<疑惑>
殺風景な部屋の中で、丸い的が一つ立ち上がり、天井のライトで照らされる。
立ち上がった的は右へ左へと動き出す。
立ち上がった的は右へ左へと動き出す。
それから少し間を置いて、的の手前から一筋の光の矢が飛んできて、それを受けた的はぱたりと倒れる。
それと共に、どこからかぴろりんと甲高い電子音が流れてきた。
それと共に、どこからかぴろりんと甲高い電子音が流れてきた。
的が倒れると、新しく別な的が立ち上がって動き出し、それもまた光の矢で撃ち抜かれ、音が鳴った。
たまに矢が外れることもあったが。
たまに矢が外れることもあったが。
そんなことがしばらく繰り返された後、ブザーが一つ鳴り、的は立ち上がらなくなった。
「終了だ、宮田。 命中率は92%、だいぶ慣れてきたみたいだな」
部屋の中に、誰かの声が響き渡った。
部屋の中に、誰かの声が響き渡った。
的のずっと手前にいた宮田は、その声に応え、部屋を出た。
その手には、短い杖のようなものが握られていた。
その手には、短い杖のようなものが握られていた。
部屋を出た宮田は、先ほど彼に声をかけた男と合流した。
金髪で白衣を着た男だ。
金髪で白衣を着た男だ。
「おつかれさん。 どうだ? その、『セイヴァー・レイ』の使い心地は」
男が宮田に問いかける。
男が宮田に問いかける。
「はい、すごく使いやすいと思います。 軽いし、手になじむし……」
手に持った杖のようなものを見つつ、宮田は返事をした。
手に持った杖のようなものを見つつ、宮田は返事をした。
「そりゃ良かった。
じゃあ、色々調整済ませてから交流所に届けるから、それまで待ってな」
じゃあ、色々調整済ませてから交流所に届けるから、それまで待ってな」
「ありがとうございます、ロッシュさん」
宮田はセイヴァー・レイを金髪の男に渡しながら言った。
宮田はセイヴァー・レイを金髪の男に渡しながら言った。
メガネことアレン・インテジャーは、交流所が様々な敵に狙われていることを知り、
それらに対処するために新たな武器の開発を進めていた。
それが、セイヴァー・レイだった。
それらに対処するために新たな武器の開発を進めていた。
それが、セイヴァー・レイだった。
短い杖のような形をしたセイヴァー・レイには小さなボタンがついており、
それを押すことで、先端から光の矢を撃ちだす事ができる。
そのエネルギー源は魔力であり、弾切れをおこしても魔力を持つ者が補充を行うことができる。
それを押すことで、先端から光の矢を撃ちだす事ができる。
そのエネルギー源は魔力であり、弾切れをおこしても魔力を持つ者が補充を行うことができる。
メガネは少し前にこの武器を完成させており、テストのために宮田を呼び出していたが、
宮田も交流所の周りで次々と起こる事件の解決や、学校の勉強で忙しく、中々行くことができなかった。
しかし、宮田も最近になってようやく予定が空いたので、この日テストに参加しに行ったのだった。
宮田も交流所の周りで次々と起こる事件の解決や、学校の勉強で忙しく、中々行くことができなかった。
しかし、宮田も最近になってようやく予定が空いたので、この日テストに参加しに行ったのだった。
別な部屋に移った宮田は、テーブルのある席に座っていた。
そこにロッシュが湯気を立てるマグカップを二つ持ってきた。 どちらも中身はカフェオレだ。
マグカップ二つをテーブルに乗せ、ロッシュも席についた。
そこにロッシュが湯気を立てるマグカップを二つ持ってきた。 どちらも中身はカフェオレだ。
マグカップ二つをテーブルに乗せ、ロッシュも席についた。
「いいんですか、いただいてしまって」
「気にすんな。 テストに来てくれた礼だと思ってくれ」
「気にすんな。 テストに来てくれた礼だと思ってくれ」
ロッシュに促され、宮田はカフェオレに口をつけた。
宮田があまり自分からは喋らない人間だと知っていたロッシュは、学校のことや交流所のことを宮田に尋ねていた。
宮田もそれに答える。
宮田もそれに答える。
そうして、しばらく時間が過ぎ、二人がカフェオレを飲み終えようとした頃、二人に近づいてくる人物がいた。
「ロッシュさん、宮田」
二人の後ろから、誰かの声が聞こえた。
二人の後ろから、誰かの声が聞こえた。
声に反応し、振り向く宮田とロッシュ。
そこにいたのは、白衣を着て、度のきついメガネをかけ、白い毛をした猫の獣人―――メガネがいた。
そこにいたのは、白衣を着て、度のきついメガネをかけ、白い毛をした猫の獣人―――メガネがいた。
「お、メガネか。 どうしたんだ?」
「宮田が手渡したもののことで、話すことがあります。
あれは……ここで開発されたものです」
あれは……ここで開発されたものです」
「な……なんだって!?」
立ち上がるロッシュ。
立ち上がるロッシュ。
宮田は以前、仲間たちと共に霊竜オルト=クレゾール、そしてパラ=クレゾールの兄であるメタ=クレゾールの居る島へ向かった。
事の始まりは、オルトとパラがピラミッドで入手した神秘の箱に触れたことだった。
箱に触れた瞬間、オルトとパラの頭に情報が流れ込んだ。
二人は、長らく行方不明であったメタがとある孤島にいること、そしてそこから動けずにいることを知った。
そのため、オルトとパラは交流所の仲間たちも連れて、メタの様子を見に行ったのだった。
箱に触れた瞬間、オルトとパラの頭に情報が流れ込んだ。
二人は、長らく行方不明であったメタがとある孤島にいること、そしてそこから動けずにいることを知った。
そのため、オルトとパラは交流所の仲間たちも連れて、メタの様子を見に行ったのだった。
島に上陸した一行は、竜の姿のままぐったりとしているメタに出会った。
パラはメタの様子を見ている内に、彼の後ろ足に小さな機械がついていることに気づいた。
彼女がそれを取り外すと、メタは元気を取り戻した。
パラはメタの様子を見ている内に、彼の後ろ足に小さな機械がついていることに気づいた。
彼女がそれを取り外すと、メタは元気を取り戻した。
その直後、機械を取り付けた男が一行の前に現れた。
彼の名はドクター・アッチ。 ろくなことをしていない自称天才科学者であった。
アッチは自分で造った巨大ロボを呼び出して一行に戦いを挑んだが、あっさり返り討ちにあった。
彼の名はドクター・アッチ。 ろくなことをしていない自称天才科学者であった。
アッチは自分で造った巨大ロボを呼び出して一行に戦いを挑んだが、あっさり返り討ちにあった。
しかし、メタについていた機械のことが気になったパラは、宮田にそれをメガネに調べてもらうよう頼んだ。
今回宮田はテスト参加のついでに、機械をメガネに調べてもらっていたのだ。
今回宮田はテスト参加のついでに、機械をメガネに調べてもらっていたのだ。
メガネは冷静に言葉を続ける。
「あの機械は…… ここで開発されていた魔力抑制デバイスです。
しかも、まだこの研究所から外には出ていないはずのものです」
しかも、まだこの研究所から外には出ていないはずのものです」
「マジ、かよ…… どっから漏れたんだ……!」
「それについて、十分後に緊急の会議を行うことになりました。
会議室への移動をお願いします」
「……わかった。 すまん宮田、そういうわけだから……」
「はい……今日はもう帰りますね」
「それについて、十分後に緊急の会議を行うことになりました。
会議室への移動をお願いします」
「……わかった。 すまん宮田、そういうわけだから……」
「はい……今日はもう帰りますね」
宮田は施設の外に出た。
「……さてと、行くぞ」
ロッシュとメガネは廊下を歩いていき、会議室に向かった。
ロッシュとメガネは廊下を歩いていき、会議室に向かった。
ロッシュとメガネは会議室に入った。
そこには、既に十数人の研究員や技術者達が集まっていた。
皆、長方形状に設置された長いテーブルの周りの席に座っている。
皆、長方形状に設置された長いテーブルの周りの席に座っている。
「来ましたね、アレン君、ロッシュ君。 空いてるところに座ってください」
部屋の前方、ホワイトボードの近くに座っている初老の男性が、二人に言った。
彼に促され、メガネとロッシュは席についた。
部屋の前方、ホワイトボードの近くに座っている初老の男性が、二人に言った。
彼に促され、メガネとロッシュは席についた。
来るべき者が全員来たのを確認し、初老の男性は口を開いた。
「さて…… 今回、大変残念な事が起こってしまいました。
ここで開発されていた魔力抑制デバイスが、何者かの手によって流出する事態が起きたのです」
ここで開発されていた魔力抑制デバイスが、何者かの手によって流出する事態が起きたのです」
男性は言葉を続ける。
「デバイスの試作品は全て保管庫で管理されています。
それらは、一つたりとも持ち去られてはいません。 となると……」
それらは、一つたりとも持ち去られてはいません。 となると……」
「……作り方だけ持ち出して別なところで作った、ということでしょうか」
研究員の一人が口を挟んだ。
研究員の一人が口を挟んだ。
「そう。 おそらくはそうでしょうね」
「しかし、あのデバイスの設計図はネットワークから切り離された記憶装置に保管されていました。
コピーができないようプロテクトもかけられていたはずです。 それがなぜ?」
他の研究員も口を開く。
コピーができないようプロテクトもかけられていたはずです。 それがなぜ?」
他の研究員も口を開く。
「プロテクトを破った、としたら……何かしら痕跡は残るでしょう。
でも、それだったらもう、とっくの昔に流出したことがわかっているはずです。
詳しく調べてみないことにはわかりませんが……」
でも、それだったらもう、とっくの昔に流出したことがわかっているはずです。
詳しく調べてみないことにはわかりませんが……」
「カール所長」
ロッシュが初老の男性―――カール所長に話しかけた。
ロッシュが初老の男性―――カール所長に話しかけた。
「少し、俺に調べさせてもらえませんか?」
会議は終わり、カールとロッシュ、メガネはある部屋に向かっていた。
ロッシュは背中に、白いドーム状の物を背負っている。
ロッシュは背中に、白いドーム状の物を背負っている。
目的の部屋の扉を開けると、その中には絶え間なくライトを点滅させる黒い大きな箱がいくつもあった。
「……所長、その魔力抑制デバイスのデータが入ってたのは?」
「ああ、こちらの……『DB1028』というラベルが貼ってあるのですね」
と言って箱の一つに近づき、それを指差すカール所長。
「ああ、こちらの……『DB1028』というラベルが貼ってあるのですね」
と言って箱の一つに近づき、それを指差すカール所長。
「わかりました。 ちょっとコラプター入れますよ。
メガネ、協力してくれ」
メガネ、協力してくれ」
言い終わると共に、ロッシュが背負っていた物から、灰色の触手のようなものが何本も出てきた。
触手は箱にいくつか空けられていた穴から箱の中へと入っていく。
一方メガネは、鞄からノートパソコンを取り出し、ロッシュが背負っている物からケーブルを伸ばしてそれに繋いだ。
触手は箱にいくつか空けられていた穴から箱の中へと入っていく。
一方メガネは、鞄からノートパソコンを取り出し、ロッシュが背負っている物からケーブルを伸ばしてそれに繋いだ。
触手はどうやらロッシュの意思に応じて動いているようだ。
箱の中に入った触手を、あちこちに動かすロッシュ。
メガネは、目まぐるしく変化するノートパソコンの画面を見つめ、素早く何かのメモを取っている。
箱の中に入った触手を、あちこちに動かすロッシュ。
メガネは、目まぐるしく変化するノートパソコンの画面を見つめ、素早く何かのメモを取っている。
しばらくして、触手はロッシュの背負ったドーム状の物の中へ戻っていった。
「どうですか、ロッシュ君、メガネ君?」
カールがメガネとロッシュに尋ねた。
カールがメガネとロッシュに尋ねた。
「んー、と…… よし」
ロッシュはメガネからメモを受け取り、それを読んでしばらく考えた後、口を開いた。
ロッシュはメガネからメモを受け取り、それを読んでしばらく考えた後、口を開いた。
「プロテクトが破られた形跡はありませんね。 ですが、それでもデータを盗まれた可能性はあります」
「……というと?」
「今俺がやったみたいにして、ですかね。
俺が今使ったこのコラプターは、記憶装置の中身を直接覗いたり、電気信号の流れを見たりできるんです。
そうすりゃわざわざコピーなんかしなくても、データ盗めちまうでしょう。
……あ、俺はやってませんよ? 俺だって例のデバイスの危険性は知ってますから」
「……というと?」
「今俺がやったみたいにして、ですかね。
俺が今使ったこのコラプターは、記憶装置の中身を直接覗いたり、電気信号の流れを見たりできるんです。
そうすりゃわざわざコピーなんかしなくても、データ盗めちまうでしょう。
……あ、俺はやってませんよ? 俺だって例のデバイスの危険性は知ってますから」
「……逆に言うと、コラプターの技術が盗まれた可能性もある、ということですね」
メガネがぽつりと言う。
メガネがぽつりと言う。
「かもなぁ…… でも、こいつに関しては設計図とかはパソコンに残さないで、全部紙に書いただろ。
ハッキングの道具の作り方をハッキングできるモンに入れとくのはどうかと思ってよ」
ハッキングの道具の作り方をハッキングできるモンに入れとくのはどうかと思ってよ」
「……しかしこうなると、この場で今すぐ犯人を捜す、ということは難しいでしょうな。
はぁ……なんということだ」
暗い表情になるカール。
はぁ……なんということだ」
暗い表情になるカール。
「……気を落とさないでください、所長。 俺とメガネで調査してみます。
いいよな、メガネ」
「はい…… やりましょう」
「すみませんね…… お願いします」
いいよな、メガネ」
「はい…… やりましょう」
「すみませんね…… お願いします」
三人は部屋を後にした。
一日が終わろうとしていた。
施設の中に用意された自分の個室に、ロッシュはメガネを招きいれていた。
「はぁ、あれから色々調べてみたが手がかりは特になーし、かぁ」
ため息をつくロッシュ。 メガネは特に反応しない。
ため息をつくロッシュ。 メガネは特に反応しない。
「なぁ、メガネ」
声をかけられ、メガネは何も言わずにロッシュの方を向く。
声をかけられ、メガネは何も言わずにロッシュの方を向く。
「今後、さ……交流所の連中とも連絡を取り合うようにしたいと思うんだ。
あそこの連中って、よくこの辺りで起こる事件とか解決してんだろ?
もしかしたら……これから交流所の連中が、この事件の犯人に関する手がかりを手に入れるかもしれないって思うんだよ」
あそこの連中って、よくこの辺りで起こる事件とか解決してんだろ?
もしかしたら……これから交流所の連中が、この事件の犯人に関する手がかりを手に入れるかもしれないって思うんだよ」
「……そうかも、しれませんね」
あまり感情のこもっていない声でロッシュに返事をするメガネ。
あまり感情のこもっていない声でロッシュに返事をするメガネ。
「だからさ。 今度、あそこに行ってみるわ。
あそこの連中に力を貸すために、さ……」
あそこの連中に力を貸すために、さ……」
そう言って、ロッシュは椅子で船漕ぎを始めた。
<おわり>