しがらみの檻(うみねこのなく頃に散)

登録日:2021/09/23 (木) 14:32:55
更新日:2022/05/14 Sat 16:47:02
所要時間:約 21 分で読めます





「しがらみの檻」とは、月刊ガンガンJOKERにて連載されていた漫画版『うみねこのく頃に Episode8 Twilight of the golden witch』の第25話のサブタイトル。

漫画版『うみねこEP8』は、原作者竜騎士07の承諾を得て、作画担当の夏海ケイが原作の「ぼかした部分」=猫箱の中身を敢えて克明に描いたことが大きな特徴だが、本話は一番の目玉だった犯人の自白「Confession of the golden witch」の直後の回であり、原作にも存在するエピソードであるが、その印象は原作とほぼ180度違っている

最大の特徴は、原作においてぼかされていた、犯人ベアトリーチェと右代宮家の人々の、偽らざる本心を描き切ることで、六軒島の惨劇の罪の在処、そして彼らの後悔を見つめ直したことである。
それにより、ある意味一番の被害者であり、読者に一番近い人物だった右代宮縁寿の心の傷を癒すという役割を果たし、感情移入をより強いものとしている。





原作における話の流れ


魔女ベルンカステルに唆された縁寿は、六軒島事件の真相が書かれた一なる真実の書=右代宮絵羽の日記を、ひた隠しにしていた兄戦人から奪い、それをベルンに献上することに成功した。
そして、その日記の中身を見た縁寿であったが、その「真実」は、彼女にとってあまりに耐え難いものだった。
図書の都から真っ逆さまに落下し、屑肉同然の死骸となった彼女は、ベルンによって虚無の海に捨てられる。

その後、虚無の海を漂っていた縁寿は、ベアトや右代宮家の人々、幻想勢といったゲームの駒達が避難していた黄金郷に流れ着き、ベアトの魔法で復活させられる。
彼女は、「真実なんて知るんじゃなかった」と後悔し、その愚かさを反省して、留弗夫霧江に泣きつき、ベアトや真里亞達と和解。
絵羽の真意も知って、彼女にも初めて「お母さん」と呼ぶことができた。
「右代宮家の人々は確かに善人だった」という戦人の真実を、彼女は受け入れたのである。
ベアトもまた、「ボトルメッセージをばら撒いた妾にも責任がある」と反省する一方で、縁寿も「お互い様」と励まし合う。
そして、未来を生きる決心をした縁寿は、真里亞からマリアージュ・ソルシエールの入会を再び許可された。

戦人には、「真実なんて知るものじゃない」と念を押されたが、同時に縁寿は「みんながもう死んでしまった」という事実も知ってしまった。
だが、開けてしまったものは仕方ないし、それにもう彼女は怖くない。未来を生きる決心をしたのだから。
未来の魔女として、戦人が紡いでくれた魔法を、これからは彼女は伝え続けるのだろ。


……以上が、原作における本話に相当する物語である。




原作における問題点


本来、ひたすら未来に絶望し、過去の真実に縋り付いていた縁寿が未来に向かうことを決意する華々しいエピソードである。
しかし、この展開を受け入れられない読者が続発。何しろ、直前まで「六軒島事件の真相を無理矢理暴こうとする山羊とそれを阻止しようとする戦人達との戦い」が繰り広げられ、それが読者から「真相を暴こうとする読者は山羊なのか」と反感を抱かれ、すでに物語への没入感が離れかけていた時だったのである。

念のためフォローしておくが、ここで言う山羊とは「無分別に、面白半分に過去の事件を暴いて遺族をより傷つける人間」を指しており、「ベアトリーチェの心情に寄り添いながら彼女の真相に肉薄していった(本来の)読者」とは(竜騎士07の解釈としては)異なっている。

そして縁寿は、過去の辛い経験から真実を暴きたいと願う、一番読者に近い存在だった。
だが、彼女は真実の重みに耐えきれずに自殺し、復活した途端に戦人やベアト達を受け入れ、真実が暴かれることを阻止しようとするのである。
この心変わりが「唐突すぎる」とまたも批判を浴び、誰に感情移入していいのか分からないままEP8が終わってしまった、という意見も多い。


……そして、原作においてぼかされていた部分を全て明かした漫画版は、これらの問題点に大きな変化を及ぼした。



漫画版の前提


漫画版における前半部分は変更点がいくつかある。

一つ目は、右代宮家のハロウィンパーティーでの縁寿への出し物が「クイズ大会」から「かくれんぼ」に変わっていること。
ここで、鬼である縁寿と絵羽から隠れる際に、それぞれの登場人物達が過去を回想し、自分の罪を悔い、和解するという物語が描かれる。
殊に、夏妃とベアトの抱擁や、霧江の嫉妬心の氷解、楼座と真里亞の和解は大幅に補完されている白眉となるエピソードだ。

二つ目に、ベルンカステルが縁寿を唆す際に、「右代宮家の人間が善人だなんてあり得ない」と強調する点である。
今までのベアトのゲームでの彼らの姿を見る限り、彼らが悪行を重ねていたからこそ縁寿は爆発事故の被害者遺族ではなく事件関係者の娘として疎まれてきた。
だから、戦人のゲームで「仲良し家族」として振る舞う彼らの姿は「子供騙しの人形劇」でしかないと一笑され、縁寿もまた「甘ったるい茶番で自分を一人ぼっちの未来に置き去りにしようとしている」と兄への憎しみを強める結果となる。

さらに、ヱリカと戦人の決闘で、ヱリカは戦人の「縁寿には過去の残酷な真実など知らずに未来を見据えて生きてほしい」という思いにおける矛盾点を指摘し、「帰ってやればいいのに帰れないのは黄金郷が死の国だからだ」と切り捨て、戦人の願いはある種の「押し付け」であると断言されている。

そして、図書の都で、興味本位から「赤いボトルメッセージ」を持ち去った縁寿。これこそが、ベアトリーチェの正体である安田紗代の自白文「Confession of the golden witch」。
飛び降りた際に「Confession」のカケラが砕け、それと一緒に吸収してしまう。そして縁寿は知る。なぜ六軒島事件が起こったのか、その理由を。



25話あらすじ


かつて右代宮縁寿だった屑肉が、虚無の海を漂って黄金郷へと辿り着く。それを、外を見張っていた紗音と嘉音は発見して目を見開いた。





……縁寿は夢を見ていた。
自分が産まれて間もない頃。
結婚したての留弗夫と霧江に笑顔で出迎えられ、愛情いっぱいに育てられる。

そして、本家へ顔合わせ。
ボールで遊んでいたら、ボールは気難しい金蔵の足元へ。心なしか、金蔵は笑ったように見える。
不気味な魔除けらしき手首の置物を金蔵からプレゼントされるも、気に入らないので足蹴にする縁寿。父の趣味の悪さに蔵臼も呆れ顔だ。
客間で泣きじゃくるが、いつもはイライラしている夏妃も「朱志香の幼い頃を思い出す」と穏やかな顔だ。
絵羽・秀吉夫妻も「天使みたい」と羨ましそうだ。
勝手に庭園の薔薇を切って持ってきた真里亞に、苦い顔をしつつも絆される楼座。そして薔薇を縁寿にプレゼントする。

兄の戦人と会う日、プレゼントの髪留めをして笑顔の縁寿。



ねえ お兄ちゃんもこれからはおうちで一緒に暮らせるの?

えんじぇ一緒がいい! みんなと一緒がいい!





……そして、目を覚ます。黄金の薔薇でいっぱいの庭園―――黄金郷の中で。
目の前には、ベアトや留弗夫と霧江、そして親族一同やマモンにワルギリアといった幻想勢の面々。皆、縁寿が無事でほっとしているようだった。
真里亞とベアトが虚無の海を漂っていたところを発見し魔法で元に戻したと説明する。



縁寿…みんなお前が帰ってくるのを待ってた

あなたがみんなの元へ帰りたいと願ったから ここへ帰ってこれたのよ…


そう言い、娘を抱きしめる留弗夫と霧江。……だが、縁寿の脳裏によぎったのは、冷笑を浮かべ、血に染まった両親の姿。
彼女は、反射的に二人を突き飛ばしてしまう。
その怯え切った様子から、ベアトは彼女が一なる真実を知ったと悟る。
さらに、縁寿の服には赤いカケラ。「Confession」のカケラと一緒にバラバラになった際に、「魔女の自白」が脳裏に流れ込んできたのである。

……今、彼女は全てを知ってしまった。なぜ六軒島事件が起こったのか。事件を仕組んだのは、そして実際に殺したのは誰か。なぜ絵羽は真相を語らなかったのか。



―――もう分かんない

私は何を信じたらいいの…!?何を憎んだらいいの!?

私はどうしたらいいのよ…!!!


縁寿の頭に流れ込む大きすぎる情報。
優しい顔をした両親と、冷酷な殺人犯としての両親の顔。
全てを計画し、凄惨な人生を歩んできた「三つの顔」を持つ使用人。
自分に酷い仕打ちをし、嘲笑った一方で自分を傷つける真実から守り抜いた絵羽。
……あまりに重い「真実」に、彼女はもう自分の行く道すら見つけられずにいた。

その動揺する様子を見て、誰も彼女に声をかけられない。
そこへ動く者がいた。ベアトだった。



何を悩む必要がある 全て見たのなら理解したはずだ

そなたが憎むべきは妾である

妾のせいだ 妾がそなたから家族を奪った

そなたから家族を 家族から未来を奪った


赤き真実で語られたその言葉に、誰もが言葉を失う。
しかし、縁寿はもうその赤き真実すら信用できない。



…… 何それ?冗談?今更魔女が犯人だとかいうわけ…?

悪いのは魔女で誰にも罪はないとかいうわけ…!?


……ニンゲンの犯人として話している


そう、戦人とのゲームで彼女が決して明かさなかった自分の本心を。ニンゲン「安田紗代」として、彼女は語りだしたのである。



あの惨劇を生み出したのは妾だ

ああいう結末にならずとも妾は皆を殺していた 数多のカケラで皆の命を奪ったのだ


事件の計画を立て、それを実行に移しかけた。
あの結末も、黄金とキャッシュカード、そして銃を見せびらかすことで大人達を煽り、争いを仕向けた結果に過ぎない。
結果待っていたのは大人達による殺し合い。彼女さえ計画を立てなければ、惨劇は起こらなかった。

悔恨するベアトを、無言で見つめる理御。

ベアトは追想する。皆を救うことだってできた。一人で死ぬことだって。
…でも、自分が死んだら「あの人」は一度は悲しんで、いつか何事もなかったように別の誰かと生きていく。
嫌だ。「あの人」を誰にも渡したくなんかない。……そんな昏い欲望が心の奥底にあったのである。

皆を思うなら、あんな危険な、争いの種にしかならない黄金の山なんて壊すことも、海に放ることもできたはずだった。
それだけで誰も死ぬことはなかった。
……だが、彼女にはその選択肢があることすら見ていなかった。見ようともしなかった。

「どんな結果でも満足する」無限の魔女、ベアトリーチェ。だが、それは反面、自身による「選択」を放棄した魔女であるとも言える。
あらゆる選択を、未来を、彼女は放棄した。



滑稽だ 幸せは神や他人が与えてくれるものだと妾はずっと思っていたのだ

ずっと受け身に 妄想に甘えながら

現実から逃げて 偽りの幸せの中で生きて 逃げて 逃げて 逃げて

逃げ続けたから現実は何も変わらなくて

最後の逃げ場をここに決めた


……もしも、自分が見えない選択肢を探して、現実を生きることができていたら、恐れずに自ら手を伸ばしてみたなら。
自分にも、もっと違う結末があったのではないか。生きてみるのも悪くないと思えた瞬間だってあったはずではないか。

そう語るベアトの頬を、涙が伝う。

可能性は無限だった。それを何もせず、ないと決めつけ、未来を閉じただけ。
可能性を握りつぶしたのは彼女自身。身勝手に皆の未来を道連れに、袋小路に閉じた。



許せとは言わぬ 恨むがいい

そなたには生涯妾を恨む資格があろう

すまなかった 縁寿

そして我が 片翼の一族よ


……無言の右代宮家。そして、縁寿は泣きながら、ベアトの胸を力いっぱい叩く。
真里亞が庇うが、ベアトは制する。
雨の中、縁寿のベアトを叩く音が響いていた。

すると、金蔵が笑い声を上げる。彼は「この期に及んでそなた一人に背負わせはせぬわ」と全ての咎を自分だと認める。
……恋人欲しさに黄金を独り占めし、仲間の血でその手を汚した。何も知らない娘の心と体に傷を負わせた。
一族に根差した罪と、ベアトリーチェの茨の道。その元凶は金蔵なのだ。



この結末は私の過ちの産物である


傲慢そのものだった金蔵の謝罪に、驚くベアトと縁寿。
「少なからず思うところのある者もいよう」と言う金蔵。背後には彼に冷遇されてきた夏妃がいる。
そして、南條、源次、熊沢も次々と口を切り出す。
友として金蔵に諫めることができていれば、と語る南條。
使用人の道に反してでも、彼女を守り導いてやることができていれば、と源次。
育ての母として、現実逃避の手段として魔法を使わせなければ、と熊沢。
彼ら使用人は、金蔵の言うことに大人しく従うばかりで、その犠牲になる者の気持ちを考えもしなかったのだ。

留弗夫もまた、重い口を開いた。



お前に胸を張れないような親になっちまってごめんな 縁寿


扇動されていようと、金に目が眩んで手を汚してしまった。それは留弗夫と霧江の言い逃れのない罪なのである。


秀吉が言う。



わしら全員が縁寿ちゃんに胸ェ張れるような人間であろうとしていたら

こないなことにはならんかったんや……


気まずそうに目を背ける蔵臼と夏妃、そして真面目に気張っている特に何も悪いことをしていなかった気がする郷田
秀吉に寄り添い、絵羽もまた辛そうに項垂れる。

真里亞も楼座に語りかける。



うー 真里亞がもっといい子にしていればママと仲良しでいられた?


だが楼座は真里亞を抱きしめる。



いいえ 私がもっとあなたを認めてあげなきゃいけなかった


そして譲治も、「もう少し彼女を気にかけてあげていたら」と後悔する。
紗音の物言いたげな瞳が怖くて夢ばかり語って、結局彼女の本心に気付いてあげられなかった。安心できるもっと強い男になれていたらよかったのに。
朱志香も、「紗音がもっと心を開ける親友になっていたら」と呟く。



だからたぶん あの日を袋小路にしてしまったのは 私達自身のいろんな過ちとかすれ違い

罪の 積み重ねで

澱みたいに つもって 濁って 混ざって 抜け出られなくなって… だから…


……縁寿にも、ようやく分かった。
あの日の惨劇は誰か特定の人間が悪いというわけではなく、絡み合ってしまった一族の因果の宿命。
もしもみんなが見えなかった選択を選んでいたら、澱を取り除いていたら、もっと違う運命があったかもしれない。
……だが、結局それは過去のこと。もう永遠に叶わない。
叶わないからこそ、戦人は猫箱の中でせいいっぱいの夢を見せてくれたのではないか……。


「ここに至ってやっと気付くのだから皮肉なもの」とベアト。だが真里亞は「何のしがらみもない黄金郷だから私達は素直に非を認めて許し合える」と付け加える。
かつては難しすぎたのだが、生あるうちにそれを叶え、未来を見たかった、とベアトは言う。

そして、ベアトは縁寿に語る。
六軒島事件のせいで12年間も縁寿は苦しんでいた。妄想に甘えながら生きた亡霊のような日々。誰も帰ってこない未来なら命ならいらない、と。

悲しげな笑顔でベアトは言った。



妾とまるで同じではないか


そして、今度は言い聞かせるように。



だから言おうぞ そなたを再び苦界へつき落とすことになろうとも 言おうぞ

生きよ 縁寿

笑って 恋をして 心震わすたくさんのものと出会うがいい

現実に幸せがないのなら自ら探して作り出すのだ

現実を輝かせるために生きよ


現実から逃げ回ってたどり着いた死の国(そのさき)

幸せも未来もないのだ

そなたは最後の最後で真実と向き合ったのであろうが ならば




生きて幸せをつかめ 縁寿




黄金の魔女―――未来を生きれなかった女の心からの言葉に、縁寿は泣き崩れるのだった。





26話の冒頭あらすじ


今度は絵羽に向き合い、「ごめんなさい」と謝罪する縁寿。
最愛の夫と息子を殺され、その命を奪った夫婦の娘を育てる。そしてなおかつ、その真実を決して漏らさない。にもかかわらず、彼女は自分を受け入れない。
その苦境に立たされた彼女の心境は地獄だっただろう。でも、最後まで彼女は真実を隠し、縁寿を守り抜いたのだ。

……しかし、絵羽はそれを素直には受け止められない。
自分も結局手を汚しているから自己保身の気持ちもあった。最後は自分の悲しみに溺れて、親としての役割を果たせず、苦痛を縁寿に強いてしまった。
でも、絵羽は縁寿を育てた。もし、彼女が絵羽を拒絶しなかったら、二人で新しい世界を生み出せたかもしれない。それは事実なのだ。



ごめんね… そしてありがとう 私のもう一人のお母さん…


二人の歪な親子は、ようやく抱擁を交わす。


そして、今度は姿を隠していた戦人を探し出した縁寿。
戦人は自分の思いに反旗を翻した縁寿の頭にそっと手を置く。
……彼は縁寿に選択を強制させたくないために、自分のゲームの意図をはぐらかし続けた。だから縁寿が日記を見ても非難する資格などない。
それはヱリカの言う通りで、ベアトもまた戦人を叱った。



妾に“ラブレターには好きだと短く書け”と言ったのはどこの誰だ

そなたに言えぬのなら妾が言ってやる いや妾だからこそあやつに言える言葉もあろう

縁寿が欲しているのは 気休めでも誤魔化しでもない 我らの真実(ほんとう)


その言葉の通り、ベアトの「生きよ」は縁寿に通じた。はっきりと言葉にした方が嬉しいこともある。それが女というもの。

戦人が、「善人しか出てこない右代宮家」のゲームを開いた理由。
一族のネガティブな部分は周囲の勝手なイメージだということにすれば、縁寿の中のイメージを払拭できると思ったから、それを「間引いた」。
だが、決して真実を隠して幻想で塗り固めたわけではない。

重苦しいしがらみがなければ、みんなで笑い合える。あれもまた、真実の姿なのだ。

縁寿もまた、夢の中で思い出していた。重くて怖い一族だったが、自分に笑ってくれた日も、みんなで笑い合えた日もあったこと。
彼らはただの悪人なのでも善人なのでもない、いろんな思いを抱えた自分の家族なのだ。

ベアトは金蔵や色々な人々に、金蔵は本家の老人達に人生を歪められた被害者であるとも言える。
二人だけではない。
蔵臼に圧し掛かる次期当主としての重圧。
女としての役割を強要された絵羽。
二人の女の板挟みになった留弗夫。
虐げられた過去から逃れられなかった楼座。
子供を産む役割を果たせず、他人の子供を憎悪した夏妃。
妻の苦悩に寄り添う秀吉。
ライバルへの嫉妬と男への独占欲に6年苦しんだ霧江。
金蔵の苦悩をそばで見続け、ずっと裏で手を回してきた源次、熊沢、南條。
良き男、夫になりたかった譲治。
想い人の心を解き放ちたかった朱志香。
母を裏切った父を許せず、約束も忘れてしまった戦人。

誰もが心に黄昏を抱えている。一族の負の連鎖の結末があの日の惨劇だったのなら、身内として彼らを理解してあげたい。
それが縁寿にとって、負の連鎖を継がないために踏み出す一歩だ。



私はやっとみんなと事件の加害者被害者としてではなく

家族として向き合える気がする

ありがとう お兄ちゃん


やっと浮かべた笑顔に、戦人もまた、弱々しい笑みで返す。


そして、彼ら18人はもう死んでいることも、確定してしまった。
誰かが生きているかもしれないという縁寿の希望も、これでなくなった。
「帰ってやれなくてすまねえ」と言う戦人に、「……うん」と返す縁寿。

それをゲームマスターになった時点で分かっていた戦人は、希望を奪ってしまうことが分かっていたからそれを言えずにいた。
平気そうな縁寿だったが、堪えていた涙が溢れ出す。
戦人は妹を抱き寄せ、言った。



未来に俺はいない

でもお前の背中でいつだって見守る

みんなと一緒にずっとお前の幸せを願ってるから な!

うん……!










解説


このように、漫画版におけるメッセージは「真実を知ることで家族の本当の姿と向き合い、それでもなお家族の善性を信じることができた」ことに着地しており、原作版の「真実は知るものではなかったがそれでも家族の善性を信じる」と大きく異なっている。

そう、漫画版では「右代宮家はどうしようもない悪行を重ねている」ことをEP8では否定していない。むしろ、それこそが彼らの事実であると強調されて描かれている。
だが、それでも彼らには罪を後悔し、愛を持つ一面があったのだ、と縁寿の回想をはじめとした部分で描かれ、EP8の方向性に説得力を持たせているのだ。

この方向性に持っていくには、読者だけでなく縁寿にも、一なる真実のみならずベアトリーチェの猫箱の心臓=正体やトリック、動機諸々の真相を知らせた上で展開させる必要があった。
それには「原作とはまるで物語が違ってこないか」「原作のメッセージ性はどうなる」という少数派の批判もあったが、竜騎士07曰く漫画版は「最後のメディアミックスとして、『うみねこ』を追い続けてくれたファンへの最後のファンサービス」としており、原作の趣旨とは異なることを暗に示している。

しかし、やはり全てを明かした上で、登場人物の罪を踏まえて和解までさせた漫画版の評価は高く、「こっちを正史にしてくれ」という意見も少なくない。

縁寿の心情もまた、漫画版の方が格段に分かりやすくなっており、それが読者の感情移入に深く貢献したことも伺える。








追記・修正は黄金郷に行かずともしがらみを振り払える人がお願いします。

この項目が面白かったなら……\ポチッと/

最終更新:2022年05月14日 16:47