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新進棋士奨励会

登録日:2026/01/07 Wed 13:19:35
更新日:2026/08/12 Wed 14:21:25
所要時間:約 12 分で読めます




新進棋士奨励会とは、将棋のプロを目指す殆どの人間が加入する機関である。
通常「奨励会」と略して呼ばれるため、以降もそれに準じる。

プロ棋士については棋士/女流棋士(将棋)参照。


概要


奨励会に入会した人間は、月の第1・第3日曜日(稀に土曜日)に東西どちらかの将棋会館(それぞれ東京・大阪)に集まり、将棋を指すことになる。
これを「例会」と称する。          
奨励会員は例会の成績によって昇段し、四段に到達すれば晴れてプロ棋士となり、奨励会は卒業となる。
最下位は6級、最上位は三段。


入会


毎年8月に入会試験があり、以下の試験に合格すれば入会できる。
出願にはプロ棋士に弟子入りして許可をもらう必要がある。
この時、学校の通知表や履歴書も必要となる。別に学歴が試験に影響するわけではないのだが……。
嘗ては弟子入りなしで受験できる制度があったが、
(その場合も、入会後に弟子入りしなくてはならなかった。)廃止された。
殆どは6級入会となるが、年齢制限に引っかかる場合は、
それより上の級で受験する必要がある。
受験者は仮の奨励会員扱いで、持時間・手合割も正規の奨励会員と同じになる。

一次試験

入会試験の受験者同士で6局指し、4勝で通過。
当然他の受験者も粒ぞろいで、これを通過するだけでも十分大変。
日本将棋連盟の公式小中学生全国大会優勝者は免除される。

二次試験

既に奨励会に入会している人間(以下は奨励会員と呼ぶ。)と3局指し、1勝すれば通過。
6級でない場合、受験する級位の奨励会員と指す。
「3回の内1勝すればいいんでしょ?楽勝じゃん」と思うかもしれないが、
侮るなかれ、そうして油断した受験者は尽くふるい落とされてしまう。

合格のプレッシャーがかかる受験者と、ホームグラウンドで対局できる奨励会員では、発揮できる力が段違いなのだ。

二次試験を通過すれば、晴れて奨励会員の仲間入りとなる。
一応筆記と面接があるが、これで落ちた受験者はいないので気にしなくていい*1


奨励会員の生活


概要の通り、月に二回の例会に参加し、昇級・昇段条件の達成を目指すことになる。
例会では1日につき、
級位者・・・持時間60分秒読み60秒、三局
有段者・・・持時間90分秒読み60秒、二局 を指す。

昇級・昇段条件は級位者と有段者で若干異なるが、直近での大型連勝あるいは大幅勝ち越しが求められる。
算定は所謂「いいとこ取り」で行われ、例えば級位者が現在時点で
勝勝勝勝勝勝負負負負負負負 という成績の場合、

昇級条件の六連勝を達成しているので、その直前に七連敗しているが昇級となる。

降級・降段制度も存在し、直近で2勝8敗の成績を取ってしまうと降級点(降段点)がつく。
この状態でもう一度2勝8敗の成績を取れば降級・降段となる。
降級点は通称「B」と呼ばれ、後にプロ入りを果たすような者であっても一度は経験するとされる。
それは自らの努力・存在意義を否定されることに等しく、極めて惨めな気持ちになるのだという。
とはいえ、実際降級まで至るケースは稀らしく、多くの者はBをバネに奮起し、自らの棋力を高めるべく修練を積むのである。
6級から降級した場合、特例的に7級となり、7級で降級点を取ってしまうと強制退会となる。*2

あまり知られていないが、段級が違う相手と対局する場合はハンデがつけられる。
具体的には、
1階級差・・・振り駒を行い、上位者が先手もしくは左香落ち(以後は交互)
2階級差・・・上位者が左香落ち となる。

この「左香落ち」が問題で、上位者は落とした左の香車の分を他の駒で補わなくてはならない。(そうしないと簡単に左辺を食い破られて負ける)
それを成しうるのは飛車をおいて他になく、ゆえに振り飛車で指すことが事実上必須となる。稀に居飛車で常識に挑戦するものはいるが...
つまり居飛車党であっても振り飛車の指しこなしを覚えることが求められ、オールラウンドな能力がなければ昇級していけないシステムになっている。

但し、香落ちの下手が平手の常識を流用した場合ほぼ間違いなく下手が負ける。
駒がないということは相手に取られることもないということで、互いに敵陣の駒を取り合う展開になると香落ちがハンデにならないどころか上手に利する。
素の実力差もあるので、ハンデがあるといえど序盤の研究は必須である。


三段リーグ


6級から二段までは以上の条件で昇級できるが、三段に昇段すると制度がガラリと変わる。
いわゆる「三段リーグ」制となり、昇級条件が
三段同士で半年間・計18局のランダムリーグ戦を行い、勝数でランク付けして1,2位を昇段=プロ入りとする。
に変わる。
なお、3位には次点がつき、次点を2つ重ねた者も(条件付きで)プロ入りが可能。
次点は三段リーグ以外の棋戦で顕著な実績を残すことでももらえるが、1つは三段リーグで獲得しないとプロ入りは認められない。

順位は過去の成績にまで遡って厳密に決定され、同じ勝ち数でも順位に差がつく。
好成績を残しても、前の期の成績差で「頭ハネ」されてプロになれないケースは多々ある。
勝ち数自体もその期のレベルに左右されるため、11勝でプロになれた・14勝してもプロになれなかったという事態も実際に起こっている。
なお、過去の最高成績は17勝1敗で、全勝して三段リーグを突破した者は2025年時点で存在しない。全勝者は何人いても全員昇段だが、当然適応例もない。

三段リーグに上がる道のりは険しく、そこからプロになることはさらに厳しいが、三段リーグから落ちる条件は実のところ緩い。
三段リーグにおける降段点の条件は勝率.250以下、すなわち4勝14敗であり、これを2回続けてようやく降段となる。
このため、三段リーグの人数は近年増加傾向にあり、40人を超える期も珍しくなくなっている。
ここから18人と戦うとなると、当然ながら「当たり」の差が生まれ、強い者との対局が少ない者が有利になるという批判の声も聞かれる。
とはいえ、「本当に強いならその程度の理不尽は跳ね返せる」との反駁もあり、制度の根本的な改革は今のところ考えられていないようである。

過酷な三段リーグを勝ち抜けば、晴れて奨励会を卒業し、プロ棋士となることができる。


奨励会の過酷さ


近年は奨励会を描く小説・ドラマも増えており、その中で散々言われていることではあるが、奨励会は極めて厳しい世界である。
棋士/女流棋士(将棋)の項目にもあるが、 21歳までに初段
26歳までにプロ入りを達成できなければ、問答無用で退会せねばならない。
また、年齢制限に引っかかっていなくても、自分はプロになれないと見切りをつけて自ら奨励会を去るものもいる。
多いというほどではないが、年に3,4人といったところか。

奨励会に入った者の中で、プロ入りできるのは15%と言われる。
「15%ならそこまで少なくないのでは?」と思うかもしれないが、
ほぼ全員が、受験勉強並の努力を10年近くに渡って続けている環境の中で15%であり、正に想像を絶する。
一説には東大合格よりも難しいと言われているほどで、奨励会を「鬼の住処」と呼ぶ声もある。
親兄弟よりも長い時間を共に過ごし、同じ夢を語りあった同士達、その彼らの夢を踏み抜いて進まなければならぬ地獄である。
まあ、そこは奨励会員。友に負けて夢破れても、悪いのは他の誰でもない自分自身である。

プロ入り直後に公式戦29連勝した藤井聡太でさえ、棋士になる前の三段リーグは13勝5敗。つまり藤井聡太を負かす奨励会員が5人もいたのだ。
ちなみにこの5人のうち4人は現在プロだが、1人は三段リーグを突破できないまま奨励会を去った。

一応、年齢制限には例外も存在しており、

  • 年齢制限による最後の三段リーグで勝ち越せば、26歳を超えても次回の三段リーグに参加できる。以降同じ方法で29歳までリーグに参加できる。
ただし、26歳以降の三段リーグ参加でプロ入りした例は4人のみ。

  • 特殊な「三段リーグ編入試験」の合格者は、年齢関係なく4期参加できる。
ただし、勝ち越しによる延長はできない。
また、三段リーグ編入試験の合格者は制度創設からの20年間で一人しかいない。

  • 三段に昇段した時点で、年齢に関係なくリーグに5期参加できる。
とはいえ、結局のところ年齢制限ギリギリの24歳以上でリーグに参加できたような人間がそこから昇段するのは難しい。
また、この規則は2027年4月をもって参加期限が3期に引き下げられ、2029年4月に至って廃止されることが確定した。

と、いずれも茨の道であることは変わりない。

現在では使えない方法だが、年齢制限が26歳に引き下げられた1981年以前に入会した奨励会員は、入会当時の31歳という年齢制限が適用されていたことがあった。


余談


奨励会に入るのにも、プロになるのにも学歴は一切問われないし、実際かつての奨励会は中卒・高卒も珍しくなかったようだが、近年では奨励会員も高学歴化している。
私立・都立中学生も珍しくなく、小中一貫校の学生もいる。

これが何故かというと、
  • 元々、将棋を好き好んで指す人間は論理的思考能力が高く、且つそれを楽しいと思うことができる。
  • 奨励会に入会できるほどの実力に至るには、何年にも渡る継続的な努力と、それを続ける忍耐力が必要になる。
  • 奨励会で好成績を取るためには、大一番でも震えないための、高度なプレッシャー対処法が求められる。
  • 奨励会員になる前に、継続的な努力ができる(将棋教室に通うなど)家庭は環境もしっかりしている。そういう家庭は学業方面もしっかりさせていることが多い。
と、受験に必要な能力や環境が全部載せと言っても過言ではないためだろう。
加えて言えば、狭義の学業以外の「勉強」のために学校を欠席することについて、いわゆる市立校ではなかなか理解を得られにくいという事情もある。
実際、プロ入りまで叶った棋士複数名から「担当教員の理解を得るのに苦労した」「結局(当時すでにプロとして実績もあった)師匠が説得したようなもんです」等の証言が得られており、
そもそも受験ありの中学でないと奨励会の意義自体が理解されにくい、もっと中立的に言えば「配慮できない」という結論を出さざるを得なくなる現実が伺える。
じゃあ中学校教育はどうあるべきなのか、と言われると本題からズレてしまうが…

下部組織に研修会という機関がある。
こちらは必ずしもプロ志望者が入るわけではなく、雰囲気も緩い。
最上位はS2、最下位は現在G1。
「現在」としたのは、研修会は入会試験で落とされることがなく、理論上棋力の下限がないため。15歳以下は、B1クラスになれば奨励会試験一次試験免除、A2クラスで奨励会に無試験で編入できる。
また、女流棋士資格の取得条件がB1クラスへの昇級であるため、女流棋士志望の女性も研修会に参加する。
将棋以外で例えれば、『Pokémon LEGENDS Z-A』のバトルルールに「一定ランクまで上がったら、希望すればランク証明のみでジムリーダーやバトル施設担当者の内定を受けることができる」という追加ルールがついた感じか。
奨励会の受験に失敗して研修会に入り、そこから奨励会に編入してプロのタイトルホルダーに至った例もある。

奨励会の有段者と級位者では天地ほど実力に差があるが、実際には1,2回なら有段者に勝ったことがあるという級位者はとても多い。
普通に考えればありえないが、
  • 持時間が短いと、思考時間が少なくなり有段者の高い実力を発揮しきれない事が多い。(逆に、長いほど上位者が有利になる。)*3
  • 級位者に負けるのは恥という思考がどうしても働くため、どうしても不要なプレッシャーがかかってしまう。(逆に負けて元々の級位者はのびのびと指せる。)
  • それでも負ける可能性のほうが断然高いが、奨励会員ならば有段者と指す機会に恵まれやすく、試行回数を稼ぎやすい。
等の理由があり、存外ありえない話でもないのだ。

また、近年における三段リーグのレベルは極めて高く、上位陣はもはや下位のプロ棋士より強いと言われている。
何を馬鹿なと思うだろうが、将棋というのは頭脳で競う戦い。伸び盛りの10代・20代と盛りを過ぎたベテラン棋士であれば、前者の方が優位なのは当然のことである。
実際、いくつかの棋戦には奨励会員の出場枠が設定されているが、プロ棋士を破って勝ち進んだ者は何人もいる。
新人王戦に至っては、三段リーグからの出場者が並み居る若手プロ棋士を薙ぎ倒して勝ち上がり、そのまま優勝してしまったことさえあるのだから恐ろしい。
……なお、優勝した当人は長きに渡って三段リーグで苦しみ、プロ入りを果たしたのは指し分け以下で退会が決まる26歳の時であった。三段リーグがどれほど厳しい世界か伺えるというものである。

やはり、奨励会の話で記録係について触れないわけにはいかないだろう。
記録係とは、プロの対局棋譜の記録・対局の準備などを行う、所謂雑用である。
対局の配信を見ると、対局者の向こう側のテーブルに座ってタブレットポチポチしている人がいるが、あれ。
高校生以上の奨励会員は、例会と例会の間に最低一回の記録係を務めなければならない。

なのだが、この記録係とにかく眠い。
食事休憩を除いても勤務時間は平気で8時間を超過し、その間は基本待ってるだけなので尋常じゃなく暇。そりゃ眠くもなる。
うつらうつらしてる間に対局が進行し、対局者に「指しましたよ」と言われたときの罪悪感と気まずさは半端じゃない。
おまけに
  • 細かい業務内容や不文律がかなり多く、しくじると対局者に叱られかねない。*4
  • 交通費自腹。*5
  • 基本平日で、高校生なら欠席確定。高校側の理解が薄いと公欠扱いにしてもらえず、指定校推薦などに影響が出かねない。
  • そもそも東京都の最低賃金を普通に割ってる。
など記録係からすればやりたくない理由が山積み。
機械による自動記録の導入など改善は進んでいるが、今尚問題が多い制度である。
奨励会で長年燻った末、後輩の対局の記録係をすることになったという悲しいエピソードもあったり……。

上記の他にも、地味に奨励会員の頭を悩ませる問題が交通費である。
奨励会が開催されるのは、上記の通り東京と大阪の将棋会館のみ。リモート対局は認められておらず、奨励会員が北海道在住だろうと沖縄在住だろうと月二回通わなければならない。
飛行機の場合、羽田-新千歳空港間は17,000〜32,000円、伊丹-那覇間では26,000〜52,000円(どちらも片道) ほどの交通費が必要。
10年、15年と奨励会に通い続けることを考えると相当痛い出費である。夜行バスで地方から上京していた奨励会員が交通トラブルによって遅刻し、昇段を逃したというせつない話も存在する。*6
師匠の家に住み込んで将棋に励む「内弟子」が多く存在したのもむべなるかな。
開催地近辺に住む身内のもとに身を寄せる、あるいは一人暮らしという選択肢もあるが、多くの奨励会員が小〜中学生で入会することを考えると、そうした対応もなかなか難しい。
そのため、東北地方や九州など開催地から遠い地域では、プロを目指せるだけの実力があったとしても、家計の事情によって奨励会入会を諦めざるをえない、という厳しい現実がある。

奨励会員は、日本将棋連盟が発行する月刊誌「将棋世界」を級位に関わらず無料で入手できる。




追記・修正は奨励会に入会してからお願いします。
この項目が面白かったなら……\王手/

最終更新:2026年08月12日 14:21

*1 プロ将棋の奨励会に限らず、ペーパーテストを課しているこの手の競技団体は「基本ルール」以外はだいたい簡単な社会常識しか問うていないこ内容としていることがよくある。例として麻雀のプロテストもほとんどの団体の筆記試験は「点数計算が暗算でできるか」「基本的な対局ルール、あるいは一般的とされる種類の対局マナーを把握できているか」「知識面で極端に社会常識から離れていないか(例として「AKB48の当時の主要メンバーを聞く」など)」程度のものであり、奨励会同様、実技対局の結果の方が比重としてはずっと重い

*2 7級降級点による退会者は殆どいないのだが、7級自体は、6級の中で下位の者が転落するので、殆ど常に存在している。

*3 創作物でも「持ち時間が最初から『数秒』の早指しルールなら両津が、一般的な持ち時間のルールなら部長がガチ対局で勝つことが多い」という描写のある『こちら葛飾区亀有公園前派出所』の例がある。

*4 もっとも、記録係担当時のやらかしはプロ棋士も多かれ少なかれ経験しており、多少のミスなら大目に見てもらえることも多いとか。

*5 東北や北海道など交通費負担が極めて重い地域の奨励会員は、記録係そのものを免除されている。

*6 かつては将棋会館への宿泊が認められており、こうした事態を防ぐために「前乗り」で対局に臨む奨励会員もいた。現在は認められておらず、前乗りするなら別途宿泊費も必要となる。