安田亨太(K2)

登録日:2023/05/31 (水曜日) 22:35:48
更新日:2025/03/28 Fri 15:31:21
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今日はオレ達にとって記念すべき日なんだぞ!

気合入れていこうぜ!!

安田 亨太(やすだ こうた)とは、真船一雄作の医療漫画『K2』の登場人物である。




【概要】

第243話「実習」(イブニングKC23巻に収録)に登場する。
主人公の一人・黒須一也が通う帝都大学医学部の学生であり、一也の同期生。
本エピソードのメインヴィランゲストキャラクター。

1話限りの登場人物であるが、『K2』を一度通して読んだ者ならまず忘れられないだろう蛮行に出た人物として、ファンの間では語り草である。
名前を読んだだけでわからない人でも、後述の動向を見れば思い出せることだろう。

【劇中の動向】

帝都大学医学部の解剖実習にて、一也と違うグループで実習に参加。
開始前に一也たちのグループを煽るなど、異様にテンションが高く「実習を前にハイになってる」と指摘されていた。
その実習の中では、摘出した上腕動脈を「質感はビーフジャーキーと変わらない」と評し、同グループの他の生徒に振り回しながら押し付けたりして、おびえる周囲をからかっていた。
この時点で既に問題ある行動だが、実習を見学に来ていた大垣教授*1からは「ああいうお調子者が出るのも毎年一緒ですな」と呆れて見られる程度で、特に注意されることもなかった。
この程度ならせいぜい「医学生にはよくあること」の範疇でとどまっていたのだろう。

その後、昼休みに一也たちのグループに接近し、解剖実習の重さに昼食も取れないほど打ちのめされた面々を煽り始める。
特に実習中、ひたすら献体となる人物を想い泣き続け、今なお涙を流す深見を強くからかい、周囲から苦言を呈されるほど。
その上で彼は、それに対し自分の優位をアピールするように、献体の爪で作ったストラップを見せびらかした。

次の瞬間、今までにない険しい顔を浮かべる一也に腕を掴まれ、ある場所に連れ出された。
一也がそこで投げかける解剖実習の献体の意義について、安田は上から目線の説教と捉えて反発し、
「別に臓器を持ち出したってわけじゃない! 爪ぐらい戦利品としてもらったっていいじゃねぇか!!」
と、持論(というか身勝手な言い分)を展開。
しかしそこで一也が連れ出した場所が解剖された人のための慰霊塔と知り、彼らに同じことを言えるのかと詰められると静まり返り、動揺する。
その上で一也から、献体の返還義務を破った責任を取らねばならないこと、大学に報告する前に自分で考えることを告げられ、激しく涙を流しながら後悔し始める。

「ゆ…許されないのか……? 1回…! た…たった1回のミスなのに……

だがそれすらも、一也から「もしこのまま医師になったとして、同じ言葉を患者に言えるのか」と指摘されたことで、崩れ落ちるように項垂れる。

翌朝、安田は解剖学の内田教授に対し、爪のストラップと同時に退学届を提出、大学を去った。
事の顛末を聞いた内田教授は、一也を呼び出し、一連のことについて問いかける。

「想像したことない? もし安田くんがこのまま医者になったとして…多くの患者を救う名医になったかもしれない…って」
「もしかしたら……あなたは将来有望な芽を摘んでしまったのかもしれないのよ?」

それに対する一也の答えは……。

【解説】

医学生の解剖については古くから「壁に耳あり」という都市伝説が有名だが、これはあくまで「死者への礼節」という点を教えるための創作と見られることが多い。
しかし、実習中に献体から摘出した部位を振り回して悪ふざけする安田のようなお調子者の医学生は、現実でも0ではない模様。
流石に献体の一部を自分のものにするような生徒はフィクションであるが、現役の医師・医学生からは「ありえなくもない話」*2という、絶妙な生々しさを持つエピソードのようだ。
そして安田の行動も読者からすれば異常に見えるが、もしかしたら安田本人も遺体を前にしてテンションがおかしくなったのかもしれない。
「自分は遺体を見ても耐えられる優れた存在だ」と…。

医学生が行う解剖は「系統解剖」と呼ばれるもので、死体解剖保存法により定義されるものである。
その中には「遺族の承諾を得た上で得られた標本を保存することができる」という旨も記載されているが、当然ながら安田のように承諾なしに一部を持ち帰るのはれっきとした違法行為である
死体解剖保存法には刑事罰の規定はないものの、献体の全てが返還されなければ大学としても信用問題に関わるため、
一也が追及せずとも安田は何らかの処分を受ける可能性が高く、医師としてのキャリアに影響を受けるのは間違いないだろう。

とはいえ、さすがにこの1件だけでは退学処分まで下るとは考えにくく、一也がこれほどまでに安田を責め立てなければ、安田のその後は変わっていただろう。
安田にも一也の言葉を受けて、単なる罰とは別に「死者への敬意」という観点から打ちひしがれることができる程度の良識は備わっており、
教授が指摘したように、悔い改めて立派な医療従事者になる可能性や資格はまだあったし、一也のしたことが100%正しかったとは言えないのは確かである。

それでも
  • その日の昼にはもうストラップに加工し終えている異常な手際の良さ(あらかじめ準備していたとしか考えられない)
  • 解剖実習の献体の一部を『戦利品』呼ばわりする感覚
  • 明らかに故意の振る舞いを『ミス』と矮小化しようとする態度
など、安田の言動は単なる献体持ち出し以上の問題点を抱えており、一也が叩きつけたように安田は「医師として不適格」「内田教授が示すような可能性は万に一つもあり得ない」と厳しく見る読者は多い。

一方で、名門の帝都大学医学部に合格しながら、1年のうちに己の愚かな立ち振る舞いで(自主)退学する羽目になった彼に対し、
親を始めとする周囲はどのような感情を抱くのか、これからどういう人生を送っていくのかなど、彼自身の境遇に対する同情や興味を抱く読者も少なくはない。

また、一也の発言は確かに厳しいが、劇中の台詞をきちんと読めばわかる通り全てを安田の自主性に任せ、自分から退学や医師を諦めるように求めてはいない
あくまで「解剖の献体がどういうもので、それを粗雑に扱うことが何を意味するか」という事実と、
「真っ当な感覚を持っているなら、当事者に同じ発言ができるのか」という問いかけのみをぶつけている。
いかに経験豊富でも一也は大学の教授ではなく、安田と同じ学生、精進が必要な未熟者に過ぎない。
故にその感情の昂りの中でも、安田への指摘は同じ医学生としての視点に抑えているのである。
そしてこれを言うからには、一也自身が高潔であるよう努めねばならないという新たな責任が発生する。
それも含めてドクターKであるということを、一也は内田教授の問いかけの中で改めて示すのである。

なお稀に誤解する読者もいるようだが、内田教授の問いは一也に医師としての高潔さを求めることの意味と覚悟を問うものであり、
安田の所業に対し一切の擁護や許しを与えていない
今回の場合は内田教授達が事態を把握する前に一也が行動に移したため、事情を聴いた上で安田の自主退学を認めるという後手に回る形で手打ちとしているが、
もし一也が行動を取らなくても、様々な医学生を長年指導してきた経験を持つ内田教授達ならば一人前の大人かつ立派な医師として、安田のような子供かつ未熟な医学生に対して厳しく叱り飛ばし、医師としての資格があるのかどうかの判断も含めた適切な裁きを下していたことであろう。

【余談】

概要の通り、安田は今回限りで出番が終了しており、以降の話に再登場していない。
しかしながら、今回の彼の振る舞いがあまりにも常軌を逸したものであることから、
読者の間では「爪ストラップ」の通称で定着しており、安田の名前を憶えていなくても「爪ストラップ」と言えば今回のエピソードのことが思い出せる読者は多いことだろう。
また全話無料公開でファンが増えた折、作中の善良な人間の多さが話題になる中で、
「悪役10選やるとしたら爪ストラップを入れざるを得ない」という読者もいるとか。
安田の行為は精々倫理に反した程度で、犯罪行為の質で言えばもっと悪質なのは多数いるのだが、
それほどまでに今回の行動が悪い意味で読者の印象に残ったということであろう。

この第243話はショッキングな内容である一方で、医大生として重要な倫理を問うエピソードの一つとしての評価は高く、
「解剖実習を行う前の生徒に教科書として見せるべき」というファンもいるほどである。
公式でも本話が読者からの反響が強かったことを認識しているようで、単行本23巻が各種サイトで紹介される際、その宣伝文は本話について述べられたものになっている。
「(解剖実習の)その中に異彩を放つ一人の男の姿があった!」とのことで、
これは「ただ一人だけ非常に落ち着いている、ドクターKの再来である一也」のこととも、
「常識外れな蛮行を繰り出し、周囲を引っ搔き回した安田」のこととも取れる、絶妙な煽り文句である。


「想像したことない? もし安田くんがこのままwiki籠りになったとして…多くのクソ項目を追記・修正する名wiki籠りになったかもしれない…って」
「もしかしたら……あなたは将来有望な芽を摘んでしまったのかもしれないのよ?」

この項目が面白かったなら……\ギュッ/

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最終更新:2025年03月28日 15:31

*1 シリーズ第1作から登場する、一也の父・KAZUYAの先輩にあたる医師で「鬼軍曹」との異名を取る男。紆余曲折を経て本エピソード当時は第一外科教授に就任している。

*2 2024年12月には、とある美容外科医が解剖研修にて献体を冒涜しかねない写真をSNSに投稿したとして、世間や同業者から非難を受けた後病院から解任されるという、本エピソードと似通った事例が実際に起きている。