「やあ、クラベジーナ。久しぶりだな」
「久しぶりというか五年ぶりですわね。エルニアとの戦争が終わってから」
「久しぶりというか五年ぶりですわね。エルニアとの戦争が終わってから」
とある森の中、ルーカニアは朗らかな調子でクラベジーナに声を掛ける。それに対してクラベジーナはやや表情を引きつらせながらそっけなく対応する。エルニア帝国との戦争が終わってから行方をくらませていた人物と五年ぶりに遭遇した。そんな状況が不自然なようにクラベジーナは感じた。本当に偶然だとしても森の中で、それもあからさまに待ち構えていたような様子さえ見せているルーカニアにクラベジーナは未来でも予知したのではないかと考える。そう思い尋ねてみたが「偶然だよ」とはぐらかされてしまう。
「それで? どういったご用件ですの? 私急いでいるのですが」
なんとも釈然としない気持ちになりつつルーカニアに用件を尋ねる。特に深い用事でもないのだろうと内心検討を付けつつ返答を待つ。この女は何でもないようなことでも意味深な態度や素振りを見せるのだ。今回もそういうことなのだろうとクラベジーナは考えていた。
「んー、用件という程でもないのだけど……なんとなくお前の顔が見たくなったんだ」
「そんなことだろうと思っていましたわ」
「そんなことだろうと思っていましたわ」
あっけらかんと答えるルーカニアにクラベジーナはすっかり呆れていた。どこまでも気まぐれな人だと思いながら深い用事もないようだから先を急ごうとしたところでルーカニアから待ったをかけられる。
「クラベジーナ、少しいいだろうか?」
「何ですの? どうせ大したことでもないのでしょう?」
「うん、大したことじゃないんだけどね」
「何ですの? どうせ大したことでもないのでしょう?」
「うん、大したことじゃないんだけどね」
どこまでも気ままな様子のルーカニアに対しクラベジーナは若干苛立ちを覚えつつ続きを促す。本当に大したことじゃないなら一言嫌味でも言ってしまおうか。そう考えていた。
「お前がこの森で何をしようとしているか追及する気はないけどあまり人に言えないようなことなら辞めた方が良い。お前のためになるとは思えない」
ルーカニアの言葉にクラベジーナは警戒を強める。顔と態度には出さないよう理性が働く。
「……何のことでしょう? まるで私がやましいことをしているようではありませんか」
どうにかはぐらかしてこの場をやり過ごそうと言葉を紡ぐ。目の前の女は普段は自由気まま、気まぐれな猫のようなのに時折確信を突くような事を鋭利なナイフのように突き刺してくる。それで何度揉め事に発展したか数えたりないほどだ。もしかしたら自分が何をやっているのか感づかれているのかもしれない。警戒心を表に出さないよう理性と思考を総動員させる。
「やましいことをしているかどうかは私には分からないさ。でもね、私にはお前がまだ過去の事を引きずっているように見えるんだ。昔のことに囚われて自分の幸せを蔑ろにしているようにね」
「……何のことやらさっぱりですわ」
「……何のことやらさっぱりですわ」
ルーカニアの様子から自分の行動に感づいているかどうかの判断がクラベジーナには付けられなかった。最悪口封じをしなければならないが自分が目の前の人物を、アルカナ団を立ち上げ果敢にエルフに反旗を翻した女を相手に真正面から敵うとは思えない。どうするべきか思考を巡らせたところでルーカニアが背を伸ばしながら歩き始める。クラベジーナが進もうとしている道とは正反対の方へ。
「あまり邪魔するのも悪いしここで退散させてもらうよ。この森にはもう用はないし」
「……そうですの? 本当に私の顔を見に来ただけですのね」
「そうだよ。お前は大切なアルカナ団の仲間だから。たまには仲間の顔を見たくなることが私にだってあるのさ」
「……だったらもう少し皆様のところへ元気な様子を見せて差し上げては? 元気にしているかユーフィアとフェニアニスが特に心配していましてよ? 他の方々は呆れておりましたが」
「……そうだね。ユーフィアとフェニアニスには顔を出しに行くよ。他の連中だとお説教までついてきそうだし」
「お二人からもお説教を受けることになると思いますよ?」
「……そうですの? 本当に私の顔を見に来ただけですのね」
「そうだよ。お前は大切なアルカナ団の仲間だから。たまには仲間の顔を見たくなることが私にだってあるのさ」
「……だったらもう少し皆様のところへ元気な様子を見せて差し上げては? 元気にしているかユーフィアとフェニアニスが特に心配していましてよ? 他の方々は呆れておりましたが」
「……そうだね。ユーフィアとフェニアニスには顔を出しに行くよ。他の連中だとお説教までついてきそうだし」
「お二人からもお説教を受けることになると思いますよ?」
「そんなー」と軽い調子で嘆きつつルーカニアはそのまま立ち去って行った。本当に顔を見せに来ただけなのだろうか? クラベジーナは疑問を抱えたまま、森の奥へ進んでいった。エルフ達が隠れ潜んでいると推測される場所へ。いまだ胸の奥でくすぶり続ける復讐心に身を任せながら。
――――――ルーカニアが本当は自分が何をしているのか感づいているのではないか。そんな疑念を抱えたまま。
――――――ルーカニアが本当は自分が何をしているのか感づいているのではないか。そんな疑念を抱えたまま。
その後、クラベジーナが向かった先には誰一人としてエルフはおらず、もぬけの殻といった様子であった。しかし、そこに誰かがいたような痕跡は微かだが確かに残っていた。
クラベジーナは疑念を抱いたまま、来た道を引き返していくのであった。
クラベジーナは疑念を抱いたまま、来た道を引き返していくのであった。