しばしのお別れ(古畑任三郎)

登録日:2023/03/28 Tue 22:00:00
更新日:2023/05/28 Sun 22:13:35
所要時間:約 15分で読めます





今夜は花言葉のお勉強を。

まずはシクラメン、花言葉は『疑惑』
ソメイヨシノ、花言葉は『美しい人』
シダレグワ、花言葉は『知恵』

そしてミヤコワスレ、花言葉は『しばしの別れ』

古畑任三郎でした。



『しばしのお別れ』とは『古畑任三郎』のエピソードの1つ。
テレビスペシャル2作目。初回放送は1996年3月27日。

【概要】

第2シーズン終了の2週間後に放送された特別編で、ゲストに同じ三谷作品の『王様のレストラン』で天才シェフ・磯野しずか役を演じた山口智子氏を迎えている。
古畑任三郎全シリーズを通して最高の視聴率(34.4%)を記録した作品でもある。




※以下ネタバレが含まれますのでご注意ください。


【ストーリー】

前衛華道家の二葉鳳翠は、二葉流の家元で師匠の二葉鳳水の元から複数の生徒を引き連れ独立し、生花と踊りを融合した独自のフラワーアレンジメントスクールを創設した。しかし鳳水から度々の圧力と営業妨害を受けたことで、スクール存続の危機に陥った鳳翠は、自身のスクールの発表会を利用して鳳水の殺害を計画する。
発表会当日、鳳翠は開演前に鳳水と密会した際に睡眠薬入りのお茶を飲ませ、客席で眠る彼女に毒物を注射し心臓発作による自然死に見せかけて殺害する。間もなく鳳水の死体が発見されるが、現場にはスクール生である今泉の発表を見に来ていた古畑も居合わせていた。


【登場人物】

ゲスト

  • 二葉鳳翠(ふたば ほうよう)
演:山口智子
元々は鳳水の弟子で家元の第1候補だったが、花への考え方の違いや鳳水のある要求を拒絶したため、二葉流を抜けて生花と踊りを融合した独自の流派「HOYOフローラルアートスクール」を創設する。
性格は明るくサバサバしているが、対立している二葉流本家の関係者になじられても一歩も引かず言い返すなど強気なところもある。
栄養ドリンクを愛飲しており、重大なイベントの前には気合を入れるために一気飲みするのが習慣になっている。
以前は看護師だったため薬や注射の知識があり、それらを今回の犯行に用いている。

  • 二葉鳳水(ふたば ほうすい)
演:長内美那子
華道の二葉流家元で鳳翠のかつての師匠。元弟子の鳳翠に対して複雑な感情を持っており、彼女が独立して新しい流派を作ると、スクール生を大量に辞めさせたり、イベントの妨害工作をするといった圧力をかけ続けているが、それは「いずれ流派が立ち行かなくなった彼女は自分の元に戻ってくるしかない」といった歪んだ考えのもとに行われている。
心臓に持病があったらしい。

  • 小園
演:巴千草
鳳水の付き人。発表会当日も鳳水に付き従っていたが、彼女に発表会が終わるまで席を外すように言われ、犯行時は傍にいなかった。発表会が終わっても戻ってこない鳳水が心配で探しにいったところ、客席で死んでいる彼女を発見し警察に通報する。
二代目赤いカブトムシ戦士ではない

  • 大河原
演:森下哲夫
二葉流の関係者。鳳翠が鳳水を殺害したと思っており、通夜会場に献花に訪れた鳳翠と古畑らに敵意を剥き出しにする。



レギュラー陣

演:田村正和
今泉の付き合いでフラワーアレンジメントスクールの体験入学に来ていたが、アイデアが何も思い浮かばず、あまりの場違いぶりに来たことを後悔していた。
今泉が発表会に出演するため、面白半分で見物に来たところ事件に遭遇する。差し入れのケーキを勝手に、それも飲食禁止の館内で食べようとするなど、意地汚さと子供っぽさは相変わらず。
鳳翠の楽屋を訪れた際、彼女が栄養ドリンクを好むことを知った古畑は「スーパー・マムシ・ロイヤル・エキストラ・ストロング」という栄養ドリンクを勧めている。
フラワーアレンジメントを生け花といい間違えるため、鳳翠からその度に指摘される。

演:西村雅彦
自律神経の治療がてら鳳翠のスクールに通っており、花で菊人形を作るなどずれたセンスをしていて講師に度々怒られている。それでも本人は楽しんでおり、「自律神経失調症もこれで治った」と語っている。入学して間もないが、鳳翠に光るものがあると見出され急遽発表会に出演することになった。おデコのことじゃないだろうな?

  • 向島音吉
演:小林隆
事件発生後に現場の保守で来ていたが、今回ようやく古畑に名前を覚えてもらえた。

  • 桑原万太郎
演:伊藤俊人
科学捜査研究所の技官。保管していた鳳水の所持品を古畑に渡す。



【劇中の用語とヒント】

  • 事件現場と被害者の状況
スクールの発表会は500人収容できる芝浦ガーデンホールを借りて行われたが、300人程しか埋まっておらず、鳳水からは「見栄を張って大きなホールを借りたが、客席はガラガラ」と嫌味を言われている。実際、客席は自由に移動しても問題ない程度には空きがあり、鳳水は前の席に座っていた古畑が邪魔で別の席に移動して眠っていたところを殺害されている。
被害者の鳳水は上着を羽織っていたが、下に来ていたブラウスの左腕部分だけ不自然に捲ってあり、翡翠のネックレスをつけた首筋には擦ったような痣が残っていた。

  • 鳳水と鳳翠の関係性
元々は二葉流の師匠と弟子だったが、鳳翠が門弟を連れて強引に独立した過去があり、二葉流の関係者には2人が犬猿の仲であることは公然の事実になっている。
しかし、裏では鳳水は発表会前に鳳翠の楽屋をこっそり訪れ、スクールが潰れた後も生徒もまとめて面倒を見ると寛大な態度を示したり、鳳翠は誕生日プレゼントとしてネックレスを送るなど何やら複雑な関係であることが伺える。

  • 故障中の自販機
ホールに設置された自販機で、古畑は故障中の貼り紙に気づかず購入できないことに文句を言っていたが、これは第1シリーズ2話『動く死体』で登場したシーンのセルフパロディ。

  • 『今夜はとってもヒヤシンス』『明日は雪がフリージア』
今泉が発表会で発したしょうもないギャグ。素人丸出しの生け花と頓珍漢な踊りのパフォーマンスに加え、上記のあまりに寒いギャグは会場を大いに白けさせ、スクールの恥として演技の途中で照明を落とされて強制終了させられた







以下、事件の展開。ネタバレにご注意ください
















【発表会中の犯行】

今泉のパフォーマンスを見に来た古畑は受付で鳳翠と鳳水が険悪なムードで話しているのを目撃し、今泉から2人の確執を聞く。同じ頃、鳳翠が発表会の準備をしていると鳳水が楽屋をこっそりと訪ねてくる。
鳳翠は袂をわかったとしても記念日は忘れないからと、鳳水に誕生日プレゼントとして翡翠のネックレスを贈りその場で彼女の首に着けてあげた。対して鳳水は、スクールが潰れても生徒をまとめて面倒を見るから意地を張らず自分の元に戻ってくるよう鳳翠に迫る。鳳翠は睡眠薬を混ぜたお茶を出しながら彼女の要求を拒絶するが、鳳水は他に選択肢はないと言い、お茶を飲んだ後鳳翠の背中に張り手を見舞い楽屋を後にする。
発表会が始まり、鳳翠は直前に急遽入れてもらった赤い照明に照らされる中、フラメンコを踊りながら花を生ける独自のパフォーマンスを披露していた。大喝采の中ステージを終えた鳳翠は2番手の今泉が最低のパフォーマンスをしているうちに暗い客席をこっそり移動し、眠る鳳水の腕の袖を捲り毒物のジキタリスを注射する。鳳翠は自分が贈ったネックレスを回収しようとするが、暗闇のためうまく外せず何度引っ張っても引きちぎれなかった。やがて近くを人が通ったため回収を諦めて現場から立ち去る。



【古畑と鳳翠の駆け引き】

発表会終了後、楽屋で栄養ドリンクを飲み干していた鳳翠の元を古畑が訪れる。二葉流家元の鳳水が客席で死んでおり、彼女の左腕には真新しい注射痕があった。付き人によれば鳳水は心臓に持病があり病院で注射を受けていたが、最後の受診は先週のことで更に上着の下に来ていたブラウスが不自然に捲れていたことから、これは病死ではなく誰かが毒物を注射して殺害した可能性があると古畑は推理する。
対して鳳翠は偶然の病死説を推し、ブラウスの袖は暑くて上着ごと捲った後に上着だけずり落ちただけではないかと言うが、古畑は会場が寒かったためその説を否定し、犯人は鳳水が発表会に来ていてどこに座っていたかを知っていた人物だと推理する。

古畑にステージ後のアリバイを確認された鳳翠は「照明ブースで生徒の発表を見ていた。」と答える。それを聞きながら座席の購入履歴を確認していた古畑は、鳳水が本来購入した座席ではなく別の席で死んでいたことに気づくが、そこで新たな謎が生じてしまう。
鳳水が席を移動したのは幕が上がってすぐ、前に座る古畑のせいで鳳翠のステージが見にくかったという完全な偶然だったため、近くで見ていたでもない限り300人近い観客がいた暗いホールの中で移動した鳳水を見つけられたとは到底思えない。
犯人は如何にして鳳水の移動先を把握したのか?悩む古畑を後目に、幕が上がった時に舞台の上に居たなら犯行は不可能ということになり、容疑者から外れたと鳳翠は喜ぶのであった。

その晩、二葉流本家の大河原と電話で口論していた鳳翠は、電話を切った後に発表会の録画を確認するが、今泉のパフォーマンスがあまりにひどかったため早送りにしてしまう。そこに古畑と今泉が訪れ、鳳水の司法解剖の結果、死因は毒物のジキタリスを注射されたことによる心臓麻痺で、正式に殺人事件と断定されたと伝えにくる。
鳳翠は間違えて殺された説を提唱するが、鳳水から開演直前に飲んだと思われる睡眠薬の成分も検出されたことから古畑はそれを否定する。更に鳳水が当日所持していた物品をテーブルに出して確認すると、睡眠薬は入っていたがそれは錠剤ではなく粉末タイプだった。鳳水は水筒を持っておらず会場の自販機も当日は故障していたため、劇場に着いてから自分で飲んだとは考えづらく誰かに睡眠薬を飲まされたと考えるのが自然と古畑は推理する。
一方、捜査そっちのけでビデオを確認していた今泉は鳳翠のパフォーマンスを褒め称える。画面が暗いので部屋の照明を消してよく見ようとするが、鳳翠はすぐに電気を点け、これから鳳水の通夜に出席するから古畑たちも同行するよう促す。



【最後の謎】

鳳水の通夜に乗り込んだ3人は二葉流本家の関係者に睨まれる中、敢えて鳳翠流の踊りを混ぜた献花を行い今泉はハチャメチャに踊り散らして会場を更なるお通夜状態にして、爽快な気分で会場を後にする。
その後は3人で祝杯を上げていたが、古畑は鳳翠とじっくり話すため今泉のスープに睡眠薬を入れて眠らせてしまう。たまたまお店の花瓶に生けてあったヒヤシンスが目に入った古畑は思わず「今夜はとってもヒヤシンス」と口走るが、それを聞いた鳳翠は古畑のダジャレと思い笑っていた。
そのことで鳳翠が犯人であることを確信した古畑は直接彼女に自分の推理を話す。
  • あきらかにフラワーアレンジメントの才能がない今泉を起用した理由は、せっかくの発表会で弟子たちのステージを見ておきたかった鳳翠が、別に見なくてもどうでもよさそうな今泉のステージの時間を鳳水の殺害に使いたかったから。
  • 『今夜はとってもヒヤシンス』は、実は今泉のダジャレ。今泉のステージ中に鳳水を殺害していたから、『今夜はとってもヒヤシンス』が今泉のダジャレだと分からなかった。ビデオで確認しようとしても倍速だったから何を言っているかまでは分からなかった。

ここからは古畑は推測として話す。
鳳翠と鳳水は特殊な関係*1で結ばれていたが表向きは犬猿の仲で通っているため、鳳水は付き人を帰してこっそり楽屋を訪れたのではないか。その際に睡眠薬入りのお茶を鳳水に飲ませたが、代わりに鳳翠は背中に張り手を受けたことで痣が残ったため、人と会っていたことをごまかすために急遽会場の照明を目立ちにくい赤に変えたのではないか。

古畑の推理を聞いた鳳翠はすべて可能性としてはあるかもしれないが、鳳水の座席移動の謎がある以上、あくまで自分には犯行は不可能と主張する。


やっとここまで来れたんだもの。悪いけど私、こんなことで止めるわけにはいかないの。


しかし鳳翠さん。解けない謎はないんです。


古畑は解けない謎を解くのが好きと語り、鳳翠もこの謎も解いてみてと応える。


お店で寝ていた今泉を迎えに行った古畑は、寝ぼける今泉を起こすため額を叩きネクタイを引っ張るが、そこであることに気づく。直ぐに桑原技官の元を訪れ鳳水の所持品を漁ると、その中から鳳翠の犯行を決定づける証拠品を見つける。






最後の謎です。

一体、二葉鳳翠はどんなトリックを使い暗闇で鳳水先生を殺害したんでしょうか。
ヒントは死体の首にあった痣。もうお分かりですね。


古畑任三郎でした。






以下、事件の真相と解決まで。さらなるネタバレにご注意ください












【解決編】

鳳翠のスクールを訪ねた古畑は、「もっと早くに気がつくべきだった」と切り出し事件の謎解きを始める。
古畑が気になっていたのは鳳水の死因を伝えに鳳翠の部屋を訪れた際、ビデオ見ていた今泉が部屋の照明を消すと鳳翠がすぐにそれを点け直したことだった。
過剰に思えたその反応に、古畑は鳳翠には部屋を暗くしたくない理由があり、あの時部屋にあった鳳水の所持品からトリックが露見してしまうことを恐れたのではないかと推理する。
そして古畑は胸元のポケットから翡翠のネックレスを取り出し、鳳翠の眼の前で最後の謎の答えを示すため部屋の照明を消す。

そこには暗闇でも翠色に輝くネックレスがあった

鳳翠の最大のミスは、これほど決定的な証拠品を回収し損ねたことだった。犯行直後で慌てていたことに加え、暗い客席ではうまくネックレスを外せず、何度引っ張っても引きちぎることができなかった。鳳水の首筋についていた痣はこのためだった。
鳳翠はすべて推測に過ぎず、自分がネックレスを渡した証拠もないと言い逃れようとするが、鳳水が証拠品のネックレスを持っていなかったことを付き人が証言したため、ネックレスを渡せたのは直前に控え室で会った鳳翠しかいない。
更に古畑は、犯人は鳳水がどこに座っていたとしてもネックレスの光を確認できる位置にいなければならず、それができたのはステージの上しかないと指摘。しかもネックレスが光っていられるのは明かりが消えてから5分が限界という特性があったため、照明が落ち鳳水が座席を移動してから5分以内にステージの上にいたのは鳳翠だけという事実を突きつける。


観念した鳳翠はいつから自分を疑っていたのか古畑に尋ねると、返って来た答えは意外にも「最初に楽屋にお邪魔した時」だった。古畑が楽屋に来てまず目に付いたのは鳳翠が飲んだと思われる栄養ドリンクの瓶で、触ってみるとまだ冷たかった。冷蔵庫から出して飲んだばかりということは直ぐに分かったが、仕事を終えてこれから帰って休もうという人が、何故栄養ドリンクを飲んでスタミナを付ける必要があったか。古畑は鳳翠が今日は帰りが遅くなることを知っていて、鳳水の死の件でこれからやってくる刑事と互角にやり合うために飲んだのだと推理していた。


罪を暴かれたことで涙を堪えつつも気丈に振る舞う鳳翠に、古畑は優しくショールをかける。


冗談じゃないわ。もっと辛い目にだって何度もあってるし。何よこれくらい、大したことじゃないじゃん。あたしきっと帰ってくるから。


お待ちしてます。


そう言うと古畑は「スーパー・マムシ・ロイヤル・エキストラ・ストロング」を鳳翠に差し出す。それを受け取った鳳翠はいつものように一気に飲み干すと、静かに息を吐き明るい顔で連行されていった。  


行こ!


【余談】

  • 二葉鳳翠の生け花と踊りを組み合わせたスタイルは、演じた山口氏がフラメンコを特技にしていることを知った三谷氏の当て書きによるものである。

  • 山口氏は第2シリーズ6話『VSクイズ王』の犯人・千堂謙吉を演じた唐沢寿明氏と1995年12月に結婚しているため、『ともに犯人を演じ、古畑に逮捕された夫婦』ということになる。

  • 作中で古畑が「若い頃に市川雷蔵の映画をよく見た」と語り、眠狂四郎の円月殺法の殺陣を真似して戯れるシーンがあるが、これは古畑役の田村正和氏が1972年に関西テレビ・東映制作の連続テレビ時代劇『眠狂四郎』で主演だった繋がりから。また2018年、フジテレビ・東映制作のドラマスペシャル『眠狂四郎 The Final』にも出演しているが、これは田村氏の生涯最後の主演作品であり、遺作でもある。


追記・修正は栄養ドリンクを飲み干してからお願いします。

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最終更新:2023年05月28日 22:13

*1 劇中では明言はされていないが、恐らく同性愛を示唆している。但し、これは鳳水からの一方的なもので、鳳翠はそれを拒絶して次期家元の座を捨ててでも本家から独立したものと思われる。