モラルハザード
モラルハザード(moral hazard)は、もともと保険や経済学の分野で用いられる概念で、リスクが補償される仕組みが存在する場合、人々がリスクを回避しようとする意識を弱めたり、非倫理的・非道徳的な行動を取る可能性が高まる現象を指します。
概要
この概念は、以下のような状況で発生します:
- 保険
- 自動車保険や医療保険に加入している人が、「損害が補償される」と考え、安全運転や健康管理への注意を怠る
- 経済政策
- 金融機関への公的資金注入が「失敗しても救済される」という期待を生み、経営者がリスクの高い行動を取る
- 社会制度
- 努力しなくても一定の生活水準が保証されている場合、人々の働く意欲が低下すす
モラルハザードは、
情報の非対称性(片方がより多くの情報を持つ状況)や救済制度の存在によって引き起こされることが多く、信頼関係や社会的規範を損なう要因となります。
物語創作におけるテーマとしての特徴
モラルハザードは物語創作においても、人間性や社会秩序に関する深い
テーマとして活用されます。その特徴は以下の通りです:
- 1. 倫理的ジレンマ
- モラルハザードは登場人物に「救済が保証されている状況で、どこまで倫理的行動を維持できるか」というジレンマを与えます
- たとえば、主人公が特権的な立場で不正行為に手を染めるか、それとも道徳を貫くかという選択に迫られる展開が考えられます
- 2. 権力と腐敗
- モラルハザードは権力や特権によって引き起こされる腐敗を描くテーマと親和性があります
- 透明化という力を持つ「ギュゲスの指輪」や『デスノート』のような絶対的な能力を持つキャラクターが、その力に溺れて堕落していく物語はその典型例です
- 3. 社会秩序と規範
- モラルハザードは、社会全体の秩序や規範が崩壊する危機感を描く際にも効果的です
- 例えば「罰から逃れられる状況」が広まった結果、社会全体が混乱し、主人公がその中で倫理観や正義について考えさせられるストーリーなどがあります
- 4. 内面的葛藤
- モラルハザードは登場人物の内面的な葛藤を強調するテーマでもあります
- 例えば「救済措置に甘えることで自分自身の価値観や努力が揺らぐ」という心理描写や「外面的成功」と「内面的幸福」の対比などがあります
- 5. 人間性と欲望
- 人間の本質的な欲望や弱さもモラルハザードによって浮き彫りになります
- 特権的な状況で「自分だけ得をしよう」とする利己的な行動と、それに伴う罪悪感や自己嫌悪など、人間性の複雑さを描くことが可能です
物語創作への応用例
以下はモラルハザードをテーマにした物語設定例です:
- 主人公が「すべて失敗しても救済される」世界で、自分自身の努力や倫理観に疑問を抱きながら成長していくストーリー
- 社会全体が「罰から逃れられる」特権を持つ状況下で、主人公だけが正義感からその特権に抗う物語
- 特定の能力(透明化、時間操作など)によって不正行為が可能になった主人公が、その力に溺れつつも最終的に自分自身と向き合う展開
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最終更新:2025年01月28日 11:19