ。そんな彼は、本話でついに心を許せる人物と対面する。
だが、その人物は人ならざる者であり、しかも自分の敵とされた存在だった。
一度は激情に任せたものの、結局は苦悩しながら彼―――渚カヲルを殺すこととなる。
この出来事は、シンジの心に根深い傷を残し、生きる気力を失わせる結果となってしまう。

その後の彼の心の変遷は、内面をひたすら描いたTV版と、現実の出来事を描いた劇場版とで分岐することになるのだが、両者を組み合わせることで、シンジの心について相互補完し合えることができる。

ちなみに、第25話「Air」においてシンジがアスカにした「酷いこと」とは、本話のビデオフォーマット版で追加収録された「口論の末、加持の死をアスカに乱暴に告げたこと」である。
なお、シーンの初出は総集編の『DEATH』。


本話ではBGMはほとんど流れておらず、唯一使われているのが、ベートーヴェンのクラシック音楽『交響曲第9番第4楽章』である。
主にラストの戦闘シーンで使用され、強烈な印象を残したのがよく知られている。(他には、シンジが聞いていたSDATの音楽でも使用されている)
特にこの戦闘シーンでは、発令所のシーンのほとんど(日向らオペレーターたちの叫ぶシーン等)は作画バンク(使い回し)、またはモニターのアップ等、あまり作画としても旨味のない場面が多いのだが、『第9』の音楽の高鳴りやテンポのいいカット割りによって否応なしにテンションを上げられること必至。





余談


  • カヲルのキャラクターについては初期脚本では大きく異なっている。初期脚本では無邪気であどけなさが残る少年として描写され、シンジとの関係も微妙に異なっている。

  • その初期脚本では、シンジとの入浴シーンの代わりに、湖でシンジと全裸で泳ぐシーンが入っていた。また、カヲルを招き入れたことでリツコが更迭されるなど、展開が完成版と大きく異なるところがある。

  • 漫画版でもカヲルやシンジの性格が異なるため、シンジが荒っぽい性格だったりカヲルも人間に対し無神経など、二人の関係に差異が見受けられる。

 「周りの人物の余裕がなくなり、シンジが孤立する」「カヲルと出会う」「ドグマにカヲルとシンジが降りる」「ドグマで弐(2)号機と初号機(に似た機体)が戦う」「カヲルの首が飛び、死ぬ」
 こう見れば、実は大筋自体は変わっていないことが言えなくもない。……ではその続きは?完結編を楽しみにしていよう。



















予  告


最後の使徒は消えた。

だが、シンジは苦悩する。

そして、ミサト、アスカも心を吐露する。

人々に救いを求めながら。

これも、終局の一つの形である事を認めながら。

次 回

終わる世界



最後のシ者は倒した。

だが、現実に対処できないシンジは固く心を閉ざしてしまう。

そして、約束の時が来る。

迫り来るネルフ全滅の危機、死の淵へ追い詰められるアスカ。
レイと共に発動へと導かれる人類補完計画。

己の現実に抗い、夢を受容する人々の頭上に、エヴァシリーズが舞い降りる。

暴かれる欺瞞をあざ笑うかの様に...


次 回

Air


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最終更新:2021年02月10日 12:31