解の公式(数学)

登録日:2024/10/10 Thu 00:43:06
更新日:2024/10/13 Sun 13:08:50
所要時間:約 12 分で読めます







「解の公式」とは、数学における方程式(代数方程式)の解を導くために用いられる公式のこと。
この項目をみている人たちにとって最もなじみ深いのは「2次方程式の解の公式」だろう。

この項目では上記を含めた「解の公式」やそれに関連するトピックについて触れていく。



概要

一般的に変数xに対する方程式は展開などの式のまとめを行う事で定数a0, a1,…, an(≠0)で

anxn + an-1xn-1 + … + a1x + a0 = 0

と現わすことが出来る。(ここでは係数を複素数の範囲内で考えたとする。)

方程式に関する数学の定理として「代数学の基本定理」と呼ばれるものが存在し、「複素数係数の方程式は複素数の解を必ず持つ。」事が分かっている。

そして同じく方程式に関する定理に「因数定理」があり、「多項式f(x)がαを解に持つ時、f(x)は(x-α)で割り切れる。」と分かっているため、この2つの事実を利用することで「n次の複素数係数の方程式は複素数の解を丁度n個持つ。」という事が分かる。*1



これらの事から条件式を満たすxは複素数の範囲内に解を(高々)n個持っている事までは分かるのだが、この値を実際に探す為に「予め用意された解の導出用の公式に方程式を形成する定数の情報を代入して計算し、答えを出す」と言う方法を取る事があり、この時に用意されるのが「解の公式」になる。


一般に解の公式と呼ぶ場合、「係数部分に対する四則演算とn乗根を取る作業を有限回だけ行って得た式」の事を指す事が多い。*2

そうでない方法による解の公式としては楕円関数などを用いるものがあるのだが、かなり複雑な計算が必要になるためこの項目内ではそれらについては言及しない。


1次方程式の場合

1次の式の場合、方程式は移項などを行う事で

ax + b = 0 (a≠0)

とまとめられる。

この場合、解の公式は非常に単純で移項と係数の処理をx = -b / aとしてやれば解を求めることができる。

因みに本題から少しそれるのだが、「ax + b = 0」の解を求める問題が、高校入試の問題として出た事がある。

「さっきの式で終わりじゃん。」と思った人もいるかもしれないが、上記の式はa≠0が前提になるため、答えとしては十分ではない。

最高次の係数aが0として提示されている場合、変数xがいくつであろうとax = 0なので、この場合はbの値によってそもそも等式として成り立つかが決定される。

より具体的には

①:b = 0ならば左辺も右辺も0になってxに関係なく等式が成立するのでxは任意の数。
②:b≠0ならば式を整理することでb = 0となり、元々の仮定と矛盾するのでxは解なし。

となる。


2次方程式の場合

「解の公式」と聞いて多くの人が思いつくのはやはりここだと思われる。
方程式の形は

ax2 + bx + c = 0 (a≠0)

となる。
ここで「平方完成」と呼ばれる業を行う事で上の式を

a(x + b/2a)2 + (c – b2/4 a) = 0

とすることが出来る。
式がごちゃごちゃして見にくく感じる人もいるかもしれないが、要は「式変形することでAy2 + B = 0の様な形になる様、変数yの設定を行った」という事であり、この状態からは移項や分母はらいを挟んだ後、平方根を取ればyが求まり、そこからxの値を求めることができるようになる。

形としては

x = (-b ± √(b2 – 4ac))/2a

と書ける。
習いたての頃はごちゃごちゃした変数の式が出てきて「何だこの式?」と思った人もいるかもしれないが、内容を詰めるとこのような論理になるという訳である。


3次方程式の場合

ここまでは具体的な式を描いていたが、この辺りになると式が複雑なものになっていくので、アイデアのみを記載する。

2次方程式を解く際に「平方完成」を行い、1次の項を式から消す作業を行っていたが、実は3次方程式でも同様の処理を行う事が出来る。
具体的には


a x3 + b x2 + cx + d = 0 (a≠0)


と言う式に対してX = x + (b/3a)とし、方程式をXの形で纏めてやると、Xの方程式からは2次の項がいなくなり、新たな複素数P,Qによって

a X3 + PX + Q = 0 (a≠0)

と言う形になり式が少しだけ簡単になる。そしてXに対する解の公式が分かればそこからxの解の公式も求められるようになる。(ちなみにこの式変形は一般には「チルンハウス変換」と呼ばれ、3次に限った場合はこの処理を「立方完成」や「立体完成」と言う。)

この様に少し簡単な見た目になった3次方程式だが、P = 0の場合はX3と定数の項だけが残るので、式変形をした後に3乗根を取れば解を求めることが出来る。


続いてP≠0の場合だが、ここからxの解の公式を導出する方法として有名なものに「カルダノの公式」というものがある。


具体的にはXと言う変数をu + vという2種類の独立した変数の和で表現し、方程式を改めてまとめ直すと係数の比較によってu,vに関する2次方程式を作れるようになる。

2次方程式について問いてやればu,vの値も分かり、そこからX→xと方程式の解の公式についても芋づる式に分かっていくというカラクリになっている。

ちなみに名前に「カルダノの公式」とある為、カルダノと言う人物がこの解法を開発したとされているが、実はこの名前のもとになっている数学者(本業は医者なのでこの表現は厳密には間違いだが。)カルダノは当時彼と数学の業績について競っていたタルタリアと言う数学者から解法を聞いてそれを自著で公表して世間に広めてはいるが、彼自身が考案したわけではない。

またこの解法の公表について、タルタリアは「解法を口外しない」条件で彼に教えたにもかかわらず、カルダノが約束を破り、(タルタリアの功績であるという点は断ってはいるが)本人に無断で公表したという中々に衝撃的な逸話もある。(実は彼よりもさらに過去に解法を見つけていた人物が見つかった事で約束を無効としたものとされている。)

この事で激怒したタルタリアはカルダノに数学に関する問題の挑戦を吹っ掛けるが、カルダノは応じず代わりに彼の弟子を遣わせており、その人物こそが4次方程式の代数的な解法を見つけたフェラーリである。


4次方程式の場合

3次方程式についても解の公式を出すのに複雑な計算が必要になっていたが、4次方程式ではさらに複雑な式変形が必要になる。
解法としてよく知られているのは「フェラーリの公式」で、こちらは正真正銘フェラーリ本人が式を発見している。


まず2次・3次の時と同じく


a x4 + b x3 + c x2 + dx + e = 0 (a≠0)


に対してX = x + (b/4a)として係数を纏めることで、新たな複素数P,Q,Rによって


a X4 + P X2 + QX + R = 0 (a≠0)


と3次の項がない形の方程式に出来る。
この時、Q = 0ならばこの式はX2の2次方程式(複2次式)になり、容易に解くことができる。

一方Q ≠ 0である時は


a X4 = -(P X2 + QX + R)


と4次の項とそれ以外の項に分けて、そこから更に変数Sを上手く選んでやり、

左辺と右辺を

(X2とSの式) 2 = (XとSの式) 2

と出来る様にまとめる。


この時Sを具体的に求められれば、両辺の式から(符号に注意して)2乗を取り去り、そこから2次方程式を解いて解の公式を出せるようになる。

Sに関してだが、実は2乗の式を作る際にSの式についてまとめて見ると、3次方程式が出現するため、これはカルダノの公式を用いることで値を決定できる。(この時現れる3次方程式は「3次分解方程式」と呼ばれる。)

故にSを具体的に算出することができる為、結果としてそこからX→xの解の公式も求められるようになる。


5次以上の方程式の場合

ここまで1次~4次の解の公式について説明をして来た。
次数が上がれば上がるほど式変形が複雑になっていくため、5次以降ともなると途方もない計算が必要になるのではないかと身構える人もいるかもしれない。


だが結論から言うと、5次以上の方程式は解の公式を持たない(=代数的に解けない)と言う事実がある。*3



解けない理由について深入りせず大雑把なイメージのみを説明すると、まずn次方程式の解の個数は始めに述べた通り「代数学の基本定理」から(重複度を含めて)ちょうどn個ある。


この時解に順番をつけてx1, x2, … , xnとしてやることが出来るわけだが、解の順番と言っても絶対のルールがあるわけではないので、絶対値が大きい順や小さい順など異なる方法で順番を決める事も可能。

この時解の順番Aと順番Bというものを考えることが出来るが、当然並びが違うだけで個々の解の値は同じである。
つまり、適切な並べ替えを行う事で順番Aから順番Bに書き換えができる。この時の解の並べ替えを『置換』と呼ぶ。
そして置換には次数というものがあり、「何個の数を対象として置換を行うのか」という事で決まる。例えば3個の数を並べ替える場合は置換の次数は3となる。


そして「置換」は2種類の置換が用意された時に「置換①の後そのまま置換②を行う(もしくは置換②後にそのまま置換①)」という「合成」を行う事で新たな置換③を作れる。

この様にして「置換」と「合成」を決めた時にこれらを1組にまとめた集合を考えると、この集合は「」と呼ばれる特殊な条件を満たす「演算対象」と「演算」の集合になる。


詳細は省略するのだが、この「解の置換」によって形成される群が方程式の解の導出の問題に直結している事が知られている。

そして次数が4以下の場合と5以上の場合で置換から形成される群の性質が大きく変わってしまう事が分かり、ここから5次方程式の解の公式は解の公式を持たない事の証明ができるようになる。
(ここでは大雑把な説明のみをしているため、詳細が気になる人は書籍やインターネットから調べてみてほしい。)


これらの方法についてを考えるのが「ガロア理論」と呼ばれる分野になる。

これは名前の通り、フランスの数学者ガロアが理論の基礎に当たる各種概念を構築したのだが、実は「5次以上の方程式が(代数的な)解の公式を持たない」こと自体はガロアが証明したものではない。

厳密にはガロア自身も研究はしていたものの、彼よりも先にアーベルと言うノルウェーの数学者が「代数的に解けない事の証明」を提示していた。(更に言うと不完全な形ではあるが「5次以上の方程式が代数的に解けない」事について研究を進め、最終的な解決に貢献した数学者ルフィニの名も付け加えて「アーベル・ルフィニの定理」と呼ばれている。)


ガロアの功績はこの事実を「群」の概念を使う事でより分かりやすい表現にした事と「代数的に解けない」事実から更に踏み出して、「5次以上の方程式の内、代数的に解けるものと解けないもの」の線引きを行う事を可能にした事にある。


5次以上の方程式ならどんなものでも代数的に解けないわけではなく、

xn – a = 0

はnがどんな正の整数であっても代数的に解けることが知られている。

他にも指数法則を考えることで4次以下の方程式に書き換えられる方程式や、5次~9次の場合に限ると「相反方程式」と呼ばれる、係数が対称に配置されている特殊な形の方程式は上手く式変形することで主要部を4次以下の方程式に書き換えられるためこれらも代数的に解ける。


これらの式はガロア理論において代数的に解けるかどうかを「群」の考えを使って調査できる事が分かっている。


判別式

この項目を見ているそこのあなたが高校生以上である場合、2次方程式の解の公式を習う際に「判別式」というものを一緒に習ったものと思われる。

実はこの方程式は3次以上の場合にも考えることが出来、一般的な解の公式が存在しない5次以上の方程式であっても方程式の係数から代数的に作る事が出来る。



この判別式、授業の中では2次方程式ax2 + bx + c = 0 (a≠0)に対するの解の公式

x = (-b ± √(b2 – 4ac))/2a

の内、平方根の中の値をD*4= b2 – 4acとして紹介されるのだが、実際の定義としては方程式の解2つをx1, x2とした時に

a2( x1 - x2)2

と書ける。(ちなみにx1, x2は逆にしても成り立つ。)
これらは3次以降も同様で、3次の場合は解をx1, x2 , x3とすることで、

a4( x1 - x2)2( x1 - x3)2( x2 - x3)2

となる。
より一般のn次に対しては

anxn + an-1xn-1 + … + a1x + a0 = 0

の解をx1, x2 , … , xnとした時に


「(an)2n - 2」 と「1 ≦i < j ≦ n」となる様な(i , j)の組み合わせ全てに対する( xi - xj)2との積で現わせる。





この判別式だが、一般的には「判別式の値が0になるかどうか」で方程式が重解を持つかどうかを調べるのに利用したり、値が正の値か負の値になるかで方程式に含まれる解がどのような条件を満たしているのかを調べるのに利用される。

例えば(係数が実数の)2次方程式を考えた場合、

  • 判別式Dが正の値ならばその方程式は異なる2つの実数解を持つ。
  • 判別式Dが0ならばその方程式は(実数の)重解を持つ。
  • 判別式Dが負の値ならばその方程式は異なる2つの(共役な)虚数解を持つ。


と言った解の判別が可能になる。

3次以上の方程式についても実数係数の場合については正負による解のパターン分けが判別式によってなされ、その後判別式だけでは詰め切れない部分を別の指標で補っていく事で解の分類を行われる。



連立方程式の解の公式

ここまでで1変数の方程式に対して解の公式について考えてきたが、2変数や3変数の場合にはどうなるのか?
一般的にn個の変数の値を一意に定めるにはn個の条件が要るため、n個の変数に対してn個の独立した式によって連立方程式が形成される。(一般的に変数の方が条件式より多いと解が無数に出現し、逆に条件式の方が変数より多いと解が1つもなくなる。)
基本的には条件をグラフ化して図形の共有点を考えたり、変数を1つずつ消去していくやり方で解いていくのが普通のやり方になる。


だが1次の連立方程式に関しては例外的に解の公式(に当たる数式)考えることが出来る。


1次の場合には元の連立方程式をベースに「行列」というものを考えられる。
これは座標の様な2個以上の成分(ベクトル)を複数個列挙したものになり(現在は削除されているが、かつては「数学C」に含まれていた分野の為、知っている人もいるかもしれない。)、更にその行列を元に「行列式」と言う行列内に含まれる成分に対する計算で具体的に値を出すことが出来る。

連立方程式の解は「クラメルの公式」という上述した「行列式」の値を計算することで導出することができ、これらは係数の加減乗除のみで各成分について値を導出することが出来るので実質的に1次の場合の連立方程式の解の公式として扱う事が出来る。


ただし、連立方程式はいついかなる時にも解があるという訳ではなく、所謂「不定(無数に解がある)」や「不能(解なし)」になる場合があり、この場合にはクラメルの公式は適用が出来ない点には注意が必要である。


余談

  • 5次以上の方程式を代数的に解くことが出来ない事の証明をしたアーベル、その内容をより発展させて代数的に解ける為の条件付けをしたガロアの両名だが、前者は当時不治の病とされていた肺結核によって、後者は決闘で重傷を負いその後腹膜炎を発症したことでどちらも19世紀前半に20代の若さで亡くなるという数奇な運命を辿っている。

  • ガロアの死後にリウヴィルと言う数学者が彼の功績を全集としてまとめて世に広めたのだが、そのリウヴィルが発見した解析学分野における「リウヴィルの定理」はこの項目内で何度か触れてきた「代数学の基本定理」を証明する際の1つの方法として利用されている。

  • 解の公式は一見便利だが、コンピュータと相性が悪い場合がある。例えば2次方程式の解の公式は-b ± √(b2 – 4ac)の部分が係数の値によって桁落ち*5を生じてしまう。またクラメルの公式は未知数の数が増えると計算回数(計算時間)が急激に増えていく。詳しいことは数値解析に関する書物を読めばわかる…はず。


追記・修正は5次以上の方程式の解を自力で探しながらお願いいたします。


この項目が面白かったなら……\ポチッと/

+ タグ編集
  • タグ:
  • 数学
  • 解の公式
  • 方程式
  • 1次方程式
  • 2次方程式
  • 3次方程式
  • 4次方程式
  • ガロア理論
  • 連立方程式
  • 代数学
  • 代数学の基本定理
  • 複素数
  • 四則演算
  • 判別式
  • 行列
  • 万能公式
最終更新:2024年10月13日 13:08

*1 厳密には「重解」として複数の解が同じ値になる事はあるので見かけ上ではn個よりも少ない個数の解になる可能性はある。

*2 この方法は「代数的に解く」と言う表現をされる。

*3 最初に断った通り、ここで言う「解の公式」は方程式の解を加減乗除・n乗根の操作を有限回繰り返して得た結果を指しており、それ以外の関数などを使うのであれば5次以上の方程式でも解の公式を作る事自体は可能である点には注意。

*4 「Discriminant」の頭文字

*5 絶対値が近い数同士の減算によって有効数字の桁数が少なくなる現象