トロッコ問題
トロッコ問題は、
倫理的ジレンマを問う有名な
思考実験です。
この問題は、ある状況下で多くの人を助けるために少数の人を犠牲にすることが許されるかどうかを考察します。
トロッコ問題の概要
- 基本設定
- 暴走するトロッコが線路上を進んでおり、そのままでは5人の作業員が轢かれてしまいます
- あなたは線路の分岐器の前に立っており、レバーを引くことでトロッコを別の線路に切り替えることができます
- しかし、その別の線路には1人の作業員がいて、レバーを引けばその1人が犠牲になります
- 選択肢
- レバーを引かずに何もしないで5人が犠牲になる
- レバーを引いて1人を犠牲にし、5人を救う
この問題は、行動の結果として多数を救うことが倫理的に正しいのか、それとも意図的に誰かを犠牲にすることは許されないのかという倫理的な対立(功利主義と義務論)を浮き彫りにします。
トロッコ問題における倫理的な対立は、主に功利主義と義務論という2つの倫理学的立場の違いから生じます。それぞれの立場は、行為の結果を重視するか、それとも行為そのものの意図や道徳規範を重視するかという点で対立しています。
功利主義と義務論という2つの倫理学的立場の違い
功利主義の観点
功利主義は、行為の結果を重視し、「最大多数の最大幸福」を追求する倫理学です。この立場では、トロッコ問題において以下のような判断がされます:
- 選択
- レバーを引いてトロッコの進路を変更し、1人を犠牲にして5人を救う
- 理由
- 5人を救うことで、犠牲者が1人の場合よりも幸福の総量が増えるため、結果的に最善の選択とみなされる
- 批判点
- 個人の権利や尊厳が軽視される可能性があり、「1人を犠牲にする」という行為そのものが道徳的に許容できないと考える人もいます
義務論の観点
義務論は、行為そのものの意図や動機、道徳規範を重視する倫理学であり、イマヌエル・カントによって体系化されました。この立場では以下のような判断がされます:
- 選択
- レバーを引かず何もしない(トロッコが5人に突っ込む結果になる)
- 理由
- 「罪のない人間を殺してはいけない」という普遍的な道徳規範に基づいており、たとえ結果として多くの命が失われたとしても、自ら積極的に1人を犠牲にする行為は許されない
- 批判点
- 結果としてより多くの命が失われる可能性があり、状況に応じた柔軟な判断ができないという指摘があります
対立の本質
この2つの立場は、「結果」と「意図」のどちらを優先すべきかという根本的な価値観の違いから対立します。
倫理学説 |
重視する要素 |
トロッコ問題での選択 |
功利主義 |
行為の結果 |
レバーを引いて1人を犠牲にする |
義務論 |
行為そのものと意図 |
レバーを引かず何もしない |
現代への応用と議論
トロッコ問題は単なる
思考実験に留まらず、自動運転車や医療倫理など現代社会にも応用されています。
例えば、自動運転車が事故回避時にどちらか一方しか救えない場合、功利主義的なアルゴリズム(被害最小化)を採用すべきか、それとも義務論的な原則(特定個人への加害回避)を優先すべきかという議論があります。
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最終更新:2025年03月13日 00:40