クニマス

登録日:2021/10/5 Wed 11:36:40
更新日:2024/12/01 Sun 14:12:20
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『クニマス』とは、かつて秋田県の田沢湖のみに生息していた固有種のマスであったが、1940年に酸性の玉川の水を引き入れた事により絶滅した。

しかしそれから半世紀後の2010年に・・・。

●目次

概要

外見はヒメマスとほほ同様で全長は40センチにもなるサケ科の大型魚で体は全体的に灰色か黒色で下腹部は淡い色をしていた。田沢湖のみに生息する固有種と考えられていた。

サケ科だけに肉は大変美味であり、江戸時代から将軍家に献上されていたほどである。

生態

田沢湖の水深100メートルから300メートル付近の深い部分に生息し、プランクトンや藻類や水生昆虫を主食とし産卵は水深の深い部分で行っていた。

田沢湖では最大の魚でありその為、天敵がおらず生態系の頂点に君臨していた。普通に生活している分には彼らの天下だったのである。

あの悲劇が起こるまでは。

絶滅

1940年、田沢湖での生活をエンジョイしていたクニマスに悲劇が起きる。時は戦時中、田沢湖の湖水を利用した水力発電所が開発されたのである。人間達は一応、魚らの事も考えて玉川から水を供給した。

ところがどっこいこの水、玉川毒水と称される程に塩酸や硫酸を含む高濃度の酸性が為、大量の水が流入した為に水質汚染が発生しクニマスは瞬く間に全滅。

絶滅の原因は他にもクニマスが属するヒメマス類が酸性の水に極めて弱かった事も原因であった。

また当時が戦時中であり生物保護まで手が回らなかった事も原因である。

まあ、どちらにしろ人間のせいだけどね。


玉川毒水の余談

なお…ここまでして行った計画だがその強酸性は水力発電所を設備等を劣化させ、稲作などの土壌にも影響を与えてしまう本末転倒な事態を引き起こしてしまう。
中和させるために石灰を用いて湖のPhを戻そうと現在でも行っている。



奇跡

それから類似個体や雑種の発見はあったものの、純血のクニマスは絶滅したと思われていた。しかし、2010年遂に奇跡が起こる。京都大学の中坊徹次が当時東洋海洋大学準教授だったさかなクンさんにクニマスのイラストの執筆を依頼した所、さかなクンさんは参考として各地の漁師さんからヒメマスの個体を取り寄せようとした。タレントとしても活動しており、各方面に顔が利くという強みを活かした形である。
さかなクンさんはこの中から2尾を選んで中坊准教授の元に持ち込む。
中坊准教授が水深や捕獲時期のデータに疑問を抱き、解剖や遺伝子解析を行った結果、片方の個体がまさかの本物のクニマスであることが判明した。
さかなクンさんのサンプルの選び方も良かったし、中坊准教授もしっかりと確認を行なったおかげで再発見に至ったのである。

何故この奇跡が起きたかと言うと実は1935年、人工孵化の実験の為にクニマスの受精卵が各地に送られており、その中で西湖の卵が自然繁殖に成功して生き延びていたのである。残念ながら人の手で生き永らえていたものなので野生絶滅の表記は変わらなかったが野生で生き延びていたのも事実。

命を絶滅させる力があるのも人間なら命を守る力があるのも人間である事が証明された例である。

一部ではあれは唯のクチグロマスだという批判もあったが、NHKのダーウィンが来た!でその生態系がテレビ初放送され存在が確定した。

さかなクンさんらの尽力により再発見に至ったことは同じ魚類学者でもある上皇陛下(当時・天皇陛下)*1も大いに感心しており、天皇誕生日の会見で「さかなクンを始めとする多くの人が協力したことを嬉しく思う」とコメントしている。

さかなクンらの判明前より

実は西湖の個体のものは以前から釣り人たちによって「黒いマス」という扱いで釣られていたが、色が黒いからヒメマスと比べて美味しくなさそうという認識でリリースされていた。
一方で試しに焼いたりして食べた人もいたようで「美味かった」とのこと。


再発見後

西湖でのクニマスの生存が判明後は個体数の増加をしようと人工飼育を試みているが、かつて絶滅扱いされていたが為に資料が乏しくヒメマスと違い、なぜ田沢湖だけに生息していたのか様々な謎を調査している模様。

前述の通りにかつての生息地は現在でもクニマスの暮らしていた環境には程遠く、彼らの故郷への帰還はまだまだ先の話。



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最終更新:2024年12月01日 14:12

*1 明仁名義で魚類学会の学会員として名を連ねていらっしゃるほか、ハゼ類の新種を幾つか発見してそれぞれ学名にAkihitoの名を残すなどの功績があり、学者としても超一流のお方でおられる