登録日:2024/05/15 (水曜日) 23:00:00
更新日:2024/11/19 Tue 22:30:35
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何もかもが上手くいかない時もあるだろう。しかしそれが、思いもよらない形で君を素晴らしい人間へと成長させてくれるんだ。
●目次
【概要】
グッド・ウィル・ハンティング/旅立ちとは、1997年にアメリカで公開された映画である。
制作:ミラマックス
監督:ガス・ヴァン・サント
主演:マット・デイモン
脚本:マット・デイモン、ベン・アフレック
天才的な頭脳を持ちながらも過去のトラウマから逃れられず日々を無為に過ごす青年ウィルと、彼の才能を見出した数学教授ランボー、カウンセリング担当となった心理学者ショーン、悪友のチャッキー達、ハーバードの学生スカイラーといった人々との心の交流と成長を描いたヒューマンドラマ。
ジェイソン・ボーンやオーシャンズといった大ヒット映画シリーズや崖の上のポニョの声優で有名な俳優であるマット・デイモンの出世作であり、この映画の脚本はなんと彼自身が友人であるベン・アフレックと共に学生時代に書き上げたものである。
制作費1億ドルに対して2億6千万ドルの興行収入と成功を収め、アカデミー賞で脚本賞や助演男優賞を授与されるなど各方面から高い評価を得た。
公開から数十年経った現在でもヒューマンドラマ映画の名作の一つとして愛される映画である。
【あらすじ】
90年代のアメリカ。
天才的な頭脳を持つ青年ウィル・ハンティングは、大学の清掃員や解体現場の日雇い作業をしながら悪友チャッキー達と共に喧嘩やナンパに明け暮れる日々を送っていた。
いつものように喧嘩騒ぎを起こし逮捕されたウィルはあわや刑務所送りとなりかけるが、そこにマサチューセッツ工科大学(以下MIT)の数学教授ランボーが現れ彼の身元引受人となることを提案する。
ウィルは以前MITの清掃員のシフトの際に、気まぐれに廊下の掲示板に張り出されていた数学の問題を証明していた。しかしそれはフィールズ賞受賞者であるランボー教授ですら証明に2年かかった難問であり、ウィルの非凡な才能に気付いたランボー教授は、その才能が埋もれてしまうことを惜しんだのである。
5万ドルの保釈金を肩代わりし、更に自身の研究室に特別待遇でウィルを迎えることを約束したランボー教授だが、彼はウィルに一つだけ交換条件を呑ませた。それはウィルの素行を改善させるためにカウンセリングを受けさせるということだった。
学会の権威たる心理学者や高名なセラピストにウィルのカウンセリングをさせるランボー教授だったが、ウィルはその並外れた頭脳で彼らを煙に撒き、からかい、怒らせるなどして全員に匙を投げさせてしまう。
困り果てたランボー教授は古い知り合いである心理学者ショーンを頼る。彼は学会では評価されていない風変わりな学者であったが、そんなショーンとの交流によりウィルの人生は転機を迎えることとなるのであった。
スカイラーとの恋、チャッキー達との友情、恩人たるランボーやショーン、そしてウィル自身の過去のトラウマ……様々な出会いや交流の先に、ウィルはどのような旅立ちを迎えるのだろうか?
【登場人物】
ウィル・ハンティング
演者はマット・デイモン。
この映画の主人公である青年。
並外れた頭脳の持ち主であり、
- 膨大な量の書物を読破し内容を全て暗記しており、議論の際に相手の意見が全て本からの引用であることを看破して引用元の本とページ数を残らず言い当てる。
- 世界トップクラスの数学者が数年かかる証明をものの数分で行う。相手の解法を一目見ただけでより効率的な解法を編み出す。
- 絵を一目見ただけでその下敷きとなった技法や参考にした絵を参考を言い当てる。
- 裁判所で弁護士を雇わず自分を弁護する(しかもプロの検察官を相手に何度も無罪を勝ち取っている)
- 後に超一流の企業、シンクタンク、果てはNSAから熱烈にアプローチを受ける。
など文字通りの天才。
しかし将来の夢もなく、その才能は宝の持ち腐れとなっている。清掃員や日雇いの作業員といった仕事で糊口を凌ぎながら喧嘩やナンパに明け暮れる生活を送っており、映画冒頭時点ではチンピラとしか表現のしようのない人物。
実の親に捨てられて孤児となり、複数の里親から虐待を受けて育った過去を持つ。そのため愛というものの存在を信じることができず、表面的には女好きで軟派に振舞うものの心の底では誰かを愛することも愛されることも酷く恐れている。
ハーバード大学の学生であるクラークと口論した際には相手の言葉が全て本から引用したもので自分の意見がないことを指摘し、クラークが知識をひけらかしているだけの空っぽな人間だと看破した。しかしそれはそっくりそのままウィルにも当てはまることであり、後に心理学者のショーンから指摘されることとなる。
「君から教えてもらうことなど何もない。君の言葉は全て本に書いてあるのだからね。私は今更そんなクソみたいな本を読む気はないよ。だが君が自分自身の言葉で話すのなら耳を傾けよう。でも……君は話さないんだろう?自分でも何を言うべきか分からないから。」
ウィルは天才は天才でも天才児なのであり、心の成長が必要な未熟な子供なのである。
ショーン・マグワイア
演者はロビン・ウィリアムズ。
作中ではカウンセラーとしてウィルと関わることとなる。
心理学者であり、映画冒頭ではバンカーヒル大学で心理学の講師をしている。以前は退役軍人や虐待を受けた子供のカウンセリングをしていたが最愛の妻が癌になった際に看病のために仕事を辞めた。
現在では妻とは死別しており、そのことは彼の心に影を落としている。今でも妻のことを深く愛しており、(亡くなっていることを知らなかったとはいえ)妻のことをからかったウィルの喉元を掴んで次に妻を侮辱したら殺すと言い放つほど。
妻には一目惚れで、ボストンレッドソックスが劇的な勝利を収めたことで後に世紀の一戦と呼ばれるメジャーの名試合を彼女とバーに行くために抜け出したほど。その際に引き留めた友人達に対して
と言ってのけた。キザすぎますショーン先生。
ランボー教授とは旧知の仲であり、一流のカウンセラー達ですら軒並み匙を投げたウィルのカウンセリングを彼から依頼されたことでウィルと出会うことになる。
一流の数学者としてMITに勤め、数学者最高の栄誉であるフィールズ賞まで受賞しているランボー教授とは対照的に、学会では評価されず自著も売れない冴えない学者生活を送っている。
ランボーも彼に頼るのを渋るような言動を見せるなど、単純な友人同士というわけでもないようで……?
後に「ウィルの幸せ」への解釈の違いからランボー教授と対立するようになり、そのことで彼と口論をした際には互いの人生観の違いが浮き彫りになった。
様々な経験に裏打ちされた豊かな人間性の持ち主であり、本の知識だけで世の中を知った気になっているウィルの思い上がりや、過去のトラウマ、愛への恐怖などを見抜き、時には優しく寄り添い、またある時には厳しくそれを指摘する。
そうしてウィルと交流を深めるうちに彼の最大の理解者となり、ウィルの未来を本心から案じるようになっていく。
歩く名言の宝庫であり、彼の含蓄あるセリフの数々もこの映画の見どころの一つである。
ジェラルド・ランボー
演者はステラン・スカルスガルド。
マサチューセッツ工科大学で数学教授を務め、数学界のノーベル賞と呼ばれるフィールズ賞を受賞した世界最高峰の数学者である。
ウィルが気まぐれに大学の廊下に貼りだされていた数学の問題を証明したことで彼の才能を見出し、ウィルをかつて存在した数学の天才ラマヌジャンの再来だと考えたランボーはウィルを導くことこそが自身の使命だと考えるようになる。
彼が刑務所行きになりかけているウィルの身元を引き受け、ショーンと引き合わせたことでウィルの人生は転機を迎えた。
しかしウィルの問題児ぶりは彼の想像以上であり
- ランボーの手配したカウンセラーを性的に挑発する。
- 催眠療法の施術師を催眠にかかったフリをしてからかう。
- ランボーがウィルと一流企業との面接をセッティングしたのにすっぽかしてチンピラの友人を替え玉に送り込む。
- ランボーがウィルとNSAのお偉いさんとの面接をセッティングしたのにその人相手に政権批判を展開する。
- ランボーの友人の数学者が考えた解法を本人の前で効率が悪いとコケにする。
- ランボーの前で数学をくだらないと言い放ち自身が行った証明の成果に火をつける。
などなど刑務所にぶち込んでた方がよかったんじゃないかと思うほど滅茶苦茶な暴れっぷりである。
それでもランボーのウィルの才能への評価は揺らぐことなく、自身をも超える逸材として導こうと胃を痛めながら努力を続けることとなる。
しかしその努力は次第にウィルとすれ違うようになり、後にその才能を開花させることがウィルの幸せに繋がると考えるランボーと、まずはトラウマを克服し人間として当たり前の成長をさせてやることがウィルの幸せに繋がると考えるショーンとで激しく対立するようになる。
ショーンとは旧友ながらも互いに思うところがあるようで、内心では学者として大成できず妻とも死別した彼を人生の敗北者と憐れんでいた。
しかし愛する妻と出会えた自身の人生のことを最高に幸福な人生だと思っているショーンからすればそれは見当違いの憐れみであり、そんなことにすら気付けないランボーの高慢さを苦々しく感じていたようだ。
そのためウィルの将来を巡る口論の際にはショーンから「高慢なクソ野郎」と罵られることとなる。
物語上、ウィルの障害となるいわゆる悪役のようなポジションの人物ではあるのだが、彼がウィルに目をかける理由は純粋に善意である。
ウィルの才能を利用して金を稼ごうとか、彼の研究成果を盗んで自分の手柄にしようとかそんな不純な動機はまっっっったくない。
ランボーは数学の才能を活かして数学者として最高の栄誉であるフィールズ賞を受賞し名門大学の教授へと登り詰めた己の人生を誇りに思っており、自分を超える才能を持つウィルにも同じ栄光を与えてやりたいだけなのである。
しかし己が歩んできた道のり、つまりは社会的成功という形でしか幸せを認められないその視野の狭さこそがショーンに言わせれば「高慢なクソ野郎」ということなのだろう。
「私にこの証明はできない。君にはできる。その違いが分かる人間はほんの一握りしかいないんだ。この世の中にはね」
ショーンと形は違えども、彼もまたウィルの理解者の一人であることは間違いなく、彼の幸せを願う善人である。
チャッキー・サリヴァン
演者はベン・アフレック。
ウィルの親友。本当に掛け値なしの親友。
ウィルのためなら迷わず喧嘩に飛び込み、車で毎朝迎えに行って仕事の送り迎えをしてやり、ウィルが間違ったことをしていれば正面から指摘してやるお母さんナイスガイ。
言動は絵に描いたようなチンピラであり、工事現場で日雇いの仕事をしてその日暮らしをしながらウィルら悪友達と共に喧嘩やナンパに明け暮れている。
学がないことにコンプレックスを持っておりハーバード大学の学生達を敵視している。そのためハーバードの学生のフリをしてハーバード大学御用達のバーに忍び込んで彼らをからかおうとするなど趣味の悪いことをしていた。
また前述のウィルの替え玉として一流企業の面接に送り込まれた人物であり
- 面接官にタメ口をきく(日本語だと分かりにくいが英語だといわゆる下町言葉で話している)
- 面接官の前で足を組んでふんぞり返る
- 面接室で歌いだす
- 面接官から金を巻き上げる。
などやりたい放題の狼藉を働いた。そしてランボー教授の胃も破壊された。
誰よりも近くでウィルを見守ってきた人物であり、その非凡さもよく理解している。
彼の才能を「宝くじの当たり券」にたとえ、自分たちのような人間とつるみながら無為に日々を送ってその才能を腐らせているウィルを「宝くじの当たり券を握っているのに換金する度胸のないフヌケ」と苦々しく思っている。
しかしそれは嫉妬心などの負の感情から来る想いではなく、チャッキーが心からウィルの幸せを願っているが故の想いである。
それを象徴するのが彼の次のセリフだろう。
「毎日お前の家に車で迎えに行くだろ? それで皆で酒を飲んでバカ話。ああ、最高だよ。でも俺の一番の楽しみ知ってるか? 車を降りてお前の家の玄関をノックするまでの10秒間だよ。いつも思うんだ、ノックしてもお前は出ないかもしれないって。行先もさよならも言わず、フッといなくなってるんじゃないかってな。」
チャッキーは自分たちを捨て去ってでもウィルがふさわしい場所へと辿り着き、「宝くじの当たり券」を換金し、ふさわしい幸福を手に入れることを願っているのである。
彼は歩く名言の宝庫その2であり、その素朴ながら真摯な言葉はショーンとは違った形でウィルに大きな影響を与えることとなる。
また演者のベン・アフレックと主演のマット・デイモンはリアルでも大親友である。
スカイラー
演者はミニー・ドライヴァー。
ハーバード大学の学生。後にウィルの恋人となる。
ウィルがチャッキーと共にハーバード大学ご用達のバーに忍び込んだ際に出会い、互いに気に入ったことからデートを重ねるようになる。
ハーバードの学生らしく聡明な才女であり、随所でウィットに富んだ会話を見せつける。
「計算したら私の頭脳には25万ドルかかるらしいの。けっこうな高級品よね。」
また意外にも下ネタ好きであり、チンピラであるチャッキー達と席を囲んだ際には老夫婦の性交渉を題材とした下品なジョークで大いに場を盛り上げた。
医者になるのが夢であり、スタンフォード大学への転学を考えている。
実は幼い頃に父親を亡くしいる苦労人であり、突然愛する人を失う悲しみをよく知っている。そのため後悔するよりは正面からウィルと向き合うことを選び、彼が愛を信じられないことを知りながらも自分がウィルを本気で愛していることを告げる。
そして共にスタンフォード大学のあるカリフォルニアへ行ってほしいと頼むが……?
モーガンとビリー
演者はケイシー・アフレックとコール・ハウザー
ウィルとチャッキーといつもつるんでいるチンピラ達。
かなり少し頭はよくないが気のいい連中であり、ウィルの誕生日プレゼントにスクラップから組み上げた車をプレゼントするなど友情は本物。
作中での影は薄いが、ウィルにとっては大事な友人たちである。
クラーク
演者はウィリアム・ウィンターズ。
ハーバード大学の学生。そしてウィルの嚙ませ犬。
ハーバード大学ご用達のバーに忍び込んだチャッキーをよそ者だと見抜き、意地悪くも歴史議論を吹っ掛けようとした所を運悪く本物の天才であるウィルに見つかり公衆の面前でボコボコに論破された。
具体的にはさも自分が考えたかのように語った意見の全ての引用元の本とページをその場で指摘され、クラーク自身は意見を考える頭など持たない知識をひけらかしているだけの空っぽな人間だと看破された。
もっともウィル自身もこれに当てはまるのでいわゆるブーメランではあるのだが。
クラーク「それは違うなぁ。ウッドは徹底して社会階層の持つ影響力を過小評価して…」
ウィル「"ウッドは徹底して富によって、ことに富の継承によって決まる社会階層の持つ影響力を徹底して過小評価していた。" ヴィッカーズの引用だな。『エセックス郡の考察』の98ページ」
クラーク「……」
ウィル「本を全部暗唱してくれるのかい? 議論ってのは自分の意見を言うもんじゃないのか? それとも本からかき集めた知識を女子の前で自分の考えのようにひけらかして気を引きたいだけか?」
クラーク「……」
ウィル「何か文句でも?」
クラーク「……いや」
このシーンは配信サイトでのトレーラーなどにもよく使われているので見たことがある人もいるかもしれない。
ワンポイント(正確には少し後のシーンでもチョロッと出るが)の出演ながら妙に印象に残るキャラクターであり、一部の映画ファンの間ではカルト的な人気を博しているネタキャラである。
【余談】
- マット・デイモンとベン・アフレックの脚本は2つのパターンが存在し、一方はウィルとチャッキーが大企業に潜入しCIAとスパイ合戦を繰り広げるという内容だった。チャッキーの面接シーンはその名残らしい。
- 名優として名高いロビン・ウィリアムズだがこの映画で演じたショーン役はハマり役と言われており映画で彼がウィルを諭したシーンで座っていたベンチは一種の聖地となっている。
- マット・デイモンはこの脚本を書き上げた時ビビッと来たらしく当時在籍していたハーバード大学を中退して脚本を売り込みに行った。なお脚本は買われたものの映画化するまで5年以上の歳月がかかりその間マット・デイモンは何度も中退したことを後悔するはめになったという。
- タイトルの「グッド・ウィル・ハンティング」は文字通りに訳せば「善き人ウィル・ハンティング」だが、ウィル・ハンティングをキャラクター名ではなく文章表現と解釈した場合は「好意(良い所)を探している」という意味になる。
チャッキー「……」コンコン
チャッキー「おいウィル? いないのか?」
チャッキー「……」ニヤリ
モーガン&ビリー「?」
チャッキー「あいついねえよ!」
追記・修正は女を見極めてからお願いします。
- ウィルが居なくなった事を知ってモーガンとビリーもちょっと嬉しそうだった感じ、チャッキーと同じだったんだろうな -- 名無しさん (2024-05-15 23:28:02)
- 本作でアカデミー脚本賞を獲得した際の若かりし頃のマット・デイモンとベン・アフレックの興奮を隠しきれないスピーチが微笑ましかった -- 名無しさん (2024-05-16 01:06:32)
- 制作費は1000万ドルだねい -- 名無しさん (2024-05-17 00:29:21)
- 子供の時に観た時と成人してから観た時では印象が結構違う気がする -- 名無しさん (2024-05-17 21:15:40)
- ランボー教授も含めていい奴ばっかだな… -- 名無しさん (2024-05-19 07:53:00)
- ウィルが出てこなかったときのチャッキーの嬉しそうな顔本当に泣いた -- 名無しさん (2024-05-19 12:51:12)
最終更新:2024年11月19日 22:30