登録日:2024/12/28 Sun 01:55:45
更新日:2025/04/27 Sun 11:42:18
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『松尾のせどさく』とは、
徳島県に伝わる昔話である。
あらすじ
昔々、四国の「松尾」という場所に「せどさく」という猟師がいた。
ある日、いつものように愛犬・シロと一緒に狩猟に出かけ、沢で休憩していると沢の向こうに大きな猪がいたのを発見した。立派な猪だったのでせどさくはしとめてやろうと、シロに反対側へ回りこんでこちらへ誘いこむよう指示した。
が、いつもならば飼い主の言うことをすぐに聞くシロだったが、この日に限ってなぜかシロは気乗りしない様子で、動こうとはしなかった。
言うことを聞かないシロに腹を立てたせどさくは、その場で弓をつがえ、猪めがけて矢を放った。
すると、不思議なことが起こった。
確かに矢こそ猪の頭に命中したのだが、矢は刺さることなく跳ね返り、そのまま猪は逃げていった。
シロが拾って来た矢尻を見てせどさくは驚いた。矢尻には油のようなものがべっとりと付着していたのだった。
この猪は大変長い期間生きてきたので、身体中に樹から出たヤニが付着して固まっていて、それが矢が刺さるのを防いでいたのだった。
このヤニまみれの矢を見て、せどさくはますます「あの大猪を獲物にしてやる」という意思が強くなった。
前回の失敗から、正面から仕留めることはできないと学んだせどさくは、丘の上から猪の尻に狙いを定め、矢を放った。
しかし、矢を放つ寸前のこと。シロが突然猪に向かって吠え、それに気付いた猪は飛んできた矢をかわし、また逃げてしまった。
せどさくは「せっかく大きな獲物が目の前にあるのに。何だってこんな時に吠えるんだ」とシロを叱りつけたが、シロはそのままどこかへ行ってしまった。シロの行動を不審に思いながらも、せどさくは猪を追った。
猪もまた、せどさくが自身を追ってくるのではないかと予想していた。案の定せどさくがやってきたので、猪は頭をせどさくの方に向け、せどさくに襲い掛かろうとした。
せどさくは「真正面から向かってくる猪に矢を射かけても、このあいだの二の舞になるだけだ」と悟り、山刀に変えて猪を正面から身構えた。
そして猪が突進し、せどさくに飛びかかった。せどさくは猪と共に山道を転がりながらも、山刀を猪の腹にズブリと突き立て、ようやく猪との真向勝負にけりをつけた。
そうして、その日の夕方。せどさくが自宅で傍らに猪のむくろを置き、囲炉裏で火を焚いて休んでいると、先ほど自身に叱られ、どこかに行ってしまったシロが帰ってきた。
せどさくはかねてよりの願望をかなえてすっかり上機嫌だったので、シロに「さっき怒鳴ったのは俺が悪かった。こっちに来て夕飯を食べな」と優しく声をかけた。
しかし、シロは猪のむくろを見た途端、口に含んでいた水を吹きかけ、囲炉裏の火を消してしまった。
そうして、せどさくは「さっき俺が怒鳴ったことを根に持っているかもしれない」と思い、一旦は何食わぬ顔で火をつけ直したが、シロはまたそれも水を吹きかけて消してしまった。
これを複数回繰り返したところで、頭に血が上ったせどさくは「いい加減にしろ!」とばかりに山刀を抜いて、シロを斬り殺してしまった。
シロを斬り殺したのち、せどさくは自身が狩ってきた猪が今回で千匹目であることを思い出した。
せどさくの生活している地域では、「猪を千匹狩るとたたりがあり、狩人は寿命が尽きる」という言い伝えがあった。
シロはそのことを知っていて、大好きな飼い主が死んでほしくなかったからこそ、せどさくの狩りを妨害していたのだった。
せどさくは、自身がカッとなって取り返しのつかないことをしてしまったことを深く後悔し、愛犬の遺体を埋め、ねんごろに弔った。
「おまいもあほうな主人をもって命を縮めたのう」と物言わぬ愛犬の遺体に語り掛け、墓石を立ててねんごろにシロを弔い、のちに焚き火を消してから中津山の中腹にある寺・光明寺に登って行ったという結末を迎えている。
また、「せどさくは大きな鉄の鍋と大斧を持って姿を消した」ともいわれており、「中津山の奥まで入っていき、そこの主になった」ともいう。
余談
以上の話の顛末は原典である角川書店刊『阿波の伝説』を準拠としたが、アニメ『
まんが日本昔ばなし』ではラストが異なっている。
「せどさくが愛犬のシロの行動に我慢の限界を覚えてシロを殺害してしまい、そのあとでシロの行為が自身の命を救ってくれるものであったことに気づく」という点までは同じだが、映像化されたものでは、以下の恐ろしい結末を迎えている。
せどさくはシロを殺害したことを悔やんだものの、なぜシロが焚き火を消したかについてはなかなかわからなかった。
しかし、祟りをなす妖怪は、たき火の明りを目当てに近付いてくることを思い出した。
とその時、背後に何かいることと、先ほどまで確かにそこにあった筈の猪の遺体が跡形もなく消滅していることに気づいたせどさくが振り返ると、そこにはとてつもなく巨大な恐ろしい妖怪がせどさくを睨んでいた。
気づいた時にはもう遅く、せどさくは谷底へ真っ逆さまに落ちて行ってしまった。その後、彼の姿を見た者は誰もいないという・・・。
また、前述のようにこの昔話は1984年に『まんが日本昔ばなし』で放送されたのだが、再放送されたことも、ソフト化も一切実施されなかった。
インターネットの掲示板上にも「『松尾のせどさく』が放送された回をじかに見た」「この回のナレーションは市原悦子だった」「トラウマ級の怖さがあった」という証言こそあったものの、その証言を裏付けるのに有力となる画像や動画が一切存在しなかったことから、『放送されたのが事実だとしても、映像が何らかの原因で失われてしまった幻の放送回』として知られていた。
しかし、2024年11月中旬、とある人物が『松尾のせどさく』を取り上げた都市伝説系Youtuberの動画のコメント欄で、「『松尾のせどさく』を録画したVHSテープの映像が自宅にある」と証言し、件の映像を都市伝説系Youtuberに贈った人物が現れたことで、『松尾のせどさく』の放送回の実在が証明されたのであった。
しかし、再放送ならびに媒体化されていない理由は現在も不明のままである…
追記・修正は愛犬のいつもと違う行動の真意に気が付いてからお願いします。
- これエピソード項目では…? -- 名無しさん (2024-12-29 11:24:34)
- エピソード項目としてあつかった方がいいのですかね?一応原典が存在するので、民話のひとつとして扱うものだと思っていたんですが… -- mantaro(この記事の作者) (2024-12-29 14:01:38)
- 民話の一つとして扱うならば、ストーリーの部分を原典準拠にして余談のところでまんが日本昔ばなしのラストについて触れる、そして発掘の流れも最低限にした方がいいんじゃないですかね -- 名無しさん (2024-12-29 15:51:37)
- 分かりました。原典の精査のため、大分お時間をお掛けするかと思いますが、原典準拠に書き直したいと思います。 -- mantaro(この記事の作者) (2024-12-29 16:19:05)
- 人物の元ネタっぽい松尾瀬戸佐久はどんな人なんだろう。実在の人物らしいけど情報が少なくて落武者・中津大明神創立しか分からなかった。 彼が作った掛け軸や刀等もあるらしいけど、調べてもそれらしい話は出てこないし徳島に行ってみないと分からないのかな。 -- 名無しさん (2025-01-23 16:31:38)
最終更新:2025年04月27日 11:42