登録日:2022/08/06 Sat 12:31:35
更新日:2024/07/30 Tue 22:00:56
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『天空の蜂』とは、1995年に発表された日本の長編クライムサスペンス小説。
著者は後に「ガリレオ」シリーズで知られることとなる東野圭吾。
ストーリー
1995年のある夏の日、防衛庁主導で錦重工業が試作開発した新型の大型ヘリコプターであるCH-5XJ_通称「ビッグB」が、正式納入を前にした領収飛行の直前、突如何者かに制御システムを奪取され離陸した。
飛行を続けるビッグBだったが、やがて福井県敦賀半島のある地点でホバリングを開始する。そこは、高速増殖炉「新陽」の真上。
FAXで送られた犯人_「天空の蜂」の要求は、日本全国にある全ての原子力発電所を稼働不能にすることだった。さらに「天空の蜂」の知らないことだったが、ヘリには偶然乗り合わせた子供がまだ取り残されていたことが判明する。
ビッグBが燃料切れで新陽に墜落するまでのタイムリミットが迫る中、墜落の阻止と子供の救出に向け奔走する現場の技術者に対して政府が下した判断とは?
人物
主人公。錦重工業航空機事業本部が進めていたビッグBの開発責任者。
防衛庁への引き渡し日とあって家族サービスも兼ねて妻子を連れて来ていたが、目の前でビッグBが盗まれ、新陽内の対策本部で墜落阻止に向け奔走する。
技術者とあってワーカホリックのため、妻からは呆れられている。
錦重工業の原子力技術者。日本各地の多くの原発の設計を行ってきており、新陽も設計している。
湯原とは10年前に会っているが、その当時とは大きく性格が変わっていた。新陽の設計者として対策本部に参加した。
湯原の同僚で、錦重工業航空機事業本部に所属する。子供がビッグBに取り残されてしまう。
山下の子供。ビッグBに好奇心で乗るが、直後に離陸してしまい、一人機内に取り残されてしまう。
錦重工業航空機事業第一開発部エンジン開発一課に所属する。三島と繋がりがあるようだが...?
新陽の所長。現場のリーダーとして奔走する。
航空自衛隊救難員二等軍曹。恵太の救出に向け、UH-60で接近する。
元航空自衛隊幹部。それ以外は謎に包まれているが...
福井県警の刑事。犯人検挙のため捜査を行う。
福井県知事。立場の割に出番のほぼない不遇さん。
福井県消防本部特殊災害課長。対策本部で避難規模の情報提供や消防隊の陣頭指揮を行った。
福井県警警備部長。最初は慎重派、主人公たちの否定派だったが、墜落時の作戦の内容に自分の部下を新陽に墜落寸前まで残らせることになると、「自分の部下に死ねと言うことはできない」と真っ向から否定した、今作の漢(?)。
用語
防衛庁主導のもと、錦重工業航空機事業本部が開発した大型ヘリコプター「CH-5XJ」の改造機。
CH-53Eよりもさらに大きい機体で、機体両脇の大型スポンソン内に設けた燃料タンクにより長い航続距離を有する。
フライバイワイヤ(以下FBW)とは航空機用の操縦・飛行制御システムの一つ。
それまでの航空機操縦システムは、パイロットが操縦桿(操縦輪)やラダーペダルに入力した内容を機械的リンクによって反映させるものだったが、FBWの場合はパイロットの操作をセンサーで探知して電気信号に変換し、それを各所のアクチュエータに電線で伝達させて操作する。
これによって重量の低減や整備性の向上、冗長性の確保のしやすさ、燃費や機動性の向上、果ては「飛行性能は良いが安定性などが低すぎて操縦困難な航空機」などを実用化できるなどといった様々なメリットが発揮することができた。
元々は1930年代より研究されていた技術で、現在では幅広い航空機に採用されるポピュラーなものとなっている。
CH-5XJは元々アメリカのエアロコプター社が開発した大型ヘリ「CH-5XE」で、これに錦重工業が世界に先駆けて開発してきたヘリ向けのFWHシステムを組み合わせた機体である。エアロコプター社はFWH分野において錦重工業と提携しているため、ライセンス生産機ながらこの分野において日本側はより自由な改造を行うことができた。
この点や国内の航空機産業育成の観点から、防衛庁により
海上自衛隊向けの新型掃海ヘリとしてCH-5XJが導入されたのである。
そのCH-5XJをAFCS(自動飛行制御システム)を搭載する『Bシステムプロジェクト』によって改良したのがビッグBである。
AFCSは一種の高度な自動操縦システムで、あらかじめプログラムしておけば自動離陸・自動飛行・特定地点でのホバリング開始などを行える代物。しかしそのために犯人によって細工が施され、遠隔操作によって奪われてしまうこととなった。
ちなみに、防衛庁内の一部は『Bシステムプロジェクト』を揶揄して「トラックの電飾」と呼んでいたという。
導入経緯などから、恐らく元ネタとなったのは先述したCH-53Eに機雷掃海用装置を組み合わせる形で開発された大型掃海ヘリコプター
「MH-53E シードラゴン」。
海上自衛隊でも1990年から1994年までに全11機を取得して掃海ヘリとして運用しており、耐用命数に到達した機体から順次同型機を運用するアメリカに部品取り用として売却される形で2017年までに運用を終了した。
後継機としては
イギリス・イタリアが共同開発した大型ヘリ「アグスタウェストランド AW101」を「掃海・輸送ヘリコプターMCH-101」の名称で導入された。ちなみにAW101は海自向けのMCH-101の他にも、文部科学省が南極観測船用艦載ヘリとして「CH-101」の名称で導入している。
ビッグBを強奪して今回のテロを行った正体不明のテロリスト。
遠隔操作システムを乗っ取ったり、機体に赤外線センサーをつけて新陽の動向を注視したりと、かなりの知能と技術を持っている。また、原発絡みの犯行から、その正体は原発に恨みを持つ人物ではないかと疑われていた。そのため事件初期は新陽反対派の人間が疑われていたが...
福井県敦賀半島に位置する原子炉・核燃料開発事業団の
高速増殖原型炉。
高速増殖炉とはプルトニウムとウランを混合したMOX燃料を使用する原子炉の一種で、高速中性子によって核分裂の連鎖を起こすというのは普通の原子炉と変わらないものの、消費する核燃料よりも多くのプルトニウムを生み出すことができる。そのため、原子炉の燃料を向こう数千年確保できるというメリットを持っていた。
事故対策も無論行われており、
F-16戦闘機が時速500kmで衝突したり、ジャンボジェットが墜落しても原子炉は安全という耐久性能を持つ。しかし、爆弾が搭載された可能性があるビッグBが墜落すると原子炉が破壊される可能性があった。
上空にビッグBが静止し、「天空の蜂」による脅迫材料となってしまう。なお、破壊された場合は名古屋、甲府、新潟、横浜、東京の一部など、日本中心部の多くが今後数万年間、生物が生存できなくなると予測されている。
モデルは恐らく、というより十中八九福井県敦賀半島に位置する日本原子力研究開発機構の高速増殖炉「もんじゅ」。
高速増殖炉そのものは核燃料サイクル計画の一環として国家プロジェクトで開発が進められており、「もんじゅ」も高速増殖炉の実験炉「常陽」に続く原型炉として建造され、1991年に運転が開始された。
しかし、本作発売から3年後の1998年に冷却材であるナトリウムの漏出事故が発生して長期間の運転休止を余儀なくされ、2010年に運転が再開されるも、今度は同年8月に炉内中継装置落下事故が発生して再度の運転休止状態となる。
再度の修復が行われて2012年に運転を再開する予定だったが、今度は点検漏れ事件が発覚し、結局再稼働しないまま2016年に廃炉が決定した。
なお、高速増殖炉の研究開発そのものは引き続き行われる予定である。
漫画化
講談社の「イブニング」2015年5号から19号にて連載された。作者は猫田ゆかり。単行本上下巻も出版されている。
映画化
2015年に堤幸彦監督の元、松竹映画120周年記念作品として映画化された。同年公開の『日本のいちばん長い日』と合わせ多くの賞を受賞している。主題歌は秦基博の「
Q&A」。
なお内容に関しては、ビッグBの型番がCH-50Jに変化していたり、作中のUH-60ヘリコプターの殆どがUH-1Jヘリに変更になっている、ラストシーンと結末の変化など、細部に様々な変更点がある。
ビッグBは大型ヘリコプターではあるものの、折り畳み式の主翼を備えたり、機首部分が如何にも通常の航空機然としていたりとややチグハグなデザイン。
それでもCGによる迫力ある描写によって、より「化物」らしさを前面に押し出しており、その存在感は抜群。
蜂に刺されながら追記・修正お願いします。
- 立て逃げ? -- 名無しさん (2022-08-06 19:02:39)
- 内容は短いけどテンプレもタグ欄もちゃんとあるし立て逃げってほどでもないでしょ -- 名無しさん (2022-08-07 05:46:07)
- 著者曰く、かなり気合い入れて書いたのに全然売れなかったとのこと -- 名無しさん (2022-08-08 02:55:33)
- ↑すみません、内容不足でした -- 名無しさん (2022-08-09 09:19:09)
最終更新:2024年07月30日 22:00