登録日:2024/09/03 Tue 08:07:00
更新日:2024/09/14 Sat 16:03:43
所要時間:約 4 分で読めます
『四季の草花』とは、2013年に凸版印刷によって製作・出版された書籍。
そのタイトルの通り、サクラやヒマワリなど春夏秋冬に見られる植物全12種がイラスト付きで紹介されている。
イラストは適度に抽象化されており、デザイン性も高い。
ただ、単なる植物図鑑としては12種という少なさが致命的。
その用途は調べものではなくイラスト鑑賞に限られることになるだろう。
と、ただそれだけの本がアニヲタwiki(仮)に項目として建てられるはずもなく。
ここで画像をご覧いただこう。
そう、この本はとんでもなく小さいのだ。
【真の概要】
『四季の草花』とは、凸版印刷によって製作された世界最小の豆本である。
具体的な数値で言うと、僅か0.75mm角。
つまり1mmにも満たないサイズの本という訳である。
当然ギネス世界記録にも申請され、ロシアで製作された『カメレオン』の0.9mm角という当時の最高記録を大幅に塗り替えることとなった。
【内容や使われている技術について】
先述の通り12種の植物のイラストと名前が載っている。全22ページ。
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掲載されている植物一覧 |
春:うめ・つくし・さくら
夏:あじさい・ゆり・ひまわり
秋:もみじ・きく・コスモス
冬:さざんか・すいせん・ふくじゅそう
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名前はひらがなとローマ字で書かれている他、四季の区分が印刷されたページもあり、なんとひらがな・カタカナ・漢字・アルファベットの4種の文字が使われているということになる。
言うまでもないが「本」であるため、拡大すれば内容を読むことができる。
とは言ってもこのサイズであるため、もちろん普通に印刷しては文字が潰れておしまいである。
そこで、凸版印刷はこの本の制作にあたって極小サイズの印刷でも潰れないようなフォントを開発。
更に長年の印刷で培った超微細印刷技術や半導体の制作などエレクトロニクス分野で使われる電子製版技術を用いてイラストや文字をはっきりと印刷することを実現した。
また、植物のイラストの一部には「とっぱん」「TOPPAN」の隠し文字が仕込まれている。
その線の太さは僅か0.01mm。
このサイズと言えど、人を楽しませるような工夫まで忘れていない『四季の草花』はまさしく「本」なのである。
なお、製作に用いられているのは先に掲げたような最新技術だけではない。
印刷した後の製本の過程はざっくりと
蛇腹に折る→背表紙糊付け→裁断→表紙貼り付け
に分けられるが、このサイズともなると機械での作業は不可能なため、これらの作業は逆に全て手作業で行われている。
最先端のデジタル技術と熟練の技能士による卓越したアナログ技術。
『四季の草花』はまさしくそれらの賜物なのだ。
【製作背景について】
凸版印刷では1964年製作の『小倉百人一首』以来、「マイクロブック」と称する極小サイズの本の製作に取り組んでおり、最小を追求してきた。
その1つが1981年製作の『主の祈り』であり、そのサイズは1.4mm角。
『四季の草花』には見劣りするとは言え十分過ぎるほど小さく、当時のギネス世界記録に登録された。
その後も2000年製作の『十二支』(0.9mm角)で再びギネス世界記録に登録されるなど、弛まぬ企業努力が続けられてきた。
しかし、先述の通りその後ロシアで制作された『カメレオン』に記録を抜かれてしまう。
そこで新たな世界最小の本を作ろう、と立ち上がったプロジェクトが本書『四季の草花』なのである。
【印刷博物館での扱いについて】
印刷博物館とは東京都文京区に位置するTOPPANの本社ビル地下にある博物館で、その名の通り印刷の歴史や印刷が人々に与えた影響などについて展示されている博物館である。
この『四季の草花』も印刷博物館に所蔵されており、印刷史を概観できる壁面展示というプロローグを抜けた先に実物が展示されている。
人類の印刷史について理解を深めた上で、その最先端にいると言っても過言ではない『四季の草花』の実物を見ると中々感慨深いものがあるのではなかろうか。
また、かつては印刷博物館のミュージアムショップで『四季の草花』が実際に販売されていた。
専用のケースにルーペと拡大本もセットで、お値段は約3万円。
2024年現在は残念ながら完売になってしまっているが、代わりにイラストを使用したキーホルダーをガチャガチャで販売している。
こちらは全6種で1回300円と言うお手頃価格。
【余談】
- YouTubeのTOPPANグループ公式チャンネルにはこの本の制作過程を綴った動画『マイクロブックのできるまで ― 世界最小への挑戦 ―』が投稿されている。
『四季の草花』についてより詳しく知りたい人は必見である。
- 印刷の際に用いられる「版」には様々な種類があるが、凸版印刷が制作したこの本に用いられているのはもちろん凸版…ではなく凹版である。
仕組み上、凹版の方が凸版よりも細い線で描画できるのだとか。
追記・修正は『四季の草花』を肉眼で読めた人にお願いします。
- うっかり部屋の中で紛失したら見つからなくなりそう -- 名無しさん (2024-09-03 15:40:37)
- 最先端技術を駆使してアナログなアイテムを作るという趣味の結晶みたいな存在だな。 -- 名無しさん (2024-09-03 17:49:09)
- ただの趣味であり実用性皆無なものに、最先端の技術を全力でぶち込んだ結果がこういうとんでもない品物になったっていうのいいよね -- 名無しさん (2024-09-03 18:51:06)
- 「『四季の草花』を肉眼で読めた人」無茶言うなw -- 名無しさん (2024-09-04 15:16:04)
最終更新:2024年09月14日 16:03