Roundabout -The Dawn




億泰から事情を聞いたレミリアは、殺し合いに乗っている大男と闘っているというブチャラティの下へと向かった。
「さっきはジョジョに助けられたから、今度は私が活躍する番よ」とのことだ。
翼を羽ばたかせ、意気揚々とレストラン・トラサルディーの方角まで飛んでいった。
一方、ジョナサンは億泰と共に香霖堂へと入ることになった。
抱えている空の見張り役と言うこともあるが、もう一つの理由に「古明地さとり」の件がある。
『波紋法』を扱えるジョナサンならばさとりの治療を行えるからだ。


畳が敷き詰められた香霖堂の寝室。
一人が寝るスペースにしてはそれなりの広さを持っている。
布団の上で寝かされたさとりの身体に、ジョナサンの右手が軽く触れる。
直後、バチバチという火花のような音が小さく響き渡る。
さとりに触れるジョナサンの右手が光り出し、『波紋エネルギー』を彼女の体内へと伝達させたのだ。
億泰は唾を飲み込みながらさとりの容態を、治療を見守り続ける。

「コォォォォ―――――――――…………………………」

真剣な表情を顔に貼付けながら『波紋の呼吸』を行うジョナサン。
呼吸が生み出す生命の力がさとりの全身に巡っていく。
波紋法によるエネルギーが、彼女の身を少しずつ―――そして着実に癒し始めていた。

「…恐らく、これで暫くは大丈夫のはずだ。
 幸い『波紋』で命は繋ぎ止められる範囲の負傷だったからね」
「本当かッ!…ありがとう!マジでアンタには、感謝しても感謝し切れねえッ…!」

億泰はジョナサンに対し心からの礼を言った後、さとりの容態を伺う。
『光』がさとりの身体に染み込まれていく様を、億泰は驚きつつまじまじと見ていた。
しかし、その驚愕はスタンドとは異なる力を目の当たりにしたことによるものではない。
『見覚えのある力』を、初対面の人物が使ったということへの驚愕だ。
何度かチラチラとジョナサンの顔を見た億泰は、ふいに声をかける。

「…なァ、ジョナサン」
「ん?どうしたんだ、億泰」
「アンタって確か、ジョナサン・ジョースターって言うんだよな?」
「ああ、そうだよ。それがどうかしたのかい?」



ほんの少しの間を置いた直後、億泰が再び言葉を発し始める。

「俺のダチ…東方仗助、っつう奴がいるんだけどよ。
 そいつの親父さんの名前が『ジョセフ・ジョースター』っつうんだ」
「『ジョースター』…?」

『ジョースター』。その名を聞き、少し意外そうな表情を浮かべたジョナサンに億泰は説明を始める。

ジョセフ・ジョースター。先ほども説明した通り、虹村億泰の親友である東方仗助の父親。
彼はジョナサンと同じように『波紋』を使う事ができた。
億泰は仗助がふとした出来事で軽く怪我をした際、ジョセフが波紋によって手当をする姿を一度だけ見た事があるのだ。
最初は手品か何かかと思ったが、ジョセフの話を聞き『波紋』の存在を知ったという(「昔と比べればめっきり衰えてしまったがのぉ」とは当人の談)。

話の最中で億泰はジョナサンに問いかけ、彼が『星形のアザ』を持っていることを確認する。
億泰は少し前にジョナサンを見た際、衣服の隙間から覗く首筋のアザに偶然気づいていた。
ジョセフや仗助には首筋に奇妙な『星形のアザ』が存在していたことを知っていた億泰は訝しみ、こうしてジョナサンにも聞いてみたのだ。
そうして確認してみれば案の定だった。ジョナサンもまた、首筋に星形のアザを持っていたのだ。

「ジョナサンは、ジョセフ・ジョースターさんって人のことは知らねェんだよな?」
「ああ。僕の家族にそう言った名前の者はいない…でも、何かしらの関係はあると思う。
 僕の父さんも同じだった。ジョースター家の血を引く者は、首筋に星形アザを持っていた」

スッと服の襟を引っ張り、星形のアザを見せたジョナサン。
星形のアザ。波紋法。そして『ジョースター』という名…。
複数の共通点に疑問を抱く二人。思えば、名簿には『ジョニィ・ジョースター』という名も見受けられた。

(僕も知らないジョースターの血縁者が、この場にはいるのだろうか?)

ジョナサンは思考する。億泰が語る所では仗助の(戸籍上は)甥にあたる空条承太郎もまたジョースターの血族であると言う。
彼と同じ『空条』という姓も、名簿にはもう一人記載されている。
複数のジョースター、空条という名。自分さえも知らぬ血縁者が、複数人存在している?
確かに、この会場に送り込まれてから首筋の『アザ』に不思議な感覚を感じる。まるで同じ存在と『共鳴』しているかのような…
思えばブランドーという姓もこの場にはもう一人いたし、ツェペリという姓も複数存在していた。
ゲーム開始から間も無く名簿を確認した際にも思った事だが、これは一体――――――




「―――――――~~~~~ッ!!!」



ジョナサンの思考を妨げるかの如く唐突に騒音は響き渡る。
声にならない叫びが二人の後方から聞こえてきたのだ。


「お、おぉッ!?」
「……ん?」

少しばかり驚いた様子で振り返った億泰、至って冷静に振り向くジョナサン。
両者それぞれ異なった反応を取りつつも、二人が視線を向けた先は同じ。
そう、寝室の隅だ。



「このォ~ッ!!よくも、こんなことっ!早く解きなさいよぉぉ~ッ!!
 そうしないと!あんた達っ!二人まとめて!フュージョンしてやるんだからーーーーッ!!!」



―――寝室の隅に転がりながら騒いでいるのは、全身をロープでキツく縛られた少女。
少し前にジョナサン・ジョースターの前に敗北した地獄鴉『霊烏路空』だった。
気絶状態から意識を取り戻した彼女は、暴れ出す蓑虫の如くじたばた動きながら何度も声を荒らげていた…




◆◆◆◆◆◆


◆◆◆◆◆◆



レミリアが翳した右手に緋色の妖力が集い始める。
妖力は形を成していき、禍々しくも鮮やかな真紅の色に染め上げられた球状のオーラが複数が形成された。


スペルカード―――――紅符『スカーレットシュート』。


レミリアへと向かって突進していくサンタナ目掛け、掌に形成した複数の紅い球状のオーラを放った。
サンタナは咄嗟に緋想の剣を振るい、迫り来る『スカーレットシュート』を掻き消す。
そのまま攻撃を打ち消してから瞬時に体勢を整え、再び突撃を敢行。
右腕に握り締めた緋想の剣の刃を地面に引き摺らせながら、レミリアへと接近していく。
負傷をしているとは思えぬ程に鋭く素早い動きだ。

レミリアはその手に再び真紅の槍を出現させ、振り下ろされた緋想の剣の刃を防いだ。
ギリギリと互いの刃と柄が競り合う音が響き渡る。

「くッ……!」

歯軋りをしながらサンタナを睨むレミリア。
吸血鬼の妖力に対する弱点となる気質を纏った刃は、真紅の槍の妖力を少しずつ抉り取っていく。
それだけではない。槍を握るレミリアの腕が少しずつ震え始め、押されていく。
サンタナの腕力は多少とはいえ吸血鬼であるレミリアのそれをも上回っていたのだ。
人間を超越する存在、吸血鬼。その吸血鬼をも補食する上位種、柱の男。
世界は違えど、『餌』と『捕食者』の種族関係。
単純な腕力では柱の男であるサンタナに軍配が上がったのだ。

「さっさと、退きなさいッ!」
緋想の剣の能力と腕力によって一気に押されかけるレミリアだが、咄嗟に左手より至近距離から緋色の弾幕を放ちサンタナを怯ませる。
その隙にレミリアはすぐさま後方へと下がり、霧散しかけた槍を再び己の妖力として還元させる。

「…………」

弾幕によって怯みながらも、サンタナは即座に体勢を立て直す。
再び放たれるであろう少女の攻撃に備えるべく、身構えた――――


その直後、突如サンタナの側面へと高速で接近する影が現れる。


「………!」
「『スティッキィ・フィンガーズ』ッ!」


ジッパーによって地面を高速で移動するブチャラティが側面からサンタナに接近したのだ。
彼は目の前の化物を倒すべく、撤退よりもレミリアを援護することを選んだ。
レミリアに注意を払っていたサンタナは咄嗟に右足の踵落としを叩き込もうとする。
しかしブチャラティはジッパーから手を離し、横に転がって踵を回避。


「アリィッ!!!」


そして、サンタナ目掛けてスタンドが拳撃を放つ!
サンタナは驚異的な反応速度ですぐさま緋想の剣によるガードを行う。
強烈な拳の一撃は剣の刀身によって受け止められる。
一瞬後ずさりながらも、サンタナは緋想の剣によってスタンドの攻撃に耐えてみせた。


だが、この防御が彼にとっての『悪手』となった。


「ッ!?」


拳を叩き込んだ緋想の剣の刀身の部分に螺旋状の『ジッパー』が発現するッ!
スタンドの腕の一振りと共にジッパーが開かれ、刀身がバネのような形状と化す。
そのままスタンドが両腕で螺旋状の刀身を掴み、一気に自身の手元へと引き寄せた――!



「―――退けッ!」

突然の出来事に驚愕したサンタナは咄嗟に剣を引き戻そうとするも、完全に行動が出遅れた。
螺旋状の刀身を掴んだスティッキィ・フィンガーズがサンタナの脇腹を蹴り、強引に緋想の剣を奪い取ったのだ。
サンタナは吹き飛ばされながらも受け身を取る。
しかし、スティッキィ・フィンガーズの右腕には緋想の剣が握り締められていた。
刀身に生成されていた螺旋状のジッパーは消滅し、再び元の剣の形状へと戻っている。

サンタナは歯軋りをしながらブチャラティを睨んだ。
あの『緋想の剣』とやらを奪われたのは痛手と言っていい。
奴が操る『奇妙な守護霊』を攻撃出来るのは、あの剣のみだということを理解していたからだ。
体術においても強力なあの守護霊と闘う為にも、奪われた剣を取り戻さなくては厳しいだろう。

サンタナは体勢を立て直し、ブチャラティとレミリアを交互に視界に捉えようとする。
吹き飛ばされたことによって二人との一定の距離が保たれているからか、余裕を持った緩やかな動きだ。
そのまま彼は、受け身の体勢から立ち上がろうとした――――



―――しかしサンタナは、その油断から生じた『一瞬の隙』によってレミリアに遅れを取ることになる。




「…!?」

「遅いわね、ノロマ」


サンタナが体勢を整えるようとした直前、即座にレミリアが低空を飛翔し彼との距離を詰めたのだ。
目の前に迫ったレミリアを見て僅かながらも驚愕の表情を浮かべたサンタナ。
すぐさまその胴体から肋骨を突き出させ、迎撃を行わんとする。
しかし接近の勢いは止まらない――――直後にレミリアが、弾丸の如し瞬発力で肋骨を回避しサンタナの懐へと潜り込む。
そしてレミリアは、その右拳に真紅の妖力を纏う―――!



「悪魔―――――『レミリアストレッチ』ッ!!」



そのままサンタナの顔面に、右拳による強烈な打撃と妖力を叩き込んだッ!
両腕で受け止めようとしたサンタナ。だが、レミリアのスペルを止めることなど出来なかった。
凄まじいパワーを纏った強力な拳を防ぎ切れず、そのままサンタナは勢い良く地面へと叩き付けられた。

攻撃を叩き込んだ後、レミリアは後方へと下がり雑草の茂る地面に素早く着地をする。
勝ち誇った笑みを浮かべながら、地面を転がって倒れたサンタナを見据えていた。

吸血鬼“レミリア”と柱の男“サンタナ”。単純な身体能力ならば捕食者であるサンタナの方が上だ。
しかしそれは純粋な身体能力における話。翼を用いた飛行能力、コンマ一秒の瞬発力を含めれば話は別だ。
幻想郷の吸血鬼は鴉天狗程ではないにせよ、それに匹敵する程のスピードを持つ強大な妖怪。
瞬発力や素早さにおいては、柱の男と同等以上の能力を持ち合わせているのだ。



「…全く、下がっていなさいって言ったのに。近頃の若いのは言うことを聞かないものね」
「生憎、お嬢ちゃん一人に任せて逃げ出す程に薄情じゃあないんでな」
「あら、それは頼もしいこと。…今回は協力に免じて許してあげるわ。その代わり…」

フッと笑みを口元に浮かべながらレミリアの傍へと歩み寄るブチャラティ。
レミリアはやれやれと言わんばかりの口振りではあったが、口元には変わらず笑みが浮かんでいる。


「―――やるからには、存分に働いて貰うわよ。いいわね?」


微笑みを浮かべながらレミリアはそう言う。
そんな彼女を見てブチャラティは思う。
最初の口振りから察するにどうやら彼女は億泰と出会い、俺のことを聞いて此処まで駆け付けたらしい。
彼女は『吸血鬼』と名乗っていただけに、当初は僅かとはいえ警戒を覚えた。
しかし、こうして『ほんの少し』共闘しただけで理解出来た。
この『レミリア・スカーレット』という少女は、信頼に足る人物であると言うことを。

(…『人間を幸運にする』か。ある意味、この出会いが幸運なのかもな)

ふと、少し前に出会った『因幡てゐ』のことを思い返す。
彼女にかけられた『幸運の能力』のことを思い出す。
先程までの自分があの男と闘い続けていたら、どうなっていただろうか。
死に物狂いで立ち向かおうとした俺は、冷静さを失いあの化物のような男に殺されていたかもしれない。
そこで颯爽と現れたレミリアに助けられたからこそ、俺達はこうして優位に立てているのだろう。
この出会いがあの『能力』によって引き起こされた幸運なのかは解らないが、紛う事無き好事であることは確かだった。


立ち並ぶ二人の視線の先。
地面に叩き付けられたサンタナが、再びその場から立ち上がった。
口や鼻から血を流し、顔に大きな痣を造り出している。
スタンドの攻撃は皮膚をゴムのように柔らかくすることである程度緩和することが出来た。
しかし先程のレミリアストレッチの破壊力は絶大だった。
凄まじいパワーに加え、突撃の勢いも上乗せされたことによって肉体変化でも防ぎ切れぬ程の威力と化していたのだ。
それによってサンタナは確かなダメージを受けた。

彼は僅かな屈辱の表情を顔に張り付ける。
そして歯軋りと共に、剣を奪い返すべく二人へと目掛けて接近を開始する――!

「フン、まるで突っ込むしか脳の無い猪ね?いいわ、この私が存分に格の差を――」

真紅の槍を手元に出現させ、レミリアは不敵な笑みを浮かべる。
そのまま迫るサンタナへと目を向け、立ち向かおうとした…が。


「レミリア!此処は俺が行くッ!」

「―――って、私の出番奪われたッ!?」


躍り出てサンタナの前に立ちはだかったブチャラティが緋想の剣を構え、スタンドと共に待ち受けた。
そのままブチャラティへと襲いかかるサンタナは、今まで以上に激しい勢いで体術を振るい攻め立てる。
『スティッキィ・フィンガーズ』は次々と放たれ振り下ろされる拳や蹴りを両腕を以て次々といなしていく。
焦りを感じさせる動きで荒々しく攻撃を繰り返すサンタナだが、ブチャラティのスタンドは冷静沈着に対処を続ける。

「…………!」
「そんなものか、化物野郎」

攻撃をいなし続けるスタンド。それを操るブチャラティが冷静に軽口を叩く。
超人的な身体能力を持つとはいえ、あくまで『それだけを頼り』に闘い続けていたことで技術を磨かなかったサンタナ。
しかし対するブチャラティは数多の視線を乗り越えてきた百戦錬磨のギャング。
彼の操るスタンドの動きは洗練されており、確かな『戦闘技術』を持ち合わせていたのだ。

攻撃を躱され続けるサンタナは、歯軋りをしながら『露骨な肋骨』を発動。
伸縮自在の肋骨がスティッキィ・フィンガーズの後方に立つブチャラティへと襲いかかる。
しかし、迫り来る肋骨を見据えながらもブチャラティは冷静な表情を崩さなかった。


「それと…一つ言っておくぞ。むしろ『お前の出番』を用意しておいたさ―――レミリア」



冷静沈着にサンタナを見据えるブチャラティは、フッと口元に笑みを浮かべる。
警戒を覚えたサンタナは、すぐにレミリアの方へと目を向けた。


「ふぅん…気が利くじゃない。グラッチェ(ありがとう)、ブチャラティ」


直後にレミリアが翼を広げ、ブチャラティの真上へと跳ぶ様に飛翔した。
その右手には、妖力を纏い強大に成長した『真紅の槍』が握り締められている。

ブチャラティはサンタナが『露骨な肋骨』による攻撃を行いこちらへと意識を向ける際の隙を狙った。
負傷覚悟の戦術だが、これでレミリアが一撃を叩き込めるのならばそれでいい。
彼の意図をすぐに理解したレミリアは、右手に槍を携えて飛び上がったのだ。

宙へと舞い上がりながら、レミリアは真紅の槍を握りしめたまま身体を捻る。
投擲の体制――――狙うは無論、柱の男『サンタナ』!
サンタナは即座に回避を行おうとしたが、肋骨を引き戻す際の隙が彼の行動を遅らせた。


そして、強大な真紅の槍が妖力によって輝きを見せる―――!



「神槍――――『スピア・ザ・グングニル』――――――!!!」



空中から放たれた真紅の槍は、サンタナ目掛けて一直線に飛んで行くッ!

サンタナは迫り来る槍を見て咄嗟に間接を変形させて回避行動を行おうとするも、間に合わずに脇腹を大きく刃が抉っていく。
苦痛の表情と共に、その身を大きく仰け反らせた。
直後に傷口から血肉が撒き散らされ、何度も多々良を踏みながら脇腹を押さえ込む。
レミリアは投擲の勢いと共に後方へと下がり、ブチャラティの傍へと降り立つ。


「―――ベネ(良し)だ、レミリア」


その隙を見逃さなかったのはブチャラティだ。
スタンドの両手にがっちりと緋想の剣を握りしめさせながら、サンタナへと接近したのだ。

「…………」
仰け反ったままのサンタナは突如至近距離まで迫ったブチャラティをその目で見た。
大きく目を見開き、目の前まで迫り来る『人間』を目の当たりにした。
スタンド『スティッキィ・フィンガーズ』が気質を操る能力を持つ『緋想の剣』を携えながら迫っている。
あの剣で貫かれれば、幾ら柱の男とは言え無事では済まされないだろう。
もはや万事休すと言わざるを得ない状況だった。

だが、サンタナの表情は変わらずにブチャラティを真っ直ぐに睨み続けていた。
闘気が失われていないかの如く、彼の表情には戦う意思があった。
既に目の前に、剣を携えたスタンドを使役するブチャラティが迫って来ているにも拘らず。


「これで、終わり―――-」

目の前の怪物“サンタナ”に終止符を打つべく。
ブチャラティがトドメを刺そうとした、その瞬間。






突如、ぐらりとバランスを崩す。



「――――――え?」



呆気に取られたような表情と共に、ブチャラティの身体が崩れ落ちた。
それと同時に、スタンドが膝を付き剣を地面へと落とす。

彼を真っ直ぐに見下ろすのはサンタナ。
虚無に塗れた色に染め上げられたその瞳は、冷徹に彼を見据えていた。


◆◆◆◆◆◆


◆◆◆◆◆◆


霊烏路空は意識を取り戻す。
目を覚ましてみれば、畳の敷き詰められた和室が視界に入った。
起き上がってみようと手足を動かしてみても身体がうまく動かない。
お空は自分がロープできつく縛られている事にようやく気が付く。
ふと視線を周囲へと向けてみると、この部屋には二人の男がいるようだ。
片方の男の後ろ姿を見て、お空はハッとしたように『気絶する前のこと』を思い出した。


そう、あいつだ。あの吸血鬼とつるんでいた人間。
手から変な光を放ってビリビリさせてくるデカい男。
もう一人の変な男は見た事も無いし、お空の思考はそいつのことなんか微塵も気にしていなかった。
彼女が目を向けているのは、『ジョジョ』とか呼ばれてた人間の方。


―――そうか。私はあの時気絶して、きっとこいつに縛り上げられたんだ!


「このォ~ッ!!よくも、こんなことっ!早く解きなさいよぉぉ~ッ!!
 そうしないと!あんた達っ!二人まとめて!フュージョンしてやるんだからーーーーッ!!!」


身体をロープで縛られながらもお空はじたばたと何度ももがきながら騒ぎ出す。
とはいえ、きつく緊縛されているのもあってか殆ど無駄な抵抗に等しかった。
それでも身体を動かそうとするその姿はまるでひっくり返った芋虫が必死に起き上がろうとしているサマにも見えた。



「おいおい、落ち着けってッ!いい加減に黙らねぇと…」
「――君の名は『霊烏路空』、だったよな?」

軽く苛立ちながらも何とか宥めようとした億泰。
しかし直後にジョナサンが落ち着き払った態度で空に話しかけ、億泰が少しばかり驚いたように言葉を止めた。
空はキッとジョナサンを睨みながらも、抵抗出来ないと考えたが故に渋々答える…。

「…そうよ、みんなからはおくうって呼ばれてる。だけど、そんなことは今は重要じゃない!
 早くこのロープを解きなさいっ!そうしないと、」
「空。僕達は、君の『家族』を保護しているんだ」

ぴたりと空の言葉が止まる。
「え」とぽかんとしたような表情を浮かべながら、ジョナサンが目で示した先へと視線を向けた。
空の視界に入ったのは、桃色の髪の少女。
紐のような物で繋がれた『第三の目』を持つ、小柄な少女。
空は彼女のことを知っていた。―――いや、知っていて当然だった。



「……さとり、様?」



空は唖然としたように彼女の名を呟いた。
それは自らの主人である『古明地さとり』だったのだから。
目をぱちぱちと瞬きさせながら、彼女はさとりの姿をまじまじと見ていた。

「…え~と、その……」

億泰はジョナサンと空を交互に見つつ口を僅かに動かし始めた。
何かを言おうとしているが、上手く言葉に出来ないのか暫し黙り込む。
それから少し迷うような素振りをした後、彼は意を決したようにゆっくりと口を開く。

「…そういや、さっきあのレミリアってコから聞いたぜ。なんつうかさ…アンタとさとりは、家族みたいなモンなんだろ?」
「………」
「俺はその、馬鹿だからよぉ~…上手く説明できねぇけどさ。
 空がこんなクソッタレなゲームに乗っちまったら、そのさとりってコ…悲しむと思うんだよ…」

億泰は、ぎこちなくも真っ直ぐな感情を込めた言葉で空を諭すように語りかける。
先程まで騒ぎ立てていた空も、何も言わずに彼の話を聞いていた。



「自分の家族が罪を犯すってのは…マジで悲しいことなんだぜ。
 だからさ、空。俺達と一緒に来ねーか?荒木と太田をブッ潰して、みんなで脱出するんだよッ!」


胸の前でグッと右手の拳を握りしめ、笑みを見せながら億泰は言った。
こんな女のコに罪なんて似合わない。それに、大切な『家族』が罪を背負う悲しみを彼は知っていた。
だからこそ、億泰はジョナサンに代わって彼女の説得に乗り出したのだ。
不器用な優しさを胸に、億泰は空に手を差し伸べた。

「―――……」

空は、黙ったまま億泰を見ていた。
その表情に苛立ちや怒りと言った負の感情は見受けられない。
それどころか、彼の言葉に安心を得ているかのようにも見えた。
それ程までに穏やかで、どこか落ち着いた様子だったのだ。


「ジョナサン。…このコのロープ、解いてやってもいいか」


億泰はジョナサンの方へと顔を向け、問い掛けた。
空を縛り続けるものを解き、新しい『仲間』として向かい合いたかった。

真剣な表情で問いかけてきた億泰を見て、ジョナサンは考え込む。
彼の頼みは、つまるところ空を自由の身にするということだ。
大丈夫なのだろうか。そんな懸念が一瞬過る。

だが、億泰の説得ならば―――何とかなるかもしれない。

不思議とそんな確信が、ジョナサンの心に浮かんでいた。

「……ああ」

暫くした後――ジョナサンは静かに頷き、彼の頼みを承諾した。


「ありがとよ…ジョナサン」

返答を聞いた億泰は、フッと口元に笑みを浮かべた。



「ちょっと失礼するぜ、空」
彼は空の身体をキツく縛るロープに見る。
あのレミリアって嬢ちゃんが徹底的にやったそうだが、本当にがっちりと縛り上げられている。
それを確認して苦笑しながら、恐る恐るロープに触れた。
割れ物を取り扱うかのような慣れぬ手付きで、億泰は少しずつ彼女を縛るロープを解き始める。
するするとロープは少しずつ空の身体から外れ始める。

暫しの時間、無言の作業が続き―――空の身体からロープが完全に解かれた。
自由の身になった空は自身の身体をまじまじと見つめ、手足が動くのを確認。
拘束時間は僅かだったとはいえ、久々に羽を伸ばしたかのような気分だ。

「空―――、」

空が自由になったのを確認し、億泰は再び話を続けようとする。
億泰は、真っ正面から彼女の説得を行おうとした。

さっきこのコがさとりを見た時の表情や反応から、何となく解る。
空は家族を蔑ろにしているようなコじゃない。むしろ、大切に思っているような女の子のはずだ。
俺にどこまで説得が出来るかは解らないが―――何とかやってみせる。
これ以上、このコを暴れさせたくは無い。そう思っていた。


「………ごめん」


億泰が説得を行おうとした直前。
聞こえるか聞こえないかの微妙な声量で、ぽつりと空が呟く。






その時だった。


「――――え?」


億泰は呆気に取られた様な表情を浮かべる。
突然空がその場から起き上がり、瞬時に翼を広げる。
直後にジョナサンと億泰を撥ね除け、その場から飛翔したのだ。
核エネルギーによる推進力が飛翔の際の瞬発力と敏捷性を向上させ、疾風の様なスピードを発揮する。
そして、飛翔した空が布団で横になるさとりへと一瞬で接近する―――


空は、狭い部屋を飛翔しつつ瞬時にさとりを抱え上げた。

そのまま飛翔の勢いと共に戸を突き破り、家屋の外へと飛び出す。




「空ッ―――!」
「ちょっと嬉しかったけどさ。別に私、あなた達に着いていく気はないよ」

さとりを抱えて家屋の外へと飛び出した空は、空中で振り返り億泰達に向けてそう言う。
億泰、ジョナサンはすぐさま空を追いかけようとした。
しかし空は、自身を止めようとした二人に向けてスッと左手を向ける。
その掌には、『核融合の焔』が少しずつ凝縮され始めていた。
ジョナサンはハッとしたような表情で『焔』を見た。
あの能力は、先の戦闘で使っていた―――!


「億泰、危ないッ!!」


ジョナサンは声を荒らげるも、既に億泰はスタンドの片腕を振りかざそうとしていた。
あの状態では、もはや回避は間に合わない。
そんな億泰を目前にする空は、容赦なく二人を見下ろし続ける。
迷いも躊躇いも無く、『攻撃』の態勢へと入っていた。



「じゃあね、二人とも」



そのまま彼女は、少しだけ憂いを帯びた様な表情と共に。



左掌に凝縮させた『焔』を―――億泰達目掛けて、解き放った。





「爆符――――『メガフレア』」




◆◆◆◆◆◆


◆◆◆◆◆◆



「ブチャ、ラティ?」

レミリアは呆気に取られた様に声を漏らした。
サンタナの目の前で、ブチャラティは何の脈絡も無く転倒した。
直後、ジュクジュクと気味の悪い肉の音が耳に入る。
まるで血肉を喰らい、咀嚼するかの様な――――――不気味な音。

俯せに倒れ込んだブチャラティは、己の両足の異変に気づく。
ハッとしたようにすぐさま足へと視線を向けた彼は、目を見開く事になる。
そう、自らの両足に纏わりついているモノに気付いたのだ。


「―――これ、は………ッ!?」


気付いた時には既に遅かった。
そう、ブチャラティの両足に複数の『肉片』が取り付いているのだ!
真紅の槍によって撒き散った脇腹の血肉が、彼の脚に食らい付いていた。
脚に張り付く肉片達は、まるで生きているかの様に脈動を繰り返す―――



「………この………原始人………共……が…………!」



真っ直ぐに立ちながらブチャラティを見下ろすサンタナ。
息を整えながら、彼は抑揚の無い不気味な声でぼそぼそと呟き出す。
空虚でありながらも氷の様に冷徹な瞳をに向けながら、僅かながら口の両端を吊り上げた。
無数の『肉片』の『遠隔操作』――――それはサンタナの、柱の男の持つ能力の一つ。



ミート・インベイド―――別名『憎き肉片』ッ!



自身の肉片を遠隔操作し、対象に取り付かせる能力。
肉体そのものが消化細胞である柱の男の特性を生かした技だ。
サンタナはスピア・ザ・グングニルによって脇腹を抉られたことによって撒き散らされた肉片を操作していたのだ。
そして、それを『まず』接近してきたブチャラティの両足に取り付かせた。
ブチャラティはスタンド能力を持つとは言え、肉体はただの人間に変わらない。
それ故に柱の男の肉体が持つ『補食の能力』に対処を行う事が出来ないのだ。
容赦なくブチャラティの両足に取り付くサンタナの肉片は、そのまま消化細胞によって脚の肉をじわじわと補食し始めている。


「ぐ、ああァァッ…!?」

ブチャラティは苦悶の表情と声を漏らす。
両脚の肉を『憎き肉片』の捕食によって次第に抉られ始めてたのだ。
直後に別の複数の肉片が、ブチャラティの身体にも纏わり付こうとしていた―――!





「――――ブチャラティッ!!!」



レミリアは声を上げ、すぐさま飛翔しサンタナの下へと接近していく。
彼女は憎き肉片に襲われるブチャラティを助け出すべく動き出した。
隼の如く風を切りながら低空を飛び、一瞬の移動を行う。
凄まじい瞬発力による接近と共に、レミリアはサンタナに向けて拳を叩き込もうとした―――――!




――― ガ ァ ン ッ ! !




響き渡る打撃音。
しかし、攻撃を叩き込まれたのはサンタナではない。
打撃による一撃を命中させたのは、レミリアではない。


サンタナに、レミリアの拳は届いていなかった。
吹き飛ばされたのは―――-レミリアの方だ。


瞬時に接近してきたレミリアのこめかみ目掛け、鋭い鈍痛が叩き込まれたのだ。
予期せぬ唐突な攻撃によって吹き飛ばされるレミリア。
小柄な少女の身体はそのまま雑草の茂る地面を何度も転がっていく。


「………無駄な……足掻きを…………」


サンタナの右手に握り締められているのは回収した緋想の剣。
そして、先程までは手ぶらだった左手にはいつの間にか『鉄パイプ』が握られていた。

サンタナはレミリアが接近する直前、デイパックから左手に『エニグマの紙』を仕込ませていた。
彼はエニグマの紙からランダムアイテムの鉄パイプを瞬時に取り出し、左手でそれを振るってレミリアを殴打したのだ。


「く、ッ………!」

レミリアは即座にその場から立ち上がり、動き出そうとする。
このまま隙を晒してはマズい。すぐにでも体勢を戻さなければ、奴の能力の餌食になる―――

「――――はッ、」

レミリアが体勢を整えようとした時、サンタナは既に彼女の正面にまで接近していた。
サンタナもまた、先手を打つべく瞬時に行動を開始したのだ。
咄嗟に弾幕を放とうとするも、身体に負っていた負傷がレミリアの行動を一手遅れさせた。


振り下ろされる剣がレミリアの身体を引き裂き、再び仰向けに転倒させる。


左手に握られた鉄パイプが間髪入れずレミリアの顔面目掛けて二度振り下ろされる。


顔面に叩き込まれた鉄塊の衝撃によって大きく怯むレミリア。


そしてサンタナの左足が、倒れるレミリアの右腕を踏み躙った―――。



「―――っ、ああぁああぁぁあぁァァァァッ!!?」



直後、吸血鬼の絶叫が周囲に響き渡る。
グジュル、グジュルと肉を咀嚼するような気味の悪い音が小さく響いた。
サンタナの左足が、踏み躙るレミリアの右腕の関節部分を『捕食』し初めていたのだ。



柱の男は肉体そのものが消化細胞であり、その身を以て生物を補食する。
本来ならば僅かに触れただけでも捕食が可能なのだが、この場においては捕食能力に多少の制限が掛けられている。
レミリアの打撃がサンタナの肉体に補食されること無く通用したのもそれが原因だ。
とはいえ、それでも能動的に触れることさえ出来ればほぼ通常通りの捕食が可能だった。
こうして今、サンタナの左足がゆっくりとレミリアの右腕を補食しているように――――!

「図に…乗るなよ………吸血鬼……が…………!」

死神の鎌の如し左足が振るわれた直後、補食され始めていたレミリアの右腕は間接を境に切断された。
引き裂かれたレミリアの『右腕』は鉄パイプを投げ捨てたサンタナの左手が掴み、それを自らの胴体に押し付ける。
そのまま『右腕』は咀嚼にも似たような肉塊音と共に胴体に取り込まれ、『補食』される。
切断面から撒き散らされた真紅の血液も同様にサンタナの肉体へと取り込まれていた。


そして、レミリアの顔面がサンタナの屈強な左手に掴まれる。
小さな吸血鬼の身体が乱暴に持ち上げられた。


「――――……ッ…………」
「…………………」


レミリアの顔面を掴んでその身体を持ち上げ、冷徹な瞳で彼女を見据えるサンタナ。
抵抗を続けていた吸血鬼を叩きのめしたことによる愉悦故か、優越に浸った笑みを口元に浮かべる。
しかしレミリアの真紅の瞳から闘気は失われていない。
ギッと刃の様に鋭い視線で、臆すること無くサンタナを睨んでいた。

そんなレミリアの表情を意にも介さず、サンタナは乱雑に自身の胴体まで引き寄せる。
サンタナは既に己勝利を確信していた。
先程の鬼のような少女と同様、この小娘も所詮は『喰われる者』に過ぎない。
散々足掻かれたが所詮は『餌』。たかが餌如きが、捕食者に敵う筈が無い。
あそこで動けぬ『男』も同じだ。どのような力を持っていようと、所詮は人間。

――――このまま小娘の肉体を吸収し、ゆっくり喰らっていくとしよう。



「……フ、フ……」


そう思っていた、矢先だった。
闘気に塗れた表情で睨んでいたレミリアが、不意に笑みを浮かべたのだ。
まるで何かの好事に気付いたかの様に。
抵抗を諦め、死を受け入れたのか―――――サンタナはそんなことを思っていた。


「―――『あいつ』のしぶとさも……大概、ね?」


だが、彼の予想は直後に裏切られる事になる。

レミリアが横目でちらりと視線を向けた先。

サンタナは―――それに気付いた。




「『スティッキィ』…………『フィンガーズ』………ッ!」




―――両脚を『肉片』に食らい付かれながらも、サンタナの至近距離までブチャラティが迫っていたのだッ!
肉片に食いつかれた脚で移動出来るはずが無い。そう、出来るはずが無いのだ。
しかしブチャラティは接近をしてきた。
肉片の苦痛を強引に押さえ込みながら地面にジッパーを生成して引き手を掴み、そのままジッパーによって高速移動を行ったのだ!



「―――――!」


地面を滑る様に移動するブチャラティが『スタンドの射程内』まで入り込んで来た事に気付いたサンタナ。
彼はすぐさま右足を振るい、迫るブチャラティを蹴り飛ばそうとする。
だが、先に『一手』を打ったのはやはりブチャラティの方だった。


ゴッ、と鈍い打撃音が轟く。
ブチャラティは自身の左拳を『スティッキィ・フィンガーズ』の左拳と同化させ、地面に向けて全力で拳を叩き込む。
ジッパーによる接近を行っていたブチャラティは地面を殴った反動によって宙へと跳び上がり、サンタナの右脚を回避。
そして、空中を跳んだブチャラティの身体がサンタナの真上を通り過ぎようとした――――


「『射程距離内』だ、化物野郎」


空中での擦れ違い様に、ブチャラティが呟いた。
サンタナは目を見開きながら彼を見上げる。
宙を舞うブチャラティの傍に出現しているのは――――無論、『スティッキィ・フィンガーズ』!
サンタナは焦り、レミリアを盾にしてでも防ごうとした。
しかし、最高クラスの敏捷性を持つ近距離パワー型のスタンドの行動は一瞬だった―――!



「大人しく――――寝てろォッ!!!」



擦れ違い様、サンタナの顔面目掛け―――――スタンドによる全力の拳が放たれるッ!!
直後地面が砕けるかの様な轟音と共にサンタナの身体が一気に地面へと叩き付けられたッ!


「――――ッ!!?」


サンタナは攻撃を防ぎ切れぬままに地面へと叩き伏せられる。
同時に攻撃の反動でサンタナの左手からレミリアが手放され、すぐ傍の地面に転落する。
しかし彼女はすぐに体制を整え、苦痛を堪えながら片腕で跳ね上がる様に即座に起き上がり後方へと距離を取った。

「くッ――――、」
スタンドによってサンタナの顔面にパンチを叩き込んだブチャラティは、着地をする事が出来ずに地面を転がる。
両脚の負傷も相まってか、そのまま俯せに倒れ込んだ。
サンタナのダメージによる影響か、ブチャラティの両脚に食らい付く『憎き肉片』が次々と剥がれ落ちている。
しかし俯せになりながら何度も荒い息を吐き出しており、再び動き出す事は難しいだろう。



「…………!」

そして―――凄まじい勢いで地面に叩き付けられたサンタナ。
顔面から出血をしながらも、彼の瞳から闘気は消えていなかった。
両腕をバネにし、ダメージを無視するかの様な俊敏な動きでその場から瞬時に跳び上がる。
決死の様子で立ち上がったサンタナ――――此処までの戦闘の疲労と消耗が確かに蓄積されていた。
一瞬よろめきかけるも、その場で地面に突き刺した剣を支柱として何とか立ち続ける。
乱れた息を何度も吐き捨てながら、レミリア達を視界に捉えようとした―――


「まだ、抗うつもり?」


その直後のこと。
たんっ、とレミリアが宙へと飛び上がった。
言葉はか細くなりながらも、その瞳には諦めも絶望も無い。
あるのはただ、目の前の強大な敵に立ち向かう『意志』だ。



「だけど残念。貴方はもう『ゲームオーバー』よ」


空中へと飛翔しながら、ニヤッと不敵な笑みを浮かべたレミリア。
それを目の当たりにした途端、サンタナは目を見開く。
彼の胸に浮かび上がったのは『危機感』だった。
言い様の無い『焦燥感』だった。



同じだ。
この『眼』は、あの時のあいつと同じものだ。
今まさに喰らおうとしている小娘は、捨て身の攻撃を行おうとしている。
今の小娘の表情は――――突破口を見出し、勝利を確信した『あいつ』と同じ表情だ!



「スペルカード、夜王」



少女の身に凝縮される緋色のオーラ。
サンタナは、いつの間にか後ずさりをしていた。
『目の前の吸血鬼』に対し一瞬だけ覚えた恐怖と焦燥。
それがサンタナの動きを『一手』遅れさせた

そう――――先に動いたのは、レミリアだったのだ。





「―――――『ドラキュラクレイドル』――――――!!!」





――強大な緋色の妖力が、吸血鬼を包んだ。

レミリアは自身を中心に強大な妖力を展開し、空中より錐揉み回転を行いながら突撃を行う。

弾丸の様な凄まじい瞬発力で迫り来るレミリアを、怯んでいたサンタナは躱し切れない――――!




「GUAAAAAOOOOOOOOOOO!!!!!」




柱の男の絶叫が木霊する。
鮮血の様な紅き妖力を纏った突撃が腹部へと突き刺さり、そのままサンタナの身体を吹き飛ばした。
錐揉み回転を伴った突進による凄まじい圧力が彼の身を襲ったのだ。
吹き飛んだサンタナは雑草の上を転がり続け、地面に仰向けに倒れ込んだ――――



サンタナが吹き飛んだことでバランスを崩し膝を付くレミリア。
しかし直ぐに彼女は左手を地に付け、片腕を支えにゆっくりと立ち上がった。
レミリアは凛とした佇まいで立ち尽くし、ふぅと意に溜め込んだ空気を一息吐き出す。

「私達を……嘗めるんじゃないわよ、狂犬」

右腕を失いながらも、威風堂々とした出で立ちは崩れなかった。
レミリアは倒れ込んだサンタナを真紅の瞳で真っ直ぐに見据える。


「私は闘うわ…この穢れた檻から解き放たれる為に。こんな下衆な争いを仕組んだ主催者共を倒す為に。
 覚えておきなさい。悪いけど、あんたと私達じゃ――――闘う覚悟の『格』が違う」


口元に笑みを浮かべながら、レミリアはそう言い放った。
その瞳に浮かぶのは確かな『覚悟』。己の信じる道を真っ直ぐに突き進む『誇り』。


それは微かに芽生え始めた――――『黄金の精神』。


殺し合いに歯向かう理由。
そんなもの、主催者が気に入らないから。だからこの手で潰す。
その程度の理由でいいと思っていた。十分だと感じていた。
だが、あいつと―――ジョジョと出会った。私の誇りを認めてくれた、ジョジョと。
彼とは精々数時間程度の関わり…否、僅かな時間だからこそ強く心に刻まれたのだろう。
その優しさに。その勇気に。その意志に、影響をされている私がいる。


(…不思議ね。ただの人間に、この私が敬意を払いたくなったのだもの)


先程共闘したブチャラティに対して抱いている感情も似た様なものだった。
ふと視線を向けると、傷ついた身体を押しながらゆっくりと立ち上がるブチャラティの姿が見えた。
彼は一息を着きながらも、怪我を心配をする様にこちらへと顔を向けていた。

―――ブチャラティもまた、勇敢な人間だった。
あの化け物を相手にしながらも臆する事無く立ち向かい、こうして闘ったのだ。
ジョジョと同じように、彼もまた信頼に値する人間だとレミリアは半ば確信していた。

「さて、と…」

口元に笑みを浮かべていたレミリアの表情は、再び真剣なものへと戻る。
彼女が見据えたのは仰向けに倒れるサンタナだ。
ブチャラティとの共闘で撃破出来たとは言え、数々の驚異的な能力を駆使して闘う強敵だった。
奴をこのまま生かしておけば、大きな災厄となりかねないだろう。

その右手に僅かな妖力を纏わせながら、サンタナの処遇を思考していた――――その最中の事だった。




―――― ズ ド ォ ン ッ ! ! !




「………!?」
「―――何ッ!?」

香霖堂の方角から、突如爆発音が聞こえてきたのだ。
レミリアも、ブチャラティも、すぐさまそちらの方へと顔を向ける。
直後、二人の視界の先に映った物は―――遠方に小さく見える香霖堂から覗く『焔』。
レミリアははっとしたように、一滴の汗を頬から流した。


「まさか、あのバカガラス…!」


彼女には当然思い当たりがあった。
焔と言えば、あの地獄鴉―――『霊烏路空』の操っていた太陽の光!
まさかあいつ、拘束から解き放たれて暴走でもしたのか…!?
レミリアは焦った様子ですぐさま香霖堂へと向かおうとしたが、ブチャラティの言葉に遮られる事になる。

「待て、レミリアッ!『あの男』が――――!」

ブチャラティが声を上げ、先程までサンタナが倒れていた地点を指差す。
レミリアはすぐさまそちらへと顔を向けた。


「…消えてる?あいつ、あの怪我で逃げたっていうの…!?」


そう、サンタナの姿がこつ然と消えていたのだ。
少しずつ小さくなっている血痕だけが魔法の森の方角へ向けて地面に転々と続いている。
恐らくレミリア達が香霖堂に注意を向けた隙を見て逃げ出したのだろう。
レミリアはすぐさま追いかけようとするも、よろよろと歩み寄ってきたブチャラティに制止される。

「ッ――――、」
「…逃がしたのは悔しいが、今は億泰達の無事を確認する事が優先だ。
 奴も負傷しているとはいえ…今の俺達も、追撃へ向かうには余りにも傷を負い過ぎている…」

ブチャラティに窘められ、歯軋りをしながら森の方角を見るレミリア。
敵を取り逃がしてしまったことへの悔しさが胸に込み上げるも、すぐに彼女は香霖堂の方へと向く。
一息呼吸を行いつつ、レミリアは静かに呟いた。


「………貴方の言う通りでしょうね、ブチャラティ」

これ以上の無謀は命取りになりかねない。
そう、最も優先すべきなのはジョジョ達の無事の確認だ。
レミリアはそれを理解し、目指すべきである香霖堂を真っ直ぐに見据えていた――。



【D-4 レストラン・トラサルディー前/早朝】
【レミリア・スカーレット@東方紅魔郷】
[状態]:疲労(中)、体力消耗(大)、妖力消費(極大)、右腕欠損、頭部及び顔面に打撲(中)、胴体に裂傷(中)、再生中
[装備]:なし
[道具]:「ピンクダークの少年」1部~3部全巻@ジョジョ第4部、ウォークマン@現実、
    制御棒、命蓮寺で回収した食糧品や役立ちそうな道具、基本支給品
[思考・状況]
基本行動方針:誇り高き吸血鬼としてこの殺し合いを打破する。
1:ブチャラティと共に香霖堂へ戻る。
2:ジョジョ(ジョナサン)と対等の友人として認めて行動する。
3:自分の部下や霊夢たち、及びジョナサンの仲間を捜す。
4:殺し合いに乗った参加者は倒す。危険と判断すれば完全に再起不能にする。
5:ジョナサンと吸血鬼ディオに興味。
6:ウォークマンの曲に興味、暇があれば聞いてみるかも。
7:最悪、日中はあのダサい傘を使って移動する。
[備考]
※参戦時期は少なくとも非想天則以降です。
※波紋及び日光によるダメージで受けた傷は通常の傷よりも治癒が遅いようです。
※「ピンクダークの少年」の第1部を半分以上読みました。
※ジョナサンとレミリアは互いに参加者内の知り合いや危険人物の情報を交換しました。
 どこまで詳しく情報を教えているかは未定です。
※ウォークマンに入っている自身のテーマ曲を聞きました。何故か聞いたことのある懐かしさを感じたようです。
※右腕が欠損していますが、十分な妖力が回復すれば再生出来るかもしれません。

ブローノ・ブチャラティ@第5部 黄金の風】
[状態]:疲労(大)、体力消耗(大)、左腕に裂傷・腹部に刺傷複数(ジッパーで止血中)、胴体や両足に補食痕複数
    内臓損傷(中)、腹部に打撲(小)、幸運(?)
[装備]:閃光手榴弾×1@現実
[道具]:聖人の遺体(両目、心臓)@スティールボールラン、基本支給品
[思考・状況]
基本行動方針:殺し合いを破壊し、主催者を倒す。
1:レミリアと共に香霖堂へ向かう。
2:ジョルノ達護衛チームと合流。その他殺し合いに乗っていない参加者と協力し、会場からの脱出方法を捜す。
3:殺し合いに乗っている参加者は無力化。場合によっては殺害も辞さない。
4:DIO、サンタナ(名前は知らない)を危険視。いつか必ず倒す。
[備考]
※参戦時期はローマ到着直前です。
※制限の度合いは後の書き手さんにお任せします。
※幻想郷についての情報を得ました。
※てゐの『人間を幸運にする程度の能力』の効果や時間がどの程度かは、後の書き手さんにお任せします。


【D-4 魔法の森/早朝】
【サンタナ@第2部 戦闘潮流】
[状態]:疲労(大)、体力消耗(極大)、全身ダメージ(大)、全身に打撲(大)、左脇腹に裂傷(大)、再生中
[装備]:緋想の剣@東方緋想天
[道具]:基本支給品×2、不明支給品(確認済、ジョジョ東方0~1)、鎖@現実
[思考・状況]
基本行動方針:???
1:生きる為に今は逃げる。『食事』がしたい。
2:日光を避けられる場所を探す。
3:カーズエシディシと合流し、指示を仰ぐ。
4:ジョセフ、シーザーに加え、吸血鬼の小娘(レミリア)やスタンド使いに警戒。
5:同胞以外の参加者は殺す。
[備考]
※参戦時期はジョセフと井戸に落下し、日光に晒されて石化した直後です。
※波紋の存在について明確に知りました。
※緋想の剣は「気質を操る能力」によって弱点となる気質を突くことでスタンドに干渉することが可能です。

※サンタナのランダムアイテム「鉄パイプ@現実」はD-4 レストラン・トラサルディー前に放置されています。


<鉄パイプ>
サンタナに支給。
水道管などに用いられる鉄製の管。
その強度や長さから鈍器としても用いることも可能であり、十分な殺傷能力を持つ。
現在はD-4のレストラン・トラサルディーの前に放置されている。



◆◆◆◆◆◆


◆◆◆◆◆◆


「…大丈夫か…ジョナサン」
「あぁ…何とか、だけどな」

空の放った『メガフレア』によって半壊した香霖堂の居住スペース。
ジョナサンは咄嗟に横へと回避を行い、億泰はスタンドを使いメガフレアを『削り取る』ことで何とか防いだ。
寝室などを含めた大半が焔によって焼き焦がされている。
幸い億泰のスタンド『ザ・ハンド』によって火は燃え広がる前に空間ごと削り取られ、火事には至らなかった。
だが、空はあの後すぐにさとりを抱えて魔法の森へと逃走してしまった。

「億泰、その傷…!」
「へへ…ちょっくら、無茶しちまってよォ…」

だが、億泰は左半身に大きな火傷を負っていたのだ。
確かに『ザ・ハンド』によってメガフレアの一部を空間ごと削り取り、ある程度防御をする事は出来た。
しかしその効果範囲はあくまで『右手で掴める範囲』までだ。
強大なメガフレアを完全に防ぎ切る事は出来ず、左半身を焼かれる結果となってしまったのだ。

ジョナサンはすぐさま億泰へと駆け寄り、彼の火傷へと手を触れさせる。
直後にジョナサンは『波紋』を流し込み、火傷をある程度治癒した。
しかし、その傷はジョナサンが予想していたよりも大きかった。
ある程度症状を緩和出来たとは言え、完全に治癒する事は出来なかったのだ。

「億泰、その傷で動くのは危険だ。少し狭くなるが、まだ焼け落ちていない場所で手当を―――」

億泰の怪我を見て、ジョナサンがそう言おうとした直後だった。
何時になく真剣な表情で、億泰は森の方角を見ていた。


「悪ィジョナサン…俺、もう行くことにするぜ。空を解放しちまったのは、俺の責任だ…」


そう言って、億泰がジョナサンを振り切って歩き始めた。
ジョナサンは驚いた様な表情と共に、彼を止めようとする。

「億泰…?まさか、今から彼女を追いかけるというのか!?」
「ああ、その通りだぜ…。俺は、あのコを追いかける」
「今はまだ君の怪我を治すことが先だッ!その状態では、幾ら何でも…」


「ジョナサン。行かせてくれ…あのコを、止めさせてくれ」



ふいにジョナサンの言葉を遮る様に、億泰が呟く。
真剣な表情の億泰を前に、ジョナサンの口は止まる。

「自分の『家族』が罪を犯すってのは、本当に悲しいし…ツラいことなんだ。
 そんなの、あっちゃならねェ。あっちゃ、駄目なんだよ…」

語り出す億泰の脳裏に浮かぶ存在。
それは―――不死の化け物と化した父を殺す為に道を踏み外した兄、『虹村形兆』。
先程空を諭した際にも、彼は兄のことを思い返していた。
兄は父を殺せる力を探し出す為に多くの人間を利用し、時に殺害してきた。
自らの手でアンジェロや音石明と言った『怪物』を生み出し、多くの被害を齎してしまった。
俺はそんな兄貴を止めることが出来なかった。罪悪感を感じながらも、兄に従ってしまった。
全て俺が未熟だったからだ。俺が未熟だったが故に兄貴の行動を止めることが出来なかった。
道を踏み外した実の『家族』を止めるべき存在だった俺が、何もしなかったんだ。


「大切な家族のいる女のコに、罪なんて絶対に似合わねえ…。
 きっとさとりだって悲しむ。…だから、俺はあのコを絶対に止めてやる」


――――そう言い出すと、億泰は歯を食いしばりながらすぐにその場から駆け出してしまった。


「億泰!!待つんだ、億泰ッ――――――!!」

ジョナサンは何度も呼びかけて止めようとするも、億泰は構わずに森へ向かって走り出してしまう。
あのまま一人で空を止めるつもりなのだろう。あの怪我の状況からも見て、間違いなく危険だ。
すぐに追い掛けようとした。―――だが、彼の脳裏に浮かぶ懸念が一つあった。


(向こうにはまだ、レミィ達も残っている……)


そう、掛け替えの無い友『レミリア・スカーレット』がいるのだ。
彼女は億泰の仲間を助け出すべく、レストラン・トラサルディーの前まで赴いたのだ。
彼女達が未だに帰ってきていないとなれば、恐らく襲撃者は相当の手練なのだろう。
そうなると、レミィ達は決して浅くはない負傷を負っている可能性がある。

ジョナサンは思案する。
微かな焦りを見せつつも、自らの取るべき行動を思考した。
ここから僕は、どうするべきだ…?


(レミィ達と合流するのが先決か?それとも、億泰を追い掛けるか―――――?)



【D-4 香霖堂/早朝】
【ジョナサン・ジョースター@第1部 ファントムブラッド】
[状態]:腹部に打撲(強)、肋骨損傷(中)、疲労(小)、半乾き、波紋の呼吸により回復中
[装備]:シーザーの手袋@ジョジョ第2部(右手部分は焼け落ちて使用不能)
[道具]:河童の秘薬(半分消費)@東方茨歌仙、妖怪『からかさ小僧』風の傘@現地調達、
    命蓮寺で回収した食糧品や役立ちそうな道具、基本支給品、香霖堂で回収した物資
[思考・状況]
基本行動方針:荒木と太田を撃破し、殺し合いを止める。ディオは必ず倒す。
1:億泰を追うか、レミィ達と合流するか…
2:レミィ(レミリア)を対等の友人として信頼し行動する。
3:スピードワゴンらと合流する。レミリアの知り合いも捜す。
4:打倒主催の為、信頼出来る人物と協力したい。無力な者、弱者は護る。
5:名簿に疑問。死んだはずのツェペリさん、ブラフォードタルカスの名が何故記載されている?
 『ジョースター』や『ツェペリ』の姓を持つ人物は何者なのか?
[備考]
※参戦時期はタルカス撃破後、ウィンドナイツ・ロットへ向かっている途中です。
※今のところシャボン玉を使って出来ることは「波紋を流し込んで飛ばすこと」のみです。
 コツを覚えればシーザーのように多彩に活用することが出来るかもしれません。
※幻想郷、異変や妖怪についてより詳しく知りました。
※ジョセフ・ジョースター、空条承太郎、東方仗助について大まかに知りました。
4部の時間軸での人物情報です。それ以外に億泰が情報を話したかは不明です。
※スタンドの存在を知りました。


【D-4 魔法の森(入り口付近)/早朝】

【虹村億泰@ジョジョの奇妙な冒険 第4部 ダイヤモンドは砕けない】
[状態]:疲労(小)、精神疲労(中)、左半身に火傷(大、波紋で処置済)
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、マカロフ(8/8)@現実、予備弾倉×3、香霖堂で回収した物資
[思考・状況]
基本行動方針:殺し合いをこの『手』でブッ潰す。
1:あのお空って女のコを追い掛ける。絶対に止めてみせる。
2:知り合い(東方仗助、広瀬康一、空条承太郎、岸辺露伴)と合流したい。
3:被害が出る前に吉良吉影をブチのめす。
4:空に罪を背負わせたくないし、家族を喪う悲しみをさとりやお空に味わわせたくない。
[備考]
※ランダムアイテムは「聖人の遺体(頭部)@ジョジョ第7部」「マカロフ@現実」でした。
参加者名簿を確認しました。
※参戦時期は吉良との最終決戦で空気弾による攻撃を受けた直後、夢の中で形兆と再会する直前です。
※能力制限の程度については、後の書き手さんにお任せします。

※空の能力によって香霖堂の居住スペースの大半が焼かれました。

<マカロフ(8/8)>
虹村億泰に予備弾倉×3と共に支給。
1952年に開発され、ソビエト軍に制式採用された小型自動拳銃。
現在のロシア軍には採用されていないが、その扱い易さから今も尚東側諸国では現役である。
弾薬自体の威力は控え目だが小型故に携帯性に優れ、取り回しが良い。
現在は虹村億泰が所持。


◆◆◆◆◆◆


◆◆◆◆◆◆


(―――さて、あいつらは追って来ないかしら)

翼を広げ、浮遊をするかの様に魔法の森の中を突き進む地獄鴉『霊烏路空』は一瞬後方へと振り返る。
彼女の両腕には、自身の主である『古明地さとり』が抱えられていた。
先程までは核融合のエネルギーによる推進力で高速移動をしていたが、燃費の悪さ故に今はゆっくりとホバリングをしている。

あいつらには色々と情けをかけられたが、好都合だった。こうして再び自由の身へと解き放たれたのだから。
どうせ地上なんか焼き尽くすことは決定しているんだし、今更彼らを騙した所でどうだっていい。
それに、地上の連中共は過去にさとり様たちを嫌って地下まで追いやったって聞いている。
そんな奴らにさとり様を任せるつもりなんてない。

(…………。)

だけど…僅かながら、説明のし難い複雑な感情が胸に込み上げている。
なんだか気持ち悪い。この気持ちは何なのだろうか。
次第に感じ始めた奇妙な不安感を、空は何とか気にしないようにしていた。
それが億泰達への『罪悪感』であるということに気付かぬまま。


(…と、ともかく!私はさとり様を助けられた。きっとさとり様は、私のことを認めてくれる筈だ)

彼女の胸に浮かぶのは期待だ。
自分の力を今度こそ認めてくれるかもしれないという、幼い子供の様な希望だ。
その内心では、さとりの無事を安堵していたことに気が付いていない。
『さとりを助けた』という事実への達成感が、安堵の感情を遮っていたからだ。

(…そういえば、部屋で飛んでアイツを押し退けた時。あいつのデイパックから、偶然これを手に入れられたけど…)

ふと、さとりの姿を見下ろす。
彼女が視線を向けたのは―――彼女の薄い腹部だ。
細身である筈のさとりのお腹は、ぷっくりと膨れ上がっていた。


さとりの身に取り込まれたそれは、億泰の支給品『聖人の遺体・頭部』。
寝室で飛翔して億泰らを押し退けた際に、彼のデイパックから落ちたエニグマの紙を偶然手に入れることが出来た。
逃げ延びた後に試しに紙を開いてみたらミイラの生首の様なものが出てきたのだが、生首がさとりに触れた途端『取り込まれた』のだ。
そのまま遺体がさとりの身体の腹部と一体化し、こうして妊婦の様なお腹へと変わっていたのだ。


(…ま、いいや。このぷっくりおなかについては後で考えよう)

疑問には思ったが、一先ずそのことは置いておくことにした。
今はとりあえずさとり様の保護が優先だ。
安全な所まで運ぼう。…どこにあるかは解らないけど、飛び回っていればきっと見つかる筈だ。
そんな暢気な考えで、飛翔を続けていた。


(そういえば…ちょっとだけ、熱い気がするなぁ…)


レミリアに制御棒を奪われてるということに気付いていなかったのだ。
普通ならば能力を使う際に思い出すかもしれないが、今はさとりのことを考えている。
それ故に制御棒のことに意識を向けていなかったのだ。


だからこそ空は、『あること』に気付いていない。
制御棒を失ったことにより、『核融合』の能力が不安定になっているということに。
太陽の熱を制御し切れず、自らの体温が上昇しているということに。

核融合の強大な力はそのままだ。
しかしそれを制御する為の道具を、彼女は失ってしまった。


過ぎたる力は己の身を滅ぼす。
制御の力を失った空の行く末は、自らの能力による破滅か。それとも――――――



◆◆◆◆◆◆


◆◆◆◆◆◆



気がつけば、深い闇の中へと堕ちていた。

あの少年の攻撃が迫りくる中、私の意識は奈落の底へと飲み込まれていた。

あれから、幾許の時間が過ぎたのかも解らない。

自分が生きているのか、死んでいるのかすらも解らない。

だが、少しずつ世界への『認識』が始まっていた。

自らの自我が確かに『現世』に存在している様な実感が、不思議と感じられた。

私は、自分がどうなっているのかを確認することにした。

二つの眼を、弱々しく開いた。

その時―――私は、彼女を『見た』。




(……………お、くう……………?)




僅かに開かれる二つの眼。
彼女の視界は、自身を抱える『少女』の姿を捉えた。
『悪魔』の攻撃によって、長い間意識を闇へと沈めていた『古明地さとり』は――――ゆっくりと、覚醒し始めていた。



【D-4 魔法の森(中央)/早朝】
【霊烏路空@東方地霊殿】
[状態]:右頬強打、腹部に打撲(中)、波紋による痺れ(中)、疲労(大)、霊力消費(極大)、半乾き
    体温上昇(小)、僅かな罪悪感、さとりを抱えている
[装備]:制御棒なし
[道具]:基本支給品
[思考・状況]
基本行動方針:地上を溶かし尽くして灼熱地獄に変える。
1:さとり様を安全な場所まで連れて行く。
2:地霊殿の住人は保護する。
3:あの人間共(ジョナサン、億泰)と吸血鬼(レミリア)は必ず焼き尽くす。
 さとり様をこんな目に遭わせた奴も絶対に焼き尽くす。
4:地底の妖怪は邪魔しなきゃ見逃してやる。
5:ワムウ(名前知らない)は私が倒した(キリッ
6:さとりを保護したことによる無自覚の達成感と億泰を裏切ったことへの僅かな罪悪感。
[備考]
※参戦時期は東方地霊殿の異変発生中です。
※地底の妖怪と認識している相手は、星熊勇儀封獣ぬえ伊吹萃香です。
※空が使用したスペルカード『地獄の人口太陽』が上空に放たれたことによって、
 誰かが気づいたり、日光の影響を受けたりするかもしれません。
※制御棒の喪失により核融合の能力が不安定な状態になっています。
 その為、能力使用の度に核融合の熱によって体温が際限なく上昇します。
 長時間能力を使わなければ少しずつ常温へと戻っていきます。
 それ以外にも能力使用による影響があるかもしれません。

【古明地さとり@東方地霊殿】
[状態]:脊椎損傷による下半身不随?内臓破裂(波紋による治療で回復中)、妖力消費(中)、精神疲労(大)
[装備]:草刈り鎌、聖人の遺体(頭部)@ジョジョ第7部
[道具]:なし(基本支給品などの入ったエニグマの紙は、ディアボロに回収されました)
[思考・状況]
基本行動方針:???
1:おくう………?
[備考]
※参加者名簿をまだ確認していません。
※会場の大広間で、火炎猫燐、霊烏路空、古明地こいしと、その他何人かのside東方projectの参加者の姿を確認しています。
※参戦時期は少なくとも地霊殿本編終了以降です。
※読心能力に制限を受けています。東方地霊殿原作などでは画面目測で10m以上離れた相手の心を読むことができる描写がありますが、
このバトル・ロワイアルでは完全に心を読むことのできる距離が1m以内に制限されています。
それより離れた相手の心は近眼に罹ったようにピントがボケ、断片的にしか読むことができません。
精神を統一するなどの方法で読心の射程を伸ばすことはできるかも知れません。
※主催者から、イエローカード一枚の宣告を受けました。
もう一枚もらったら『頭バーン』とのことですが、主催者が彼らな訳ですし、意外と何ともないかもしれません。
そもそもイエローカードの発言自体、ノリで口に出しただけかも知れません。
※波紋による治療によって肉体疲労が完治しました。それに伴い、妖力消費や精神疲労も回復しました。
※『聖人の遺体』の頭部を懐胎しました。さとりにどのような影響が及ぼされたかは不明です。




<聖人の遺体(頭部)>
虹村億泰に支給。
スティールボールラン世界の北米大陸に散らばっている、腐ることのない聖人の遺体。
心臓、左手、両目、脊椎、両耳、右手、両脚、胴体、頭部の9つの部位に分かれて存在しているとされる。
手にした者の体内に入り込み、スタンド能力を発現させる、半身不随のジョニィの足を動かすなど、
数々の奇跡的な力を秘めているが、このバトルロワイアルではスタンド能力を新たに発現させることはできない。
但し、原作中で既に聖人の遺体によりスタンド能力を発現させていた参加者(大統領、ジョニィ)が
遺体を手放すことでスタンド能力を失うことはない。
現在は古明地さとりが装備中。

064:蓬莱の人の形は灰燼と帰すか 投下順 066:wanna be strong
062:Anxious Crimson Eyes~切望する真紅の瞳~ 時系列順 066:wanna be strong
052:空が降りてくる ~Nightmare Sun ジョナサン・ジョースター 098:深淵なる悲哀
052:空が降りてくる ~Nightmare Sun レミリア・スカーレット 098:深淵なる悲哀
052:空が降りてくる ~Nightmare Sun 霊烏路空 090:金色乱れし修羅となりて
048:お宇佐さまの素い足 ブローノ・ブチャラティ 098:深淵なる悲哀
048:お宇佐さまの素い足 虹村億泰 100:嘆きの森
048:お宇佐さまの素い足 古明地さとり 090:金色乱れし修羅となりて
040:Missing Powers サンタナ 083:デッドパロッツQ

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最終更新:2014年08月31日 20:49