憲兵(同盟)とは兵科の一種であり、主に軍隊内部の秩序維持を任務とする。ここでは
自由惑星同盟の憲兵隊について記す。
概略
1 従来の状況
自由惑星同盟における憲兵は軍隊内部の秩序や規律を維持する作戦支援部隊である。治安警察として国民監視体制の一翼を担う
帝国憲兵隊とは異なり、軍人のみを取り締まるが、それでも細かいことにうるさいことから嫌われ者だった。
憲兵隊は
国防委員長直轄の部隊の一つであったが、格付けは意外と低かった。人員はそこそこの規模ではあっても、各実戦部隊に分散して配属されるために各憲兵隊の規模は少人数となる。従って将官ポストは少ない。また、基本的に実戦には参加しないので、武勲を挙げる機会もなく昇進が遅い。
こうして、汚れ仕事で出世の見込みも少ない憲兵は、当然のように不人気で、能力にも意欲にも欠ける人材の吹き溜まりだった。他の部門ならとっくに淘汰されるような人材も、憲兵隊では大きな顔をしていられた。
そんな同盟憲兵六二万三〇〇〇(宇宙歴793年時点)を統括するのが、憲兵司令部である。憲兵司令部の幕僚部門は、人事や会計などを担当する総務部、運用計画や教育訓練などを担当する運用部、捜査や諜報などを担当する調査部、規律や防犯などを担当する保安部の四つの部に分かれていた。
2 改革者ドーソン提督
宇宙歴793年1月、
第一艦隊副参謀長
クレメンス・ドーソン少将が憲兵隊司令官に転任した。彼は
憲兵司令部付士官に
エリヤ・フィリップス中尉ら若手を抜擢し、司令部内の腐敗をつぶさに調査させた。 同年3月までに司令官は憲兵司令部の大掃除に乗り出し、全部員の一割近い一八六名が懲戒処分を受けた。また、保安部長
パードゥコーン大佐、憲兵隊首席監察官
ストリャコフ大佐、調査部情報保全課長
クアドラ少佐など二七名の憲兵司令部部員が不正の嫌疑で国防委員会に告発された。同月下旬の定例人事では、課長級以上の幹部部員の四割、一般部員の三割が転出させられ、空いたポストには司令官に忠実な者が登用された。
改革に反発する古参の憲兵たちは司令官の失脚を狙って蠢動した。しかし、彼らの企みはことごとく失敗に終わり、軍から追放され、ドーソン司令官に忠誠を誓う者だけが憲兵隊に残った。
同年8月末、国防予算削減に不満を抱く地上軍中堅将校のクーデター計画が、憲兵隊によって未然に阻止された。同年9月、
サイオキシンマフィア秘密捜査チームが発足。同年12月、国防委員会首席監察官
グリューネンヒューゲル中将、情報保全集団司令官
カッパー少将らのクーデター計画を阻止した。
国民平和会議(NPC)政審会長
ヨブ・トリューニヒトの情報提供から同盟軍内にサイオキシン麻薬を流通させる同盟軍高級士官らの集団、サイオキシンマフィアの存在が明らかとなった。この事態を受けて発足した秘密捜査チームは派閥対立の壁に阻まれた。トリューニヒト議員の対立派閥に属する
パヴェル・ネドベド国防委員長がチームの経費は半分以下に減らし、機密情報閲覧権限に制限を加えたのである。
宇宙歴794年2月、予算不足で動きが取れなくなったチームは、中心メンバーを
ヴァンフリート戦役前線のマフィアの容疑者たちに張り付けることで状況打開を図った。しかし、前線のサイオキシンマフィアのメンバーは戦場の混乱を利用し、そのまま帝国へ亡命してしまう。また、ドーソン司令官らの調査により軍部及び政界にまたがるマフィアの恐るべき全貌が明らかになると、
カルボ国防委員長は事の重大さを鑑みて最高評議会の判断を仰いだ。非公開閣議の結果、捜査は完全に打ち切り、容疑者は全員無条件釈放、捜査資料はすべて八〇年間の公開禁止と決まった。従って捜査チームの完全敗北に終わった。
4 その後の憲兵隊
宇宙歴794年12月以降、憲兵隊は
国防委員長トリューニヒト率いる
トリューニヒト派の牙城となった。委員長の意を受けて、高級軍人の不正を次々と暴き、市民の喝采を浴びた。また、地方警備部隊、技術部門とともに予算配分で優遇されるようになる。(34話)それゆえに、トリューニヒト派の凋落とともに再び冷遇されるようになる。
宇宙歴797年3月、「
ヤン・ウェンリーの春」の訪れとともに、特別調査権の撤廃が実施された。(52話)また、
ラグナロック戦役後に成立した
レベロ政権と
ホワン政権のもとでは予算を大幅に減らされ、
良識派により組織を半分に縮小された。(76話)
宇宙歴801年3月、
トリューニヒト政権の成立とともに縮小された憲兵隊も元の規模に拡大されることが決まったが、
一〇月クーデター(
民主政治再建会議クーデター)では目立った働きはできなかった。現在もなお再建中と思われる。
作中に登場した憲兵たち
なお、階級は作中で最後に登場したときのもの。現在は昇進もしくは降格している可能性あり。役職は憲兵時のもの。
最終更新:2020年11月09日 13:08