クリストロアダーの腹から出てきたレクトは現状を把握できていなかった。腹の中から脱出することだけで頭がいっぱいだったのだ。ただ一つだけ分かっていることがあった。
目の前にいる二体のクリストロアダーが自身を見ている。つまり、まだ気を抜ける状況ではないということ。大剣を構え直し目の前の蛇に向かって突撃を仕掛けようとした。その時であった。二体同時に仕掛けてきた――――――他の冒険者や先ほどまで襲おうとしていたコトネを無視して――――――。レクトにできたことと言えば突撃してくる眼前の敵を手に持っている大剣で捌くことだけだった。それもクリストロアダーの巨体による勢いに負けて吹き飛ばされてしまった。
目の前にいる二体のクリストロアダーが自身を見ている。つまり、まだ気を抜ける状況ではないということ。大剣を構え直し目の前の蛇に向かって突撃を仕掛けようとした。その時であった。二体同時に仕掛けてきた――――――他の冒険者や先ほどまで襲おうとしていたコトネを無視して――――――。レクトにできたことと言えば突撃してくる眼前の敵を手に持っている大剣で捌くことだけだった。それもクリストロアダーの巨体による勢いに負けて吹き飛ばされてしまった。
――――――真正面からでは勝てない。
そう判断したレクトは地面を転がりながら体勢を整えつつ体内で行われている魔力循環の流れを――――――フルーレと呼ばれる自身に備わった能力を――――――意識的に強めていく。その直後、体中から痛みが走り始める。本来流すべきではない場所に魔力を流し込んだことで抵抗力と呼ばれる非物理的現象に対する反発作用が発生する。本来肉体を守るはずのそれは無理矢理流し込んだ魔力との干渉により逆に自身の身体を痛めつける方向に作用してしまっている。表皮に漏れ出た魔力が皮膚を焼き、全身の筋肉が血管に流れ出した魔力と抵抗力の干渉により発熱、神経にまで魔力を流し込んだことで痛覚が過剰に反応し全身に痛みを走らせる。
表皮に焼き付きながら漏出した魔力が呪字武器である大剣に反応し剣身に刻まれた呪字の効果を高める。剣身の振動が強まりさらに甲高い音を周囲に響かせる。
フルーレの効果を強めたレクトはクリストロアダーの突撃を回避、すれ違いざまに呪字を発動させた状態のまま大剣を打ち付ける。しかし、魔晶石の鱗に阻まれ弾かれ姿勢を崩す結果に終わる。微かに傷をつけることができたがそれだけだった。姿勢が崩れた隙を狙ってか二匹目が捕食しようとしてきたため無理矢理地面を蹴り、間一髪のところで躱す。
表皮に焼き付きながら漏出した魔力が呪字武器である大剣に反応し剣身に刻まれた呪字の効果を高める。剣身の振動が強まりさらに甲高い音を周囲に響かせる。
フルーレの効果を強めたレクトはクリストロアダーの突撃を回避、すれ違いざまに呪字を発動させた状態のまま大剣を打ち付ける。しかし、魔晶石の鱗に阻まれ弾かれ姿勢を崩す結果に終わる。微かに傷をつけることができたがそれだけだった。姿勢が崩れた隙を狙ってか二匹目が捕食しようとしてきたため無理矢理地面を蹴り、間一髪のところで躱す。
(――――――弾かれた)
続けざまに襲い掛かってくる二匹の攻撃を躱しながら思考する。手持ちの武器ではクリストロアダーの硬い鱗を斬り裂くには足りない。僅かについた傷を攻め続けても時間がかかるだけで有効打になるとは思えない。しかし、鱗を突破するほどの火力を周囲に求めることなど期待できない。そしてこの場で鱗による守りを突破できる火力を生み出す手法を生み出すことなどできない。故にレクトに取れる方法は限られていた。
すぐさま一匹目に向かって駆け出す。レクトが接近してきたことに気づいたのか頭を下げて捕食しにかかるも躱される。その瞬間、捕食に失敗したことで隙が生まれ――――――それを見逃さすことなくレクトはクリストロアダーの目に向かって大剣を突き入れる。鱗に覆われていない無防備な目に大剣が容易に、深く突き刺さる。クリストロアダーは痛みからか頭をもたげる。思わずグリップから手を放しそうになるが強く握りしめ、そのまま空中まで運ばれることとなった。着地できる場所などなく痛みから逃れようとするクリストロアダーに振り回され続ける。レクトは空中で振り回されたまま呪字武器の出力を高める。唸り声に似た振動音が強まると共に内部が魔力的振動によりズタズタにされていく。
体を捻りクリストロアダーの頭部を蹴りつけながら大剣を振るう。突き刺さった大剣が内部をズタズタにしながら奥に位置する脳幹ごと斬り裂いていき、その生命活動を終わらせる。そして鱗を散らしながら大剣を振り切り地面に飛び降りる。同時、生命活動が止まったクリストロアダーの体が傾き、地面に音を立てて倒れ込んだ。
その直後に二匹目のクリストロアダーが大口を開けた状態でレクトを飲み込もうと横から突撃してくる。最初の時のように捕食の危機ではあったがレクトにとってはまたとないチャンスでもあった。魔物の体の中で一番柔らかい部分から攻撃できるからだ。
落下中だったレクトがクリストロアダーの口内に収まろうとした瞬間、上口に向かって大剣を突き入れる。そして体勢を変えて大剣を振り、内側からその肉を斬り裂いていく。血が大量に溢れ降りかかる。クリストロアダーの咆哮が喉の奥から発せられレクトに大量の空気と衝撃が叩きつけられ思わずグリップから手を放してしまいそうになるが必死に耐え、少しでも体内から肉を斬り裂こうと力を込める。同時にフルーレの魔力循環の勢いも強めることで呪字の効果を高めていき、ついに生命活動をつかさどる脳幹を斬り裂く。クリストロアダーは絶命し咆哮が止まる。そして徐々に体勢が傾き音を立てて地面に倒れるのだった。
すぐさま一匹目に向かって駆け出す。レクトが接近してきたことに気づいたのか頭を下げて捕食しにかかるも躱される。その瞬間、捕食に失敗したことで隙が生まれ――――――それを見逃さすことなくレクトはクリストロアダーの目に向かって大剣を突き入れる。鱗に覆われていない無防備な目に大剣が容易に、深く突き刺さる。クリストロアダーは痛みからか頭をもたげる。思わずグリップから手を放しそうになるが強く握りしめ、そのまま空中まで運ばれることとなった。着地できる場所などなく痛みから逃れようとするクリストロアダーに振り回され続ける。レクトは空中で振り回されたまま呪字武器の出力を高める。唸り声に似た振動音が強まると共に内部が魔力的振動によりズタズタにされていく。
体を捻りクリストロアダーの頭部を蹴りつけながら大剣を振るう。突き刺さった大剣が内部をズタズタにしながら奥に位置する脳幹ごと斬り裂いていき、その生命活動を終わらせる。そして鱗を散らしながら大剣を振り切り地面に飛び降りる。同時、生命活動が止まったクリストロアダーの体が傾き、地面に音を立てて倒れ込んだ。
その直後に二匹目のクリストロアダーが大口を開けた状態でレクトを飲み込もうと横から突撃してくる。最初の時のように捕食の危機ではあったがレクトにとってはまたとないチャンスでもあった。魔物の体の中で一番柔らかい部分から攻撃できるからだ。
落下中だったレクトがクリストロアダーの口内に収まろうとした瞬間、上口に向かって大剣を突き入れる。そして体勢を変えて大剣を振り、内側からその肉を斬り裂いていく。血が大量に溢れ降りかかる。クリストロアダーの咆哮が喉の奥から発せられレクトに大量の空気と衝撃が叩きつけられ思わずグリップから手を放してしまいそうになるが必死に耐え、少しでも体内から肉を斬り裂こうと力を込める。同時にフルーレの魔力循環の勢いも強めることで呪字の効果を高めていき、ついに生命活動をつかさどる脳幹を斬り裂く。クリストロアダーは絶命し咆哮が止まる。そして徐々に体勢が傾き音を立てて地面に倒れるのだった。
コトネが目を覚ました時、エレナやカシャギ、クリストロアダーに食べられたはずのレクトが自分を見つめている姿が視界に入った。三人とも心配そうに自分を見つめている。
「…………よかった……」
エレナが安心したように一息ついたように言葉を漏らす。ふと視線を動かすとエレナの片腕に添え木が当てられているのが見える。そのことに気が付いたのかエレナは誤魔化すように「大丈夫よ」とだけ言うのみだった。次にレクトの方を見る。血にぬれていること以外は無事な様子だった。
「……おばけ?」
思わずそんな疑問が口から零れる。エレナとカシャギが噴き出しているのを余所にレクトは「生きてるよ」とだけ言った。特に気に障った様子もないようだった。レクトからしても目の前で魔物に食われる瞬間を見れば死んだものと判断するからだ。故に彼女の反応は常識的なものと言える。コトネはレクトの頬に手を伸ばし触れる。温かった。死体ではないことは明らかだった。思わず涙がこぼれてしまった。
「……よかった……。生きてた……」
自分のせいでレクトが死んでしまった。そんな負い目と不安、そして恐怖が徐々に内心から消えていく。ただ彼が生きていることに安堵した。レクトは何も言わずに頷くだけだった。コトネを安心させるための、レクトなりの気遣いだった。その様子を見てカシャギとエレナは顔を見合わせ笑い合った。生き残ったこと、顔見知りが無事であったことに安堵するように。その様子を少し離れた場所で見ている人物が三人、ファルーク・アランザはどこか安堵した様子で、ウルム・ウォルム―ドは何かをいぶかしむような視線を向け、ユーイン・クラジフはどこか恨みと怒り、そして嫉妬が入り混じった目で彼らを見つめていた。そのことに四人は気づかないでいた。
その後、その場にいる冒険者の一団は無事にエスヴィア冒険者街に帰還した。魔物には一匹たりとも遭遇しなかった。そのことに安堵する一方でどこか気味の悪いものを感じるが誰もが気にしないようにしていた。そして帰還できたのが自分たちだけだったという事実を知らされることになるとは誰一人として予想できなかったのだった。
その後、その場にいる冒険者の一団は無事にエスヴィア冒険者街に帰還した。魔物には一匹たりとも遭遇しなかった。そのことに安堵する一方でどこか気味の悪いものを感じるが誰もが気にしないようにしていた。そして帰還できたのが自分たちだけだったという事実を知らされることになるとは誰一人として予想できなかったのだった。
「アァモウ! ダイナシダヨ! ナンデ! ウマク! イカナイノサ! セッカクイケニエヲササゲラレルチャンスダッタノニ!」
すでにラームボアは息絶えておりもはや原形をとどめていなかったのだがそんなことなどお構いなしにひたすら殴り続ける。そんな魔物を宥めるように背後から何者かが抱き着く。
「そこまでにしておきなさいブムート。可愛がってる魔物が無駄になるだけよ?」
ブムートと呼ばれた魔物は魔物を殴る手を止める。
「ダッテ……、ウマクイカナカッタンダモン。ナニカヲナグラナイトキガスマナイヨ」
「そうね、腹立たしいわね。でも……まだチャンスはあるし生贄もそれなりには捧げられたのよ。だからそんなに怒ったりしないの」
「そうね、腹立たしいわね。でも……まだチャンスはあるし生贄もそれなりには捧げられたのよ。だからそんなに怒ったりしないの」
そう言ってブムートの頭を撫でる。するとブムートは気持ちよさそうに目を細め尻尾をぶんぶんと振り回す。まるで母親に媚びるような子供の態度であった。一方、近くにいた男はくだらないものを見るような視線を二体に向けている。実際男に取っては非常にくだらないやり取りだった。その二体の本質を知るが故に、気持ち悪さすら覚えている。
「……で、どうするんだ? ブムートの癇癪のせいでせっかく手に入れたクリストロアダーの群れが無駄になっちまった。本来持ち帰って軍勢に加えるつもりだったんだろう?」
「大丈夫よ。魔物ならまた集めればいい。魔物なんていくらでもいるもの。少しくらい無駄にしても問題ないわ」
「悠長なこったな。ベラクトル」
「大丈夫よ。魔物ならまた集めればいい。魔物なんていくらでもいるもの。少しくらい無駄にしても問題ないわ」
「悠長なこったな。ベラクトル」
ベラクトルと呼ばれた者――――――黒髪を長く伸ばした女性のようなデーモン――――――は男に向けて酷薄に笑いかける。どこか楽しげな様子すら見せながら。
「だって、面白いものが見れたのだもの。あの出来損ないと思われた子が精霊獣として覚醒した。ゲルト・バルク様への生贄にふさわしい個体になった。喜ばしい事よ? 貴方にとってはどうでもいいことかもしれないけどね? リベリオ=ギルノーツ」
リベリオ=ギルノーツと呼ばれた男はベラクトルとブムートから視線を外しある方角に目を向ける。エスヴィア冒険者街が位置する方角に。
「あの時見逃した男の子が良い感じに成長したんじゃない?」
「関係ねぇよ」
「関係ねぇよ」
ベラクトルの言葉を吐き捨てるように切り捨てつつどこか嗜虐的な感情を瞳ににじませる。何かを値踏みするように。はたまた、果実の収穫時を見定めるように。リベリオ=ギルノーツは軽薄な笑みを浮かべる。そして背に携えた――――――どこか禍々しさを感じる魔力を放ちっている――――――剣に手を添える。
「どちらにしてもこの剣の血錆にするだけだ。俺が最強になるためにな」
