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誰が勇者を殺したか

登録日:2026/08/02Sun 16:23:42
更新日:2026/08/13 Thu 23:17:51
所要時間:約 10 分で読めます





勇者は魔王を倒した。

同時に帰らぬ人となった。

誰が勇者を殺したか」は、「駄犬」氏によるライトノベル。略称は「だれゆう」

概要

2023年2月から同年9月まで「小説家になろう」で執筆されていた作品。
タイトル通り、魔王を倒したと同時に帰らぬ人となった勇者について、とある人物が冒険仲間や故郷の村の人々から話を聞いていく形で物語が進んでいく。
また、本筋のストーリーと同時進行で勇者が生きていた頃を「断章」として描く。

書籍化されており、既刊4巻。イラストはtoi8氏が担当。
なおこの内容は第1巻がweb版の再構成版であり、以降はパーティメンバーなどの登場人物に焦点を当てたスピンオフとも言える作品になっている。

コミカライズ化もされており、こちらは石田あきら氏の作画で描かれている。

このライトノベルがすごい!2025」で本作は文庫部門の第2位を受賞した。

あらすじ

「この村から魔王を倒す勇者が現れる。」

村に現れた預言者がそう告げた。村人たちはその予言を信じた。何故ならその村には剣術と魔術に優れた少年がいたからだ。
8年後。勇者は魔王を倒した。が、同時に帰らぬ人となった。

4年後。勇者の活躍を後世に残すための事業が進められていた。
かつての勇者の仲間たちや故郷の人々から勇者の過去や冒険話を聞く内にある真実が浮かび上がる。

何故勇者は死んだのか?そして、誰に殺されたのか?

登場人物

勇者パーティ

  • アレス・シュミット

「それでも、僕は勇者にならなければいけないんだよ。」

勇者。一人称は「僕」。容姿は終盤で「栗毛色の少し跳ねた髪に、それに合わせたような茶色い瞳」と明かされており、書籍版の挿絵ではツーブロックヘアで青い上着を着た少年として描かれている。
年齢は村の出発時14歳、パーティ結成の謁見時に18歳、魔王撃破時で22歳。生きていれば現代では26歳になる。

タリズ村出身の少年で、ファルム学院入学前から剣と魔法を使えていたが、学院では下の方の実力だった。
それでも、勇者になるという高い志を持ち、レオン曰く「正気とは思えないほど」の鍛錬*1を積んで強くなっていった。
また、学園生活の中で後に仲間となるレオン、マリア、ソロンと縁を深めて行った。
自身の顔に少々コンプレックスがあったようで、絵描きに対して「鼻を少し高く、目を大きめに描いて欲しい。」と頼んでいた。

学院卒業後に勇者となって仲間たちと共に魔王を討ち倒したが、同時に命を落とした。遺体は残らなかったようで、彼が愛用していた剣*2のみが家族のもとに帰って来た。
なお、王城への謁見の際、王女に対して、「魔王は必ず倒します。でも、自分は戻りません。好きな方と結婚してください。」と自身が死ぬことを知っていたかのようなことを言っていた。


  • レオン・ミュラー

「あいつは友だったよ」

騎士。金髪碧眼の、身なりも体格も良い青年。顔立ちも整っているとのこと。書籍版の挿絵では凛々しい顔立ちで、赤を基調とした服を着ている。
貴族のミュラー家の跡取り息子で、真面目で剣才にも富み、勇者候補にも挙がっていた。
アレスの剣技は彼の剣技を参考にしたもので、似ていたという。
よくも悪くもプライドが高い男で、当初はアレスを認めておらず、入学早々彼に対して「お前に勇者の資格はない。」と言い放った。
その後もしばらくはアレスのことを認めてなかったが、直向きに鍛錬を続ける彼を認めていき、ロゾロフ大森林への遠征の際にアレスと共闘した際に彼を友と認めた。

魔王討伐後は剣聖レオンと呼ばれている。
学生時代のような悪い意味でのプライドの高さは鳴りを潜め、身分差を問わず人と接する公明正大で高潔な人物として知られている。
何故勇者は死んだのかという質問に対しては「それがアレスという男の運命だったのだろう。それだけのことだ」と述べた。

書籍版では勇者を目指していた理由が自身の叔父であるミュラー将軍への憧れであったこと、従姉妹がいることが明かされた。

  • マリア・ローレン

「私にとっても彼は勇者でした」

回復役の僧侶。黒髪ロングヘアに透き通るような白い肌と類まれな美貌の持ち主。アレスからも「僕が今まで会った人たちの中でも、最も美しい女性」と大絶賛されている。書籍版の挿絵では白ベースのモノトーンな衣装。
幼い頃から回復魔法の才能に溢れ、その美貌に加えて慈愛の心も見せるため聖女とまで呼ばれている。しかし、本人は聖女と祭り上げられたことに内心かなり鬱屈していたらしく、言葉のあちこちに棘がある。また、幼い頃から神の存在を感じることこそ出来たがその神が人間の方を見ておらず神への信仰を無駄なことだと考えていた。
アレスとは「回復魔法を教えて欲しい」と頼まれたことから縁ができた。
最初は神に対する信仰心がない彼が回復魔法を使えるわけがないと相手にしてなかったが、何度も頼む彼に興味を持ち、彼に回復魔法を教えるようになる。
もっとも、その内容は「神ならば美味しいパン屋を知っているから」とパンを買ってこさせたり、「信仰心があるなら痛みなんてすぐ引くから」と鞭でしばき続けたり*5パシリ兼憂さ晴らし先同然だったが。
そのあんまりな内容をアレスから聞いた幼馴染のソロンは当初こそ何かと理由をつけてフォローしたが、最終的には何も言えなくなるほどドン引きしており、後年には実力こそ認めつつも「個人的には邪神(魔物の神)の方に親和性が高いとさえ思える」との辛辣な評価までしている始末である。
それでも、アレスが回復魔法を身に着けた際は唖然としながらもその実力を認めた。ついでにアレスは王都の美味しいパン屋やスイーツの店をだいたい把握するという余分な能力も得た
ロゾロフ大森林での遠征の際にアレスに助けられたことがキッカケで彼とパーティを組んだ。

魔王討伐後は司教となり、教会の運営を取り仕切っている。貴族のみ使えていた回復魔法を庶民にも広めたことから聖女マリアと慕われている。
また、生涯独身を貫いており、「勇者を忘れられないのでは」という噂もたっているが、「アレスのことは好きではない」と断言している。
何故勇者は死んだのかという質問に対しては「悲しいことですが、それが神の思し召しだったのでしょう。アレスという人間の役割がそういうものだったとしか言いようがありませんね」と述べた。

書籍版では神への信仰心が希薄だったため退屈な学園生活を送っていたところでアレスと出会い、彼との交流で学園生活に彩りができたこと、そして彼に対して恋愛感情のようなものを持っていたことが明かされた。余談だが、彼女のモノローグは妙にドSっぽくに書かれている。

  • ソロン・バークレイ

「あいつは勇者などではない。ただの馬鹿だ。」

賢者。アレス評は「痩せぎすで表情も険しい」とのことで、書籍版の挿絵ではグレー基調の服にボサボサの灰色の髪の毛、目にクマが出来ているなどいかにも人との交流を嫌っていそうな風貌に描かれている。
幼い頃から様々な魔法を使いこなせており、天才と呼ばれていたが、その影響で傲慢な性格となっており、そのせいで学生時代は友達がいなかった。また、本人も小さい頃から貴族同士の争いを見てきたために他人を信頼することが出来なくなっていた。
アレスとは彼から魔法を教えて欲しいと頼まれたことで縁ができた。
最初はアレスが平民が出身だった上に、平凡だったため彼を拒絶し続けていたが、諦めずに頼み続ける彼の熱意に折れ、教えることに。
何度も上手く行かなくとも練習を続ける彼の姿を見て心を開き始めて行き、彼を友として認めていった。
そして、ロゾロフ大森林での遠征で助けられたことがキッカケで彼とパーティを組んだ。

魔王討伐後は新たな魔法を開発したり、魔術的な発見をしたりして世界に貢献している。また、口ではアレスを「馬鹿」と言いつつも、彼を友と認めている。
何故勇者は死んだのかという質問については答えなかったが、死因について聞かれた際は「報告した通り、アレスを殺したのは魔人だ。それは間違いない」という見解を述べつつも「俺たちは(アレスが)死んだところを見ていない」と述べた。
その瞬間を見逃した理由については「運が悪かったんだろう。それだけのことだ」としており、そこでソロンたちパーティメンバーが殺したのではと質問者に疑われるも「それは無理だ。俺たちにアレスを殺すことはできない」とはっきり否定している。さらに、質問者からアレスが強かったから殺せなかったのではと疑われた際にも「いや、単に不可能なだけだ。」と述べた。
また、この時にアレスをよく知りたいならタリズ村に行くといいと告げた。

書籍版では幼い頃から本を読むことが好きだったこと、それゆえに幼い頃から何でも出来たため学院の生活が退屈だったこと、アレスに魔法を教えるうちに彼と過ごすことに楽しさを覚えていたことが明かされた。

タリズ村

  • シェラ・シュミット
アレスの母親。実は王都出身でこの村の人間ではなく、勉強のために王都に来ていた村長の息子と結婚して移住したという経緯を持つ。
アレスが予言を受けた際に、夫と共に彼をファルム学院に送り出した。

後にアレスの従弟のザックからアレスが魔王と戦って亡くなったことを告げられた。現在はそれを受け入れているが、やはり息子を失ったことは悲しいようで、質問の際は涙を流していた。

なお、夫(アレスの父親)と彼女の養父(タリズ村の村長でアレスの祖父)については本編では台詞で言及があるのみで登場していないが健在の模様。
書籍版発売後に書かれたSSでは両方とも登場し、アレスの祖父はいかにも昔ながらの頭の固い老人で、父親の方は年齢に分け隔てなく接する柔軟な思考の持ち主でありアレスも心から尊敬していたと明かされた。


  • ザック
タリズ村の住人で、アレスの従兄弟。アレスの父の妹の子で、両親はともに冒険者。
父がマリカ国出身で、魔王軍と戦っているマリカ国へ夫婦で救援に向かって命を落とした。その出発時にアレスの家族に預けられており、そのまま引き取られた。
不器用ではあったが明るい性格で、アレスが魔法や剣を習得できたのは彼のおかげだったらしい。
ファルム学院に入学する際は王都までアレスに同行した。しかしシェラからも「特徴のない」と評されるほど印象が薄かったためか、後述のアレスの友人(自称)はザックのことに一言も触れていない。

その後はしばらく村に戻らず、アレスが魔王軍との戦いで命を落とした際に人づてに彼が愛用していた剣を受け取り、アレスの両親のもとに届けた。
そのすぐ後、『旅に出る。』と言って村を去り、そのまま帰って来ていないという。
なお、アレスの剣を持ってきたとき、「ごめんなさい、アレスを死なせてしまって、ごめんなさい。」と謝っていたらしい。また、顔がアレスとよく似ていたという。


  • アレスの友人(自称)
村に来た質問者が最初に会った青年。
アレスのことを「小さいころから何でもできた」「預言者が現れた時、みんなアレスのことに違いないと思った」と説明する。
しかし、前述のパーティメンバーの証言と一致してないように見え、どうも村に来た人にこういった説明を何度もしているのか慣れた調子で胡散臭く見えるが……。


その他

  • アレクシア
本作の王国の王女。プロローグは彼女の視点で書かれている。
容姿は「流れるような長い金髪に、宝石のような美しい青い目」とのこと。
年齢は勇者謁見時で12歳で、アレスと6歳差。現代では20歳になる。

魔王を倒した勇者と「褒賞品」として結婚することになっていた。
本人は自由が全くない自身の生活にうんざりしており、勇者に対しては世界は救って欲しいが帰ってきてはほしくないと願っていた。
しかし、どんな手を使おうと、刺し違えてでも魔王を必ず撃破するアレスの決意に心を動かされる。

  • 国王
王国の王で、アレクシアの父。
アレクシアのことを貴族と結婚させたいと思っていたのでレオンに勇者となってほしかったが、レオンが辞退し身分の低いアレスが勇者となったので不満を洩らしている。
アレスの死後はアレクシアに縁談を勧めたがアレクシアは拒絶を続けていた。

  • 質問者
この物語の語り手。名前は終盤まで明かされない。一人称は「わたし」。
アレスの功績を後世まで残すための文献を書くために勇者パーティのメンバーや、アレスの家族に対して質問をしていた。

アレスは何故亡くなったのかが気になっており、勇者パーティの面々に対しては話の最後に「何故勇者は死んだのか?」と質問する。

なお、容姿は当初不明だったが、漫画版でマントを目深に被っており、眼鏡を掛けていることが判明した。



  • 預言者
ある日突然、タリズ村に現れて「この村から勇者が現れる」と告げた預言者。
村人たちはそれをアレスだと思って送り出し、ファルム学院にやってきたアレスも「預言で語られた勇者は自分しかいない」ということを自らに言い聞かせ、狂気の沙汰とも言える鍛錬に励んだ。
1000年以上も前から魔王が復活するのと同時に勇者の予言を残していったことから「人間では無いのでは?」と疑われている。



作中用語

王国

作中世界のメインとなる国家。正式名称は明かされていない。
この世界唯一の国家というわけではなく、他に魔王に壊滅させられた「マリカ国」などの国家があることが示されている。

女系国家で、神に仕える巫女の家系が有力者を婿に迎えて国王とすることで国家を為してきた。
婿に入った国王は政治を担当し、巫女の血を継ぐ王妃は娘が生まれ先代が亡くなるとその役を引き継ぎ神殿に入る。

婿とされるのは大抵は貴族や他国の王家といった高貴な血筋だが、魔王を倒した勇者のみ例外で、世界の救世主を王にすることで正当性を保ってきた。
これまで王子が生まれたことは一度もないとのことで、アレクシアは「呪い」とまで表現している。

勇者

作中の世界で周期的に現れる魔王を倒す存在。預言者と呼ばれる存在によって選ばれるようで、貴族でも平民でもなれる様子。

魔王

読んで字のごとく魔物たちを統率する王で、作中世界に周期的に現れる存在。ソロン曰く「邪神にもっとも近い眷属」。
本作の時代ではプロローグの15年前*7に出現した。
現代では既にアレスたち勇者パーティに討伐されており、本人の出番は回想に当たる断章含め全くなし。どのような思想や理念を持つのか、どういった容姿をしているのか、それらの情報が何も語られず終わっている。
あくまで本作におけるテーマの肝は「魔王撃破と同時に死亡した勇者の謎」であるため、魔王の人格等は特に問題にならないということだろう。

魔人

魔王の配下の魔物たちの中でも高位の存在。
ロゾロフ大森林では演習中の学生たちを襲っており、アレスたちに倒されている。
この時の魔人は狡猾ながら魔人としてはレベルが低い方だったが、実戦経験のない学生たちは優秀なレオンたちでも苦戦し、引率していた教師や騎士たちも彼らを庇った闘いを強いられたために多くの犠牲が出た。
そこをアレスの立ち回りで連携の末に撃破、これが勇者パーティ結成のきっかけになったと英雄譚に書かれる内容になっている(レオンは「犠牲は王国の失態で英雄譚はその隠蔽のためのでっち上げ」と不服を漏らした)。
ソロンの説明ではアレスを殺したのも魔人だが、質問者は「魔王を倒したのに、その配下に殺されたのか?」という新たな疑問を浮かべた。

ファルム学院

アレスたちが通っていた勇者育成学校。剣術、魔法、回復魔法など様々な分野を教える。本来、実力があれば身分を問わずに誰でも入学できるが、アレスたちが通っていた頃はその理念が失われ、半ば貴族専用の学校となっていた。
アレスたちが魔王を倒したあとはかつてのように誰でも入学できるようになった。

タリズ村

アレスとザックの出身地。
王都から馬車で10日もかかる場所にある。また、魔王が討伐されるまでは王都までの道中で魔物が大量に出現していた。そのため、本来ならアレスとザックだけでは王都に行くのは危険だと言われていた。

余談

「小説家になろう」に掲載されているエピローグには、作者コメントで米津玄師『M八七』*8を聞くことをお勧めされている。

タイトルの元ネタはマザーグースの一つ、「誰がコマドリを殺したか?」である。


追記・修正は、勇者の死の真相を知ってからお願いします。

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最終更新:2026年08月13日 23:17

*1 (例)限界を迎えて動けなくなるまで素振りを続ける、自身が勝つまで試合を続ける、など。レオンにしてみれば「あれだけやって強くならない方がおかしい」というもので、むしろそこまでする割に合った実力の伸びではないとさえ思えるものだったという。

*2 シュミット家に伝わる家宝で、特殊な金属が使われたかなりの業物。事実、ファルム学院入学~魔王討伐の8年間の過酷な旅を、折れることなく勇者とともに駆け抜けた。作中では「平民には過ぎた物だ」と学院の同級生に取り上げられそうになる一幕もあった。

*3 ただし、レオンは「十四歳の少年が(最終的に相打ちとなったとはいえ)魔人をほぼ一人で倒した」と言う事実に驚嘆しており、やはり総合力という点では卓越したものがあったのだろう。

*4 ソロンに至っては「どうせいつかわかること。むしろこの何年かバレなかったことが奇跡」とうそぶいている。

*5 偉い司教に尻を触られてイライラしていたらしい。ちなみに傷は消えていたので当初ソロンはアレスが回復魔法に成功したと思ったが、実際は秘密の特訓を悟られないようにするという名目で証拠隠滅のためマリア自身が治癒していた。マリアの実力を示す証左でもあるのだが……

*6 相手と距離をとって隙を見て攻撃する、小さい傷を戦闘中に回復する、相手に油を浴びせて火炎魔法で着火する など

*7 プロローグはアレスとアレクシアが出会った時点のことなので、作中の現代からすれば23年前になる。

*8 映画「シン・ウルトラマン」の主題歌。