ゼロアワー!?の巻(こち亀)

登録日:2022/12/03 Sat 16:20:00
更新日:2022/12/15 Thu 21:23:31
所要時間:約 8 分で読めます



「ゼロアワー!?の巻」は『こちら葛飾区亀有公園前派出所』のエピソード。JC12巻に収録。
「こち亀」には長い歴史を通じて数々の「漫画を描く」エピソードが描かれたが、今回はその中でも最初期に描かれた話である。
最初期の話だけあって、「実在の」人物をモデルにした編集者が思い切りディスられているのが特徴である。


【ゲストキャラクター】

  • 堀口
漫画雑誌の編集者。毎週締め切りギリギリで原稿を仕上げてくる春本と、原稿を急かす編集長との板挟みにあって神経をすり減らしている。
モデルは、デビュー当時の秋本治氏や小林よしのり氏を担当し、後に集英社の社長・会長職を務める堀内丸恵氏。

  • 春本
堀口が担当を務めている漫画家。室内でもニット帽をかぶっている。モデルはもちろん本作の作者・秋本治氏。

  • 信ちゃん/内田/渡辺
春本のアシスタント。容貌はそれぞれ「細面にサンバイザーに口ひげ」(信ちゃん)、「ハチマキに2本のペンを指し、煙草を2~3本くわえる」(内田)、「金髪(白髪?)の角刈りに眼鏡」(渡辺)

亀有公園の裏をネグラにしている漫画家志望のプータロー(ホームレス)の一人。
ボサボサヘアに牛乳瓶眼鏡に無精髭、カバンや衣服のポケットにはペンや定規などの漫画道具を揃え、小脇にスケッチブックを抱えている。


【ストーリー】

堀口「はい… はい はい え… 締切りがすぎてる…? はい まったくここの先生はルーズルーズ*1でしてね…」
漫画の原稿が書きあがるのを待っていた堀口は、編集部からの催促の電話にこう答える。
締切りギリギリまで描き続ける春本に対し、堀口は「ぼくが悪いことしてるわけじゃないのに、なんでいつもぼくがおこられなきゃならないのォ」と愚痴をこぼす。
原稿を早く上げてほしい堀口は、ベタやトーンやホワイトなどの仕上げや修正などを省略しろと春本やアシスタントたちに指示したり、書き直した方がいいと春本に助言した渡辺に「余計な事言うな」とつねったりと、手抜きも許容するようになった。

堀口「全く編集者も楽じゃないよなあ。これが女性漫画家だったら1日でも2日でもまってるのにな………男の漫画家じゃ味もそっけもないよ」

そうこうしているうちに最後のページの原稿が上がると、堀口は「わーっ さすが先生!」と態度を一変させる。

堀口「いやあどうもどうも!ぼく先生の作品大すきなんです。担当だし!今度また小岩にのみにいきましょうね。わっははは よかったよかった! どうも!ゆっくり休んでください。それじゃどうも!」
内田「3日も徹夜させてゆっくりもないもんだよ

重荷が解けたかのような軽い足取りで堀口は仕事場のアパートをスキップしながら後にして、途中で喫茶店で時間をつぶしながら編集部へ向かう。喫茶店で原稿を置き忘れるというチョンボを犯しながらも会社へ向かうが、冷えるということで通りがかりの焚火に当たる。
ここでとんでもない大チョンボを犯すともしれずに……




堀口「いやあたき火ですか!こりゃあったかい」
たき火をしているおじさん「どうぞどうぞ」
堀口「ぼくも子どものころはやりました。イモをいれたりしてね。ははは」

ドサッ

堀口「じつになつかしい!はは……は… はっ!?」

堀口はたき火の中に大事な原稿を見る。そう、誤ってたき火の中へ原稿を落としてしまったのだ。


「ぎゃああああ! げ…げ… 原稿がーっ!!」


原稿が完全に燃えてしまったことを春本や編集長に打ち明けるわけにもいかない堀口は何を考えてか、自分が漫画を描くことでこの難題を乗り越えようと決意する。

堀口「じ…自分でかくんだ……かかなきゃクビになる……」
たき火をしているおじさん「あの……」

堀口はまず近所の書店で「漫画のかきかた」なる本を買ってから、描く場所を探す。喫茶店じゃ人目についてダメだということで、「こまった時は派出所へ行こう」となぜか亀有公園前派出所へ向かった。

堀口が派出所に入ると、9ページ目でようやく登場した両津と戸塚が花札をしながら出迎える。
堀口は両津に漫画を描かせてほしいと頼むが、いきなりの要求に両さんは「おめえ少し熱でもあるのか?」とつかみかかる。

両津「どこの国にいきなり交番にきて漫画かくやつがいるんだっ てめえ!」
そこに中川が止めに入ったことで、堀口もこれまでの経緯を話す。

両津「ふーん なるほど…… それでおまえさんが自分で漫画描くのか?」
堀口「もはやのこされた手はそれしかありません!」
両津「一回くらいのせなくてもいいだろう さっぱりして」
堀口「とんでもない!一千万読者がまってるんです」
両津「だいたいあんた漫画描けるの? その人とそっくりに…」
堀口「それが絵は全くダメでして… とにかくこの本をみてやりぬく覚悟です!」

ここまで言い切った堀口に対して両津も「すきなようにしろ」と突き放すような態度で答える。そう、両津も絵が下手だったために、どうすることもできなかったのだ。

しかし、いざ描き始めた堀口の絵をみて両津も仰天する。
両津「わしよりひどい絵をかいとる! 近所にうまいやついないのか?」
中川「そうですねえ……」
ここで、両津は鍋島定食*2の子供が漫画が得意ということを思い出し、中川に呼びに行かせる。

中川が絵が描ける人材を探し始めた矢先、堀口が突然「うーん うーん」と頭を抱える。

両津「ど…どうした? 頭でも痛いのかっ」
堀口「アイデアがつまってしまった…」
両津「てめえっ 一人前の作家みたいにいうな!」

両津はひとまず座って週刊誌を読みながら数十年後に漫画を描くとは思えないことを言いながら一息つく。
両津「考えてみりゃこんなものいちいちかくのかねェ よくやるよ まったく! 最初から判みたいのができてんだとばかり思ってたがな ヒマな稼業だ」
また、両津は「半年前の本だからわかりゃしねえよ」と言って堀口にパクり丸写しを提案する。
堀口「盗作か… 作家としての良心が…」
両津「だれが作家だっ だれがっ えっ!? えらそうにいうな!背にハラはかえられんだろうがっ!」
両津はそれに加えて「ページごとにパクる漫画を変えればバレないよ」今では通用しないことまで言う。
堀口「著作権侵害になるんだけどなあ…」

そこに、中川が子供たちを連れて戻ってきた。
「ぼく野球漫画かく!」
「わたし少女漫画かく!」
「ぼくはSF!」
子供たちは思い思いに自分の描きたいジャンルを挙げる。
中川「これだけジャンルがバラバラだと……」
両津「よろしい 私にまかせなさい…」


まず両津はスケッチブックを子供たちに渡し、できるだけ多く自由に漫画を描けと指示する。堀口は「一本の作品でないと…」と難色を示すが、両津は「いいからまかせておけ!」と押し通す。さらに、両津は堀口に子供たちへのご褒美用のたい焼きと、自分たちが欲しい酒やタバコを買いに行かせる。
子供たちに好き勝手に漫画……というよりイラストを描かせているのをみて、戸塚は「こんなことして本当にできんのか!?」と疑問を呈していた……

ここで堀口が戻ってきたが、両津は日本酒を1本しか買ってこなかったことに対して文句を言う。
堀口「確かさっき1本と……」
両津「バカッ 1本っていわれたら気をきかし2・3本かってくるもんだ! そんなことじゃ一生ヒラだぞ!」
モデルの人はきちんと気を利かしていたのだろうか


子供たちの絵もだいぶ貯まってきたところで、両津の作戦が始まった。
まず、原稿に前もって枠線を書き込み、子供たちの描いた絵をコマの中に切り貼りする。この時点で登場人物は野球選手にお姫様に宇宙飛行士に宇宙人にUFOとカオスなものになっている。
そして吹き出し用の雲を描けばそれっぽいものが出来上がる。当然この時点で台詞は存在しない。
両津「あとは人物の動きと会話にあわせて物語をつくるわけ」
堀口「す… するどい…… 今の劇画プロなどは 絵はもちろんストーリーもパートにわかれ まさに大量生産システムだ」
絵から先に始めたところでカオスなものが出来上がるだけだが

中川が次は背景やベタなども必要だというので、両津はまたも妙案を出す。
両津「そうだ! 公園の裏に漫画家志望のやつがいたろ! ほら! 20年間投稿しつづけいまだに佳作にもはいれない悲惨なやつが あいつをよんでこい!」


湊「ど どうも 明日の漫画家湊です おばんです」
上述のいでたちで派出所にやってきた湊をみて戸塚や堀口は唖然とする。
堀口にアシスタントを依頼されると、湊は感激のあまり涙を流す。
湊「生きていて よ よかった 下積み20年これがきっかけであこがれの漫画界にはいれる うっ… 手塚先生にもあえるかも…」

湊はアシスタントを大張り切りで始めるにあたり、道具を吟味し始める。
湊「カブラペンじゃ使いにくいなあ…… ゼブラのGペンある? クロームの! インクもパ パイロットの水性打点式記録計用のを! 消しゴムはぼくいつも西ドイツのステッドラーのプラスチックのグランド消しゴム使ってんだ」
両津「さすがに20年…… 知識だけはすごい!」


何とか作画の体制が整ったところで、両津たちはストーリーを考え始める。
中川が「メカニックが多いからSFロマンにしたら…」というので、両津は早速それを採用する。さらに戸塚が「その王女をたすけに地球から青年が行くわけ」とベタベタな案を出すとそれも採用する。
そこに子供の一人が(ママ)のイラストを持ってくると、堀口が「その星は地球の昔のように恐龍が支配してるのはどう?」と提案する。
さらに他の子供たちが忍者やピンク・レディーのイラストを描いてきた。このカオスさに両津たちも悩み始めた。

春本「おや 堀口さん。 こんなところでなにしてるんですか?」
派出所の前を偶然通りかかった春本が堀口を見つける。原稿はどうしたのかとたずねる春本に堀口が必死でごまかす。
両津「ちぇっ まったくよくいうよ 燃やしたくせに!」
中川「いくら今ごまかしても本になりゃすぐばれてしまうのに」
両津「この作品はわれわれがつくったんだから原稿料はしっかりもらわんとな!」










それから数日が経ち、両津たちは堀口たちの話題をする。
両津「あの漫画連載にでもする気じゃないのか?」
年端もいかない子供たちをよりカオスな世界に巻き込む気か
そこに噂をすればと言わんばかりに、堀口が青い顔をして派出所にやってきた。
両津が「大反響だったろ」と尋ねたが、堀口は青い顔のままつぶやく。
堀口「そりゃもう…… 大変なもので… 編集長もひきつってました…… あんな異色作をよくかかせたといわれ…… ありがたいことにわたしをクビにしてくれましたよ

人生に絶望した堀口は、両津の拳銃をひったくって自殺しようとする。

両津「ば ばかっ わしの銃を使うな! また始末書がふえる やめろ!」
中川「一見自殺をとめてるように見えるが、自分のことだけしか考えてない……」




【余談】

  • 連載初期の両津の絵がどんなにひどかったのかを物語るエピソードにJC6巻収録「亀有のダビンチの巻」という話がある。
    その話の中では両津が自作の絵を部長寺井・戸塚に見せたものの、みな額*3の方を称賛するばかりで、肝心の絵については「絵なんてついていたのか?」(部長)「額の台紙じゃないの?」(戸塚)「いや 言われてみれば絵にも見える気がする……」(寺井)と散々な言われようだった。
    あれから「拳銃が俺を呼んでるぜ」「ロボ刑事番長」を描けるようになるまで進歩したのはすごいが。当時は両津が漫画を描くなど考えられなかった

  • 初期の「こち亀」の劇中の背景には、盛んに内輪ネタや作者の愚痴などが小さく書かれていたが、今回もやはりというべきか担当の堀内氏について嘘か本当かわからないようなことが書かれている。


「ごめーん さっきのさァ 猫リセットで全消ししちゃってさァ! もう一度同じやつ追記・修正してくれるゥ?」




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最終更新:2022年12月15日 21:23

*1 当時少年ジャンプで連載していたコンタロウ氏の漫画「ルーズ!ルーズ!!」が元ネタ

*2 連載初期に登場した両津の行きつけの店

*3 中川が用意してくれた高級品