登録日:2025/06/29 Sun 18:18:02
更新日:2025/06/29 Sun 18:53:28NEW!
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『CURE』は、1997年12月27日に公開された日本のサイコホラー/クライムサスペンス映画。製作は大映。
配給は松竹富士。
監督・脚本は黒沢清で、黒沢が黒澤明に続く“第2のクロサワ”として国際的な評価を得る切欠となった。
国内でも日本アカデミー賞やブルーリボン賞といった従来の映画賞の他、新世代の日本映画として第2回日本インターネット映画大賞にて高い評価を得ている。
主演は役所広司。
催眠術で人間の殺人衝動を引き出しては消えていく不気味な真犯人を、TV畑で活躍していた萩原聖人が演じたことでも話題となった。
【概要】
独創的な発想と、無機質で乾いていながらも何処か底知れない闇を感じさせる世界観を描くことで海外でも人気が高い黒沢清による奇怪な連続殺人を描いた作品。
海外では1998年の『カリスマ』と並び人気が高く、黒沢清の最高傑作とも呼ばれている。
前述の通り黒沢清が“第2のクロサワ”として海外にもファンを獲得することにも繋がり、2016年にフランスにて『ダゲレオタイプの女』を撮影する機会を得る足掛かりとなっていった。
黒沢作品特有の俯瞰的な視点からの突き放したような画面と物語の構成が本作でも活かされており、観客は言いようのない不安感が常に混在する短い場面の連続の中で、同時に膨大な情報量にも晒されていくことになる。
【物語】
※以下はネタバレ含む。
関東近郊で、被害者が何かしらの方法で殺害された後に、遺体の喉元から胸元にかけてをX字に切り裂かれるという猟奇的な殺人事件が連続していた。
事件の度に犯人は捕まっているのに事件の発生は止まずに容疑者も被害者のタイプも事件毎にバラバラ……そんな中で、昨夜も3件目となる娼婦がホテルで客の男(桑野)に惨殺される事件が発生した。
どう考えても同じ流れの中で発生した事件なのに、やっぱり犯人にも被害者にも先の2件との関連は見つけられなかった。
事件を追っている刑事の高部━━。
彼の妻の文江は数年前より精神を病んでしまい、現在は自宅療養しつつ友人である心理学者の佐久間の紹介してくれた病院に通っていた。
そんな中、千葉県の白浜海岸近くの民家にて小学校教諭の花岡が寝ている妻の喉元をX字に切り裂いて殺害した後に二階の窓から飛び降りる事件が発生。
同じ事件だと察した高部は部下達の他にアドバイザーとして佐久間を伴い、花岡が搬送された病院へ向かう。
花岡から供述を取ろうとするが、彼は殺害した妻への不満など無かったはずだと混乱しながらも語る。
……花岡が妻を殺した頃には、花岡が昨日の昼に海岸で拾った記憶喪失の男が姿を消していた。
高部達が何とか連続する殺人事件を止めようと帆走する中、その記憶喪失の男は江東区の住宅街に出没して民家の屋根に居る所を通報されていた。
通報を受けて駆けつけた交番勤務の大井田は男に声をかけて保護しようとするが目の前で飛び降りられてしまう。
……何とか無事だった男を近場の病院に搬送する手筈を整えつつ取り敢えずは交番で保護した大井田は、正体不明の男のペースに引き込まれていってしまう。
翌日、既に男は病院に連れていかれていたが大井田は相方である後輩が巡回に出かけようとしている所を背後から射殺。
そして、喉元をX字に切り裂くために血の跡が残るのも気にせずに交番の中に引きずるのだった。
搬送された潮見町病院にて、男は内科医の宮島の診察を受けていた。
男は、これまでの“犯人”達と同様に宮島に「あんたの話が聞きたい」と囁きかけ、彼女が旧態的な男尊女卑の価値観の中で侮辱された過去と、本心では男を嫌悪し、外科医として男の肉体を切り裂きたかったという願望を暴き出されてから催眠から目覚めさせられる。
宮島の記憶からは、男を診察したという事柄が抜け落ちていた。
相方を殺した大井田の取り調べに臨む高部と佐久間。
若いくせに小五月蝿かった後輩への不満を口にしつつも殺人に至るまでの動機が弱い━━として、高部達が頭を抱える中で大井田が無意識で警備の巡査に見せた喉元から胸元をX字に切り裂くような動きから、高部が直感していたように“犯人”達が何者かによる洗脳(催眠による暗示)を受けていた可能性を佐久間も実感する。
そして、宮島が中央公園の公衆トイレで男性を殺害する事件が発生。
臨場しようとしていた高部だが、そこに部下からの連絡が入り、大井田の連れてきた身元不明の患者が宮島の務める潮見町病院に居るという話を聞かされて目的地を変える。
高部達の到着の前に病室から姿を消していた男であったが、高部は直感で病院の敷地内に潜んでいた男を見つけ出して遂に身柄を確保する。
……が、相変わらずまともな追及も出来ない男の様子に周囲は呆れ果てて匙を投げた様子であったものの、男の犯行を確信している高部は男の素性を知るために汎ゆる方向からの手がかりを掴もうとする。
そんな中、部下が気づいた男の体に残るそう古くない火傷の跡から、高部は男が廃材処理工場にて格安で住み込みのアルバイトをしていた、三年前まで武蔵野大学の心理学部に通っていた“間宮邦彦”であることを突き止め、佐久間と共に間宮の過去と間宮が研究していた催眠療法の開祖である心理学者メスマーと、過去に日本でも行われていたメスマーの説に倣った催眠療法の実験記録に行き着く。
男━━間宮の身柄を確保したことから殺人事件自体は起こらなくなったものの、間宮からまともな証言を引き出せない以上は事件の解決が現場に圧力をかけてもされないままとなり見苦しい様を見せる警察上層部の姿を冷ややかに見つめつつ、高部に同情すら示しつつ高部が自分と同類だと語りかける間宮。
事態が停滞する中で、文江の精神状態が悪化。
事件とプライベートのストレスに追い詰められた高部自身も幻覚を見る程に追い詰められる中で、高部と同様に間宮の存在に惹きつけられていた様子を見せていた佐久間は殺人を犯す前に自らの命を断ち、どうやったのか厳重な警戒をされていた筈の病院から間宮が姿を消す。
自身でも自覚するまでになった妻への殺人衝動から逃れるために文江を強制的に入院させた高部は、佐久間が独自に調査を進めていた、例の日本でのメスマーの催眠療法の最古の実践者にして、間宮と同じ手口で自分の患者である母親に我が子を殺害させたと思われる伯楽陶二郎の研究室へ。
━━果たして、間宮は研究室で高部を待っていた。
あろうことか、高部に「逃がしてくれてありがとう」と言う間宮。
間宮は嬉しそうに「本当の自分と向き合う者はここに来る」と高部に語りかけるが、高部は無造作に間宮に銃弾を撃ち込むのだった。
……「自分が誰か思い出したか?」高部の問いに、笑顔で答えた後に動かなくなる間宮。
高部は、更に残った銃弾の全てを死体に撃ち込む。
間宮を射殺した後に、高部は半ば水没したかのようなの伯楽の部屋に向かい、録音されていた伯楽の声を聞く。
━━エピローグ。
行きつけのファミレスに全てから解放されて晴れ晴れとした様子を見せる高部の姿があった。
旺盛な食欲を満たした後、コーヒーを待っていると出動の要請が。
しかし、高部は冷静に一服する余裕を見せており、もう慌てる様子もない。
……高部にコーヒーを運んだウェイトレスが神妙な顔でナイフを手に何処かに向かおうとする場面で映画は終わる。
【主な登場人物】
演:役所広司
刑事。喉元から胸元までをX字に切り裂くという連続殺人を追っている。
妻の文江の精神状態がおかしくなってしまったことを悩んでいる。
演:中川安奈
高部の妻。
精神状態の悪化により社会的な生活が送れなくなったことから、現在は基本的には自宅に籠もりつつ精神科医への通院を続けている。
演:うじきつよし
高部の友人で心理学者。
文江の治療に協力している他、前例がない(と思われていた)連続猟奇殺人の発生についてアドバイザーとして協力する。
演:螢雪次朗
劇中では最初の、時系列的には3件目となる猟奇殺人の犯人。
ホテルに呼び寄せた売春婦を鉄パイプで殴り殺した後に、浴室にて喉元から胸元をX字に切り裂いた。
演:戸田昌宏
評判の良い小学校教諭。
間宮の訪問後、2年前に結婚したばかりの妻を殺害する。
演:春木みさよ
花岡の妻。
まだ新婚気分を引きずっており、近所ではおしどり夫婦として知られていた。
間宮の訪問時には風邪で寝込んでいたが、翌早朝に寝ていた所を夫に殺害される。
演:でんでん
交番勤務の人の良さそうな巡査。
通報を受けて住宅地に出没した間宮を保護した。
その後、間宮と煙草の火を借りるなど和んでいる内に暗示にかけられ、相方を殺害する。
演:洞口依子
間宮が搬送された潮見町病院の内科医。
診察の中で間宮に暗い欲望を暴かれ、見ず知らずの男に襲いかかり淡々と殺人を実行する。
演:萩原聖人
事件の黒幕であり、真犯人となる元心理学部の医学生であった若い男。
心理学を学ぶ中でメスマーの研究にのめり込み、その果てに催眠療法を元に魔術とも呼べる催眠暗示の手法を完成させていた異端の心理学者・伯楽陶二郎の存在に行き着き、“本当の自分”を追及した末に、自分が空っぽであるが故に他者の心の内を手に取るように理解し、暗い欲望を解放させる暗示を伝え歩く伝道師となる。
煙草を吸える環境でなら手にしたライターの火を、そうでなくても零した水などで瞬間的に自分を必要とする人間を催眠状態に置ける能力を持つ。
この他の出演者は大杉漣、河東燈士、諏訪太朗、大鷹明良…など。
【余談】
- 元々のタイトルはシンプルに『伝道師』とするつもりであったというが、95年にオウム真理教による大規模テロ事件が発生、本作でも主題となっている洗脳やオカルティズムに対して世間が(実態はともかくとして)過剰な反応を示すことを危惧したプロデューサーの意見を受けてタイトルが変更された。
追記修正は自分の内面を吐き出してからお願いします。
最終更新:2025年06月29日 18:53