仮面ライダーZX

登録日:2025/08/15 Fri 22:10:50
更新日:2025/08/26 Tue 14:15:37
所要時間:約 22 分で読めます




ZX(ゼクロス)って決まるまでは何て呼んでいたんだっけ、10号(じゅうごう)……ジュドウ……

私も若かったのかなァ、仮面ライダーファンクラブの連中に乗せられて……

平山亨



『仮面ライダーZX』とは、1982年から1984年にかけて展開された同名のタイトルを冠する一連のメディアミックス作品の総称である。
分類は言うまでもなく特撮ヒーローで、仮面ライダーシリーズの第8作。
詳細は後述するが、ファンの願いにより産声を上げ、逆風吹き荒れる嵐の時代を熱い団結で突き進んだ作品である。


記念すべき仮面ライダー第10号であり、スカイライダーから連なる昭和2期とされる3作品の時代のアンカー。
そして平山亨プロデューサーを筆頭とする初代『仮面ライダー』からの製作陣が最後に携わった作品であることから、時代の節目であり、一つのシリーズの最終作と評しても相違ない。


そんなZXだが、当時の諸々の事情からTV以外の様々な媒体から勝負をかけ、そしてやっと1本のTV特番に結実、というめちゃんこ特殊な経緯を辿っているため、作品について簡単に説明することは難しい。

現代のファンの視点で言えばZX=正月特番だが、取り敢えずここでは月一の撮影会によるスチル(特写)で連続した物語を児童誌に掲載という形を取った原作と呼ぶべき「雑誌連載版」、その撮影用に作られた物語のプロットと設定メモを書籍化した小説版、ラジオドラマ版など、各媒体である程度共通している作品設定について紹介し、その存在を支える屋台骨である作品外のファンイベントなど誕生の経緯を簡素にだが纏めていく。




【前回までのあらすじ(舞台裏)】

時に1981年。シリーズ第7作『仮面ライダースーパー1』は好評を博し、前半2クールの段階で関西圏では20%超えを繰り返す人気番組となったが、概ねTBSのせいだと言われている謎のローカル枠への移動により、無念のうちに終了してしまう。
だがこの悲劇は熱心なファンの燻る心に火を点け、10年前の初代仮面ライダーからシリーズを愛し続けた青年に成長したファン層が中心となって「仮面ライダー復活祭」を開催。
同イベントは歴代シリーズの上映会をしつつ制作スタッフなどもお呼びして交流を図るという凄まじい熱量で催された。
そんな中、イベントのゲストとして参加し、悲喜交々のファンたちの様子を見た石ノ森章太郎の一言から歴史の歯車は回り出す。


「よし、君たちのために10番目の仮面ライダーのキャラクターを作ってやろう」


同席していた平山亨にとってそれは寝耳に水だった。
理由はどうあれ終了したばかりのシリーズをTVに戻す事は難しい。

しかし、いつの間にか気の早いファンから連絡を受けた講談社をはじめとする雑誌社の協力により
「いきなりテレビは難しくてもまずは雑誌展開から」
という提案を受けて、スタート地点が固まっていく。
仮面ライダーを愛する人々の想いで誕生した10号は、まだ正式名称すら決まっていなかった。

そしてテレビマガジンの1982年7月号に掲載された新ライダーのイラストは、赤くメタリック非対称のボディに、緑のマフラーを靡かせる。
体の至るところに仕込まれた武器で戦うメカニック忍者という触れ込みだった。


新仮面ライダー
ついに登場!


十番(じゅうばん)めの仮面ライダー、それがぼくだ!
メカニック忍者(にんじゃ)とよばれるように、忍者(にんじゃ)能力(のうりょく)改造(かいぞう)されたからだをもっているぞ!

きみたちにちかおう。
(あく)のそしきバダンをたおすまで、たたかいつづけることを……。


本来はTV番組を宣伝し補強する、雑誌展開などの他メディア。
これを引っくり返し、他媒体から映像化を目指すという順逆自在の戦法。
TVという既存の正道に捕らわれず、ゆえにTV番組という制約を気にせず、メインの媒体を絞らない自由さで幅広い層にアピールしていく。
怪奇アクション番組としてお茶の間を席巻した従来の仮面ライダーシリーズからは到底考えられない特異な道のりは、だからこそ未知の可能性を秘めていた。

ここでしか咲かない花が、きっとあると信じて。
ライダーを愛する人々の想いで形作られた、ドラゴンロードを突っ走れ。

【物語の基本設定】

ブラジルのセントエバンス大学に通う青年・村雨良は、光る物体・UFOが出没するという怪情報の真相を突き止めるべく、UPIのブラジル在住特約記者である姉のしづか*1を乗せ、アマゾンの奥地までヘロン機*2を飛ばしていた。
そして機体がテト山岳地帯に差し掛かった時、突如として空中に光る物体が現れ、猛スピードでヘロン機に突っ込む。
訳も分からぬうちに強制着陸させられ、拘束された村雨姉弟。
UFOの正体はテト山脈にアジトを構える秘密結社「バダン」が開発した不可視飛行物体だったのである。

暗闇の中で目を覚ました良は、電気椅子にかけられ拷問の末に事切れた姉の姿を目の当たりにし、自身もまた電流の苛烈な責め苦に意識を失ってしまう。

終わらない悪夢、暗闇の中で良の体は脳だけを残して切り刻まれ、強化兵士「JUDO(ジュドー)のコードネームで呼ばれるサイボーグに改造された。
自我意識を奪われ、組織の尖兵となった良だったが、飛行操縦士としての任務の最中に事故で放射線を浴び、失われた自我意識と記憶を取り戻す。
自分の体は、なぜロボットのように火や煙を噴くのか?なぜ忍者のように身軽に動き戦えるのか?
良はまだ自身に起こったことを理解していなかった。


姉の復讐を誓うも、取り戻した自我と芽生えた反抗心を組織に見抜かれた良は抹殺対象となり、命からがら逃げ出す。
辿り着いた生まれ故郷の日本で父の親友だった海堂博士に保護されるも、レントゲン検査で自身の体が脳を除き全て機械化されたことをハッキリと思い知らされ愕然とした。

裏切り者を追い、強化兵士や特殊部隊を差し向けるバダン。
博士を守るために"スイッチ"を入れて、戦うための赤いメタリックのサイボーグへと姿を変える良。
それを見た海堂博士は叫ぶ。。

「仮面ライダーだ!まるで仮面ライダーだ!」

倒しても倒しても次々に伸びるバダンの魔手。
人類支配を画策し、裏切り者ジュドーへの攻撃は絶えることはない。
それを拒絶し、新たな名前で宣戦布告をする良。

「俺はもうジュドーではない!俺は……仮面ライダーZXだ!!

太陽に背を向け、自然の緑にも癒されない、機械仕掛けの体。
戦いの中でしか生きられないならば、安らぎを求めて戦い続けよう。

仮面ライダーZXの物語はこうして始まった。
しかしZXはまだ、「仮面ライダー」という称号の本当の意味を知らない。

この戦いは君一人だけのものではない。
君は、人類全ての自由を賭けた責任があるのだ。
戦え、バダンを倒すその時まで!


【主要登場人物】

スチル撮影において顔出しで出演した(キャスティングが決まっていた)のは村雨良(菅田俊)と暗闇大使(潮健磁*3)の2名のみ。
ただし海堂博士や一条ルミなどドラマパートを支える人物の存在はこの時点で考えられており、同時期に連載されたコミカライズでは登場している。

主人公。脳だけを残して肉体全てを改造されたパーフェクトサイボーグ。
バダンに姉を殺され、自我と記憶を奪われた強化兵士ジュドーとして組織の一員となっていたが、事故により自我意識を取り戻しバダンへ宣戦布告する。

最初は姉の復讐という個人的な恨みだけで戦っていたが、戦いの中でバダンに虐げられる無辜の人々を目の当たりにし、そして仮面ライダーを名乗る9人の男と出会うことで、“人間の自由のために戦う”仮面ライダー10号へと成長していく。


  • 一条ルミ
ヒロイン。殺された父の遺品に紛れていたバダンの秘密が綴られた文書を手にした事により命を狙われる。
天涯孤独になりながらも健気に慕ってくるその姿は、姉を失い自暴自棄になった良の心の支えである。

  • 海堂肇
海堂博士、あるいは先生。
自分の病院を持っている人体力学の権威。
村雨姉弟の父親とは親友で、良とルミを保護し、年長者として彼らの繊細な心を支える。立花藤兵衛・志度敬太郎・谷源次郎らに次ぐ第4の「おやっさん」である。

平山Pと阿部Pが共同で脚本を書く際のペンネームと同名。

バダン日本支部総指揮官。
世界の汚れた者(人間)を救いに来たと嘯き、人間に汚れの根源である肉体を捨てさせ、機械の体を与えることこそが救済であると考えている。

地獄大使の従兄弟にして影武者という設定から、かつて地獄大使を演じた潮健児のキャスティングを前提としたキャラクター。

バダン最強の高性能サイボーグ。
設定上はZXと同じパーフェクトサイボーグとされ、ZXに匹敵する力を持った「もうひとりのパーフェクトサイボーグ」
腐敗しきった世の中に絶望し、人が肉や魚を食うように、「勝ち残ったものこそが善」という弱肉強食の思想に傾倒するようになった。

企画初期の段階ではそこまで突出した存在ではなかったが、撮影会の段階でZX並の強さとある種のヒーロー性を持った別格怪人として扱われる事になった叩き上げのキャラクター。
おおよその媒体で「三影英介」という人間体が設定され、いずれも終盤に登場しZXと竜虎相打つ宿命にあるライバル。

【主要用語】

  • 仮面ライダーZX
本作の主人公にして作品タイトル。記念すべき仮面ライダー10号。
全身の99%を機械の体に改造され、体の至る所に仕込まれた忍者武器で戦うことから『忍者ライダー』『メカニック忍者』の異名を持つ。

企画当初は正式名称が決まっておらず、そのまま「仮面ライダー10号」、あるいは「じゅうごう」を捩って「ジュドウ」と呼ばれていた。バダン時代のコードネームはこれに由来する。


「Z」はドイツ語の「ZENITH(ゼニス)(最高の)」。
「X」は未知数、そして性能の上がった機械に付けられる記号。
転じて「未知なる最高傑作の機械」、すなわちパーフェクトサイボーグとなるのだ。

また「X」は、肘の手裏剣・膝の衝撃集中爆弾の銀十字や、「10号」を漢数字にした「十」を回転させたという意味合いも含まれている。

企画発足当初から「全身メカと強化プラスティックのパーフェクトサイボーグ」の一文が入っており、前作のスーパー1のメカニックライダーを更に発展させたコンセプトとなった。


  • バダン/バダン帝国/BDN/BADAN
本作における悪の組織。
ナチス第三帝国の残党によって勃興。南米の巨大都市「バダンシティ」に居を構えていたが、これを放棄し、村雨良の脱走とタイミングを同じくして日本へと拠点を移動させた。
ショッカーまで遡る過去の歴代組織の研究を活かして次々と強力な怪人や兵器を生み出すバダンの目的とは?

怪人は基本的に「モチーフの動植物+ロイド」という名前で、初期の怪人戦力は強化兵士、後半ではUFOサイボーグにパワーアップする。
ZXは前者に該当し、組織でのコードネームは「強化兵士ジュドー」となる。

そしてタイガーロイドは後者のUFOサイボーグをも超えた存在として「高性能サイボーグ」の称号がついた。

  • 時空魔法陣
バダンシティのどこかにある、暗闇大使が発案した超巨大コンピューターシステム。
謎に包まれたその権能は凄まじく、強化怪人のUFOサイボーグは魔法陣と接続することにより己の体の一部を変形させ、一時的、局地的に時空を切断する機構で過去から死者をも呼び戻す。
本作におけるUFOサイボーグの各種ギミック、そして再生怪人の理由づけアイテム。

装置が完成すると、最終的に“時空破断システム”となる。

  • 仮面ライダー10号企画委員会
ZXを支援する謎の秘密団体……ではなく、仮面ライダー10号という作品そのものを誕生させるきっかけとなったファンの集い。
制作スタッフをゲストに呼べるほどのイベントを開催し、必死の訴えと願いは存在しないはずの10号を誕生させ、それ以降もTV放送まで行けない作品のためにバックアップを惜しまず、平山Pのストーリープロットを清書し、映像化の実現のために局への投書をやめなかった勇者たちである。

人の想いが生んだ『仮面ライダーZX』を作品外で象徴する存在であり、10号計画とでも呼ぶべき各種イベントは彼/彼女らの鋼鉄のスクラムなくしては成しえなかった。

【イメージソング】

企画発足間もない段階から歴代作品の楽曲を手掛けてきた日本コロムビアが即断で協力を申し出て、お馴染み菊池俊輔の作曲により制作された。

  • ドラゴン・ロード
後の特番でも使用されたZXのテーマソング。
ネーミング発表会後の1982年8月21日にレコードが発売されているが、制作はZXの名前が正式に決まる前に行われており、レコードのジャケットの作品タイトルは「仮面ライダー10号」で、歌詞にも当然ZXの名前は登場しない。
曲そのものは15日のラジオドラマやネーミング発表会などで先行して使われている。

名前こそ決まっていなかったがイラストは存在していたため、「シルバークロス」(手足の銀十字)など外見のイメージを反映させたフレーズも僅かに見られるが、肝心の「ドラゴンロード」の脈絡はいまいちハッキリしない。*4

しかしながらライダーシリーズ初参加の串田アキラの歌声が聞くものの心を揺さぶる名曲であることに疑念の余地はないだろう。
命を懸けて誇りを守り、終わらない戦いに身を投じるシルバークロスの戦士に、見る者の心はノックアウトされるのである。



  • FORGET MEMORIE'S(フォーゲット・メモリーズ)
『ドラゴン・ロード』のカップリング曲。
やはりZXの名前は登場しない時期の制作だが、大まかなキャラ設定と物語のプロットはすでに完成していたため、「記憶を失い、人としての幸せを奪われた男が復讐の炎を燃やし募らせる」という、村雨良の初期設定を反映した歌となっている。ぶっちゃドラゴンロードより作品世界に沿っている

惜しむらくは雑誌連載やTV特番ではそういったハードな一面は必要最小限までオミットされており、映像・音声媒体でも未使用に終わった。

  • スターズ・オン・仮面ライダー
1982年10月に発売されたレコード。カップリング曲は「スーパー戦隊バンバラバン」*5
初代主題歌『レッツゴー!!ライダーキック』から『ドラゴン・ロード』までの歴代ライダーのオープニング曲と歌詞が織り込まれた組曲。
コンセプトと名前からして完全に『スターズ・オン45』*6のパロディ。

一応は10人ライダーの歌、ということになるのだが、これまでのオールライダー系挿入歌*7のような聴くだけで血沸き肉躍る勝利確定BGMという感じではなく、どちらかというと『輝け!8人ライダー』の路線に近い。
しかし5分という尺の中で8曲もの歴代ライダーのオープニング曲のメドレーを中心に一部エンディングを合いの手に突っ込み、軽快にポップに纏めた良曲である。

難点としては、歴代主題歌のメドレー形式なためライダーマンがハブられている*8のと、いかんせんZXの象徴である上2曲に比べて影が薄い
後年のベストアルバムで目にするまで、全くその存在を知らなかった人もそこそこいるのではなかろうか。

【連載スタートまでの主な行事】

  • 仮面ライダー復活祭
1981年11月(スーパー1終了の翌月)開催。
青年層のファンが主体となって開催し、東映の撮影所試写室を借りてシリーズの上映会や製作陣との交流の機会を設けるという豪華イベント。
人情家で知られ、ファンの気持ちも慮る平山Pの尽力によって実現した。

この場で仮面ライダーとの別れを惜しむファンの声を受けた石ノ森章太郎が、10号ライダーの誕生を約束したのが全ての始まりとなった。
本当の意味での“復活祭”に化けたのである。

  • 10号ライダーに名前をつけよう
『テレビマガジン』1982年7月号(82年6月発売)に企画掲載され、10号ライダーの紹介と同時に実施。
企画発足時点では単に「10号」と呼ばれていた主人公の名前をファンから募集するというもの。
この手のお約束で最優秀賞には100万円の賞金がついた。
締切は1982年7月10日。

8万6541通という尋常ならざる葉書の山の中から数名が応募した「ZX(ゼットエックス)」が選ばれ、石ノ森章太郎によって「ZX(ゼクロス)」に改められた。
「ゼットエックス」で応募した全員が最優秀賞扱いとなり、賞金は折半。

  • 10号誕生記念・石森章太郎*9のオールナイトニッポン
8月15日放送(午前1時スタート)。
1967年から現在まで続く老舗ラジオ番組『オールナイトニッポン』とのコラボ。

シリーズの関係者*10をゲストに呼んでのトークショーが第1部。
そして、下記のネーミング発表会と連動して、いち早く10号ライダーの最新情報を公開する第2部という構成でオンエアされた。
番組のラストでは平山Pのプロットを基にしたラジオドラマが流れ、物語の具体的な世界観と基礎設定が初めて明かされた。


更にラジオ番組の放送と前後して、なんと10人ライダーがそれぞれのマシンに搭乗し、別動隊が中継しながら江ノ島海岸を突っ走るという凄まじい企画が展開された。*11

当然ニューフェイスの10号ライダーも愛車「ヘルダイバー」に乗っており、ヘルダイバーはここで初めて人々の前に姿を現した。
たまに見かける「ド深夜に10人ライダーが集結して記念撮影している」スチルはこれである。

  • 10号ネーミング発表会
8月15日(午後1時)、向ヶ丘遊園で開催されたイベント。(上のラジオと同日の日中
10人ライダーのヒーローショー、ファンが生み出した存在ということでコスプレしたファンが舞台に上がって製作陣と交流するイベントなどの後、最後に10号ライダーを紹介するという流れ。
江ノ島走行の流れで10人ライダーは各々のマシンと共に現地入りしており、ファンサービスで関係者が乗ったりなどした。
講談社&小学館の図鑑とかで見る「六角タイルの地面で10人ライダーが集結したりバイクに乗っている」スチルはこの時のものである。

児童誌を熱心に購入したり*12徹夜でラジオを聞いていた一部の精鋭を除き、おおよそのファンはここで10号関連の新情報を知ることになる。
10号ライダーの名前が「ZX」、専用マシンの名前が「ヘルダイバー」と定められ、ヘルダイバーの実物がいきなり登場し、ZXに変身する青年の名前は村雨良で、それを演ずるのは菅田俊であることなど、凄まじい情報量がいっぺんにこのイベントで開示されたのである。
ラジオと両方出た関係者と聴いたり参加したファン?もちろん徹夜でハシゴですよ。

そしてイベントのラストでは菅田俊が登壇し所信表明。
ここから全てが始まった。

なお、翌週の22日には宝塚ファミリーランドにてもう一度ネーミング発表会が行われている。

【主なメディア展開】

前述の通り、TVへの進出が難しかったため、それ以外の各方面で地道に知名度を上げていく作戦が展開された。

【雑誌連載】

最初に企画され、10号計画の全ての基点となる存在。グラビア記事での連載である。
平山Pが執筆した大まかな物語のプロットと怪人の設定のメモを元に、現場側が状況に合わせたアレンジを加えつつ撮影会を行っていく。
撮影は雑誌の刊行ペースと同じく月1で行い、ロケ地を見繕ってはバスに揺られ、東映、講談社、徳間書店、秋田書店といった賛同した企業の合同で行われた。
スチル撮影にあたり主役のZXは勿論、エピソードごとのバダン怪人の着ぐるみもレインボー造形企画によって製作されている。
母体となるTV番組が存在しないので先立つ物もなかったが、当時代表だった前澤範によってZXと毎月作るバダン怪人は殆どロハの超友情料金で作られ*13、実現に漕ぎつけた。

撮影後半のバダン怪人はUFOサイボーグにパワーアップし、静止画による雑誌連載という形式を逆手に取って映像での殺陣ではまず使えないド派手で巨大なギミックが次々に盛り込まれた。
中の人(スーツアクター)や殺陣はお馴染み大野剣友会……ではなく、同団体から独立した高橋一俊が率いるビッグアクションが担当。


平山Pが考案した各回のプロットは雑誌メインという特殊な立ち位置と10号誕生の立役者である年長のファンに合わせてハードで暗めなストーリーが志向されていたが、基本的にアクションシーンのみで構成された児童誌のスチル連載という形式上、さほど反映されていない。
このドラマ部分の全貌は、1998年に「平山亨叢書シリーズ」の一環として風塵社より出版された『仮面ライダーZX オリジナルストーリー』で日の目を見ることになる。


同書は俗に小説版と呼ばれる全13話のプロットの他にも関係者インタビューや資料が数多く掲載され、ZXを語る上で切って離せない必携の一冊なのだが、再販や電子化の目処が一向にないので現在の中古相場はプチ高騰している。
「まんだらけ」の特撮関連書籍コーナーに足しげく通うべし。

【ヒーローショー】

日頃からライダーショーで稼がせてもらっていた東映映像事業部がZXとバダン怪人の着ぐるみの提供を条件に資金協力と開催を申し出たことにより実現した。
「仮面ライダーZXショー」と銘打たれたそれ自体はお手本のようなヒーローショーなのだが、なにせテレビ番組が存在しない状態で知名度アップを図っていた時期だったので、ほぼ全てのショーに村雨良を演じる菅田俊が参加し、他の仕事の合間を縫って全国各地の遊園地を行脚したというとんでもない逸話で知られている。
主役自ら長期間のドサ周りをこなすヒーロー作品など、長い歴史を辿ってもほぼ唯一無二と言っても過言ではない。
これが1年以上続く過酷な道のりとなったが、地道な営業は功を奏し、ZXの知名度を上げることに大きく貢献した。

物語の基幹こそ上の雑誌連載版に譲るが、TV特番が決まるまではこのヒーローショーこそ「動くZX」を見れる唯一の媒体だった。
ゆえに当時の録画映像でもあればその価値は図り知れないのだが、残念ながら今日に至るまで発掘などは確認されていない。


【コミカライズ】

講談社『テレビマガジン』、徳間書店『テレビランド』、秋田書店『冒険王』*16の3誌で別々の作者により連載。
3作品ともネーミング発表会やグラビア記事の連載が始まった82年の夏頃から連載がスタートしている。

「製作陣が大まかなプロットを提示し、それ以外は各作者の自主性を重んじて自由」という感じで、基本的に当時のコミカライズの通例と変わらない。
しかし大本となる作品が存在しない『ZX』では少し事情が異なり、映像化前のZXの歴史の流れを追う上で重要性の高いメディアでもあるのだ。

  • 「ショッカーの残党が歴代大幹部の怪人態に変身してZXと戦う」
  • 「死んだはずの姉・しずかがバダンの尖兵であるかのように良の目の前に現れてメンタルを曇らせる」
  • 電波人間タックルが時空魔法陣で再生され、城茂*17と会う」
など、後年の漫画作品でオマージュされたと思わしき要素も散見される。

一応電子書籍もあるが、今なら2004年に発売された3誌の全話を完全網羅したA5コミックが当時の制作事情のインタビューなどもついていてお得である。

【晴れの舞台へ】

82年の夏から1年以上に渡り活動を続けてきたZXは、着々とその知名度を上げ、ヒーローショーの集客率も徐々に増えていった。
しかしTV番組という当時の最大の金脈の恩恵を得られない事実は重く、その先行きは不透明なまま。

だが、有志のファンたちの絶え間ない局への意見投書、平山Pの交渉、そしてそんな初代からのシリーズの功労者である平山Pの定年退職が1984年3月に迫ったことを労いたかった当時の東映テレビ部部長・渡邊亮徳の呼びかけなどが一体となり、ついに毎日放送の首を縦に振らせた。

開かれた枠は、1984年1月3日・朝9時。
たった一度の正月特番だったが、10号委員会はついに映像化への扉に手をかけたのだ。

お馴染みの初代アイキャッチBGMと共に『仮面ライダースペシャル*18と銘打たれた番組こそが 
今日の世に『10号誕生!仮面ライダー全員集合!!』として知られる作品である。

これを受け、雑誌展開など既存の展開は1983年の夏でいったん終了し、10月24日にクランクイン。
数年ぶりの新作というブランク・三が日が終わりかけた1月3日の朝9時という渋めの時間帯ではやはり厳しく、残念ながらTVシリーズの復活には繋がらなかったが、最後の最後で仮面ライダーZXは名実共に「TV放送されたシリーズ第8作」という冠を得たのである。
同番組は、ZXの勇姿に10号の称号を贈り祝福する先輩達と、それを受け止め自分の生きる道を見つけた村雨良を描いて終了した。


「たった1回だけど、俺は10号だ」

菅田俊



【余談】

  • 放送…もとい、活動開始日は企画展開的に少しややこしいのだが、基本的にはネーミング発表会が行われた『1982年8月15日』とされる場合が多い。
    • 企画が纏まり、雑誌連載が始まったのも1982年なのでまぁぶっちゃけ月日まで細かく申告する機会がないのもあり、大まかに1982年開始という認識で問題ない。

  • 映像作品として見た場合は前後に数年のブランクがあるが、10号誕生を訴求する活動に端を発した諸々の運動や企画はスーパー1終了直後から始まっており、ファン層や製作陣の同一性から実際はほぼ地続きと言ってもいい。
    作品成立の背景から、それに賭けたファンの熱量はピカイチである。
    • しかしながら各種イベントなどに足が向かず、児童誌なども興味がなく、あくまで「テレビ番組」としてだけ見ていたファンにとっては数年の空白期間でしかないのも確かで、同じ時代を生きていても人により温度差の激しい作品である。

  • 初代からのスタッフが最後に作った作品にして、記念すべき10号の名前を授かった由緒ある出自なので、いわゆるオールライダー系の作品でも基本的には他のTVシリーズと同格に扱われている。
    • 取り分け「TV放送作品」という枠に入れる恩恵は大きく、特番まで漕ぎ着けたことがZXというコンテンツの後世での明暗を分けた。
    • それでも完璧に盤石とはいかず、それなりにハブられたりグッズやゲームなどで選考漏れする場合もあるが……そこはご愛嬌。

  • 映像化こそ一度きりではあるが、そこに至るまでのファンと制作が一体となった年単位の活動と勢いは長いライダー史を見渡しても目を見張るものがある。
    その一度に到達するまでに、血の滲むような戦いがあったのだ。
    • しかし、映像作品という視点だけで見て企画発足から成立までの背景が抜けてしまうと「なんか知らんけど急に1回だけ映像になった不遇の人」という印象に思えてしまい、こういった当時の運動の実態があまり顧みられないのは惜しむらく点である。*19
      • だが、主演・菅田俊の作品愛と度重なるゲスト出演もあり、近年では中々おいしいポジションを獲得しつつある。長い時を経て開花した苦労人なのだ。

  • 同じく平成ライダー「10号」である「仮面ライダーディケイド」とは、「赤を基調とした左右非対称のデザイン」「歴代ライダーの紹介を兼ねた映像作品」「特殊な企画形態」など、関連を見出す意見もある。


追記・修正は原作者に10号ライダーの誕生を確約してもらってからお願いします。


この項目が面白かったなら……\ポチッと/

最終更新:2025年08月26日 14:15

*1 基本的に「しずか」表記が多いのだが、小説版では「しづか」

*2 近年の作品ではセスナ扱いしていることが多い

*3 ※当時の芸名

*4 同年に公開されたジャッキー映画のタイトルが同じなので、その辺からのインスパイア説などが疑われている。

*5 『秘密戦隊ゴレンジャー』の「バンバラバンバンバン」をベースに、当時最新の『大戦隊ゴーグルファイブ』までの戦隊、さらにキカイダーやギャバンなど他東映ヒーローの主題歌まで混ざった、なかなかにカオスな曲

*6 スター、つまり当時の人気アーティスト達の曲をメドレーさせた楽曲

*7 『仮面ライダー賛歌』『ライダー賛歌』『戦え!7人ライダー』『9人ライダー永遠に』

*8 ストロンガーなどはわざわざエンディングの合いの手から入ってタックルの名前を出している

*9 ※当時の名義

*10 佐々木剛、高杉俊介、小林昭二、塚本信夫。藤岡弘の録音メッセージも番組内で流した

*11 当然だが、警察の全面協力で、交通安全キャンペーンという体で行われている。

*12 8月頭発売の9月号の時点で「ZX」という名前は誌面に公開され、クモロイドと戦っている

*13 「採算度外視」だったり「お金いりません」だったり、資料によって表現にバラつきがある

*14 指がやけに太かったり、ベルトのバックルの十字以外の部分が黒く塗られていない

*15 クモロイドとカメレオロイドだけ再生されなかった…まぁ10対10のが見栄えいいしね

*16 連載途中で「TVアニメマガジン」に改名

*17 漫画内での表記は“シゲル”

*18 物によってはここから作品名に含む場合もある。歴代のテレビスペシャル作品を纏めた映像ソフトの総称が『仮面ライダースペシャル』になっている事も

*19 そして残念ながらネットムービーやパンフレットのコメントで平成以降の公式サイドがこういった茶化し方を率先して行なっていたのが一時期の認識の温床となっている事は否めない