-----2年前。
AM10:10。曇り空の下、墓地の中心で一人の少年が、片手剣を手に、4体の骸骨…スケルトンと対峙していた。
少年は装備こそ粗末な物のようではあるが、その瞳は敵を既に捉えている。
少年はしばらく目の前の怪物を睨みつけると、大きく深呼吸をした。
そして…
少年「うおおっ!」
片手剣を振り上げ、飛びかかる。
着地と同時に剣を振り下ろし、一体の首を跳ね飛ばした。頭部を失ったスケルトンは少し間を置いてから崩れ落ちる。
しかし少年はすぐさま剣を横薙ぎに払い、2体の膝から下をかっ捌いた。
支えを無くしたスケルトンも前のめりに倒れ、バラバラに。
残るは少し遠い間合いにいる一体のみ。…のはずだった。
一気に間合いを詰めようとした少年の足が、突然地面から出てきた手に掴まれた!
少年「うっ、うわっ…!」
少年は完全にバランスを崩し、コケてしまう。
その隙を残されたスケルトンは見逃さず(目などとっくに腐って無くなっているが)自身の肋骨を一本外し、
少年の頭に突き立てた…かと思われた。
…が、ゴトッ、という音と共に最後のスケルトンの頭も落とされた。
少年がそれに気付くと冷静さを取り戻し、片手剣で自身の足を掴んでいた手を切断し、立ち上がる。
彼の目の前には、紫色の髪の女性がやや呆れ顔で少年を見ていた。その手には冷たく輝く両手剣(彼女は片手で持っているが)が。
女性が口を開いた。
女性「やれやれ… この辺りのゾンビは他の個体と連携を取れるほど賢いから気を付けろ、と何度も言ったはずだけどね…レニア。」
レニアと呼ばれた少年は決まりが悪そうにそれに答える。
彼は2年前、貧しい家族のため冒険者を目指して故郷の荒野を飛び出し、メビウスに出会った。
現在はメビウスに見守られる形で冒険者としての経験を積んでいる。
レニア「はあ…悪かったよ、ちょっと油断してたんだ、メビウス。」
メビウスと呼ばれた女性は頭に手を当て、首を横に振った。
彼女はレニアの先輩といった立場で、しばしば面倒を見ていた。
女性な冒険者として26歳という若さながら、実力者として知られ、人気も高い。…主に女性人気が。
メビウス「…そんなことじゃ、高難度ダンジョンなんてとてもじゃないが連れていけないな」
レニア「おいおい、そりゃ無いぜ… まあ、これで今回の仕事は終わりだろ?」
そう言うとレニアは転がっているスケルトンの頭を拾い、大きめの麻袋に投げ込んでいく。
一通り終わると、二人は墓地を出た。
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ミュヴェール。過去の戦争で砦として建てられたが、終戦後、位置的に商人が足を運びやすく、瞬く間に賑わうようになった城塞都市だ。
その街の中央にかなりの広さの酒場のような建物があり、レニア、メビウスはカウンターで先程の麻袋と銀貨や銅貨とやり取りしていた。
---冒険者ギルド。PM16:40。
数十年前、時の王が考案した、従来から存在した冒険者を職業として認め、支援する代わりに、
未開の地を探索したり、魔物の討伐をさせるなどで国家に貢献させる仕組み。
その要となる組織、及び施設を言う。
そこで冒険者は、自分たちの功績の見返りををある時は現金で、ある時は貴重なアイテムで受け取る、という訳だ。
そこの施設から出てきたレニアは、掌にある銀貨や銅貨を見つめ、ぼやいているようだ。
ちなみにメビウスは他の仕事があるため、ギルドで別れた。
レニア「あーあ… スケルトン15体討伐の報酬が銀貨6枚銅貨8枚かよ…うわっ!?」
掌のコインを見つめたまま歩いていると、何か金属のような物にぶつかり、尻餅をついてしまった。
その拍子に、コインが何枚か下水道に落ちてしまう。
レニア「あ、ああっ、俺の今日の食費が… くそっ、何なんだよ!」
そう言って自分がぶつかった物を確認する。
彼がぶつかったのは、青い甲冑に身を包んだ騎士だった。
騎士「す、すみません。大丈夫ですか…?」
レニア「俺は何ともないが…どうしてくれるんだ!俺の稼ぎが…!」
騎士「そんな事言われても… 前方不注意だったのは貴方でしょう…!」
二人は口論を始め、だんだんと野次馬が周りに集まってきた。
そして…
憲兵「こらーっ、貴様ら何をやっている!!」
巡回中の憲兵が騒ぎを聞きつけ飛んできた。
レニア「げっ、面倒なのが…」
騎士「……」
二人が憲兵に気付くと同時に、野次馬が憲兵に事の一部始終を伝えた。
それを聞いて憲兵は…
憲兵「…何にしろ、ぶつかって絡んだのは貴様なのだろう?今日はついてきてもらおうか。」
レニア「な…」
…レニアは留置所に連れられてしまった。
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留置所。---PM20:25。
面会室にて、レニアはメビウスと面会していた。
メビウス「はあ… 本当に君は何をやってるんだか…」
レニア「…すまない」
今度はさすがに反省しているようだ。
メビウスは言葉を続ける。
メビウス「過ぎたことはまあ、いいさ 明日の昼までだろう?それまで頭を冷やすんだね
…そんな事より、私が5日間、遠征に出ることは知っているね?」
なんでもメビウスは王直々に、大型モンスターの討伐を命ぜられたらしい。
レニア「ああ…それまで留守をしてろって言うんだろ? 分かってるよ…」
メビウス「…本当にわかってるのか疑問だがね…」
そう言うとメビウスは、立ち去った。
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メビウスと入れ違いに、先程の憲兵が入ってきた。
レニア「…何の用だよ。」
憲兵「貴様に差し入れだ。検査のために包装は破ったがな…」
憲兵はレニアに直方体の箱を手渡した。
箱には小さいカードが止めてあった。
レニア「何…
先程の非礼をお許し下さい。
直接面会しようともしたのですが、更なるトラブルの悪化を防ぐ為だとして、憲兵の方に止められてしまいました。
フィー・F・ファーランド』…ね」
ちなみに差し入れはクッキーだった。
生まれが貧しかったので、甘い物をあまり食べられなかったレニアは、内心悪い気がしなかった。
が、2年後、彼はクッキーを見る度拒否反応を見せる程の『クッキー恐怖症』に陥ることを、まだ誰も知らない。
レニア「…あいつにも、悪いことしたな」
憲兵が去るとそう呟き、少し硬いベッドに横になった。
しかし日が沈んでから急に生じた雨が屋根を叩き、なかなか寝付けない。
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AM0:15。ミュヴェール郊外の湿地。
大雨がミュヴェール市内を襲っている頃、沼から巨大な『何か』が沼から這い出でてくる。
ソレは、首をもたげると、獲物を探しに動いた。
…向かう先にあるのは、寝静まったミュヴェールだった。