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更新日:2021/05/18 Tue 23:19:13
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セブンスカラー
セブンスカラー
満点の星空が広がる黒と群青の夜空をピンクの光が妖しく照らしていた。
そしてその光の出所に目をやると、吸い込まれそうな程漆黒の穴がピンクの光を放ちながら現れていた。
さらにその近くでは火花が散り、光が飛び交っていた。
「あらあら、どこから嗅ぎ付けたのかしら。お鼻がいいこと。」
笑みを浮かべながら敵に向かって光線を放つピンクのドレスを纏う貴婦人のような緑色の十字の目をもつ怪物、スピカはさらに攻撃の手を強める。
「たぁあ!」
気合い一閃。スピカと対峙する恐竜の意匠が施された紫色のドレス、“ティラノカラー”の龍香はスピカの放った光線を“タイラントアックス”で弾く。
《スピカの奴、何をしようとしてやがる!》
龍香の頭についている恐竜の頭蓋骨のようなヘアアクセ、カノープスが叫ぶ。一方で白い戦闘スーツ“デイブレイク・ネメシス”を纏った雪花と烏のようなマスクをつけた黒鳥はスピカが放った人形達を相手にしているため、中々龍香への救援に駆け付けに行くことが出来ない。
「ホント、どうなってんのよアレ!」
「分からん!だが、止めねばロクな事にならんのは目に見えている!」
黒鳥は叫ぶと翼を広げ、それを刃のように硬質化すると振り回して人形達を切り裂く。雪花もそれに続いてチェンソー型大剣“マタンⅡ”で人形を斬り伏せる。
「ふふ、そろそろ、ね。」
スピカは微笑むと、何処からか赤い珠を取り出す。そしてそれに念を送ろうとした瞬間脳裏に声が聞こえてくる。
《スピカ。どういうつもりですか。》
「あら、プロウフ。」
念を送ったプロウフにスピカが返事をすると、プロウフは続ける。
《私のリソースの一部が欲しいといったかと思えば今度は時空間に穴を開ける。あなたは何をしようとしているのです?》
「安心して、プロウフ。貴方達に危害を加えないわ。この計画は、ね。」
《答えになっていませんよスピカ。もし真意を明かさないなら。》
スピカはプロウフのその言葉にふと、上の方を見ると、切り立った崖の上の方に数体の影が見えた。
蠍の怪物、弓矢を構えた怪物、魚のような怪物、アンタレス、ルクバト、アルレシャが並んでいた。
《力ずくで止めさせて頂きます。》
「流石プロウフ。手が早いわね。けど。」
スピカはそう言うと赤い珠を天高く掲げる。すると赤い珠はより一層強い赤い輝きを放ち、後ろの穴が周りの物体を吸い込み始める。
「な、何!?」
あまりの吸引力に全員は立っていられず、思わず膝をついてしまう。
「す、吸い込まれる!?」
全員が何とか吸い込まれないように四つん這いに耐えている中、スピカは笑いながらその穴の中へと吸い込まれてしまう。
「うっ、に、が、すかーっ!」
それを見た龍香はスピカの狙いはこの穴の奥にあると睨み、立ち上がると思い切り飛び上がり、スピカに続くように穴へと吸い込まれる。
「ちょっ、龍香!」
雪花が叫ぶが、時既に遅く龍香は穴の中へと完全に吸い込まれてしまう。
「きゃあああああ!?」
《どああああああ!?》
龍香とカノープスは叫びながらその穴へと消えてしまう。それと同時に穴も完全に閉じ、光も消える。
「龍香・・・。」
呆然とする二人。
だがそんな二人を物陰からみる一つの影があった。
「・・・」
か・・・うか!・・・ゅうか!
何処からか声が聞こえる。私、どうなったんだっけ?と龍香はぼんやりとモヤがかかる頭で今までのことを思いだそうとする。
龍香!おい!しっかりしろ!
その間にも自分を呼ぶ声は大きくなる。なんだったら身体を揺さぶられる感覚もする。揺さぶられることで徐々に意識がモヤから浮上し、しっかりしてくる。
そうだ。確かスピカとか言うシードゥスが逃げ込んだ時空の穴にスピカを追いかけるために入ったんだった。
そして龍香は重たい瞼を開け、目を覚ます。
「目が覚めたか!」
そして目に映し出されたのは、自分を抱える恐竜の骸骨を全身の至る所に張り合わせたような外見の紫色の怪物だった。
「うっ、ぎゃああああああ!!?し、シードゥス!?」
龍香はビックリして飛び上がると一気に離れて距離を取る。そして頭についてあるだろうカノープスに触れて魔龍少女へと変身しようとするが、頭を触って気づく。
そう、カノープスがいない。
「あ、あれ?カノープス!?」
「おい!龍香!俺だ俺!カノープスだ!」
カノープスがいないことに慌てる龍香に目の前の怪物が自身を指差して名乗る。パニックになっていた龍香だが、目の前の怪物から聞こえる声に聞き覚えがあることに気づく。
「えっ、その声・・・ホントにカノープス!?えっ!?でもなんで身体があるの!?」
「お前が驚くのも無理ない。俺も正直ビックリしてる。だが、もしかしたらこの空間のせいかもな。」
カノープスが龍香に周りを見るように顎を前に出す。言われた通り周りの光景を見て、龍香から思わず声が漏れる。
「何これ・・・」
そこは摩訶不思議な空間だった。龍香の身長の何倍もはあろうかというホールケーキやチョコレートが塗りたくられた棒が乱雑に生え、クッキーが道路のように敷かれている様はさながら子供が想像するお菓子の国、と言った感じだがそこから漂う妖しげな雰囲気はどう考えても楽しい場所とは程遠いように思えた。
「訳の分からん空間だ。どうやら俺達はとんでもない空間に飛ばされたらしいな。」
「う、うん。・・・これからどうしようか?」
取り敢えずスピカを逃がさない一心で突っ込んだため、具体的なことを考えていなかった龍香はカノープスに尋ねる。
「取り敢えずスピカの野郎を探しだしてぶっ飛ばす。多分だが、アイツの行動を見るに奴がもっている赤い珠がここを行き来する鍵になる・・・と思う。」
カノープスの推測は龍香も正しいように思えた。スピカがあの赤い珠を掲げるとあの穴はそれに反応するように吸い込み始めた。つまり、あの珠が鍵であると龍香も感じた。
「とにかくここから移動するぞ。」
カノープスが立ち上がり、龍香と歩きだそうとした時だった。いきなり周りの地面がポコポコッと盛り上がったかと思うと地面から白いヤドカリのような見た目の怪物が現れる。違和感をあげるとすれば龍香の腰ほどに背丈が大きく、そして殼がアポロチョコのようになっていることか。
「龍香!」
カノープスは直ぐ様龍香とヤドカリの間に立つ。目の前のヤドカリはハサミをカチカチと鳴らしながらこちらに向かって来ている。どう見ても仲良く出来そうな相手ではない。
「カノープス!変身は・・・!」
「してやりてぇとこだが今は無理だ!今の俺はお前に“安全”に変身する力を与えてやる程器用じゃねぇ!」
その間にもジリジリとヤドカリは迫ってくる。意を決してカノープスが飛びかかられる前に打って出ようとしたその瞬間。
「とぉーッ!」
上から気合い一閃の叫び声と共に何かが降ってくる。そしてそれは落下の勢いそのままヤドカリに痛烈な蹴りを叩き込んだ。
その鋭い一撃はヤドカリの殼を破ってその身体にめり込んでおり、いかにその一撃が痛烈であったかを悠々と物語っていた。
降ってきたのは頭から犬のような耳と、黒い髪をポニーテールにした快活そうな表情の少女だった。
「ハァッ!」
そして少女はそのまま蹴りを入れたヤドカリを足蹴にして他のヤドカリに膝蹴りを叩き込む。
ヤドカリ達は瞬く間に二匹もやられたことに驚いたのか、そそくさと逃げようと地面を掘るが、それより先に女児の拳や蹴りが叩き込まれ、あっという間に全員が地面に転がる。
「つ、強い・・・」
そして、少女はふぅと一息つくと今度は物凄い速さでカノープスに裏拳をかましてぶっ飛ばす。
「ぶべらぁ!?」
「か、カノープス!!」
ぶっ飛ばされたカノープスと龍香の間に入るように少女はポジションを取る。龍香に背を向けながら少女は龍香に言う。
「君、大丈夫!?怖かったと思うけど私が来たからにはもう安心だよ!」
「え、いや。」
「見たことないモンスターだけど、この私に見つかったのが運の尽き!成敗してやるだよ!」
どうやらこの娘は龍香がカノープスに襲われていたと勘違いしているらしい。まぁ確かにカノープスの凶悪な見てくれはどう見積もってもヒーローには見えない。
けど、誤解は解かなくてはならない。
龍香は自鼻を鳴らす少女におずおずと申し出る。
「あ、あの。実は」
「ん?」
龍香が見てくれは凶悪だが、私の味方である旨を伝えると少女は きょとんと眼を見開き、二人を交互に見て・・・凄い勢いで頭を下げる。
「ご、ごめんだよー!!見た目がもうスッゴい凶悪だから敵だと思っちゃって・・・!」
「し、仕方ないですよ。正義の味方って面構えじゃないですし。」
「悪かったな。凶悪な面構えで。」
ぶたれた頬を擦りながらカノープスは龍香の方へ歩いてくる。猛烈な勢いでかっ飛ばされた割にピンピンしていることから、大したダメージにはならなかったらしい。
「それにしても・・・君達見ない顔だけど、何処から来たのだよ?迷い込んじゃった感じ?」
「え」
その質問に龍香は固まる。どう答えようか。と言うかむしろここが何処なのかこっちが聞きたい・・・そんな風に思っていると。
「察しの通り俺達は迷い込んじまってな。ここが何処なのか・・・そして出来れば帰る方法を知りたい。」
「あっ、やっぱり迷い込んじゃった感じ?」
カノープスが少女に答える。
(ちょ、ちょっとカノープス!)
(別に間違っちゃないだろ。それに、アイツの口振りから誰かが迷い込むのは珍しくもないみたいだしな。帰れる方法は知っとくに越したことはない。)
なんて二人で小声でこそこそ話しているが、少女は特に気にした様子もなく二人に背を向けて歩き出すと手をこまねいてついてくるようジェスチャーする。
それに従い二人は少女と共に歩き出す。
「取り敢えず力になれそうな人の所へと案内してあげるだよ!あ、私の名前はだよロリ犬!そして」
だよロリ犬と名乗った少女は手を広げてお菓子が広がる一見楽しそうに見えて不気味な雰囲気を放つ空間で、手を広げて言う。
「ようこそ。“オウマがトキ”へ。」
「ふぅ、こんな所かしら。」
とある一角。お菓子や、良くわからないキラキラしたものが森のように生い茂る地帯でスピカは一息つく。
だがスピカの回り一帯は焦げ跡と破壊痕が色濃く刻まれ、これまたお菓子と動物を組み合わせたような怪物が転がっている。
そして目の前ではスピカお手製の人形達が陣地を形成すべく動いている。
スピカはフッと微笑むと後ろの人物へと振り返る。
「それにしても、助かったわ。貴方がいたお陰で拠点の目処が立って、その上拠点作成まで手伝ってもらっちゃったし。」
スピカが振り返った先にいた少女の肩に手を置いて労いの言葉をかける。その少女は長く、そして炎のように赤い髪をしており、その肌は陶磁器のように白くまるで人間味を感じさせない美しさを際立たせている。だが、普段であれば誰もが息を飲むような美しい顔は今、眉間に皺をよせて不機嫌を露わにしている。
「別に。アンタが協力してくれたらその赤い球を返してくれるって言うから手伝っているだけだし。」
「あら、つれないのね。」
少女・・・アルタイルが睨み付けるも、スピカは飄々とそれを受け流すと何処から取り出した赤い球をしげしげと見つめる。
「ま、これは私の好奇心を満たす“新しい世界”に行くための切符のようなものだから、使い終わったら返すわ。」
「そう・・・それで、一つ聞きたいんだけど。」
「何かしら。」
「それ。何処で手に入れたの。」
アルタイルがスピカに尋ねる。たが、その瞳には何処か有無を言わせないような鋭い眼光が見えた。
「フフっ。知りたい?まぁ、教えてあげるのも良いけど・・・」
だが、スピカは一切怯む様子はなく、それどころか逆にアルタイルの瞳を覗き込むように顔を近づける。
その十字の光を湛える仮面のような顔に近づかれ思わずアルタイルはギョッとなるが、スピカはそのまま自身の口元に指を近づけて悪戯っぽく囁く。
「次のお願いを聞いてくれたら教えてあげる♥️」
「着いたのだよー!」
だよロリ犬に案内されるままに二人はどでかい喫茶店の前まで案内される。目的地にたどり着いただよロリ犬が二人の方を振り返ると、そこには頭を抱えて唸る二人の姿が。
「どしたのだよ?疲れたのだよ?」
「いや、だよロリ犬さんに教えて貰ったここの説明が・・・」
「俺が言うのもなんだがなんて理不尽で意味不明な世界なんだ・・・。」
カノープスが額を押さえながら唸る。
だよロリ犬が話すにはここは異世界で、あらゆる次元に通じる夢のような世界。たからか時々人が迷い込んでくることがあるそう。
しかもさっき自分達がいたのはなんでも敵も風景も全てがお菓子で出来ているリビングスイーツなる空間らしく、たまに迷い込む人を助けるためにだよロリ犬はパトロールをしているんだとか。
「訳が分からん。その一言に尽きる。」
「アハハ!大丈夫!正直私も良く分かってない!」
「大丈夫なのかな・・・」
「まぁまぁ!考えても分かんないこと考えたってしょうがないだけだよ!」
だよロリ犬は笑いながらそう言うとガチャリとドアを開けて中へと進む。
開けると同時にカランコロンと鈴の音が店内に鳴り響く。
店の中は普段よく見るモダン形式のカウンターや、洋風のソファが置いてある一般的によく知られている喫茶店のような内装…なのだが、周りの壁が虹色のサイケデリックな色合いに彩られ、龍香とカノープスの視界にある種の暴力的な風景を叩き込んでくる。
「お、おう…」
「いらっしゃいませー!!」
二人が面食らっていると奥の方から元気の良い声と共に一人の少女が出てくる。
あどけなさと元気の良い快活さを感じさせる笑顔を浮かべながら白と黒が入り雑じったショートヘアーの女の子が現れる。
只一般人と違うところで言えば頭と背から黒と白の翼を生やし、足が猛禽類のソレになっていることか。
「あれ?“よそ”からのお客さん?」
その少女は龍香達に目を向ける。
「にしちゃあ随分と厳ついね、君。」
「…俺そんなに厳つい?」
少女の言葉にカノープスが龍香に尋ねる。カノープスの表情は恐竜の頭蓋骨を張り付けたようなかなり厳つい顔をしており、怖いか怖くないかで言うともう無茶苦茶怖い。
「うん、厳つい。」
「そっかぁ…。」
ションボリするカノープス。少女が二人をマジマジと見つめていると、また奥の方から別の少女達が出てくる。
しかも今度は肌の色が赤だったりピンクだったり、カラフルな上に見た感じ質感は滑らかでまるで水飴のようだった。
自分達に近そうで、遠い存在。そんな少女達に二人はさらに身構える。だが、その少女達の内一人、ピンク色の元気そうな少女が口を開く。
「あれー?アンコちゃん、お客さん?随分と久し振りだねー!」
「プラム。案内してあげなさい。」
水色の物静かそうな少女が、ピンクの少女、プラムに案内するように促す。
「い、いや。私達は。」
「私と同じピンクの髪で可愛いね!私はプラム!よろしくね!んで、水色のがフロートお姉ちゃん!そして黒と白の子がアンコちゃんだよ!」
「う、うん。」
「ここは良いとこだよ!メニューも沢山あるから気軽に頼んでね!」
「うん。ありがとう。けど、今私達が知りたいのは」
二人が喫茶店に用があるのではなく、元の世界に帰る方法を知りたい、そう言おうとした瞬間だった。
またもやカランコロンと鈴の音が鳴る。こんな所に客が来るのか、という気持ちとどんな客か見てみたい、という好奇心から二人が振り返るとそこには赤い一つ目の女性の体つきをした人形が数体現れる。
「お、またお客さんとは珍しいだよ。」
事情を知らないだよロリ犬がそんな人形達を見てもの珍しそうな顔をする。
だが、事情を知っている龍香とカノープスの二人の顔色は一気に変わる。
「みんな避け」
龍香が叫ぶより早く人形が槍を取り出し龍香に向けて突き出す。だが、その槍は龍香に届くより先にカノープスに蹴り飛ばされて明後日の方向に突き刺さる。
そしてカノープスは槍を突き出した人形の顔面を思い切り殴って吹っ飛ばす。
「龍香!下がってろ!」
カノープスはそう叫ぶと龍香の前に立つ。一拍遅れて、突然目の前で起こった狼藉にプラムが悲鳴をあげる。
「な、何!?何なの!?」
「!」
色鮮やかな飴色の少女達が騒ぐ中、完全に戦いの火蓋は切って落とされ、人形達が堰を切ったようにカノープス達に襲い掛かる。
「やっぱ俺達が狙いか!」
カノープスが身構え、迎撃しようとするとそれより先にだよロリ犬が動き、人形の一体を蹴り飛ばす。
「だよロリ犬さん!」
「なんだか知らないけど!力になるよ!」
だが残る数体がカノープスに襲い掛かる。人形の攻撃に対し、カノープスは腕や足で弾くと人形の一体を掴んで思い切り振り回して別の人形に叩きつける。
「はっ、ブランクはあるがお前らごときこの俺の敵じゃねェ!」
カノープスは次々と襲い掛かる人形達を蹴散らす。その様子を後ろから龍香が見ていると、ドンと何かに当たる。
何に当たったのかと後ろを振り返るとそこにはいつの間にか回り込んでいた人形の姿が。
「やっ」
心の何処かで間に合わない、と思いつつも龍香が逃げようとしようとした時だった。
「えいっ!」
パコンと間の抜けた音がする。見れば先程の黒と白の翼の少女がフライパンで人形の後頭部を殴り付けていた。
だがその間の抜けた音に反して中々の威力だったらしく人形が怯む。
「こっちこっち!」
声がする方を見ると龍香に対して先程のピンク色の少女が物陰に隠れており、こちらに手招きをする。
龍香はちらと人形を一瞥した後手招きに従って駆け出す。
「カノープス!」
「!」
龍香の叫び声にカノープスが反応する。カノープスは大きく跳躍すると龍香達の方へと着地し、フライパンの一撃で怯んだ人形の顔面を掴むとカウンターの机に思い切り叩きつける。人形がカウンターにめり込んだと同時にペキャッと何かが砕ける音がし、それと同時に人形の動きが停止する。
「お、お店がァーッ!?」
水色の少女、フロートが悲鳴をあげる。よく見ればカノープスは相当暴れたのか無惨に破壊された机や椅子がその辺に転がっている。
「大丈夫か!?」
カノープスが叫ぶ。龍香はカノープスに向けて手で大きく丸を作る。
それを確認したカノープスが龍香達に近寄ろうとした瞬間。上空、天井を突き破って炎が龍香達とカノープスの間に降り注ぐ。
そして爆発が起こり、皆が吹き飛ばされる。
「うぉう!」
「うわぁ!?」
皆が爆発によって怯む中、爆発の中心に人影が見える。
それは炎の中心にいながらも全く気にした様子もなく、それどころか炎を手から吹き出して辺りを見回している。
そして炎が吹き消え、中から燃えるように赤い髪の毛が特徴的な目付きの鋭い少女が現れる。
「…チッ。人形は大半が潰れてる。何が役に立つ、よ。」
少女は倒れる人形達を一瞥し、周りを見渡す。そして龍香と少女の目が合う。
「え」
少女は龍香を見て、怪訝な顔をする。
「あれ・・・あんたどっかで」
だが少女が言葉を続けるより先に突然現れただよロリ犬が少女に蹴りをかます。その威力は凄まじく、蹴りが直撃した少女の頭が吹っ飛ばされる。
「う、あ、あ?」
「先手必勝!!」
突然ぶちかまされた光景にだよロリ犬以外が絶句するが、頭を吹っ飛ばされた少女に変化が起こる。
吹っ飛ばされた頭があった場所に炎が集まる。そして炎が頭のように形作り、次の瞬間には完全に元通りに修復される。
「な、治った!?」
どうやら少女ほ先程の強烈な一撃を喰らったにもかかわらず、眉をひそめるだけの様子を見る辺り攻撃が全く効いていないらしい。
一瞬だよロリ犬は驚くが、すぐに持ち直して攻撃を仕掛ける。
「うぉおおおおお!!」
繰り出された攻撃は全て少女に炸裂し、身体の何割かが吹き飛ぶが、それもすぐに炎が集まり修復される。
「・・・無駄だよ。私にその攻撃は一切通じない。」
少女はそう呟くと手をだよロリ犬に翳す。
「それに・・・ちょっと目障りだよ。」
「ッ!危な」
次の瞬間翳した手から炎が噴き出す。その炎は凄まじくだよロリ犬は大きく吹き飛ばされる。
そして炎が止むと少女は炎の翼をはためかせる鳥のような怪物へと変貌する。
「ッ!?あの子は?」
その姿に龍香は見覚えがあった。そうその少女はかつて龍香達と敵対した怪物だった。しかも龍香最強形態“アトロシアス”を持ってしても追い込まれた程の強敵である。
龍香はすぐにカノープスに目配せをする。カノープスもあの怪物には“アトロシアス”で無ければ勝てない、と思っていたのか少し渋るが龍香に手を伸ばす。
「いいか。龍香。正直今は力の調整が難しい。だから・・・俺がマズイと判断したら即引いてくれ。いいか?」
「うん!行くよカノープス!」
カノープスが光輝く。そして巨大な光を放つ恐竜になると、龍香をパクリと丸飲みにする。
「の、飲み込まれたーッ!?」
突然の出来事にプラムが叫ぶ。そして恐竜が砕けると同時に恐竜の頭蓋骨のような装甲が散りばめられた紫色のドレスを纏った龍香、“ティラノカラー”に変身した彼女は紫色の刃が煌めく剣、“タイラントブレイド”を構えると少女に向かって突っ込んでいく。
龍香の接近に気づいた怪物はすぐさま炎の剣を生成して龍香の振るった一撃を受け止める。
「ッ、お前は」
「貴方は止める!」
二人の視線が交錯し、つばぜり合いをしながら互いに睨み合う。さらなる戦いの火蓋が切って落とされた。
「くっそ。アイツらがどうなったのかまだ分かんないの!?」
日が沈みかけた黄昏時の道中で雪花が叫ぶ。昨夜の一件から“新月”メンバーは龍香の行方捜索に躍起になっているが、影も形もその痕跡すら見つからない。
「少し落ち着け。皆必死に頑張っているんだから。」
黒鳥が苛立って憤る雪花を宥める。
「そうよ。騒いで見つかったら苦労はないわ。」
黒髪に朱が混じった鋭い目付きの少女赤羽が嘆息する。その言葉に雪花のこめかみに青筋が浮かぶ。
あぁもう、と黒鳥が二人が激突する前にこの場を納めようとした時だった。
「そこのお前ら!待つのだ!」
後ろから声がかけられる。その声に三人が振り返るとそこには白い翼が特徴的で、顔に何処か幼さが残る怪物がいた。
だが、そいつは赤羽には見覚えがあった。
「・・・お前は」
「あの女の子を助けたいなら・・・力を貸すのだ。」
そう。かつて赤羽と龍香と戦い、何だかんだで一時協力したこともある・・・アルビレオがそこにいた。
To be continued・・・
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(続編や派生作品が有れば、なければ項目ごと削除でもおk)