行きて帰りし物語
「行きて帰りし物語」は、R・R・トールキンの「
指輪物語」に由来した名称で、主人公の内面的な
成長物語と
世界観の拡大に焦点を当てたジャンルです。
異世界での冒険を通じて、主人公は自己を発見し、新たな視点を獲得します。そして、その経験を元の世界に持ち帰ることで、両世界に影響を与えるという構造が特徴的です。
ブレイク・スナイダーの提唱する
金の羊毛ジャンルに似ていますが、独りで異世界に旅立つ部分など細かく違う要素があります。
必要な要素
No |
要素 |
説明 |
1 |
日常世界 |
・物語の開始点となる主人公の通常の生活環境 |
2 |
異世界 |
・主人公が冒険する非日常的な世界 ・ファンタジー要素や現実とは異なるルールが存在することが多い |
3 |
境界の通過 |
・日常世界と異世界を行き来する手段や瞬間 ・例:魔法の扉、異次元ポータル、夢の中など |
4 |
冒険と試練 |
・異世界での様々な経験や困難 |
5 |
成長と変化 |
・主人公の内面的・外面的な変化 |
6 |
帰還 |
・元の世界への復帰 ・しばしば当初とは異なる視点や価値観を持って戻ってくる |
テーマ
- 自己発見: 異世界での経験を通じて自分自身を知る
- 成長と成熟: 試練を乗り越えることによる人格的成長
- 現実世界の再評価: 異世界体験後に日常を新たな視点で見直す
- アイデンティティの探求: 自分の居場所や役割を見つける
- 責任と使命: 異世界での経験から得た使命感や責任
- 異文化交流: 異なる価値観や文化との遭遇と理解
- 変化の受容: 自身や周囲の変化を受け入れる過程
作品例
『千と千尋の神隠し』
『千と千尋の神隠し』は現代の小学生が異世界で働きながら生きる活力を取り戻す物語として、典型的な「行きて帰りし物語」の構造を持っています。
No |
要素 |
説明 |
1 |
日常世界からの出発 |
千尋は両親と共に引っ越しの途中で異世界に迷い込みます |
2 |
異世界への越境 |
トンネルを抜けて神々の世界に入ります |
3 |
試練との遭遇 |
両親が豚に変えられ、千尋は湯婆婆の油屋で働くことを強いられます |
4 |
冒険と成長 |
千尋は様々な困難を乗り越え、精神的に成長していきます |
5 |
報酬を得る |
ハクの本当の名前を思い出させ、彼を湯婆婆の支配から解放します |
6 |
日常への帰還 |
最後に千尋は両親を救い、元の世界に戻ります |
この構造は、主人公が日常世界を離れ、非日常の世界で冒険や試練を経験し、成長を遂げて再び日常世界に戻ってくるという「行きて帰りし物語」の基本的なパターンに完全に一致しています。
『千と千尋の神隠し』は、この古典的な物語構造を現代的に解釈し、豊かな想像力と独特の世界観で描き出すことに成功した作品だと言えるでしょう。
『バック・トゥ・ザ・フューチャー』
「バック・トゥ・ザ・フューチャー」は、ジョゼフ・キャンベルの「英雄の旅(ヒーローズジャーニー)」という物語構造に類似した要素を持っています。
この構造は、主人公が日常から冒険の世界に入り、試練を経て成長し、元の世界に戻るというパターンをたどりまます。
- 呼びかけ
- 主人公のマーティ・マクフライは、親友であるドク・ブラウン博士の発明したタイムマシンによって、1955年にタイムスリップします
- これは彼の日常から冒険への呼びかけです
- 試練と仲間
- 1955年でマーティは若い頃の両親と出会い、彼らの出会いを壊してしまいます
- これにより、自分が存在しなくなる危機に直面します。彼は両親を再び結びつけるために奮闘し、この過程で多くの試練を経験します
- 最も危険な場所への接近
- マーティは、両親を結びつけるためにダンスパーティでの作戦を立てます
- この時点で、自分自身が消えてしまうという命の危険も伴っています
- 宝を持っての帰還
- マーティは、両親を結びつけることに成功し、自身の存在を確保します
- 現代に戻ったマーティは、家族が以前よりも良い状態になっていることを発見します。これは彼が冒険から持ち帰った「宝」にあたります
このように、「バック・トゥ・ザ・フューチャー」は、主人公が冒険を通じて成長し、元の世界に戻るという「行きて帰りし物語」の典型的な構造を持っています。
また、この映画では「未来は自分たちで作り上げるもの」というメッセージが強調されており、この
テーマも主人公の成長と帰還に深く関わっています。
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最終更新:2025年02月11日 19:44