ミカドヤモリ類(ペット)

登録日:2024/09/09 (Mon) 18:05:00
更新日:2024/09/12 Thu 10:47:03
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ほわっとモチモチ クレステッドゲッコー!!


爬虫類飼育初心者向けのは爬虫類と言えば、レオパードゲッコー、コーンスネーク、ボールパイソン、フトアゴヒゲトカゲ、アオジタトカゲ、そしてクレステッドゲッコーである。
樹上性ヤモリの中では最もメジャーなペットであり、入手しやすくて飼いやすく、繁殖やコレクションも楽しめるヤモリである。
本稿目ではクレステッドゲッコーの他、同じグループに属する、ニューカレドニア原産のミカドヤモリ類の飼育について解説する。


まず分類について



本稿目で解説するニューカレドニア産のミカドヤモリ類は、かつてはすべて「ミカドヤモリ属(Rhacodactylus)」に分類されていた。
しかしその後研究が進み、現在では3つの属に分けられる。
しかし近縁なのは間違いない上に、飼育方法もほぼ共通で、爬虫類飼育趣味界隈では今なおまとめて扱われることが多いため、本項目では「かつてミカドヤモリ属に含まれていたヤモリ」をまとめて「ミカドヤモリ類」として扱う。


魅力


基本的に爬虫類初心者向けとされる、とても飼いやすいヤモリである。
特にクレステッドゲッコーは、現在ではレオパードゲッコーに次いでメジャーなペット爬虫類だろう。
樹上性ヤモリの中でも最も飼いやすいグループである。
クレスやガーゴ、ツギオはカラーバリエーションや模様のバリエーションも豊富なので、コレクションしたり、繁殖させて自分の好きな色・模様の個体を出すのを狙ったりといった楽しみ方もできる。

しかし、何よりも最大の魅力は……


モッチモチなこと


である。

このグループ、とにかくハンドリングした時の手触りがいいのだ。
「爬虫類って、ザラザラしたりヌメヌメしてるんでしょ?」と思っている人にこいつらを触らせたら驚くに違いない。
例えるならば和菓子のような、あるいは超高級な布のような、とにかくいわく言い難い手触りである。
一言で言えば「モッチモチ」

爬虫類はむやみに触るペットではない、というのが原則だが、こいつらに関しては触ってなんぼのペットである。
飼っていたら一日一回は触りたくなること請け合い。
彼らの負担にならない範囲で、ぜひ手触りを楽しんで欲しい。

……ただし、店で売ってる個体を買ってきて、いきなり触ってもいいというわけではない
特にクレスやサラシノはちょこまかと逃げたり跳ねたりするので、慣れない飼育者がうかつに触ろうとすると部屋の中で逃げられるし、ツギオは最初は気の荒い奴が多くて噛みつかれたりする。
ベビーの頃からハンドリングの練習をしっかりすることによって、触らせてくれる個体になるのだ。
いわば、モッチモチを楽しめるのは、上手く飼っている飼育者の特権なのである。

その他の魅力として、樹上性ヤモリとしては動きが遅いというのがある。
これがハンドリングに向いている理由の一つでもある。
樹上性ヤモリは概してすばしっこい種が多く(それ故に「壁チョロ」と呼ばれることもある)、ハンドリングが難しい上に、普段の世話からして十分注意してやらないと、餌やりや掃除をしようとケージの扉を開けた瞬間に逃げられることがある。
特にヒルヤモリやトッケイで、こんな悲しい事態になった飼育者は数知れない(部屋の中に逃がすと、捕獲するのはかなり困難。開き直って放し飼いにするしかない)。

この点でも、ミカドヤモリ類は動きがゆっくりで扱いやすいのである(サラシノやコモチは比較的早い)。


飼い方


まず前提として、彼らはすべてフランス領ニューカレドニア原産である。
ニューカレドニアというと、「常夏の南の島」というイメージの人が多いだろう。
しかし、実は最高気温は27度程度で、日本の夏よりも涼しい。
そのためか、彼らはかなり高温に弱い。
冬場はもちろん保温が必要だが、夏場もエアコンは必須である。24時間エアコンで温度調整するのは前提となる。
(これはミカドヤモリ類に限ったことではない。熱帯出身のものを含めて、ほとんどのペット爬虫類にとって、現在の日本の夏はあまりにも暑すぎるのである……)

ちなみに野生個体は厳重に保護されているので、流通するのはすべてCB(人為繁殖)個体。
これも飼いやすい理由の一つ。

湿度も重要で、毎日霧吹きを忘れずに。

この温度・湿度の2点さえ気を付ければ、大変丈夫で飼いやすいグループである。
樹上性なので高いケージで飼うのが望ましいが、ありがたいことに(主に本グループの人気のおかげで)縦長系のケージが各種メーカーから出ているのでこれを使おう。

ケージの中は流木やコルク、ジャングルバイン(枝を模した、針金の入ったレイアウト用品)を使ってレイアウトする。
雰囲気を出すなら流木だが、軽くて加工しやすいコルクは何かと重宝する。
さらに観葉植物などを入れてもいいだろう。

この時の注意点として、「必ず平行にとまれる箇所を作る」こと。
思わず枝やコルクを垂直に近い形で立てたくなるのだが、野生下では平行な枝にとまっていることが多いようで、飼育下でも明らかに平行な場所を好む。
平行な場所が無かったり、レイアウトが気に入らないと、「頭を下にして壁に貼り付く」という独特の姿勢を取る。
これが長く続くと、尾が重力によってクネっと折れ曲がってしまう(これをフロッピーテールという)。
これによって死ぬことは無いが、一度なると戻らないので、自分の飼っている個体が上記の姿勢を取っていたら至急レイアウトを見直そう。

レイアウトは懲りだすとああでもないこうでもないと悩んでしまいがちだが、これを考えるのが樹上性爬虫類を飼う上でもっとも楽しいことの一つでもあるので、じっくり悩んでほしい。

床材は比較的なんでもいいとされるが、乾燥系の砂などは目や口を傷つけるケースが多いので避けるのが無難。まあヤシガラや腐葉土が無難だろう。
メンテナンスが面倒ならキッチンペーパーやペットシーツを使うのも手。雰囲気は台無しになるが……


エサについて。
このグループは、大変ありがたいことに専用の人工飼料が出回っている
水で溶いて与える粉末状のフードである。
ほとんど全ての個体が人工飼料に餌付くので安心していい。
さらに専用のエサ皿も売られているので、それを使えばいい。

あまりに色んな種類のフードが出回っている(ガーゴ用とかツギオ用とか繁殖時用とか)ので、初心者のうちはかえって迷うかもしれない。
最初のうちはショップの人に色々聞くといいだろう。
間違いなく、エサ関連商品は最も充実しているペット爬虫類である。
それ以外では、バナナや昆虫も食べる。
ベビーのうちはコオロギなどの昆虫をメインにしたほうがよく成長する(カルシウム添加を忘れずに)。
ちなみにツギオは野生下では他のヤモリを好んで食べているらしく、拒食したツギオの餌としては餌ヤモリが有効と言われている。


このグループはカラーバリエーションや模様のバリエーションを楽しむのも魅力の一つなので、ぜひ自分の好きな個体を探して欲しい。
しかし、樹上性ヤモリ全般に言えるのだが、飼育環境や体調によってかなり発色は変化する。
ネットで入荷写真を見て「お、いい色!!」と思ってショップに行ったら「……あれ?」と思わされたり、買ってきて自分の作ったケージに入れたら全然違う色になった、というのはよくあることである。
さらに成長に伴ってもかなり色はかわるので、ベビーを買う時は気を付けたほうがいい。
この点で、多数の個体を直接見比べることのできる即売会イベントはかなり便利。
クレスやガーゴなどは人気種ゆえ、大抵のイベントで大量に展示されるので、自分の見る目を肥やすために参加してみるのがいいだろう。
(ただし、ガチ初心者が最初の個体を買う場合は、店員さんにゆっくり質問することができるショップで買うのをお勧めする。イベントでは、ほとんどの場合ゆっくりと説明を聞く時間はない)。


繁殖も簡単。
繁殖が盛んなレオパやボールパイソンと比べると、いまだに遺伝性がよくわかっていない色や模様が多い。
逆に言えば、素人ブリーダーでも新発見ができる余地があるグループである。


モチモチ……モチモチ……


種類


Correlophus属


  • クレステッドゲッコー(オウカンミカドヤモリ)

通称クレス。
このグループの代表格にして、最も飼われている樹上性ヤモリにして、ペット爬虫類を代表する一種。
頭部に王冠のような突起があることからこの名前がある。
実は19世紀に発見されて以来、1990年代に再発見されるまでは絶滅したと考えられていた。
それが再発見されてみると、飼いやすく、人に良く慣れ、繫殖も容易で色や模様の変異も豊富、ということで、研究用に持ち出された個体の子孫たちがペット市場に流通し出すと、あっという間にスター爬虫類の座にのし上がった。
レオパードゲッコーといい、ゴールデンハムスターといい、こういう「野生下ではマイナー種だが、奇跡的なまでに飼育種に向いている」動物がたまに見つかるのも自然界の面白さである。

繰り返すが、この仲間の中でも特に飼いやすくて人にも慣れやすい。最初に飼った爬虫類がこいつだったというマニアも多いはず。
注意点として、この仲間の中では比較的すばしっこい……というか、よく跳ぶので、慣れない個体をハンドリングする時には注意。
モチモチを楽しむにはガチガチに慣らせる必要があるのだ。

もう一点、この種は尻尾が切れても再生しない。
間違っても尻尾を引っ張ったり、不意に驚かせたりしないように。
(ヤモリの仲間は物理的な刺激のみならず、精神的ショックやストレスでも尾を自切する)

世界中で愛好されているヤモリだが、特にお隣の韓国では「ペット爬虫類といったらこいつ」というレベルで人気があるらしく、盛んに増やされて日本にも輸出されている。
モルフごとに見ると人気の推移や値段の変動が激しいヤモリなので、気に入った個体が安く売られていたら買っておこう。


  • サラシノミカドヤモリ(ルーズゲッコー)

通称が定着するほど人気が無い
一言で言えば、「王冠がなくなって細身になったクレステッドゲッコー」。
一見したところの雰囲気は、どっちかというとミカドヤモリ類というよりは、ヤシヤモリやヒルヤモリあたりに近い。
一見してわかる特徴を持っているものが多いミカドヤモリ類の中では、地味と言うか影の薄い存在と言われるかわいそうな奴。和名からして学名そのまんまというやっつけ仕事だし。

動きがかなり素早い部類で、この仲間としてはハンドリングに不向きな種である。
それでもベビーのうちから慣らせば一応はハンドリング可能。


Rhacodactylus属


  • ガーゴイルゲッコー(ツノミカドヤモリ)

通称ガーゴ。
頭部に一対の角があるのが特徴。
クレスに次ぐ人気種。
飼育難易度もクレスに次いで低く、クレスよりも簡単という人もいる。
「クレスとガーゴだったら、自分はガーゴが好きだな」と思う人は、クレスを経由せずに本種をまず飼っていいだろう。

注意点は、このグループの中では肉食傾向が強く、複数飼育したり他のミカドヤモリ類と同居させたりすると、他個体の尻尾を食べたり、最悪の場合共食いしてしまう。


  • ツギオミカドヤモリ(ジャイアントゲッコー)

モッチモチのモッチモチである。

通称ツギオ。
全長34センチ以上と、このグループでは最大で、かつトッケイやハルマヘラジャイアントゲッコーと並んで世界最大のヤモリの一つとされる。
手触りの良さがウリであるこのグループにあって、その巨体故にもっともモチモチを楽しめる種。
動きも緩慢なので、背中やお腹にくっつけたまま過ごしている飼い主も多い。
ただし、大型種故に、噛まれるとシャレにならないくらい痛い。
そして最初のうちは気が荒く、威嚇する個体が多い。
モチモチを楽しむためには焦らずじっくり慣らそう。
ガチガチに警戒しているのを解かないと、モチモチを楽しめないのである。

この仲間としては繁殖力が弱く、一匹15万円ほどとお値段は高め。
しかし庶民でも頑張れば買えないことはないというのもあって、コレクションするファンは多い。

2つの亜種があるとされ、さらに亜種内にも変異があるようで、地域名を付けて流通していることが多い(これをロカリティという)。
そもそも野生個体は出回らない種なので、「その地域で採集された個体を祖先に持つ」という意味だが、繁殖される過程で他の系統が混じっていることも……
そもそもこの手のCBしか出回らない爬虫類全般に対して言えるが、血統を正確に遡るのは事実上不可能だし、確認のしようもないので、あんまりこだわりすぎないほうがいいだろう。

このグループでも長寿で、上手く飼えば40年生きるとも言われる。相棒的に飼いたい人にもピッタリだろう。


  • コモチミカドヤモリ

通称コモチ。
最近になって二種類に分割された。
コモチの名前通り、胎生のヤモリ。
それ故に繁殖力が弱く、ツギオの比較にならないほどの高値で流通する(80万~100万)、富豪向けヤモリ。
このグループとしてはすばしっこくてハンドリングに向かないとも言われるが、そもそも飼ってる人が少なすぎてよくわからない奴。


Mniarogekko属


  • マモノミカドヤモリ(チャホウアミカドヤモリ)

通称マモノ、またはチャホウア。
中二病のためにいるような名前を付けられたヤモリ。
外見も妖艶かつ異形といった感じで、まさにマモノ。
英語ではモッシージャイアントゲッコーと呼ばれるが、ツギオ(ジャイアントゲッコー)と紛らわしいからか日本ではほとんど使われない。
飼い方も特に難しいわけではないので、ちょっと変わった爬虫類を飼いたい中二病の方にはオススメ。

こいつもクレスと同じく、一度尾を切ったら再生しないので注意。


  • セイレイミカドヤモリ

ごく最近、マモノから分離して独立種とされた種。
多分、今までにマモノに交じって流通していた個体もいるころだろう。
こっちは尾を再生できるらしい。
そして、マモノと並んで厨二ネーム。この仲間には厨二な和名を付けないといけないルールでもあるのだろうか?

この名前で流通し始めたのはごく最近で、コモチよりは安いがツギオよりは高いお値段で売られている。
おそらくマモノと飼育方法はそんなに変わらないだろうが、現時点では情報が少なすぎてよくわからない。



追記・修正はモチモチにモチモチされてからお願いします


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最終更新:2024年09月12日 10:47