こっそりカメラ(ドラえもん)

登録日:2023/02/05 Sun 08:33:00
更新日:2023/02/09 Thu 19:36:20
所要時間:約 12 分で読めます






「こっそりカメラ」は、漫画『ドラえもん』のエピソード。
「小学五年生」1973年10月号に掲載され、てんとう虫コミックス15巻および藤子・F・不二雄大全集2巻に収録されている。

雑誌掲載時は無題だったが、てんとう虫コミックス収録時に項目名のタイトルが付けられた。




【概要】

本作に登場する「8ミリ映画」(通称:8ミリ)は、その名の通りフィルム幅が8mmのフィルムを使用した撮影方式である。1932年に誕生した8ミリは、1965年にコダックが「スーパー8」、富士写真フイルム(現:富士フイルム)が「シングル8」をそれぞれ発売したことをきっかけに、一般人でも気軽にフィルム映画を撮影できるムービーフィルム規格として広く普及した。
当初は映像のみを収録できるサイレントフィルムが発売されていたが、後に音声も同時に録音・再生ができるサウンドフィルムも発売された。

そんな8ミリを手に入れたスネ夫が、のび太をターゲットに悪巧み。恥をかかされたのび太はドラえもんと共に復讐に出るが…。




【あらすじ】


へんだなあ、この二、三日だれかにつけまわされてるような気がする。

外にいる時も、部屋で昼寝をしている時も、のび太は常に何者かの気配を感じていた。
だが、その正体はすぐに明らかとなる。


ある日、8ミリフィルムカメラを手にしたスネ夫が、いつものメンバーたちに何やら楽しそうな話を持ちかけていた。


苦心したよ。気づかれないようにとるんだからね。
ありのおままのすがたが、とれたよ。

おもしろそうだな、見せろよ。


のび太も興味津々で仲間の輪に加わろうとする。
スネ夫曰く「のび太はみないほうがいい」そうだが、おもしろそうなものなら見ずにはいられないのび太は食い下がり上映会に参加した。

スネ夫の家へ集まった一同。しかし、スクリーンに映し出されたのは、のび太の予想していた野鳥の隠し撮りでも昆虫の成長記録でもなく…。



のび太の

しっぱい日記


え?


映像の主役は他でもないのび太だった。その上この不穏なタイトル。肝心の内容はというと…。


女の子に見とれて水たまりに足を突っ込む。

幼い子にけん玉のうまいところを見せようとしてヘマの連発。

ヨダレを垂らしてお昼寝中の顔。

食べ終わったおやつのお皿をペロペロ。

立ちションしていたらその後ろから犬に小便を……。


のび太にとってはとても他人には見られたくない、ましてや撮られたくもない顔から火が出るようなシーンの数々だった。スネ夫の新作映画はオチの度に笑いを呼び、のび太の「やめろ」という声も虚しく響くだけだった。



だから見ないほうがいいといったろ。

勝手に恥ずかしい映像を撮られたのび太はスネ夫に詰め寄るが、そんな彼をジャイアン安雄、はる夫は宥めこう反論する。


ほんとにおまえがやったことばかりだろ。

たとえばさ、かがみにうつした顔がみにくいからってかがみにおこるのはまちがいだよ。

ようするに、いつだれに見られてもはずかしくないように、生活してればいいんだ。

イエース。




こうして完膚なきまでに論破されたのび太は、涙ながらにドラえもんへ訴える。話を聞いたドラえもんも「みんなりっぱなこというなあ」と皮肉交じりなコメント。

いずれにせよ、私生活を隠し撮りされた上にそれらを友達の前に晒し上げられたのび太は悔しくて仕方がない。
そんな彼の気持ちを受け止めたドラえもんは、仕返しに8ミリでスネ夫を撮るよう助言する。

ドラえもんが出したのは「未来の世界の最新型8ミリ」こと『8ミリ撮影機』と『電送レンズ』

まず試しにママを撮ってみることに。
豆粒のような電送レンズをこっそりと本人の服に取り付ける。これでおしまい。後は何もしなくてもママを撮れるというのだ。

しばらく経ってからドラえもんはフィルムを巻き戻し、映写機の役目も果たすカメラで撮れた映像を映し出す。

そこにはきちんとママの姿が。
お化粧をしながら「笑うと池内淳子そっくり」とつぶやいていたママをからかいつつ、レンズを回収するのだった。




自信がついたのび太はスネ夫や友達を集め、声高らかに宣言する。


ぼくはこそこそ盗みどりなんかしない。
どうどうと予告する!

スネ夫のありのままのすがたをとって、今夜大公開する!

今度はスネ夫の秘蔵映像が拝めると聞いて期待を膨らませる一同。一方、復讐を予告されたスネ夫は困惑する。

いつかの「おむつ」回でも、ある重大な秘密をのび太に掴まれてしまい散々な目に遭ったスネ夫。またもや恥ずかしいプライベートを暴露されては面目丸潰れである。

撮られてなるものかと、すぐさまその場から逃げ去るスネ夫。急いで電送レンズをスネ夫へ取り付けようと放り投げる。


しかしこのとき風がふいて、
レンズはネコにくっついた。

のび太もドラえもんも気がつかない。


あとはただまっていれば、
おもしろい記録映画がとれるってわけ。



その頃、家に閉じこもったスネ夫は、ママからのお使いも断り、部屋のカーテンも閉め切るなどのび太の隠し撮り対策を講じていた。
のび太にはあのドラえもんが付いているとわかっているが故のもっともな防衛機制だろうが、器用でズル賢くも根は小心者な彼の性格がよく表れている。


やがて日も暮れてきた頃、どんな映像が撮れているか、仲間が来る前に試写会としゃれ込むのび太とドラえもん。

ところが、スクリーンに映っていたのはスネ夫ではなく一匹のネコ。
続いてドアップで映るのはしずかの変顔


なんだこれは?

顔の美容体操ってほんとにきくのかしら。
ベロベロバー。

それは、家の中に忍び込んだネコが、部屋で顔の美容体操を試すしずかを見つめている…というシーンだった。
ここで2人は電送レンズをネコに付けてしまったことに気付く。


ネコの行く先ざきがうつってるんだ。

すごい記録映画になるぞ。

本来の標的から外れたのも忘れ、2人は引き続き前代未聞「ネコ目線映画」の行く末を見届けることにした。


再び外へ出たネコは、本屋にいた安雄に目をやる。


きょうは塾へ行くのをさぼって、
ゆっくりとマンガを立ち読みしよう。


くすんだ色の物体を前に鼻をほじりながら誇らしげのはる夫…。


ひそかにためたハナクソがこんなボールになった。


入浴しながら屁をこくジャイアン。
湯船に浮かんだ泡に定規をかざし…。


やったあ。

ついに直径五センチのおならアブクをつくったぞ。

隠しカメラと化したネコは、おおよそいつだれに見られてもはずかしくない(・・・・・・・・・・・・・・・・・)とは思えない友達の実態をフィルムに焼き付けていた。のび太が予想していた通り「すごい記録映画」となったのである。


そして、骨川邸へ侵入したらしいネコが目にしたのは…。


どうしておもらしするまで、

おしいれにこもっていたざますか!


隠し撮り怖さに警戒し過ぎたがあまり、皮肉にも自ら余計な醜態を晒してしまうスネ夫の姿だった。
これには2人も抱腹絶倒。




その夜。何も知らないジャイアンたちが映画を心待ちに野比家へ集う。もちろんスネ夫の姿はなかった。



これうつしたら、おこるだろうね。

…………だろうね。

もったいぶらずにさっさとうつせよ。


主役が自分たちであるとも知らずに期待を高める観客たち。彼らの反応はもはや想像するまでもないだろう。

コマ外のおまけカットには、映写モードに切り替えたカメラを残し、こっそりその場を後にする2人の姿が描かれている。
カットしてスネ夫のシーンだけ見せれば丸く収まりそうだが…。




【登場したひみつ道具】

〇8ミリ撮影機&電送レンズ
ドラえもん曰く「未来の世界の最新型8ミリ」。

本体の見た目は普通の8ミリフィルムカメラそっくりだが、同時に映写機の役目を果たすため、撮った映像をそのまますぐに再生して観ることも可能。音声も同時に記録することができる*1

豆粒サイズの「電送レンズ」を対象者の体に付ければ、カメラを構えなくても対象者の行動をそのまま撮影してくれる。だが、レンズは小型ゆえに軽く、ちょっとした風などで軌道が狂うと違う対象者に付いてしまうリスクもある。

レンズの取り付け位置がそのままカメラの視点になるのではなく、レンズを付けられた被写体を様々な別視点から撮影する仕組みとなっている。ただし、レンズをネコに付けた状態の映像は、ネコよりもしずかやジャイアンたち周囲の人間がメインの映像ばかりになっていた。詳細な演出や視点、撮影手法などを自由に設定できるかは不明。

サブタイトルの「こっそりカメラ」がこの撮影機の名称として扱われる場合もある。




【アニメ版】

これまでに大山版で2回アニメ化されているが、わさドラ版では現時点で一度もアニメ化されていない。スネ夫やドラのびの行為が個人のプライバシーを侵害した明らかな「盗撮」であり、プライバシー権に対する意識が高まってきた現代の観点にそぐわない事、「8ミリ」というものがレトロ過ぎて現代の子供に伝わりにくい事、はる夫の趣味が汚すぎる事などが理由だと考えられる。ただし、「のび太もたまには考える」に登場したカセットテープ型の道具『能力カセット』をCD型の『能力ディスク』に変更した*2前例もあるため、2つ目の問題は「8ミリ」という規格によほど拘りがなければクリアできそうである。

◇大山版「こっそりカメラ」
帯番組時代の1979年10月19日に放送された。
最後のオチが変更されており、視聴したジャイアン達が激怒し、逃亡しようとするのび太・ドラえもんを追いかけるところで締めくくられている。
DVD「ドラえもん タイムマシンBOX 1979」に収録。

◇大山版「こっそりビデオ」
1995年10月27日に放送された。
ソフト化はされていないが、CSのテレ朝チャンネルで再放送された事はある。
原作では電送レンズが間違ってネコに着いてしまったのに対し、ドラえもんが自分の意志でスネ夫の飼い猫「チルチル」に電送レンズを取り付けている。
スネ夫以外の人たちの失敗や醜態が変更されている。ジャイアンは少女マンガ(おそらく妹ジャイ子から借りた)を読んで号泣している。しずかは本に夢中になり、クッキーを焼く時間を間違え黒焦げにしてしまい、母親が作ったものを自分が作ったものとしてみんなに出すことになってしまった。
安雄は野球の練習で他人の家の窓ガラスを割ってしまった上、謝りにも行かずそのまま逃げて、はる夫は塾をサボって本屋でマンガを立ち読みしている。(原作では安雄の失態)

【余談】

  • てんコミ版の扉絵にはドラえもん・のび太・スネ夫の台詞が挿入されているが、大全集版収録時には削除されている。
    元々この台詞は、雑誌掲載時に編集部によるコメントを登場人物の台詞風に表現したアオリで、単行本化に際しそのまま収録したものらしい。
    厳密には原作者である藤子・F本人による台詞ではないため、再収録時に削除されたものと思われる。

  • 劇中に名前が登場する「池内淳子」は実在した日本の女優であり、有名人のパロディが多い『ドラえもん』としては珍しく実名で登場している。
    なおのび太のママが笑った顔がそっくりかどうかは、各々の判断にお任せする。




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最終更新:2023年02月09日 19:36

*1 実際の8ミリについては、当初はサイレント形式のみだったが、1973年にコダック、1976年に富士フイルムからそれぞれ同時録音型の撮影機と専用サウンドフィルムが発売されてから個人レベルでも音付きの映像を簡単に作ることができるようになった。

*2 わさドラ版1回目のみ。2回目は原作通り「カセット」に戻っている。