十二神将(仏教)

登録日:2025/10/28 Tue 21:42:58
更新日:2025/11/17 Mon 13:15:14
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十二神将は、様々な創作物でも用いられている集団・カテゴリーの名称だが、此方では大元の仏教での十二神将の解説をおこなう。

■十二神将

十二神将(じゅうにしんしょう)とは、大乗仏教(顕教)の尊格の内、天部諸尊に属する十二の夜叉大将(神将)からなるグループ。
そのまま十二夜叉大将”と呼ばれたり、他にも“十二神王”という呼ばれ方もされている。

尚、陰陽道の『六壬神課(りくじんしんか)』に由来する“十二天将”とは全くの別物であり、件の“十二天将”を“十二神将”と呼ぶ場合もあるが正式なものではなく、仏教の『十二神将』とは関係がない。


【概要】

東方浄瑠璃世界の教主である薬師瑠璃光如来の眷属であり守護者。
主である薬師は勿論のこと、薬師の法と其の信徒達の守護者でもある。
薬師如来が立てた十二の誓願(大願)に感銘し、各々に十二の誓願の一つずつを守護していくことを誓ったという。

上記の通りで、十二神将は夜叉達の中でも強大な力のある将軍達であり、各々が七千の夜叉からなる軍勢を従えているという。
よって、十二神将全員で八万四千もの夜叉の大軍勢を自由に動かせるということになり、此れだけでも総戦力の凄まじさが窺えるというもの。


【解説】

十二神将は、先述の通りで薬師如来の十二の誓願に対応して結成されたと語られている。
しかし、それと同時に恐らくはというか間違いなく、古代インドでのローカパーラ(世界の守護者)や、その他の地域の同一カテゴリーの神群の流れを汲む、十二の方角に対応した方角神・十二の時刻に対応した時刻神・十二の月に対応した季節神の性格も含まれている。
主である薬師如来の成立が四世紀頃と古いことから、眷属である十二神将の成立も相当に古く、仏教が古代インド地域に留まっていた頃には既に存在していたと思われる。
そして、十二という数字の共通項から中国〜日本に渡る中で十二支とも重ねられるようになった訳だが、上記の通りで十二支への対応は後付けである為か対応・設定的に座りが悪いというか完璧に擦り合わせが出来ているとは言えない部分がある。
実際、経典や時期によって全く異なる場合もある為、本項目でも現在の主流として扱われているもののみを記載する。

十二神将……というか、夜叉(ヤクシャ)達は獅子国=ランカー島=スリランカの出身であるという。
古代インド神話に於いてランカー島が夜叉達の国であるというのは基本設定となっているが、そもそもの夜叉の醜い姿はアーリア人から見たランカー島の黒い肌の現地民族を風刺した姿であるとも分析されている。
スリランカは神話世界では夜叉(鬼神)や龍が棲む怖ろしくも野蛮(そう)な国と恐れられていた訳だが、原始仏教の時点で住民達は醜く気性は荒いが、それと同時に知識欲は高く真面目で芸術を愛する(意訳)……とか貶したいのか褒めたいのか分からないことが記されたりしている。
獅子国では、仏が三度訪れて順に夜叉や龍を教化したという伝説が残っていた訳だが、伝説の通りに現在までのスリランカは熱心な仏教国となっている。
薬師如来は信仰上の報身仏(信仰上の全能神としての如来)の中でも最も夜叉(ヤクシャ=アーリア人から蔑まれた土着の民)の立場に寄り添った如来であり、そうした歴史的な事実を踏まえて成立した存在なのかも知れない。
そして、その薬師如来の守護として夜叉達の中でも指折りの強者が名乗りを挙げたと語られたのは当然の構図だったのだろう。

また、密教化してからは単に夜叉大将達のグループというだけでなく、十二神将達には更に本地となる如来・菩薩・明王が設定されている。


【メンバー】

宮比羅(くびら)大将

本地仏:弥勒菩薩/種字:ヨー/十二支:亥/方角:北北西/時刻:午後十時/月:十月(神無月)
梵:Kumbhīra/Kimbhīra

神将として集った十二の夜叉大将の筆頭格。
梵名はクンビーラ、或いはキンビーラとなり、元々はガンジス川に棲む鰐を神格化した存在だと言われている。
クンビーラはガンジスそのものの神格化である大女神ガンガーのヴァハーナ(乗り物)でもあり、自身も水神としての信仰を集める。
漢訳では、他にも宮毘羅、金毘羅、金比羅、禁毘羅とも表記されている。
……そう、日本の漁業の盛んな沿岸地域にて篤く信仰されている金毘羅さん(金毘羅大権現)の大元の姿である。
こんぴらふねぶねおいてにほかけてシュラシュシュシュ♪


跋折羅(ばさら)大将

本地仏:勢至菩薩/種字:サク/十二支:戌/方角:西北西/時刻:午後八時/九月(長月)
梵:Vajra

跋折羅(伐折羅)は梵名“ヴァジュラ(金剛杵)”の音写であり、つまりは金剛杵を持つものを示す。
そして、この梵名は即ち金剛力士を示しており、つまりは跋折羅大将とは金剛力士(執金剛神)のこととなる。
金剛力士(梵名:ヴァジュラパーニ)=金剛手菩薩は、後に菩薩形の金剛手菩薩→勢至菩薩→金剛薩埵として、菩薩形に変化すると共に密教の中心尊へと変化していった訳だが、
同時に元来の金剛杵を掲げた雄々しい男神の姿も残り、此方は東方に渡っていく中で金剛力士の姿となったようである。
特に、日本では独尊形式だった金剛力士が狛犬のように阿形と吽形の仁王(二王)形式で顕わされるようになると共に、寺門の両脇に守護神として祀られるようになった。
十二神将としての跋折羅大将は唐風の鎧を纏っている為に金剛力士とは大きくイメージが違うものの、上記の通りで元来は同じ尊格だという訳である。
そして、更に大元のヴァジュラパーニとはギリシャ神話のヘラクレスが古代インド地域にまで持ち込まれて変じた姿である……と考えられている。
「つまり……仁王様はヘラクレスだったんだよ!」「な、なんだってー!!」

室町時代に誕生した所謂「傾奇者」的な意味を持つ概念「婆裟羅」の語源になったとされており、「バサラ」という固有名詞は十二神将の中でもダントツのダントツで耳にする機会が多い。
まあ、その殆どは「婆裟羅」の方に由来したと思しいもので十二神将とは関係ないのだが……


迷企羅(めきら)大将

本地仏:阿弥陀如来/種字:キリーク/十二支:酉/方角:西/時刻:午後六時/月:八月(葉月)
梵:Mihira/Mekhila

迷企羅は梵名ミヒラ、またはメーキラの音写。


安底羅(あんてら)大将

本地仏:観音菩薩/種字:サ/十二支:申/方角:西南西/時刻:午後四時/月:七月(文月)
梵:Aṇḍira/Antira

読みは“あんちら”大将となることも。
安底羅は梵名アンディラ、またはアンティラの音写。
観音様で猿(申)とか面白エピソードを作れそうなのだが特に作られていない。


頞儞羅(あにら)末儞羅(まにら))大将

本地仏:如意輪観音/種字:キリーク/十二支:羊/方角:南南西/時刻:午後二時/月:六月(水無月)
梵:Anila、梵:Majira

頞儞羅は梵名“アニラ”の、末儞羅は梵名“マジラ”の音写で、名称に違いはあるが同じ尊格である。
“アニラ”がバラモンの風神ヴァーユの異名と同じことから、ヴァーユ神が由来なのでは…と、する説もある。


珊底羅(さんてら)大将

本地仏:虚空蔵菩薩/種字:タラク/十二支:午/方角:南/時刻:正午/月:五月(皐月)
梵:Śaṇḍira/Saṃthila

読みはは“さんちら”大将となることも。
珊底羅は梵名シャンディラ、またはサンティラの音写。


因陀羅(いんだら)大将

本地仏:地蔵菩薩/種字:カ/十二支:巳/方角:南南東/時刻:午前十時/月:四月(卯月)
梵:Indra/Indāla

因陀羅は梵名インドラ、またはインダーラの音写。
思っくそ帝釈天というか雷帝インドラと被っているが特に関連するような説話どころか説明もない。


波夷羅(はいら)大将

本地仏:文殊菩薩/種字:マン/十二支:辰/方角/東南東/時刻:午前八時/月:三月(弥生)
梵:Pajra/Pāyila

波夷羅は梵名パジュラ、またはパーイラの音写。


摩虎羅(まごら)大将

本地仏:大威徳明王/種字:キリーク/十二支:卯/方角:東/時刻:午前六時/月:二月(如月)
梵:Makura/Mahāla

読みは“まこら”大将となることも。
摩虎羅は梵名マクラ、またはマハーラの音写。


真達羅(しんだら)大将

本地仏:普賢菩薩/種字:アン/十二支:寅/方角:東北東/時刻:午前四時/月:一月(睦月)
梵:Sindūra/Cindāla

真達羅は梵名シンドゥーラ、またはチンダラの音写。


招住羅(しょうずら)招杜羅(しょうとら))大将

本地仏:大日如来/種字:バン/十二支:丑/方角:北北東/時刻:午前二時/月:十二月(師走)
梵:Catura/Caundhula

招住羅(招杜羅)は、梵名チャトゥラ、またはチャゥンドゥラの音写。


毘羯羅(びがら)大将

本地仏:釈迦如来/種字:バク/十二支:子/方角:北/時刻:零時/月:十一月(霜月)
梵:Vikarāla/Vikāla

読みは“びから”大将となることも。
毘羯羅は、梵名ヴィカラーラ、またはヴィカーラの音写。


【十六善神】

『大般若経』を守護する請願を立てた十六の護法善神を『十六善神』というが、武神のグループとして四天王と十二神将を併せた夜叉大将のグループと解釈する場合も見られる。

【二次創作】

※本wikiには他にも“十二神将”の名前を引用した作品は存在するのだが、明確に仏教の『十二神将』と関連したもの。

十二神将(デーヴァ)』と呼ばれる組織が存在。
十二支との紐づけは本項とは異なっており、宮比羅(クンビラモン)が子になるパターン。
詳細は当該項目を参照。

魔神アタバク(大元帥明王)に率いられて、主人公の行く手を阻むためにゲブラー砦を占拠する。
十二体全部が出るが、数が数だけにか一体一体は余り強くない上に、戦闘前後の台詞・首から下のグラフィックが全員使い回し、独自のカテゴリーである“神将”とあってか仲魔に出来ない(アタバクは出来る)……など、色々とモヤる立ち位置。挙句、大半が最初から不在なんてバグが起きたりもする(フラグまで使い回したせい)。
まずもって一つのダンジョンに中ボスとして12体全員+アタバクまで配置するという無茶な配置をしたせいだろう。
設定的には原典を意識しており、アタバクは薬師如来からわざわざ「借りてきた」らしい。

特殊な力と役目を代々受け継ぐ12人の人間として登場。作中設定については作品項目を参照。
「薬師の座」という人物が創設した等、ベースは仏教の十二神将なのだが、その薬師が十三仏の一人だったり、拠点が神社だったりと神仏習合的な設定になっている。
復刻サイクルなどが限定されている特別なキャラとして扱われており、何よりサービス開始の翌年にあたる2014年末に実装されたアニラに始まり年末に毎年1人ずつ新キャラが登場するという仕様が特徴。
生存競争激しいソシャゲの世界において正気を疑うほど気の長い仕様であったが、グラブルが御長寿ゲーとして大成功を収めたことで2024年末を以て11人目にまで到達、まさかのコンプリートが見えてきた。

最終章『外魔瑠派(ゲマルハ)教団』編で十二神将の名を冠する敵が登場。
数十年後の未来を支配するカルト宗教団体の兵士で、その名の通り各神将の像を模したアーマーを纏っている。
その正体は巨大培養された昆虫。
ただ、本編登場前に未来の空総によって7体が倒され、本編に登場したのは宮毘羅、真達羅、伐折羅、末爾羅、招杜羅の5体のみ。

八雲 藍の使用するスペルカードに『式神「十二神将の宴」』が存在する。
文字通り、12個の魔法陣から弾幕が放たれるスペル。
藍は「アルティメットブディスト」のような仏教をモチーフにしたスペルを持つため、恐らくこちらも仏教の十二神将と思われる。
ただ、道教由来のスペルも多いため、十二天将の方か、もしくはダブルミーニングの可能性もある。



追記修正は十二の願いを守ってからお願い致します。

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最終更新:2025年11月17日 13:15